第20話「距離の嘘」
評議会再開の朝、証言席の空気は昨日より重い。
ラシェルは同じ姿勢で座り、同じ声で繰り返す。
「私は第七刻三十分、北門で停止を見た」
私は反証資料を卓へ置いた。
時刻表、入門簿写し、便札比較、路面泥記録。
順番は崩し用に組んである。
*
第一段。
私は入門簿を示す。
「第七刻二十八分、私は評議会館へ入門しています」
議長が眉を寄せる。
「北門からここまでは最短でも十五分」
ラシェルが即座に返す。
「記録時刻が遅れていただけでしょう」
想定内。
私は第二段へ進む。
*
第二段。
私は便札写しを掲げる。
「あなたの証言にある便札記号は旧式“寒冷慰問便”。当日は新様式“B2-民需”へ切替済みです」
ラシェルの目が一度だけ泳ぐ。
「現場は混乱していた。旧札が混じることもある」
私は頷く。
完全否定はしない。
「混じる可能性はあります。だから第三段を示します」
*
第三段。
近衛隊長が提出した路面泥記録を開く。
証言席入室者の靴泥採取。
ラシェルの靴底泥は、旧街区南路の赤土成分が高い。
北門周辺の灰砂成分は検出なし。
「あなたは昨夜、旧街区南路には居た。北門には居ていない」
室内が静まり返る。
ラシェルの唇が動く。
「……泥は移る」
「移ります。だから時刻付きで採取しました。入室直前です」
私は最後に一枚追加する。
評議会館裏門の見張り記録。
第七刻二十六分、ラシェル入館。
裏門から。
これで距離と時刻が閉じる。
*
議長が槌を打つ。
「証言の信用性を失う。ラシェル証言は無効」
中ざまぁの瞬間は、歓声ではなく静けさで来た。
誰も笑わない。
ただ、空気の傾きだけが変わる。
グレゴルがゆっくり口を開く。
「証言者の誤認があったとしても、運用の不備は残るのでは?」
彼はすぐ退路を作る。
巧い。
私は乗らない。
「運用不備の検証は継続で構いません。偽証無効と切り分けます」
切り分ける。
ここで欲張ると、勝ち筋が濁る。
*
午後、公開板前。
私は結果を貼る。
『ラシェル証言: 無効(距離・時刻・票記号不一致)』
人々のざわめきが少しだけ柔らぐ。
女将が腕を組んで言う。
「今日はきっちり潰したね」
「まだ途中です」
「途中で終わらせないでよ」
「終わらせません」
その一言が、胸に重く乗る。
約束は増えるほど重い。
でも重さがある方が、足は地面を掴む。
*
夕刻、会計庫でミレナが紙片を持ってくる。
「評議会裏門の通行控えです。ラシェルの前後に同じ筆跡があります」
控えには仮名二つ。
だが筆跡は同じ。
契約局古式の払い線。
私は紙片を照合し、低く言う。
「供給線が見えてきました。証言の出所は評議会外です」
ミレナが息を呑む。
「次は誰を追うんですか」
「人名より先に経路です。誰が通したかを先に取ります」
*
夜、カイへ報告。
彼は結果を聞き、短く言う。
「よく崩した」
「ありがとうございます」
「礼より次だ。偽証の次は内通だろう」
「はい。裏門控えと照会履歴を繋ぎます」
カイは地図へ指を置いた。
「旧街区南路、評議会裏門、王都商会宿舎。この三点を近衛で縫う」
私は頷く。
線が一本太くなる。
偽証は崩れた。
だが嘘を作る工房は、まだ煙を上げている。




