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赤字領地に飛ばされた会計官、公開照合で汚職網を断ったら契約の婚約が再定義されました  作者: 夜摩 高嶺
第一章「乾いた解任通知」

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第2話「逆順の番号」

 北門の灯が規程外に動いた時刻を、私は三度見直した。

 第八刻二十三分。

 交代表では交代も搬入もない時間帯だ。


 夜明け前、会計庫でミレナが目を擦りながら票束を運んでくる。


「顧問、北門当直の補助簿です」


 私は補助簿と通行許可簿を並べ、逆順の番号列へ線を引く。

 四一七四、四一七二、四一七一。

 普通なら昇順で進むはずの欄が、途中だけ逆に折れている。


「この行、誰が書きました」


「署名は北門書記ハリスですが……筆圧が違います」


 ミレナはそう言って、別紙を差し出した。

 ハリスの平常筆跡見本。

 確かに違う。ハリスは右払いが短い。

 逆順列の筆跡は、右払いが長い。


 私は昨日の脅し文を思い出す。

 同じく右払いが長かった。



 朝、北門へ行く。

 霜の残る石畳に、荷車の車輪痕が浅く重なっていた。

 門番交代長ベルンは不機嫌な顔で帳票を渡す。


「会計庫の新運用で列が伸びてる。商会から苦情が来てるぞ」


「苦情票の受付時刻を教えてください」


「……今それが必要か?」


「必要です。運用評価に入れます」


 ベルンは舌打ちしながら時刻を答えた。

 第七刻三十分。

 私はその時刻を控え、補助簿の規程外移動時刻と重ねる。

 差は五十三分。

 苦情が出た直後に、規程外の移動が起きている。


 誰かが列の混乱を作り、その混乱を隠れ蓑にしている。



 昼、会計庫へ戻るとグレゴルが待っていた。

 今日は椅子に腰を下ろし、要約帳を膝に置いている。


「北門の混乱、見ましたか。現場は数字より速さを求めています」


「速さは必要です」


「なら、許可簿の照合は後回しにすべきだ。今は冬前の物資回しが先です」


 彼は要約帳を開いた。


「この領は王都融通枠の審査待ちです。ここで遅延率が悪化すれば、枠そのものが細る。正しさより、通す量を守る局面でしょう」


 王都融通枠。

 第一幕の核心に近い言葉が、ここで初めて正面に出た。

 私は否定せずに返す。


「量を守るためにも、抜き取りを止めます」


 私は通行許可簿の逆順列と受領票を並べる。


「同じ番号で品目が二つある。量は通っているように見えて、行先が抜かれている。これを放置すると、冬本番で欠配が跳ねます」


 グレゴルは笑みを崩さない。

 だが要約帳の端を押さえる指が少し強くなる。


「証拠は」


「今夜、取ります」


 私は言い切った。

 証拠はまだ足りない。

 だが取り方は決まっていた。



 夕刻、領主執務室。

 私はカイへ夜間監視案を出す。


「北門規程外移動の再発確認をしたい。許可簿番号四一七四帯の便だけを追跡します」


 カイは地図へ目を落とし、短く問う。


「必要人員は」


「近衛二、会計庫一、門番立会一」


「時間は」


「第七刻から第九刻」


 彼は印章を押した。


「やれ。追跡便が門を出たら、行先を最後まで見ろ」


 私は頷き、退室しかけたところで呼び止められる。


「ルチア」


「はい」


「証拠が取れなかった場合の手も用意しておけ」


「代替線を組んであります。交代表と受領票の同時刻突合です」


 カイは一度だけ笑う。


「そういう返事が早いのは助かる」



 夜、第八刻二十分。

 北門の陰で、私は息を浅くした。

 霜が息を白くする。


 規程外の灯が動く。

 昨日とほぼ同時刻。

 荷車一台、札番号四一七四。

 品目欄は「防寒布」。


 私は票へ時刻を書き込む。

 その荷車は北へ向かわず、南外れ路へ曲がった。

 防寒布なら本来は北方砦行き。

 行先が違う。


 近衛が後を追う。

 私は門番立会へ確認を取る。


「いま出た便の受領先はどこで記載しますか」


「通常は翌朝まとめて……」


「まとめ記載は禁止です。今、ここで仮記載を」


 私は仮記載票を押し出し、門番に書かせた。

 筆が震える。

 その震えも証拠になる。



 会計庫へ戻ったのは第九刻過ぎ。

 近衛から速報が届く。

 四一七四便は南外れ兵站庫へ入った。

 北方砦へは行っていない。


 私は逆順列の横へ赤印を打つ。

 第三の赤印。


 そして脅し文と同じ右払い筆跡が、仮記載票の補注欄にも現れていた。

 門番の筆ではない。

 誰かが後から補記する前提の票だ。


 私は封緘箱へ票を入れる。

 次は行先の倉庫を開ける。

 事件はまだ始まったばかりだった。


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