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赤字領地に飛ばされた会計官、公開照合で汚職網を断ったら契約の婚約が再定義されました  作者: 夜摩 高嶺
第一章「乾いた解任通知」

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第11話「三割から六割へ」

 決定日は雪が止んだ朝だった。

 王都審査官団の最終会議で、エルンが文書を読み上げる。


「融通枠、暫定六割開放」


 室内に小さな息が走る。

 三割から六割。

 全開ではないが、冬越えの計算は現実になる。

 胸の奥で、遅れて震えが来た。

 安堵は遅れてやってくる。

 先に来るのは、次に落とした時の怖さだ。


 条件は継続。

 実行者特定の進展、公照運用の実績提出。

 つまり戦いは続く。



 会議後、配分調整が始まる。

 私は優先順を再計算する。

 北村配給、工房燃料、北砦補修、医療備蓄。


 兵站長が覗き込み、珍しく低い声で言う。


「君の計算は冷たいが、今回は助かる」


「冷たい計算で温かい鍋を守るのが仕事です」


 彼は鼻で笑い、票へ印を押した。



 午後、公照運用の初日実績がまとまる。

 停止便ゼロ。

 欠配率、九・八。

 遅延率、前週比マイナス四。


 私は公開板へ数字を貼る。

 集まった人々の顔が、はっきり緩む。


 女将が鍋蓋を開けて見せた。


「今日は豆が沈むよ」


 工房主も笑う。


「炉を落とさずに済んだ」


 こういう報告は帳簿に載りにくい。

 だが制度が生きている証明になる。

 笑顔を数値化できないことが、今日は少し悔しい。

 守れた実感はあるのに、証明欄にはまだ空白が残る。



 夕方、問題が起きる。

 北砦向け便の札に、再び補助印複製が混じった。

 ただし今回は停止前に発見できた。


 私は票を回収し、追跡命令を出す。

 差出人は「北街互助会」名義。

 休眠会の再使用だ。


 近衛が追跡し、旧街区裏路地で受け渡し現場を押さえる。

 受け取り側は、旧会計室下働き。

 供述にグレゴルの名は出ない。

 だが「グレゴル室の指示票を見た」と証言した。


 間接証言。

 強くはない。

 けれど無視できない。



 夜、カイと短い協議。


「直接証拠はまだか」


「まだです。間接線は太くなっています」


「急ぎすぎるな。誤って斬ると、次の協力者が口を閉ざす」


 私は頷く。

 確かに今の段階で名指し断罪すれば、逆に制度ごと潰される。

 それでも喉元では、早く名前を言いたい衝動が暴れる。

 解任された日の私なら、ここで突っ込んでいた。

 今は踏みとどまる。

 守る対象が、私の評価だけではなくなったからだ。


「明日、運用審議会で公照を正式条文化します」


「そこで足場を固めろ」


 私は資料袋を抱え直した。



 深夜、会計庫で条文案を整える。

 第一条、票の即時記載。

 第二条、便札色分け。

 第三条、停止便公開。

 第四条、例外運用の期限明記。


 例外を禁止しない。

 期限を付ける。

 期限のない例外が腐敗を育てる。

 期限を書くたび、契約書の条項が頭をよぎる。

 私の婚約契約も、期限の読み替えで形を変えられた。

 紙の上で人間関係は、いくらでも別物になる。


 ミレナが眠い目で笑う。


「この条文、読めば分かる形になってます」


「読んで分からない条文は、抜け道の案内板です」


 私は最後の行に時刻を書く。

 第十一刻二分。

 赤印を打つ。

 第十一の赤印。


 三割から六割へ。

 次は制度を残す番だ。

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