第21話「裏門の線」
偽証崩しの翌朝、公開板の前で人の流れが変わっていた。
昨日まで腕を組んでいた者が、今日は照会履歴欄を先に読む。
支持は戻り始めた。
同時に、敵も公開板を読む速度を上げる。
私は板下に小さく追記する。
「掲示写しの持出時刻を記録します」。
公開は見せる行為だ。
見せた情報がどこへ流れるかも、今は監査対象だった。
*
午前、会計庫裏手で写し持出の監視を開始。
持出係は三名。
正規二名、臨時一名。
臨時の名はエムロ。
履歴上、三日前から急に持出回数が増えている。
ミレナが囁く。
「この人、旧街区便の整理係でした」
「異動票は」
「あります。でも承認印が薄い」
私は異動票を透かす。
承認印は本物だが、押印順が逆。
先に副署、後で原署。
通常は逆だ。
急造異動の匂いがする。
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昼、エムロの追尾を開始。
彼は会計庫から写しを受け取り、旧街区南路へ入る。
途中で一度、パン屋の裏手へ曲がる。
そこで袋の向きを替える。
近衛が離れて追う。
私は北門便処理を続けながら、時刻を記録する。
第六刻十分、会計庫出発。
第六刻二十五分、南路到達。
第六刻三十二分、王都商会宿舎裏門。
経路が閉じた。
公開板写しは商会宿舎へ流れている。
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午後、第二追尾。
今度は逆方向を取る。
王都商会宿舎から出る封書が、評議会裏門へ入るかを確認。
結果は早かった。
第七刻前、封書持ちの下働きが裏門へ。
受取署名は仮名。
筆跡はラシェル署名末尾と同系。
私は控え写しを受け取り、表へ並べる。
掲示写し流出。
商会宿舎中継。
評議会裏門搬入。
内通の骨格が見える。
ただ、まだ一本足りない。
この線が融通枠審査簿へ触れている証拠だ。
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夕刻、カイと執務室協議。
「経路は確定に近いです。ですが審査簿との接続が未確定」
「取れるか」
「取れます。ただし明日の審査前に、臨時閲覧許可が要る」
カイは即断した。
「今夜出す。拒否されたら公文で要求する」
「正面衝突になります」
「もうしている」
彼は印を押し、封書を近衛へ渡す。
私が躊躇う時間を、領主権限が切り捨てる。
その速さに、救われる時と怖い時がある。
今日は両方だった。
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夜、会計庫で資料を整理していると、机に小包が置かれていた。
差出人なし。
中身は古い審査簿目次の写し。
抜番が二つ。
「R-17」「R-23」。
目次だけでは弱い。
だが抜番の存在は、明日の閲覧請求理由になる。
私は小包を封緘し、赤印を打つ。
喉が乾いて、水差しを掴む手が少し震えた。
もし明日、閲覧が通らなければ。
内通線は見えていても、刃が届かない。
ミレナが湯杯を差し出す。
「大丈夫ですか」
「大丈夫です」
半分だけ本当だった。
本当でない半分は、杯の温度で押し込む。
湯気の向こうで、彼女は何も追及しない。
追及しない優しさが、時々いちばん効く。
王都では、黙って湯杯を置いてくれる同僚は居なかった。
だから私は、沈むときの沈み方すら独学だった。
明日は審査簿に触る日だ。
線を図で終わらせず、証拠へ変える日になる。




