ある主人公の思い出
前世の恋。
私の恋は、何だかとても穏やかで、ハッと気づきもしない、凪いだようなものだった。
それは、穏やかな砂浜が大きな波の音を響かせるかの如く。私をゆっくり浸食して。
気づいたときには、全てが手遅れで。。。そう。気づく頃には大きな波に、全てが呑まれていた。
だから叶うはずもないと諦めていた。
こんなに、愛しいと、恋しいと想っていたのに。
私が一番にあの子を分かっていると、知っていると想っていたのに。
けれども、その想いを自らで否定して、私の想いを閉じ込めたのだ。
それが、全てを終わらせることになろうとも。
ああ。。。
どうしようもなく、狂おしいほどに、愛していると、気づいてしまって。
どうしようもないほど、手の届かない存在だと、知ってしまった。
それ故、手放した。差し伸ばされたその手を、みて見ぬフリをした。
最後に見せたあの子の、淋しそうな顔を、私は一生忘れない。。。
なんて自分勝手で、自業自得。
手放した手を、もう一度掴もうと伸ばしても、もう遅いのだ。
それは、叶わなかった希いとなって、私の前をすり抜けた。。。
私の愛しい人はどうしようもないほどに明るくて、私を翻弄するいたずらっ子のような活発さがある子だった。
だから、彼女を好きになる人は沢山いた。私もそのただ一人にしか過ぎなかった。
私は彼女を求める人の、そのまた後ろにいることしか出来なくて。けれど、あの子が私を見出した。
いや、そうではない、、
私の直属の後輩となったから。私を、私に、、、気づいただけ。
だからあの子の指導係となった私は、沢山、たくさん、時間を共有した。
あの子の住んでいる家にまでいった。私の家にも招待した。
それがどれほど優越感を持ったか、周りは気づいていない。私だけの、特権なのだと愉悦に浸った。
そんな私があの子と一緒になれないのは、仕方ないことだと、理解していた。
同じ女性だ。恋愛対象になど、なるはずがない。
普通の人よりも親しい先輩と後輩。
そして、私の昇進とともに、上司と部下になってしまったのだ。
それから歯車は狂い出した。
私は、線を引いたのだ。私情を挟んでは、私たちの成長にはならないと、境界をつくった。
親しみすぎたのだ。それがそもそもの間違いだった。
忘れていたのだ。彼女の魅力を。皆んなに愛される、彼女の愛らしさを。
ねらう人が多いことを。。。
あの子の同僚の彼に、仲介を頼まれた。
先輩後輩と、仲の良い私に、二人の仲を取り持って欲しいと、声を掛けてきたのだ。
絶望した。私は、彼女の一番になる存在ではないのだと。同じ女性であること。
それは、一番になれないと、理解してしまった。
だから、逃げたのだ。あの子からの、私に向ける優しい眼差しに。
もしかしたら、彼は気づいていたのかもしれない。私が、彼女に向ける視線が、ただの後輩に向けるものではないことに。
だから、牽制されたのだろう。
お前の入る隙はないと。
それは、私をとことん絶望に追い込んだ。
私から、彼を入り込ませる隙を作ってしまったのだ。だから、あの子に全てを気づかれる前に、私を口実に使ったのだ。
彼女が欲しいと、彼女の一番になりたいと。。
私を、私たちの関係を利用しようと、近づいてきた。なんてことだ。私の気持ちが、こんなに彼女に向いていたなんて、こんなに重いものだったなんて、、
彼と接して気づいてしまった。それは、なんて遅く浅はかなことだったのか。
だから、私は協力をしてしまった。
この恋を、終わらせるため、、、
独りよがりのこの気持ちを、終わらせるために。
彼を彼女に、あの子に、示し合わせた。この気持ちを、忘れるために。この想いが溢れないように。。
ああ、それはどれほどに苦痛の連続であったかなんて、彼らは知らないだろう。
私の、この気持ちを知ることはないのだろう。
彼は、なんてキザなやつで、気の利くやつなのか。
あの子の好きなものを、私から聞き出して、何でも準備をしてしまうのだ。
ああなんて、酷い男なのか。
私から全てを奪ってしまったのだ。
私の、大切な人とのその、時間を。
その記憶を。その、想い出を。その、感情を。
あの子の情報全て、彼に明け渡した。知られてしまった。私しか、知ることのない、その情報を、、
なんて、強かな男なのだろう。それでいて、あの子には気の利くいいやつ。
もう、私は敵わない。なにも、出来はしない。
そう、諦めかけていたというのに、あの子が私に、相談をしてくるのだ。。
彼が結婚を求めてきたと。私に、相談をするのだ、、
彼は良い人なのに、決め手に欠ける、どうしようと。
私に、縋るように募るのだ。まるで、最後の一押しを求めるかのよう。
だから、私は声を掛けた。おめでとう、と。
彼にしなさいと。彼以上に、貴女を見ている人はいないと。全て、安心をしろと、そう。嘯いた。
それは、どうしようもない苦痛を伴う作業で、私を地獄へ突き落とした。
もう、あの子と共にあることは、叶わないと、そう、私を苦しませたのだ。
だというのに、あの子が。私を、寂しそうな瞳をして見るのだ。
何故だろう。何に気づかなかったのか。初めてだ、、
あの子の気持ちに寄り添えない、気づけない自分が。
何もわからない、気づかない。
気づけない、、
なぜ、どうして??私を苦しみから解放して!!私を、自由にして!!なんで、終わった気持ちから、今もまだ私を縛り付けるの?!
なんで!!私を、こうも翻弄するの?!
あの子は、私をどう思ってるのよ!!!
いつも、いつも、お茶目に、お節介に、温かくて!
そんな、縋るような瞳を、私にしないで、、
もう、私を、解放して、、、
愛してる、愛してる。
狂おしいほど、誰よりも、何よりも、私が一番、貴女を欲しているのに、、、
こんな、残酷な最期はないわ。
‘幸せになって’なんて、思ってもないこと、声を掛けて。
最期におちゃらけて、盛大に披露宴をお祝いして。
もう、何もかもがイヤになって、たらふく飲んで、騒いで、、
ヘベレケに道を歩いていたのが間違い。
けれど、もう、全てがどうでもよく、何もいなくて、私は、テンプレのように、トラックに跳ねられ、転生したのだ。
この、優しくも微睡のように温かな世界に、どうしようもない焦がれた想いを忘れぬまま、、
あの子との再会に、漠然とした予感をして、、




