表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤字領地に飛ばされた会計官、公開照合で汚職網を断ったら契約の婚約が再定義されました  作者: 夜摩 高嶺
第二章「逆照合の反撃」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/18

第17話「差戻し理由の使い道」

 差戻し監査の翌朝、会計庫の机には「修正要求票」が三枚並んだ。

 記載順序統一、判定二者化、異議窓口分離。

 足止め文書だったはずの紙が、運用改訂の設計図に変わっている。


 私は票端を揃え、順番を入れ替えた。

 修正要求一、運用範囲拡張。

 修正要求二、公開項目追加。

 修正要求三、王都側照会の定型化。


 ミレナが目を丸くする。


「順番、逆です」


「逆で合っています。守るだけだと、次で同じ差戻しが来ます」


 私は赤鉛筆で見出しを書く。

 「差戻し逆提案案」。



 午前、逆提案の下打ち会議。

 兵站長は開口一番で渋い顔をする。


「また項目を増やすのか」


「増やします。ただし記載は増やさない」


 私は新様式を示す。

 既存欄を再配置し、空欄だった補記欄を「判定理由コード」へ変換。

 記述文を減らし、番号選択式にする。


「これなら、記載時間は増えません」


「コードだと現場が分からん」


「公開板にはコード凡例を貼ります」


 兵站長は唸る。

 反対は弱いが、納得はしていない声だ。


「君は本当に、数字を道具にするな」


「道具でない数字は、飾りです」



 昼、グレゴルが新様式を手に現れる。


「差戻しを“範囲拡張”に使う。発想は見事です」


 褒め言葉の形をした牽制だった。


「ただ、王都はそこまで甘くない。照会定型を増やせば、向こうの介入権限も増える」


 彼は長く息を吐く。


「結局、あなたは王都の手を領内へ引き込んでいるだけです」


 痛い論点だった。

 私自身、それを恐れている。


 私は視線を落とさず返す。


「介入権限は増えます。だから公開範囲も同時に増やします」


「自分で首を締める?」


「締める首は、一つにしません。会計庫だけで抱えない設計にします」


 グレゴルは一瞬だけ黙り、薄く笑う。


「あなたは壊れ方を知っている」


「壊れたことがあるので」


 口に出した瞬間、胸の奥が少し軽くなった。

 解任の事実を隠すより、運用へ組み込む方が強い。



 午後、カイへ逆提案案を提出。

 彼は新様式を読み、短く言う。


「王都照会の定型化は必要か」


「必要です。照会のたびに文言を作ると、そこに裁量が入り込みます」


「裁量を嫌うな」


「期限なき裁量を嫌います」


 カイは紙を机へ置き、近衛隊長に命じる。


「明日から公開板に“照会履歴”を別掲示しろ。王都へ何を送り、何が返ったか、時刻付きで出す」


 私は息を呑む。

 そこまで開くと、領主室の交渉過程まで見える。


「領主室の負担が増えます」


「増やす。負担を隠すと、次に責任だけ残る」


 短い一撃が、逆提案の芯を決めた。



 夕刻、試行一便。

 北門で新様式を使う。

 判定理由コード「B2」。

 寒冷便優先、民需同時処理。


 ベルンが札を見て言う。


「番号だけだと怖いな」


「凡例を読めば意味が分かります」


「読まない奴もいる」


「なら読ませる。公開板に例を一つ貼ります」


 私はその場で見本票を作り、板へ貼る。

 記号が生きるには、実例が要る。



 夜、逆提案文を王都監査局へ送る。

 件名は「差戻し修正計画」ではなく「公開照合運用拡張提案」。

 受け身の言葉をやめるだけで、文書の姿勢が変わる。


 封書を閉じる時、指先に汗が滲んだ。

 攻める文書は、失敗した時の反動が大きい。

 それでも送る。

 守り続ければ、いつか同じ場所で詰む。


 最後に、私は公開板へ新欄を足した。

 王都照会履歴。

 空欄のまま掲示する。


 空欄は不安を呼ぶ。

 だが明日、返答が来れば、空欄は信用に変わる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ