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赤字領地に飛ばされた会計官、公開照合で汚職網を断ったら契約の婚約が再定義されました  作者: 夜摩 高嶺
第二章「逆照合の反撃」

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第21話「裏門の線」

 偽証崩しの翌朝、公開板の前で人の流れが変わっていた。

 昨日まで腕を組んでいた者が、今日は照会履歴欄を先に読む。

 支持は戻り始めた。

 同時に、敵も公開板を読む速度を上げる。


 私は板下に小さく追記する。

 「掲示写しの持出時刻を記録します」。


 公開は見せる行為だ。

 見せた情報がどこへ流れるかも、今は監査対象だった。



 午前、会計庫裏手で写し持出の監視を開始。

 持出係は三名。

 正規二名、臨時一名。

 臨時の名はエムロ。

 履歴上、三日前から急に持出回数が増えている。


 ミレナが囁く。


「この人、旧街区便の整理係でした」


「異動票は」


「あります。でも承認印が薄い」


 私は異動票を透かす。

 承認印は本物だが、押印順が逆。

 先に副署、後で原署。

 通常は逆だ。

 急造異動の匂いがする。



 昼、エムロの追尾を開始。

 彼は会計庫から写しを受け取り、旧街区南路へ入る。

 途中で一度、パン屋の裏手へ曲がる。

 そこで袋の向きを替える。


 近衛が離れて追う。

 私は北門便処理を続けながら、時刻を記録する。

 第六刻十分、会計庫出発。

 第六刻二十五分、南路到達。

 第六刻三十二分、王都商会宿舎裏門。


 経路が閉じた。

 公開板写しは商会宿舎へ流れている。



 午後、第二追尾。

 今度は逆方向を取る。

 王都商会宿舎から出る封書が、評議会裏門へ入るかを確認。


 結果は早かった。

 第七刻前、封書持ちの下働きが裏門へ。

 受取署名は仮名。

 筆跡はラシェル署名末尾と同系。


 私は控え写しを受け取り、表へ並べる。

 掲示写し流出。

 商会宿舎中継。

 評議会裏門搬入。


 内通の骨格が見える。

 ただ、まだ一本足りない。

 この線が融通枠審査簿へ触れている証拠だ。



 夕刻、カイと執務室協議。


「経路は確定に近いです。ですが審査簿との接続が未確定」


「取れるか」


「取れます。ただし明日の審査前に、臨時閲覧許可が要る」


 カイは即断した。


「今夜出す。拒否されたら公文で要求する」


「正面衝突になります」


「もうしている」


 彼は印を押し、封書を近衛へ渡す。

 私が躊躇う時間を、領主権限が切り捨てる。

 その速さに、救われる時と怖い時がある。

 今日は両方だった。



 夜、会計庫で資料を整理していると、机に小包が置かれていた。

 差出人なし。

 中身は古い審査簿目次の写し。

 抜番が二つ。

 「R-17」「R-23」。


 目次だけでは弱い。

 だが抜番の存在は、明日の閲覧請求理由になる。


 私は小包を封緘し、赤印を打つ。

 喉が乾いて、水差しを掴む手が少し震えた。

 もし明日、閲覧が通らなければ。

 内通線は見えていても、刃が届かない。


 ミレナが湯杯を差し出す。


「大丈夫ですか」


「大丈夫です」


 半分だけ本当だった。

 本当でない半分は、杯の温度で押し込む。

 湯気の向こうで、彼女は何も追及しない。

 追及しない優しさが、時々いちばん効く。

 王都では、黙って湯杯を置いてくれる同僚は居なかった。

 だから私は、沈むときの沈み方すら独学だった。


 明日は審査簿に触る日だ。

 線を図で終わらせず、証拠へ変える日になる。

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