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映画のワンシーン


背後の川が激しく揺れた。


まるで、巨大な爆弾が川底に落ちたかのようだった。


……怖いよな?


俺を追いかけていた怪物が、崖の上から飛び降り、そのまま凄まじい勢いで水面に激突したのだ。


おい、おい……こいつ、バカなのか!?


今はそんなことを考えている場合じゃないのかもしれない。


だが、どうしても疑問に思わずにはいられなかった。


どうして上から飛び降りたんだ!?


こうやって俺に追いつこうとしたのか?


それとも、俺を捕まえ損ねたせいで、人生に絶望して自ら命を絶とうとしたのか?


いや、いや、いや!


俺は一体、何を考えているんだ!?


そんなことを考え続ける時間はなかった。


川の水が激しく動き始め、波が周囲の岩に打ちつけていたからだ。


「おい、おい、おい! 冗談だろ!? もう十分だろ、これまでにどれだけひどい目に遭ったと思ってるんだよ!?」


身体が震えた。


しばらく前から俺の身体を蝕んでいる高熱のせいなのか。


それとも、心の奥底へと忍び寄ってくる恐怖のせいなのか。


あるいは、その両方なのか。


もう、自分の目の前で起きていることと、頭の中で想像していることの区別さえつかなくなっていた。


だから俺は、勇気を振り絞って行動することにした。


川の近くにあった巨大な岩の陰に身を隠したのだ。


よし、現実的に考えてみよう。


俺は戦闘スキルなんて一つも持っていない。


それどころか、この世界に存在するはずの魔法をどうやって使えばいいのかさえ知らない。


そんな俺が、自分よりはるかに強い生物と戦ったところで、待っているのはおそらく死だけだ。


じゃあ、どうすればいい?


助けを呼ぶか?


誰に? どこから? どうやって?


答えを出さなければならない疑問ばかりなのに、どこから考え始めればいいのかすら分からない。


よし……ここで一度、俺が異世界に転移したモブキャラだと仮定してみよう。


あくまで仮定だぞ?


まだ確定したわけじゃないからな!


もしそうだとしたら、主人公が助けに来てくれるのを待つべきなのだろうか?


……いや、ちょっと待て。


そもそも、主人公はどうやって危険に陥っている人間の存在を知るんだ?


何か特別な感覚でも持っているのか?


それとも、助けを必要としている人間を探知するスキルでもあるのか?


いや、いや、いや!


ちょっと待ってくれ!


そもそも、主人公が現れるのを待つこと自体、ラスボスの登場を待ち構えているようなものじゃないか?


……って、どうして俺はこんなことを考えているんだ!?


よし、真実を知りたいというのなら教えてやろう。


モブキャラにとって、最も恐ろしい敵は誰だと思う?


それは……主人公自身だ!


これは、ビデオゲームや漫画では常識だろう。


主人公は物語の中心にいる存在だ。


派手な戦闘シーンも、格好いい決め台詞も、劇的な見せ場も、すべて主人公のために用意されている。


一方、脇役に用意されているのは……墓場までの片道切符くらいのものだ。


しかも、こういうシーンは、たいてい視聴者に大人気だったりする!


だが、ここにはもっと大きな問題がある……。


もし、主人公が俺を助けに来なかったら!?


その場合、俺は自分自身で炎を吐く怪物と戦うしかなくなる!


俺は苦労して唾を飲み込み、自分の両手を見つめた。


そして、強く拳を握りしめる。


できる……できるぞ、ハリール!


やればできる!


そうだ!


男なら、命の危機に瀕したとき、自分がやるべきことをやらなければならない!


こういう瞬間こそ、それが何よりも重要な決断になるんだ!


俺は岩陰から手を伸ばした。


指先は震え、腕は空中で支えるのもやっとだった。


それでも、手のひらを怪物へと向ける。


そして、深く息を吸い込んだ。


これまで見てきたアニメの知識を総動員して、魔法を発動させようと試みる。


「光よ、魔法よ、炎よ、水よ、風よ……そして、詠唱するだけで一時間もかかりそうな、その他もろもろの長ったらしい言葉たちよ……」


一度言葉を切る。


そして、ありったけの力を込めて叫んだ。


「今こそ、その力を我が前に示せ……! そして、我が敵を滅ぼせ!」


俺の周囲を暖かな風が吹き抜け、近くの木々の枝を揺らした。


そして……。


風が止まった。


静寂が訪れた。


俺は自分の手のひらをじっと見つめた。


……。


なるほど。


よし、どうやら俺は、この状況で男がやるべきことをやり遂げたらしい!


さて……。


あとは、この物語の本当の主人公が現れて、俺を助けてくれるのを待つのが最善だろう。


その後は、何も知らないバカな人間のふりでもしておけばいい。


そうすれば、異世界もののお決まりの展開に巻き込まれずに済むはずだ。


うん、間違いない!


これこそ、最高の選択だ!


……。


だが、そんなことを考えていたとき、俺はある奇妙なことに気づいた。


あの怪物……。


しばらく前から、まったく動いていない。


巨大な身体が川の水面に浮かんだまま、ぴくりとも動かなかった。


……ん?


これって、変じゃないか?


いくら高いところから飛び降りたからって、それだけで怪物が死ぬものなのか?


何かがおかしい……。


モブの本能が告げてい……。


いや、違う。


俺の本能が、何かがおかしいと告げている!


まさか……。


いや、いや、いや!


先走るのはやめよう。


俺は一歩、また一歩と慎重に進み、川へと近づいていった。


怪物は相変わらず水面に浮かんでいた。


その巨大な身体は、完全に静止しているように見えた。


俺はそいつを見下ろし、皮肉っぽく笑った。


「これがお前の末路だ! 主人公にちょっかいを出すから、そういうことになるんだぞ、怪物!」


俺は自信満々に手を掲げた。


「正直、思っていたより簡単だったな!」


ワハハハハ!


さて、こういうとき、物語の主人公がよく口にするお決まりの台詞がある。


ここで誰かが登場して、こう叫ぶはずだ。


「カット! 完璧なシーンだったぞ!」


それから、祝福の言葉と拍手が沸き起こる。


そして、怪物の着ぐるみを着た役者が出てきて、主人公役を見事に演じた俺を褒め称えてくれるのだ!


……。


数秒が経過した。


だが、何も起こらなかった。


周囲の寒さは増し、空気までが冷たく、厳しくなっていくように感じられた。


……俺の予想が外れたのか?


それとも、俺が出てくるのが早すぎたのか?


映画の撮影では、こういうことが起きるはずだと確信していたのに!


もっと怪物に近づくべきなのだろうか?


もしかしたら……。


今、俺は怪物から三メートルほど離れた場所に立っている。


これでは、カメラ越しに見たとき、迫力が足りないのかもしれない。


問題は……俺が……。


いや、いや、ハリール!


お前ならできる!


自信はないが、それでも挑戦くらいはできるだろ!?


俺は大きく息を吸い込み、川へ向かって数歩進んだ。


冷たい水と空気が身体に染み込んでくる。


だが、それを無視しようとした。


すべては、撮影と編集が終わったあと、俺が格好よく映るためなんだ!


頑張れ、ハリール!


俺は歩き続け、ついに怪物のすぐそばまでたどり着いた。


自分がやっていることが勇気なのか。


それとも、自分の推測を信じすぎた結果なのか。


あるいは、命が危険にさらされている状況での、ただの大馬鹿野郎の行動なのか。


俺には分からなかった。


だが、実際にここまで来てしまったのだから、今さら後戻りするわけにもいかない。


俺は怪物の巨大な身体を見下ろした。


そして、周囲に漂い始めた悪臭に顔をしかめる。


……真面目な話、ここまでリアルに作る必要があったのか!?


よし……。


そろそろ、主人公らしい決め台詞を言う時間だ。


俺は片手を高く掲げ、叫んだ。


「Victoryyyy!」


勝利のポーズを取ったまま、しばらく立ち尽くす。


両腕を空へと突き上げ、地平線の向こうへと広がっていく闇を眺めた。


さて……。


これから、どうすればいい?


誰かが「カット!」と叫ぶまで、ここで馬鹿みたいに待ち続ければいいのか?


おい、くそっ!


誰でもいいから出てきてくれ!


だが、誰も答えなかった。


監督もいない。


カメラマンもいない。


ましてや、怪物の着ぐるみを着ているはずの役者さえ現れない。


何もない。


……。


そこで俺は、さらに恐ろしい仮説を思いついてしまった。


もし、このシーンの目的が、主人公の華麗な活躍を見せることではなかったとしたら?


もし、怪物の恐ろしさを視聴者に印象づけるためのシーンだったとしたら?


もしかすると、こいつは死んだふりをしているだけなのかもしれない。


馬鹿な獲物が近づいてくるのを待ち、油断した瞬間に目を見開いて、こう言うのだ。


「サプラーイズ! お前はもう終わりだ!」


……こういう展開で殺されるのは、決まって脇役だけだ!


アハハハハ!


だが、まさか、そんなことが起こるわけないよな?


そうだろ?


頼むから、そうだと言ってくれ!


おそらく、俺の出番はまだ終わっていないのだろう。


ここは一度、映画撮影について知っていることを思い出してみよう……。


そういえば、そもそも俺は、読むべき台本を渡された覚えがない。


だが、映画では、監督がシーンの終わりまで待つこともあると聞いたことがある。


ときには、役者に自由に演技をさせることもあるらしい。


その場の自然な反応を引き出すことで、シーンをよりリアルに見せるためだ。


そう、そう!


きっと、今もそういうことが起きているんだ!


よし、状況を整理しよう。


怪物を倒した主人公は、普通、そのあと何をする?


そもそも、俺は本当にこいつを倒したと言えるのだろうか?


うーん……。


だが、こいつは俺を追いかけてきた挙げ句、俺に追いつこうとして崖から飛び降りたのだ。


そう考えれば、俺は間接的に勝利を収めたと言えるのではないだろうか!


そうだろ!?


だが、それよりも重要なことがある……。


俺が見てきた物語では、主人公は怪物を劇的な方法で倒すだけでは終わらない。


そのあと、何か重要なものを探し始めるのだ。


古代の遺物!


貴重な宝石!


あるいは、あとで大金で売れる魔物の核!


そう、そんな感じのものだ!


俺は怪物へと視線を戻した。


そうだ、これもシーンの重要な一部だ!


怪物を倒すだけでは駄目だ。


戦利品も手に入れなければならない!


うーん……。


だが、これは安全なのだろうか?


そもそも、俺は危険なシーンの撮影中に事故に遭った場合に備えて、生命保険が適用される契約を結んだ覚えがない!


うーん……。


アハハハハ!


きっと、何もかも大丈夫だ。


俺はさっき、崖の上から落ちた。


それでも、特に深刻なことにはならなかった。


ということは、あのときはスタジオ側が必要な安全対策を講じてくれていたのだろう!


では今、怪物の死体の前に立っている俺には、何が起こるのだろうか?


……いや、待て。


真面目な話、俺は本当に生命保険が適用される契約を結んだのか?


難しい問題だ……。


よし、こんなシーンはさっさと終わらせて、家に帰ったほうがいいかもしれない。


家族も俺の帰りを待っているはずだ。


そして、あとで誰かが、ここで何が起きているのか説明してくれるだろう。


前にも言ったが、最高のシーンというのは、役者がまるで本当の冒険を体験しているかのように振る舞うものなのだ!


アハハハハ!


さて、目的のアイテムはどこにあるんだ?


俺は怪物に近づき、そっと囁いた。


「なあ、怪物さん。頼むから、あんたの核か、身体の中に隠されている遺物を探すのを手伝ってくれないか?」


さらに、親しげな口調で続ける。


「おい、最初から本当に見事な怪物役を演じているじゃないか! さっき俺があんたの身体の上で用を足したから、怒っているのかもしれないが、まあ、恨みっこなしだろ? 俺たちは撮影をしているだけなんだから!」


俺は少しの間、そいつの身体を見つめた。


「それにしても、ちょっと演技に力を入れすぎじゃないか? 確かに、シーンを盛り上げるために俺へ火の玉を撃ってくる必要があったのは分かる。だが、あれは怖すぎたぞ! 本当に当たったらどうするんだよ!?」


「もっと自分を抑えることを覚えたほうがいいぞ、お前! そうしないと、次のシーンから降ろされることになるかもしれないからな!」


「それから、あんたに渡された核を探すのを手伝ってくれ。撮影が終わったら、夕食でも奢ってやるからさ!」


……。


返事はなかった。


くそっ!


こいつ、役に入り込みすぎだろ!


もしかすると、役を完璧に演じたら大金がもらえる契約でも結んでいるのかもしれない。


よし、じゃあ、これから何が起きても俺を責めるなよ!


俺は怪物の身体の周囲を探り始めた。


そのあと、水に沈んでいる部分にも手を伸ばしてみた。


身体の横。


身体の下。


近くの岩の隙間。


だが、何も見つからなかった。


これは困った……。


すでに辺りは暗くなっている。


それなのに、俺が戦利品を手に入れるまでは、監督たちも撮影を終わらせてくれそうにない!


そうして探し続けていると、怪物の身体からかすかな光が漏れていることに気づいた。


俺はぴたりと動きを止めた。


……ん?


まさか、これが探していたものなのか!?


俺は怪物の頭部に近づき、身をかがめて確かめてみた。


頭蓋骨に亀裂が入っており、そこから淡い光が漏れ出していた。


なるほど!


監督たちは、暗くなってからこの光が見えるようになるのを待っていたのか!


そうだ、似たようなシーンを見たことがある!


主人公が何かを探しているのに、その場所が分からない。


だから、手がかりを見つけて、目的のものへとたどり着くんだ!


つまり、ここが正解の場所に違いない!


アハハハハ!


……。


いや、駄目だ。


熱のせいで、俺は役に入り込みすぎている気がする。


さて……。


この中に手を突っ込めばいいのか?


本当に、そんなことをしなければならないのか?


頑張れ、ハリール!


この荒野で何も分からないまま三日も過ごしてきたんだ。


きっと、これが最後のシーンだ!


やることは一つ。


手を突っ込み、戦利品を見つける。


それで撮影は終わりだ!


俺はゆっくりと手を伸ばした。


「うげぇ……!」


指先が中の何かに触れた瞬間、吐き気が込み上げてきた。


どうやったら、こんなにリアルな着ぐるみを作れるんだ!?


奇妙なぬめりがあり、どろりとした液体が手にまとわりついてくる。


もし、これが単なる撮影ではなかったら、俺はこんなところに手を突っ込むくらいなら、自分の手を切り落とすほうを選んでいたかもしれない!


頑張れ、俺!


もう少しだけ耐えるんだ!


あと少しで、あちこちからカメラが現れ、撮影スタッフが俺のところへ集まってきて、素晴らしい演技だったと褒めてくれるはずなんだから!


……そうであってくれ。


俺はさらに手を奥へと押し込んだ。


まるで、怪物の身体が俺の腕を少しずつ飲み込んでいくかのようだった。


もっと奥へ手を伸ばすため、身体をかがめ、怪物の身体に密着する。


くそっ……!


こんなシーンのせいで、悪夢を見ることになりそうだ!


だが……。


突然、目を見開いた。


どうやら、何かに触れたらしい!


指先で、その物体の感触を確かめる。


硬い。


これは間違いない。


表面を指でなぞってみると、奇妙な凹凸があった。


まるで、文字か何かの模様が刻まれているようだった。


さらに、少しだけ動かしてみる。


どうやら、四角い形をしているらしい。


……もしかして、これが魔物の核なのか?


実際に見ることはできないが、触った感じでは立方体のようだ。


そう、そう!


これに違いない!


だが、もう一つ、奇妙なことがあった……。


その立方体から、かすかな熱が伝わってきたのだ。


そして、その熱は徐々に強くなっていった。


単なる温もりではなかった。


熱が腕の中を流れ、そこから身体全体へと広がっていくのを感じた。


……これって、普通なのか!?


誰かに聞いたほうがいいのだろうか?


だが、今ここで聞いたら、せっかくのシーンが台無しになってしまう!


そうなれば、ここまでの三日間を全部撮り直すことになるかもしれない!


いや、いや!


できるぞ、ハリール!


あと少しだ!


こいつを引っ張り出せば、すべて終わる!


俺はゆっくりと、それを引き抜き始めた。


ぬめりが手にまとわりつく。


手を動かすたびに、全身に悪寒が走った。


耐えろ、ハリール……!


もうすぐ終わる!


そして、数秒後……。


ついに!


俺は怪物の頭部から手を引き抜いた。


「はぁぁ……終わったぁ……!」


俺は手に入れたものを目の高さまで持ち上げた。


それは、穏やかな光を放つ、透明な立方体だった。


俺はしばらくの間、それを見つめた。


本当に立方体だった!


それなのに、どこか見覚えがあるような気がした。


まるで、以前どこかで見たことがあるかのように。


だが、どこで見たのかは思い出せなかった。


まあ、今はどうでもいい!


俺は立方体を高く掲げ、叫んだ。


「Mission Complete!」


アハハハハ!


さて、最後の決めポーズを見せるために、このまましばらく立っていたほうがいいのだろうか?


あとどれくらい、この状態を維持できるのかは分からない。


必死に踏ん張っていたが、身体を襲う熱のせいで、そろそろ限界が近づいていた。


撮影が終わったら、絶対に病院へ行こう!


それから、しばらくは危険なシーンへの出演を控えることにする!


もう、こんな冒険はこりごりだ!


……。


そのときだった。


背後で、怪物の身体が動いた。


ゆっくりと……。


俺は少しだけ顔を上げた。


……ん?


何かがおかしい。


確かに、俺は今起きていることを撮影だと思い込んでいる。


だが……。


そもそも、俺は撮影に出演する契約なんて結んだ覚えがあっただろうか?


俺の笑顔が固まった。


……おかしい。


どうして、こんなにも途方に暮れているんだ?


きっと、熱のせいで記憶が曖昧になっているだけだ!


そうだ!


それ以外に考えられない!


だが、自分にそう言い聞かせる前に、川の水が激しく揺れ始めた。


背後で何かが動く気配がした。


だが、俺は振り返らなかった。


立方体から放たれる光が、さらに強くなっていく。


同時に、怪物の身体の内側からも、別の光が漏れ始めていた。


「おい、おい、おい……!」


まだ撮影は終わっていないのか!?


これが、いわゆるランダムイベントってやつなのか!?


光はますます強くなり、怪物の身体は膨張するように膨らんでいった。


そこから、凄まじい熱が立ち上ってくる。


そして……。


俺は、自分の身体から何かが吸い取られていくのを感じた。


立方体を握る指に力がこもる。


「……え?」


手を動かそうとした。


だが、動かなかった。


身体は徐々に弱っていく。


まるで、何かが俺の力を少しずつ奪い取っているかのようだった。


もう、身体を動かすことができない。


俺はまるで、生きたまま死体になってしまったかのように、ただ、これから起きることを待つしかなかった。


……一体、何なんだよ、これ!?


必死に考えようとしたが、思考がばらばらになっていく。


そういえば……今になって考えてみると、俺はそもそも、このエピソードの主人公ではなかったのかもしれない。


もしかすると、これは本当の主人公が登場する前に、モブキャラが怪物に殺されるシーンだったのではないだろうか!


何て馬鹿げた最期なんだ!


だが、俺はそんな結末を受け入れるつもりなどなかった。


いや……頼むから、生命保険の有無も確認せずに契約を結んでしまった、なんてことだけは勘弁してくれ!


身体の中を駆け巡る熱が、さらに強くなった。


何が起きているのか、もう分からなかった。


身体の内側から熱が込み上げてくる一方で、手足は奇妙なほど冷たくなっていく。


額を冷たい汗が伝い、空気を吸い込もうとするたびに、呼吸が途切れ途切れになった。


高熱のせいで震えているのか。


寒さのせいなのか。


それとも、自分でも隠しきれなくなりつつある恐怖のせいなのか。


もう、俺には分からなかった。


……俺に、一体何が起きているんだ?

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