俺、頭がおかしくなったのかもしれない
もう、自分の体を動かすことができなかった。
何かに力を吸い取られているような感覚がする。その一方で、怪物の体から放たれる光は、ますます強くなっていた。
俺に……何が起きているんだ……?
もう一度、指を動かそうとした。
動かない。
そして……。
ドクンッ!
体の奥深くで、何かが一瞬だけ燃え上がったかのような、強い鼓動を感じた。
息が止まった。
その鼓動は、ただ心臓から生じたものではなかった。
もっと深い場所……自分の中に存在することさえ知らなかった何かから、響いてきたように感じたのだ。
光はさらに広がり、俺自身も、その周囲にあるすべてのものも、眩い輝きに包み込んでいった。
そして、その光の中に……。
一つの影が現れた。
その体は光の塊のようで、輪郭を見分けることも、姿をはっきりと捉えることもできなかった。
それでも、そこに何かが存在していることだけは感じられた。
怪物と同じような恐ろしさはなかった。
だが、目の前で何が起きているのか、俺には理解できなかった。
人……なのか……?
頭を持ち上げようとした。
できなかった。
光の影はゆっくりと俺に近づいてきた。
やがて、両頬にそっと触れられたような感覚がした。
温かかった。
いや……光と熱が生み出した、錯覚だったのかもしれない。
もう、何一つ確かなことが分からなかった。
そのとき、かすかに聞き取れるほどの、柔らかな声が響いた。
「……ありがとう。」
一瞬、思考が止まった。
……は?
何と言われたのか、よく分からなかった。
それに、なぜその言葉に感謝の気持ちが込められているように感じたのかも分からない。
口を開こうとしたが、声が出なかった。
そして……。
ドゴオオオオオオオオンッ!!!
怪物の体が、跡形もなく爆発した。
谷全体が激しく揺れ、エネルギーの波が川を伝って押し寄せる。
白い光が、周囲一帯を完全に飲み込んだ。
爆発音が耳に届いた。
何が起きているのか理解するよりも先に、その衝撃が胸にまで伝わってきた。
顔をかばおうと、両腕を持ち上げた。
だが、動かせなかった。
次の瞬間、足が地面から離れ、周囲の世界がひっくり返った。
水……。
土……。
光……。
すべてが一つの光景となって入り混じり、俺の体は岸辺から遠くへと吹き飛ばされていった。
そして……。
水面に叩きつけられた。
ザアアアアッ!
冷たい水が全身を包み込み、俺の声を飲み込んだ。
溺れている。
肺の中の空気が、どんどん失われていくのを感じた。
嫌だ……。
こんなところで死にたくない!
必死に手で水をかき、残された力を振り絞って足を動かした。
ただ、水面に出たかった。
それだけだった。
途方もなく長く感じられた数瞬の後、ようやく頭が水面から出た。
俺は勢いよく息を吸い込んだ。
「ゲホッ……ゲホッ……!」
水の流れは、爆発が起きた場所から俺をさらに遠くへと押し流していった。
腕を震わせながら、必死に岸を目指して泳ぐ。
やがて、水中で足が何か硬いものに触れた。
俺はそれを踏みしめ、体を持ち上げると、濡れた草にしがみついた。
どうにか岸へと這い上がったものの、そのまま横向きに倒れ込んでしまった。
立ち上がることも、座ることさえもできなかった。
咳き込みながら、必死にめまいに耐える。
体中が痛かった。
そして、この旅が始まってからずっと続いている熱も、ますますひどくなっていた。
それなのに……。
俺は笑い始めた。
「はっ……ははは……」
なぜ笑っているのか、自分でも分からなかった。
生き延びたからかもしれない。
それとも、もう何かをするだけの力すら残っていないからかもしれない。
あるいは……。
今でもどこかに撮影スタッフがいて、俺を見ているのだと信じているからかもしれない。
「あはははは……!」
苦労して頭を持ち上げ、空を見上げた。
光はすでに消えていた。
爆発の痕跡として残っているのは、川の上に立ち上る蒸気と、水面に浮かぶ、折れた枝の数々だけだった。
なんて素晴らしい視覚効果なんだ……。
座ろうとしたが、めまいに襲われ、再び横になるしかなかった。
俺は一瞬、目を閉じた。
頭が重い。
手足は冷え切っている。
もう、眠りたかった。
ただ、それだけだった。
だが、意識を手放す直前、かすかな声が聞こえてきた。
「さぞ……つらい思いをしたのであろうな……」
ゆっくりと目を開けた。
……は?
その声は穏やかで、言葉ではうまく言い表せない響きを帯びていた。
まるで、俺のことを何か知っているかのように。
あるいは、俺がこれまで経験してきたことを理解しているかのように。
一度も姿を見たことがない相手なのに……。
声のした方向を向こうとした。
だが、体が動かなかった。
「……誰だ……?」
すぐには返事がなかった。
そして、再び声が響いた。
「そなたは、何を望む……?」
声はすぐ近くから聞こえているようだった。
それなのに、どこから聞こえてくるのか、まったく分からなかった。
俺は目だけを動かし、周囲を見回した。
川。
木々。
空。
誰もいなかった。
……幻聴か?
熱がひどくなりすぎて、存在しない声まで聞こえるようになったのかもしれない。
ああ、そう考えれば筋は通る。
俺は熱を出している。
とんでもない爆発に巻き込まれたうえ、川に落ちた。
だったら、妙な声が聞こえたって不思議じゃないよな?
……そうだろ?
だが、自分にそう言い聞かせようとした、そのときだった。
かすかな息を呑む音が聞こえた。
「そなたは……!?」
声が突然途切れた。
なぜ息を呑んだのか。
なぜ、そこまで驚いているのか。
俺には何一つ分からなかった。
口を開こうとした。
「な……に……?」
かすかな囁きしか出なかった。
何も見ることはできなかった。
それでも、自分には理解できない何かが、すぐそばに存在している。
そんな感覚だけが、どうしても消えなかった。
そして、再び問いが心の奥に響いた。
――俺は、何を望んでいる?
残された思考をかき集め、必死に考えた。
家に帰りたい。
自分に何が起きたのか、知りたい。
ここがどこなのか、どうやってこんな場所に来たのか、これから何をすればいいのか……それを教えてくれる誰かが欲しい。
だが、頭の中では考えが複雑に絡み合い、もう整理することさえできなかった。
疲れた。
考えることすら、耐えられないほどに……。
俺は……。
俺を導いてくれる誰かが、欲しい……。
その思いが心の中に形を成した、まさにその瞬間だった。
理解できないことが起きた。
あの存在の気配が、突然途切れたのだ。
徐々に薄れていったわけではない。
遠ざかっていったわけでもない。
まるで、何かがその瞬間そのものを断ち切ったかのようだった。
ほんの一瞬、すべてが止まった。
俺に語りかけていた、あの声さえも……。
消えた。
体の奥を、奇妙な冷たさが通り抜けた。
その直後、どこから生じたのか分からない、かすかな鼓動を感じた。
そして、再び何かの気配が戻ってきた。
だが、先ほどとは違っていた。
より明確で、より規則的な感覚。
まるで、最初の声が消えた瞬間に、何かが動き始めたかのようだった。
集中しようとしたが、頭が重すぎて、思うようにいかなかった。
そして次の瞬間、別の声が聞こえた。
「告:要求が満たされました。」
……。
……は?
さっき聞いた声とは違う。
まったく違う声だった。
穏やかで、先ほどの声が帯びていた神秘的な響きは一切ない。
それに、何よりも奇妙なのは……。
その声が、外から聞こえてきたわけではないということだ。
まるで、俺の頭の中から直接響いてきたかのようだった。
「告:初のユニークスキル《ガイド》の獲得を確認しました。」
……どういう意味だ!?
これって、スタジオからのご褒美か!?
あはははは!
演技が上手すぎて、ついに頭の中で、獲得したスキルまで教えてくれる声が聞こえるようになったってことか!
「回答:対象者ハリールが導き手を必要としていることを確認し、その要求をユニークスキルへと変換しました。」
おおお……!
こんなふうに説明までしてくれるのか!
でも……。
ちょっと待て。
さっきの声も、この演出の一部だったのか?
どうして、あの声と今の声はこんなにも違って感じられるんだ?
いや、いや……。
きっと熱のせいだ。
ああ、それしか考えられない!
「告:対象者ハリールの肉体および魂の解析結果に基づき、スキル《ガイド》をユニークスキルから根源スキルへと昇格させました。」
根源スキルだって!?
もう、何が何だか分からない。
だが、まあいい!
どうやらスタジオも、ようやく俺を物語の重要人物にしてくれる気になったらしい!
あはははは!
「告:対象者ハリールの肉体および魂の解析結果に基づき、必要に応じて追加のユニークスキルを生成します。」
追加のスキルだと!?
これって、契約に含まれている特典ってことでいいのか!?
「告:これまでに獲得したもの、および経験した出来事に基づき、対象者ハリールに追加の贈与を行います。」
……。
俺は、ぼんやりと夜空を見つめ続けた。
川の水で体が冷えていく一方、体の内側では熱が広がり続けていた。
……なんなんだよ、この惨めな状況は。
笑いたかった。
いつものように、何か皮肉の一つでも口にしたかった。
理解できない状況に陥ったとき、俺はいつもそうしてきたのだから。
だが、もう唇を動かす力さえ残っていなかった。
俺は……本当に驚いている……。
とっくに意識を失っていても、おかしくないはずだった。
それなのに、痛みと寒さと熱に苦しみ、理解できない声まで聞こえているというのに、俺はまだ意識を保っていた。
あははは……なんて超人的な能力なんだ……。
ついには、ありもしない幻まで見始めたらしい……。
もう一度、目を開けようとした。
だが、空が少しずつぼやけ、消えていく。
星も、月も、川を囲む木々も、もう見分けられなかった。
あの最初の声……。
思い出そうとしたが、記憶は急速に薄れていった。
誰の声だったのか。
なぜ、あんなにも驚いていたのか。
そして、俺が導いてくれる誰かを望んだ瞬間、何が起きたのか……。
何一つ分からなかった。
ただ一つ分かっているのは、新しい声が頭の中に現れ、俺の要求が満たされたと告げたことだけだった。
まあ……いつか分かるだろう。
……そもそも、目を覚ますことができれば、だけどな。
最後にもう一度、笑おうとした。
だが、その考えを最後まで形にする前に……。
すべてが途切れた。
そして、俺は闇に飲み込まれた。




