第六章 残酷な願い
あれから数日立った。
パンドラの言う通り、俺は薫と付き合う事が出来た。
あの日の翌日、俺は突然、薫に呼び出され告白された。
そして俺らは付き合う事になった。
それ以降、俺らは幸せだった。
いや、俺がそう望んだ。そう願ったんだ。
絡んできたヤンキーを追い返して欲しいと願った。
警察が彼らを追い払った。
デート中に絡んでくるおじさんを、はらってほしいと願った。
おじさんは突然、自身の胸をおさえ救急車に迎えられた。
パンドラは願いを叶えるために、手段を選ばなかった。
俺もそれに慣れていった。
だって、俺は幸せだったから。パンドラのおかげで幸せになれたのだから。
あの日の空色の少女の事なんて、とうに忘れていた。
それから、一か月、二カ月と進んでいき、半年が過ぎた。
ある日、退院した一からのいじめを受けた。
持っているお金をカツアゲされた。そのせいで、放課後彼女に買おうと思った洋服が買えなかった。
俺は、一に殺意を抱いてしまった。
あいつが死ぬことを、俺は願ってしまった。
パンドラは、もちろんそんな願いも叶えてくれた。
一は下校途中、車に轢かれて死んでしまった。
それから、俺は何かが吹っ切れてしまった。
その日以降、俺は気に入らない奴を殺していった。
原因もどんどん小さなことになっていった。
クラスメイトに悪口を言われた。
そいつの首を吊るした。
教師の勘違いで怒られた。
そいつは勘違いにより殺されるようにした。
知らない不良と肩がぶつかった。
そいつは瓦礫の下に埋めた。
母親と口喧嘩をした。
そいつは階段から転ばした。
そしてある日、薫と喧嘩した…。
「パンドラ!! 薫を消せ!!」
「『良いの?『パン』ちゃんは構わないけど。』」
「いいから早く!!」
叫ぶ俺に向かって、パンドラは相変わらずの笑顔で答える。
「『分かった。良いよ。』」
俺は禁忌に触れた。
次の日、彼女は消えた。
死体を見つけるどころか、死んだ話すら聞かなかった。
急に学校に来てないはずなのに、誰もそれを気にしてなかった。
薫のことを誰に聞いても、「そんなやつは知らない。」と返される。
薫は、この世から完全に消されたのだった。
俺は後悔した。あまりにも遅い後悔を。
俺はパンドラに、「薫を返してくれ。」と言ったが。
「死んだ人は蘇るけど、消えた人は帰ってこないよ。『佐々木 薫』を生み出すことはできても、消したあの子は帰ってこないよ。」
と、パンドラは笑顔で返した。
その答えに、俺は絶望した。
そして、ビルから身を投げた。
俺の体はコンクリートに強く叩きつけられ、体はボロボロになった。
内蔵は漏れだし、想像を絶する痛みを感じる。
しかし、死ぬ事は出来ない。
だって、俺がそう願ったから。
パンドラに出会った日のこと。俺は不老不死になりたいと願った。
不死の体は、どれだけ体が傷ついても死ぬ事が出来ない。
不老の体は、どれだけの時を生きようとも寿命を迎えることは無い。
俺は必死に、パンドラの箱に手を伸ばす。
「『はいは〜い。どうしたの〜?うわぁ!血の匂い〜。くさ〜い。』」
鼻を抑えるパンドラに俺は告げる。
「俺を殺してくれ!!」
不老不死になりたい。前の願いと矛盾した願いだったが、俺は必死にそう願った。
「『うん。いいよ。』」
パンドラは、笑顔であっさり答える。
瞬間。俺の体に尖ったものが刺さる。
「ぐぁは!!」
俺は血を吐き出し、体の痛みを感じる。
「おい!俺は殺せと言ったんだぞ!!」
怒りの声を上げる俺に、パンドラは笑顔のまま答える。
「『うん!でもケーちんは前に不老不死になりたいって言ったよね?だからどちらも叶えてあげたよ。ほら、ケーちんの下半身を見て。』」
俺は、パンドラが指す。俺の下半身に目線を送る。
俺の体は、先程落ちてきた、鋭い瓦礫により、真っ二つにされ、切り離された下半身は、動かなくなっていた。
「『ケーちんの下半身は死んだよ。でも上半身は不老不死のままにしたよ。ほら、どっちも叶ったでしょ?
さぁ、次は何を願うの?』」
俺は、笑顔のパンドラに怒りを抱いた。
「もうお前の顔すら見たくない!! さっさと、俺の前から姿を消せ!!」
「『えっ…。』」
俺の言葉に、パンドラは悲しそうな顔をする。
「『『パン』ちゃんはもう用済みなの?もう、『パン』ちゃんに願ってくれないの?『パン』ちゃんに願いを叶えてくれさせないの?
『パン』ちゃんの…価値を奪うの?』」
パンドラの瞳から初めて、涙を流した。
「『でもそれが…ご主人様の願いなら…。いいよ。その最後の願い。叶えるね。』」
パンドラは、彼女の箱を地面から持ち上げると、どこかへ飛んでいってしまう。
それから。俺は、永遠に独りの時間を過ごすのだった。




