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赤字領地に飛ばされた会計官、公開照合で汚職網を断ったら契約の婚約が再定義されました  作者: 夜摩 高嶺
第二章「逆照合の反撃」

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第20話「距離の嘘」

 評議会再開の朝、証言席の空気は昨日より重い。

 ラシェルは同じ姿勢で座り、同じ声で繰り返す。


「私は第七刻三十分、北門で停止を見た」


 私は反証資料を卓へ置いた。

 時刻表、入門簿写し、便札比較、路面泥記録。

 順番は崩し用に組んである。



 第一段。

 私は入門簿を示す。


「第七刻二十八分、私は評議会館へ入門しています」


 議長が眉を寄せる。


「北門からここまでは最短でも十五分」


 ラシェルが即座に返す。


「記録時刻が遅れていただけでしょう」


 想定内。

 私は第二段へ進む。



 第二段。

 私は便札写しを掲げる。


「あなたの証言にある便札記号は旧式“寒冷慰問便”。当日は新様式“B2-民需”へ切替済みです」


 ラシェルの目が一度だけ泳ぐ。


「現場は混乱していた。旧札が混じることもある」


 私は頷く。

 完全否定はしない。


「混じる可能性はあります。だから第三段を示します」



 第三段。

 近衛隊長が提出した路面泥記録を開く。

 証言席入室者の靴泥採取。

 ラシェルの靴底泥は、旧街区南路の赤土成分が高い。

 北門周辺の灰砂成分は検出なし。


「あなたは昨夜、旧街区南路には居た。北門には居ていない」


 室内が静まり返る。

 ラシェルの唇が動く。


「……泥は移る」


「移ります。だから時刻付きで採取しました。入室直前です」


 私は最後に一枚追加する。

 評議会館裏門の見張り記録。

 第七刻二十六分、ラシェル入館。

 裏門から。


 これで距離と時刻が閉じる。



 議長が槌を打つ。


「証言の信用性を失う。ラシェル証言は無効」


 中ざまぁの瞬間は、歓声ではなく静けさで来た。

 誰も笑わない。

 ただ、空気の傾きだけが変わる。


 グレゴルがゆっくり口を開く。


「証言者の誤認があったとしても、運用の不備は残るのでは?」


 彼はすぐ退路を作る。

 巧い。

 私は乗らない。


「運用不備の検証は継続で構いません。偽証無効と切り分けます」


 切り分ける。

 ここで欲張ると、勝ち筋が濁る。



 午後、公開板前。

 私は結果を貼る。


『ラシェル証言: 無効(距離・時刻・票記号不一致)』


 人々のざわめきが少しだけ柔らぐ。

 女将が腕を組んで言う。


「今日はきっちり潰したね」


「まだ途中です」


「途中で終わらせないでよ」


「終わらせません」


 その一言が、胸に重く乗る。

 約束は増えるほど重い。

 でも重さがある方が、足は地面を掴む。



 夕刻、会計庫でミレナが紙片を持ってくる。


「評議会裏門の通行控えです。ラシェルの前後に同じ筆跡があります」


 控えには仮名二つ。

 だが筆跡は同じ。

 契約局古式の払い線。


 私は紙片を照合し、低く言う。


「供給線が見えてきました。証言の出所は評議会外です」


 ミレナが息を呑む。


「次は誰を追うんですか」


「人名より先に経路です。誰が通したかを先に取ります」



 夜、カイへ報告。

 彼は結果を聞き、短く言う。


「よく崩した」


「ありがとうございます」


「礼より次だ。偽証の次は内通だろう」


「はい。裏門控えと照会履歴を繋ぎます」


 カイは地図へ指を置いた。


「旧街区南路、評議会裏門、王都商会宿舎。この三点を近衛で縫う」


 私は頷く。

 線が一本太くなる。


 偽証は崩れた。

 だが嘘を作る工房は、まだ煙を上げている。

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