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赤字領地に飛ばされた会計官、公開照合で汚職網を断ったら契約の婚約が再定義されました  作者: 夜摩 高嶺
第二章「逆照合の反撃」

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第15話「二層レーン」

 寒波が一段深まった朝、兵站から緊急通知が来る。

 北砦補修材の便を優先するため、民需便を後ろへ回したい。


 通知文の末尾に、見慣れた一文がある。

 「軍事優先のため一時的措置」。

 正論だ。

 そして正論は、使い方を誤ると生活を潰す。


 私は配給所と工房の受領予測を引く。

 民需便を六刻遅らせると、夕食配給が崩れる。

 工房炉も二基止まる。



 午前、調整会議。

 兵站長が先に言い切る。


「砦が落ちれば全部終わる。今日は軍事優先だ」


 私は頷く。

 否定しない。


「優先自体は妥当です。ただし一層運用では民需が死にます」


 私は新しい図を卓へ置く。

 二層レーン。

 軍事便と民需便を完全分離し、門前処理を別窓化する案だ。


「人手が足りん」


「旧街区便の再審査を後日へ回し、門番を一名転用します」


 兵站長は顔をしかめる。


「旧街区が騒ぐぞ」


「騒がせます。今日止まるのは鍋です」


 言いながら、私は自分の声の硬さに気づく。

 責める口調に寄り過ぎる。

 王都の失敗は、こういう硬さから始まった。


 私は一度息を整え、言い直す。


「兵站の判断を否定したいわけではありません。優先を実装する方法を変えたいだけです」


 兵站長はしばらく黙り、最後に短く言った。


「……図を見せろ」



 昼、二層レーンを試行する。

 北門に青札(軍事)と緑札(民需)を掲示。

 導線を縄で分け、受付机も二つ置く。


 最初は混乱した。

 御者が札を持ち替えようとして、ベルンに止められる。

 民需側の列が一度詰まり、女将が声を荒げる。


「緑札の窓、遅いよ!」


 私は机へ走り、受領欄の順序を入れ替える。

 品目記載を後ろへ回し、先に数量と到着時刻。

 登録速度が上がる。


 女将が眉を吊り上げたまま言う。


「それ、最初からやりな」


「次から最初にします」


 叱責の方が、今日はありがたい。

 現場の怒りは改善点を具体にする。



 夕刻、結果を集計。

 砦便は遅延ゼロ。

 民需便の平均遅延は二刻から一刻未満へ。

 欠配は発生せず。


 工房主が炉前で手を擦る。


「軍のせいで止まる日かと思ったが、今日は持った」


 私は頷き、黒板へ数値を書いた。

 同時に、課題欄へも書く。

 窓口初動の詰まり、御者札持替対策不足。

 成功だけ貼ると、次に転ぶ。



 夜、カイへ報告。

 彼は結果表を見て言う。


「二層を本則に上げるか」


「段階的に。寒波期のみ常時二層、平時は一層へ戻します」


「理由は」


「常時二層は人員疲弊が出ます」


 カイは机を指で叩き、近衛隊長へ命じた。


「寒波期の門番を一名増やせ。会計庫から奪うな、近衛から出す」


 私は思わず顔を上げる。

 人員を奪い合わない決断は、想像より重い。


「ありがとうございます」


「礼は早い。明日、差戻し監査が来る」


 差戻し監査。

 王都側の次手だ。

 私は資料袋を握り直す。



 深夜、会計庫で翌日の想定問答を作る。

 差戻し理由の候補は三つ。

 記載順序の不一致、例外運用の拡張、旧街区便の後日処理。


 どれも突かれれば痛い。

 痛いが、否定ではなく逆利用できる。

 範囲拡張の入口になる。


 紙に向かう手が、ふと止まる。

 婚約契約の一文が頭をよぎる。

 私生活が公務へ追い付いてくる足音。


 私は首を振って赤鉛筆を置き直す。

 まずは明日の差戻しだ。

 感情の勘定は、まだ締められない。

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