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山が鳴く夜

ーーーー


山には、山のルールがある。


だが――


守り続けた掟が、

いつの間にか

人を縛る檻になっていることもある。


ーーーー

霧深い山村、古い木造家屋。

荒れた家畜小屋


静かすぎる。


カカポ

「しけた村だな〜」


銀髪、空の家畜小屋を見て首を傾げる。


「……獣の臭いが強いな」



ハスキー、

山をじっと見ている。


耳が動く。


ハスキー眉間に皺を寄せ

「……いる」


カカポが首を傾げ

「何が?」


「……オオカミ、いやなんだコイツ?

イノシシっぽくはあるけど……」


「そいつが荒らしてるっぽいな

路銀も少ねぇから退治したら金出るんじゃね?」


「山の“主”には手を出すな」


急に声をかけられ振り向く。

腰の曲がった爺さんがコチラを睨んでいる。


赤髪

「は?」


爺さん

「撃てば山神の怒りを買う

だから群れも殺すな」


毛皮のベストを着た白髪7割の短髪

がっしりしてただろう体格。

おそらくこの村の猟師も合流して来る。


「……村長、他所者です。

そのぐらいで」


カカポ

「じゃどうすんだよ

村荒らされてるんだろ?」


村長

「追い払うだけだ、他所者が…」


猟師が割り込み

「村長、わたしが説明しておきます

久しぶりの客人でもありますから

とりあえずわたしの小屋に」


まだブツブツ言う村長を置いて

猟師小屋に向かう。


道中、銀髪は口に手を当てながら

「……被害は?」


猟師はため息混じりに

「毎年出てる

家畜被害、夜襲、あと人にも被害が出ている

……だが、掟で撃てない」


赤髪

「面倒くせぇ村だな

マジで退治してやるぞ?」


「報奨は無いぞ村の恨みを買うだけだ」


ーーーー

猟師小屋


壁には今までの獲物の獣頭骨。

罠、解体用、山歩き用の装備や道具。

銃架にはミロク上下2連銃が1挺


そして――布に包まれた銃。


それが赤髪の視線止まる。

「……なんだコレ」


手に取り布を取る。


木製ストックにポンプ

短めの銃身上に特徴的なヒートガード。

剥き出しのハンマーと銃身下部には着剣装置。


ウィンチェスターM1897

通称【トレンチガン 】だった。


猟師

「昔、戦争帰りが持ち込んだヤツだ」


赤髪

「……アッハ」


ガシャコン……カチン。


「いい音」


銀髪

「そこか」


猟師

「近距離じゃ強い

塹壕戦で活躍したそうだが音と反動が馬鹿だ」


赤髪はニヤッと

「最高じゃん」


銀髪

「最低の感想だな」


ーーーー

猟師

「昔は山を回してた」


赤髪

「回すって?」


猟師

「獣を減らしすぎず、増やしすぎずだ

だが今は違う」


苦虫を噛み潰したような顔で


「主を神扱いしてから狂った

主には手を出さない。

群れも減らさないから獣害が減らない

村は貧しくなり若手は村を出た

後輩が育たん何処ろか居らん


行方不明者も出る」


銀髪

「……循環が死んでるな」


カカポはポカンと

「山って

そんなMMOみたいな管理いるの?」


ハスキー横目で見ながら

「いる」


銀髪は机の上に両肘を立てて拝み手の様に

両手を合わせ親指に鼻と口付けて

話しを聞いていた。


そのままの姿勢で

「……このままでいいのか?」


猟師は「うっ」となって

「……良いとは思っとらん。

だが、掟だ……このまま消えていくんだろう」


ーーーー

猟師の計らいで猟師小屋に泊めて貰った。


皆、寝静まった深夜

カカポが寝床でもある雑嚢から出る。


「……深夜のおモクターイム」


猟師小屋から出る。

灯りは無い……その分、星空が綺麗だ。

空気もうまい。


カカポはニヤッと

「こりゃ〜おモクが美味そうだぜ」


わかばをオイルマッチで火を点けて

紫煙を吐きながら軽い散歩をする。


木々がざわめく……


「ん?」


ーーーー

ガサっ。

ーーーー


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


ーーーー


翌朝。


ーーーー


赤髪

「いねぇ!」


ハスキーは猟師小屋から臭いを追ってる。

わかばの吸い殻を見付けて山の方向を見る。

「……連れてかれた」


ーーーー

猟師小屋に戻ると出撃準備をする。

銀髪は無言で

装弾子に連なる弾薬を定位置に納める。

弾薬ベルトに26.6mm信号銃対応弾を差して

ベルトを着ける。


赤髪も弾倉に弾を込め弾嚢に納める。


猟師は黙ってそれを見つめる。


赤髪は猟師の視線に

「止めるなよ!」

「……」


銀髪も小屋を出る時に

「悪いけど、掟を破る」

「……」


小屋を出て行く……

しばらくして赤髪が戻って来ると

銃架からトレンチガン と弾を引ったくって

「悪いっ!借りていく!」


ーーーー


ハスキーの案内で山を進むと

岩山に巨大な巣穴。


「ここか流石にあたしでもわかる

……獣くせぇ〜」


ハスキーは周囲の臭いも確認する。

「……大丈夫、周囲には他は居なさそう」


銀髪はモーゼル拳銃を抜き出し

ストックを装着する。

「挟撃の心配は取り敢えず無いみたいね

……行くわ!」


赤髪はトレンチガン を構え

「おう!」


巣穴に突入する。


すると小さな光りがこちらを向く。

フゴフゴという鼻息。


イノシシ……しかし、知っているのと違う

ずんぐりしている筈の胴体が

太めのオオカミの様だ。


細く短い筈の脚も普通のイノシシより

長く太い。


そして……


銀髪はモーゼル拳銃を構えて

「……来ないなら撃たない。

だが、来るなら撃つ!」


動物相手に言うが勿論通じてない。

前足で地面を掻いて……突進して来る!


引き金を引く!発砲!


同時に

サイドステップの様な動きで初弾を避ける!?

そして直ぐに地面を蹴り突進を再開する!


振り上げる牙が掠る。


「こいつ、普通のイノシシじゃない!」


オオカミの様な素早さ俊敏さがある。


接近するイノシシ?

驚愕した銀髪だが小さく深呼吸……


ストックを肩につけ直し、引き付けて……

発砲!


額に穴が空き倒れる。


赤髪がトレンチガン を肩に担ぎ

「なんだよ!

ちょっと素早いだけのイノシシじゃん!」


ハスキーが鼻をヒクつかせ巣穴の奥を見つめ

低く構え唸る。


銀髪も奥を見つめる。

「……」


赤髪はからからと

「どした?ビビってるのか?」


赤髪も奥を見つめる……


暗闇の奥……


ポツポツと光が大量に見える。

興奮する鼻息の重奏……


鼻息が一瞬途切れると


軽い地響きが近付いて来る!!


銀髪が声を荒げる。

「レッド!!」


「おう!!」

赤髪がトレンチガン を肩から跳ね上げ構える!


引き金を引く。

拳銃とは比較にならない銃声!


引き金を引きっぱなしのまま

フォアエンドを激しく前後させる!


ガシャコン!!ドォンッ!!

ガシャコン!!ドォンッ!!

ドォンッ!!ドォンッ!!ドォンッ!!


連続する激しい轟音、火花!

それに伴う排莢、発砲煙!


突っ込んで来る群れは避ける暇、隙間も無く

鉛の嵐の前に吹き飛んでいく。


ハスキー

「耳が死ぬ」


圧倒的な火力、迫力に赤髪、笑ってる。

「ッハハハハ!!【最高】だなコイツ!!」


銀髪は呆れた様に少し笑い

「楽しそうで何よりだ」


ーーーー

イノシシ?の攻撃を捌きながら進むと

広い空間……


濃い獣臭。

散乱する骨。

乾いて干し肉の様になった肉。


その奥に蠢めく目。


銀髪、赤髪、ハスキー一斉に構える。


「……おせぇよ」

半分埋められてるカカポ。


「ヘルプミー!

【あとで喰われる枠】になってるんだわ!」


赤髪その姿を見て

「ぶははは!保存食〜!!」


カカポ必死

「笑い事じゃねぇ!!」


ハスキー前脚で一所懸命にカカポ掘り始める。


と地を揺るがす咆哮!


奥から近付いて来る……


最初に見えたのは肩。

異様に高い。


狼みたいな脚、だが太い。


長い鼻先イノシシの特徴

だが長すぎる。


マンモスの様な牙。


筋肉の塊には硬そうな黒い体毛

所々白い。


体中に歴戦を無言で語る古傷。

こちらを見据える隻眼。


前脚は妙に太い。

熊みたいに地面を掴む。


だが動きは重くない。


静かすぎる。


赤髪。

「デッッッッッッ!」


ハスキー耳が伏せる。

「……山が壊れてる」


突進して来る!

咄嗟にトレンチガン を構えて発砲!


バックショット直撃。


だが――

止まらない。


赤髪

「は!?」


銀髪

「筋肉と骨で止まってる」


カカポ「硬ぇ〜〜!!」


ヌシ突進。

赤髪吹き飛ぶ。


赤髪トレンチガン を杖に立ち上がり

「くっそ!散弾じゃ効かねぇ!」


銀髪は射撃皮膚の薄そうな所を狙い撃つが

素早い機動で避けられ

熊の様に前足で引っ掻こうとして来た

銀髪は身を屈ませ避ける。


再度突進!


「やらせっか!」

トレンチガン で側面から未来位置に射撃!


だがヌシは急停止で被弾を最小化

前脚を器用に使いジャリ石を飛ばし来る。

「うわ!」


怯んだ赤髪に突っ込みながら前脚を振り被る!

背中に2発の着弾に位置を取り直す。


「……なんて奴、イノシシの突進力、

オオカミの俊敏性、熊の力、

おまけに猿の器用さ」


「でっけぇ分の頑丈さもだな

全部強ぇ〜所持ってやがるな!

山がぶっ壊れてるってやつか!?」


後ろから足音。


「はぁはぁ、間に合ったか。

おい!ガキ!」


後ろから声をかけられる。

振り返ると荒い息で

上下二連の猟銃を構える村の猟師だった。


何かをこちらに投げる。


「これを使え!」


赤髪は投げられた物をキャッチする。

「なんだこれ」


猟師

「スラグだ!!」


首を傾げる赤髪、すかさず銀髪が


「単体弾だ!」


「なるほど!」と流れる様に装填する。


猟師

「心臓抜け!!」


入り口方から唸り声。

群れ増援が向かって来ている。


このままだと挟撃される

銀髪は赤髪を見ると


「……レッド」


赤髪がフォアエンドをガシャコンと操作して。

「シルバ!任せた!!」


銀髪はスッとモーゼル拳銃を挙げ

巣穴入口へ走る。


カカポ

「え、1人で止めんの!?」


ーーーー


入り口に向かって突っ込んで来るイノシシ。


銀髪はZ刻印の信号拳銃に持ち替える。

ベルトから弾を取り出して弾を込めて

手首の振りでテイクダウンを戻す。


イノシシ?増援が入り口に差し掛かる。


ドンッ!!


煙りの尾を引き入り口上部に命中すると

放たれた26.6mm榴弾が炸裂する!

銀髪の信号拳銃はただの信号拳銃ではなかった。


欧州で開発された信号拳銃を改造され

対戦車戦も視野に入れたカンプピストーレだった。


岩壁崩落し数匹を巻き込み何とか巣穴に滑り込んだイノシシの額にいつの間にか持ち替えた

モーゼル拳銃弾が撃ち込まれる。


半封鎖入り口の瓦礫に取り付き

そこから射撃!


「ここは通さない」


ーーーー

赤髪に突進するヌシに

猟師上下二連を肩付け連続発砲。


ドドォン!!


ヌシは頭を振ると猟師に振り向く。

突進止まらない。


だが。


僅か

僅かに進路がズレる。


猟師は赤髪に怒鳴る。

「真正面で止めるな!!

山は力比べじゃねぇ!!

流せ!!」


赤髪は意味がわからなかったが

息を整えヌシ見る。


突進してくるヌシ。


ーーーー

苔むした岩。


連なる木々達。


山の傾斜。


緑の山々。


猟師が昔見ていたもの?

少しだけ見えた、感じた。


ーーーー

猟師が叫ぶ。

「左だ!!」一瞬だけ見る。


赤髪トレンチガン を撃ちながら左へ走る。

ヌシも機動修正して来るが


ギリギリの所に突っ込む。


ヌシの足が岩で僅かに滑らせ体勢を

崩す。


「おっちゃん!撃て!」

「おう!」


体勢を崩したヌシに集中射撃。

流石にヌシもダメージが蓄積してるらしい

ヨロついていた……だが目が死んでない。

地面を掻く。


赤髪は感心していたニヤッと

「流石、ヌシだ」


ヌシが再度突進!

側面から着弾!速度が落ちる。


猟師

「今だガキ!!」


赤髪

「おぉぉぉぉぉぉ!!」


突撃して来るヌシに真っ向から走って向かう。


フォアエンドを前後。


ガシャコンという音と共にスラグ弾が

薬室に装填された。


接触寸前にスライディング

ヌシの脚が目の前を踏み抜き土煙りが

顔面を襲う。


口の中ジャリという不快な感触だが無視。


目の前に流れる筋肉の壁。


スッと息を吐き止め構える。


今までのスラムファイアではなく。


狙い定めた一発。


ドォォォンッ!!!


スラグ弾が直撃。


ヌシ崩れる。


静寂。



赤髪、息切れ。

口の中の砂をぺっと吐き出して

トレンチガン を見る。

「……すっげぇなコレ」


猟師

「だから戦争で嫌われた」


赤髪

「最悪の場所で嫌われた……

じゃあやっぱり最高じゃん!」


猟師

「話聞け」


ーーーー


村人たちが集まる中帰還。


震える村長

「主が……」


荷車の上のヌシの死骸の上に立つカカポ

「とったどーーー!!」


猟師

「あいつは神じゃねぇ

ただの獣だ」


銀髪

「崇めすぎた結果、他を見なくなった

それが村の現状だ」


村人

「……」


猟師がM1879を赤髪へ差し出す。

「持ってけ」


赤髪パアと笑顔が咲き。

「マジで!?」


猟師は仏頂面で

「ちゃんと肩当てして撃て

さもなきゃ肩が死ぬ」


「もう遅ぇ」

赤髪が革ジャンとシャツを半脱ぎして

肩の付け根を見せる。


広範囲赤紫色。


カカポ「バカだ」


「それとだ

代わりに山を舐めるな」


赤髪「うへへ」とトレンチガン を空に構える。


猟師は呆れて

「聞いてねぇなコイツ」


ーーーー

その日の野営地。


赤髪、うっとり銃磨いてる。

フォアエンドを操作。


ガシャコン。


赤髪はニヤ〜っと

「いや〜〜〜〜〜

いい音するわコイツ」


カカポ

「俺食われかけたんだけど?」


ハスキー

「保存状態良かったな」


カカポ

「言い方!!」


銀髪

「……レッド」


赤髪

「んあ?」


銀髪

「次から屋内でスラムファイアするな」


赤髪思い出し笑い

「ンフ〜楽しかった」


銀髪

「耳が死ぬ」


カカポ

「お前ら全員ちょっとおかしい」


ーーーー

村の猟師小屋


猟師。


空になった銃架。


少し笑う。


「……やれやれ」


ーーーー


守るための掟も、

行き過ぎれば毒になる。


山は変わる。


獣も変わる。


変われないのは――


案外、人間の方なのかもしれない。

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