第18話「初週公開」
王都からの返答は、夜明け前に届いた。
逆提案を「条件付き受理」。
条件は二つ。
照会履歴の毎日掲示。
判定理由コードの週次検証。
私は封書を読み終え、椅子へ深く座る。
肩の力が抜けると同時に、別の重さが乗る。
受理は終点ではない。
公開を続ける義務の始まりだ。
*
午前、初週公開の準備。
会計庫前の板を三枚に分ける。
一枚目、欠配・遅延・停止便。
二枚目、判定理由コード内訳。
三枚目、王都照会履歴。
ミレナが墨を混ぜながら言う。
「これ、読まれますか」
「読ませます。今日は読み上げをやります」
私は配給所、工房、診療所の代表へ時間を通知した。
数字を貼るだけでなく、声で渡す。
公開は掲示ではなく、共有だ。
*
昼、公開の場。
雪解け水が石畳を濡らし、人が板の前へ集まる。
私は一枚目から読む。
欠配率九・一、前週比マイナス五・七。
遅延率マイナス四・三。
停止便一件、差出人追跡中。
ざわめきは小さい。
数字の列に慣れ始めている空気だ。
次に二枚目、コード内訳。
B2が最頻、次いでA1。
旧街区便の後日処理率は低下傾向。
後列で男が声を上げる。
「都合のいい数字だけ出してるんだろ」
予想していた反発だ。
私は三枚目を指す。
「照会履歴に、照会文面と返答時刻を出しています。都合のいい切り取りは、履歴照合で崩れます」
男は舌打ちして黙る。
完全には納得していない顔。
それでいい。
納得より先に、検証可能性を置く。
*
午後、支持の戻りは意外な場所から来た。
旧街区の小商が会計庫へ来て、短く言う。
「俺たちは後回しにされる側だ。だが理由が見えるなら、待てる」
私は受領票を受け取り、頭を下げる。
「待たせる分、予告時刻の誤差を縮めます」
「誤差だけは嘘をつかないでくれ」
「はい」
その言葉に、喉が少し詰まる。
私が一番守りたいのは、こういう約束だ。
大義より小さい約束。
小さいから、破ると領地の呼吸が止まる。
*
夕刻、内通線が一つ露出する。
照会履歴板の写しが、掲示後一刻で王都商会へ転送されていた。
板の写し運びは、会計庫下働きしか触れない経路。
ミレナが写し紙を握って言う。
「誰かが、板そのものを報告書にしてます」
「はい。公開情報の流れを追えば、内通経路を逆引きできます」
私は写し紙の折り癖を確認する。
右上隅の二重折り。
幕1で見た脅し文と同じ折り方だ。
線がまた繋がる。
契約局略号、葡萄香、二重折り。
バラバラだった点が、同じ手癖に寄ってくる。
*
夜、カイへ報告。
「支持は戻りつつあります。旧街区小商から肯定反応」
「内通は」
「会計庫下働き経路に一本見えました。確定にはもう一段必要です」
カイは短く頷く。
「公開は続けろ。内通は餌になる」
「餌?」
「見せる情報で、相手の動きを選ばせる」
私は一瞬だけ息を止める。
公開は防御だと思っていた。
だが使い方次第で、攻勢にもなる。
「次の照会文面、こちらで設計します」
「任せる」
*
深夜、会計庫。
私は明日掲示する照会文面案を三種類書いた。
真文面、一部伏字文面、誘導文面。
どれを流せば誰が動くか、仮説線を引く。
筆が止まり、ふと掌を見る。
薄い墨と赤鉛筆の粉が混ざっている。
王都で机を失った手だ。
いまは辺境で、板を立てる手になった。
私は最後の行に時刻を入れる。
第十刻五十一分。
初週公開、完了。
板の向こうで、誰かがこちらを読んでいる。
なら次は、読ませる内容をこちらで選ぶ。




