表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤字領地に飛ばされた会計官、公開照合で汚職網を断ったら契約の婚約が再定義されました  作者: 夜摩 高嶺
第二章「逆照合の反撃」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/17

第16話「差戻し監査」

 差戻し監査官は、昼前に二名で来た。

 王都監査局の紺章、硬い声、薄い笑み。

 机へ座る前に、監査官の一人が言う。


「公照補則の一部を差戻す」


 紙を受け取る。

 理由は予想どおりだった。

 記載順序不統一、例外期限運用の拡張、旧街区便後日処理の適法性疑義。


 正面から読むと足止め文書。

 横から読むと、介入範囲の宣言文書でもある。



 午前、初回聴取。

 監査官エデルは淡々と詰める。


「記載順序が便ごとに違う。証拠能力を落とす運用だ」


 私は認める。


「はい。不統一があります」


 隣の監査官が口角を上げる。

 認めれば終わると思っている顔だ。


 私は続ける。


「ただし差分ログを全便で保持しています。順序差は復元可能です」


 復元表を卓へ置く。

 時刻、数量、受領者、補記者。

 四項目で相互照合。


 エデルの手が一瞬止まる。


「……ここまで取っているのか」


「差戻しを想定していました」


 先読みは、時に嫌味に見える。

 それでも準備していなければ、今日の私は沈んでいた。



 昼、監査官が第二論点へ進む。


「例外期限の運用拡張は条文逸脱だ」


 グレゴルがすかさず同調する。


「現場は疲弊しています。逸脱運用を正当化するのは危険だ」


 彼の言い分は正しい。

 正しいから厄介だ。


 私は改訂履歴を示す。

 薬包便遅延の実例、医療便特則の導入、遅延減少の実測。


「逸脱ではなく、追補制定です。追補番号、施行時刻、公開履歴を全件残しています」


 エデルが問う。


「追補制定の承認経路は」


「領主室副署、会計庫記録、公開板掲示の三段」


 私は三段の写しを並べる。

 エデルは黙って紙をめくる。



 午後、第三論点。

 旧街区便の後日処理が「恣意的差別」に当たるという指摘。


 私は一瞬、返答を迷う。

 ここは感情的に反論しやすい罠だ。

 旧街区は実際に妨害をしてきた。

 だがそれを口にすれば、制度の中立性を失う。


 私は黒板へ線を引く。


「後日処理の基準は地域ではなく危険度です」


 人命、寒冷、機械停止。

 固定三基準。

 該当しない便は後日へ回す。

 旧街区便が多いのは、提出時刻が遅く、危険度証明が不足しているため。


 エデルが言う。


「証明不足の判定者が君一人なら、恣意性は残る」


 私は頷き、準備していた案を出す。


「判定を二者化します。会計庫と兵站庫の共同判定へ移行」


 兵站長が驚いた顔で私を見る。

 私は視線を返さず続ける。


「さらに異議申立窓口を分離し、判定ログを公開します」


 エデルは短く言った。


「そこまでやるなら、差戻しは“修正要求”へ格下げできる」


 足止めが、前進条件へ変わる。

 狙っていた形だ。



 夕刻、会議を出た廊下でグレゴルが並ぶ。


「自分で権限を削るんですね。判定二者化はあなたに不利だ」


「一人判定は、私を守りません」


「権限がなければ、あなたはただの記録係だ」


 私は立ち止まる。


「記録係で十分です。記録が残るなら」


 彼は薄く笑う。


「その記録で、婚約契約まで守れますか」


 胸の奥が一度強く打つ。

 けれど顔は動かさない。


「守る対象の優先順位は、こちらで決めます」


 グレゴルは何も言わず去る。

 残るのは葡萄香だけだ。



 夜、共同判定の初運用。

 会計庫と兵站庫が同じ机につく。

 初件は旧街区の雑貨便。

 危険度低、後日処理。

 異議申立あり。

 ログ公開。


 手間は増えた。

 だが裁量の影は薄くなる。


 ミレナが帳票を綴じながら言う。


「今日の差戻し、怖くなかったですか」


 私は少し笑う。


「怖かったです。いまも怖い」


「それ、言うんですね」


「言わないと、いつか判断を間違えるので」


 言葉にすると、肩の力が少し落ちた。

 強がりだけでは、長い戦いを持たせられない。


 窓外では雪がまた降り始める。

 差戻し監査は終わっていない。

 だが足止めだけの文書では、もうなくなった。

 次はこの文書を逆提案へ変える番だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ