第19話「偽証の席」
公開二週目の初日、評議会の証言席に新しい顔が座った。
王都商会監査補佐を名乗る男、ラシェル。
整った外套、乾いた口調、迷いのない署名。
「北門便の停止は会計顧問ルチアの独断でした」
場がざわつく。
証言は具体的だった。
第七刻三十分、慈恵支援便停止。
その場にルチア顧問が居合わせ、帳票を破棄した。
私は証言記録を受け取り、目だけで追う。
時刻も便名も、実際の事件に寄せてある。
寄せ方が巧い。
全部嘘なら崩しやすい。
半分真実の嘘は、崩しに時間が要る。
*
午前、評議会議長が問う。
「会計顧問、反論は」
私は即答しない。
即答は印象戦に引き込まれる。
「本日中に反証資料を提出します。証言は時刻照合から検証が必要です」
グレゴルが柔らかく口を挟む。
「検証は重要です。ですが冬は待ってくれない。独断運用の是非は先に判断すべきでは?」
正論だ。
そして狙いは、検証前判断。
私は頷き、議長へ向く。
「ならば仮判断の前提として、証言原本の封緘保全をお願いします」
議長が渋い顔をする。
封緘保全は面倒で、逃げ道を減らす。
カイが短く言う。
「実施しろ」
議長はようやく槌を打った。
*
昼、会計庫で反証準備。
ミレナが証言写しを机へ並べる。
「時刻は合わせてあります。崩せますか」
「時刻だけなら崩せません。距離を足します」
私は北門から評議会館までの移動記録を引く。
その時刻、私は評議会館の入門簿に署名している。
北門停止現場に同時刻で居ることは物理的に不可能。
さらに便札写しを照合。
ラシェル証言の便札記号は旧式。
当日は新様式運用日。
記号が一文字違う。
崩せる。
ただし、崩し切らない。
今日は投入回だ。
全てを開けば、相手は次の嘘を学習する。
*
午後、公開板前で住民説明。
偽証の噂はすでに広がっている。
男たちが口々に言う。
「独断で止めてたんじゃないのか」
「公開って言ってるのに都合よく隠してるだろ」
私は板へ「検証中」の札を貼る。
結論は出さず、手順だけ示す。
時刻照合、距離照合、票記号照合。
女将が私を見て問う。
「今日は“違う”と言い切らないのかい」
「言い切るには早いので」
喉の奥が乾く。
言い切れば楽だ。
だが王都で私は、早い断言に乗って失った。
今回は遅くても確実に進む。
*
夕刻、カイと短い協議。
「崩せるか」
「崩せます。ただし一手残します」
「理由は」
「相手の供給線を見たい。偽証は一人では作れません」
カイは一拍だけ黙り、近衛隊長へ命じる。
「証言席へ入った者の出入りを全て記録しろ。靴泥まで見ろ」
私は眉を上げる。
靴泥。
距離照合の補助線になる。
「助かります」
「助ける気はない。勝つ気だ」
短い返答が、胸の真ん中へ刺さる。
私も同じ気持ちだった。
*
夜、会計庫で証言原本を再確認。
ラシェルの署名末尾に、微かな癖。
契約局古式の払い線。
幕1末の脅し文と同系統。
私は封緘袋へ戻し、赤印を打つ。
崩しは明日。
今日は偽証を席へ座らせたまま終える。
席に座る嘘は、立たせる時に一番音を立てる。




