... 闇の中の光
皆さん、こんにちは!
この作品を読んでくださっている皆さんへ。
正直に言うと、同じ物語が二つあることに戸惑っている皆さんの気持ちはよく分かります。実は、僕自身も少し混乱しています!
ただ、オリジナル版を書き進めていくうちに、物語の始まりを十分に描ききれていないと感じるようになりました。展開が少し急ぎ足になってしまい、本当はもっと丁寧に描きたかった部分もあったんです。
この作品は、僕が初めて公開した物語です。だからこそ、読者の皆さんがどんな反応をしてくれるのか、登場人物や物語をどう感じてくれるのか、ずっと楽しみにしていました。
しかし、物語が進み、展開が広がっていくにつれて、今のうちに最初から見直し、もっと時間と労力をかけなければ、いつか自分自身が後悔するかもしれないと思うようになりました。何より、僕はこの物語を書くことを本当に楽しんでいるので、自分にできる限りの形で皆さんに届けたいと思っています。
皆さんも同じように感じてくださるかどうかは分かりません。それでも、この物語にもう一度、新たな機会を与えたいと思いました。
そのため、この改訂版では文章や物語の描写を見直し、表現を改善するとともに、一部の展開に変更や新しい要素を加えています。また、僕は外国人作家として、自分の物語を別の言語に翻訳し、異なる言語を使う読者の皆さんにも届けようとしています。これもまた、僕にとって学び続ける必要のある挑戦の一つです。
この改訂版が皆さんにとってどのような作品になるのか、まだ分かりません。それでも、皆さんの感想を聞けることを楽しみにしています。そして、僕自身がこの物語を書くことを楽しんでいるように、皆さんにも楽しんでいただけたら嬉しいです。
僕の作品を読んでくださった方、興味を持ってくださった方、そして今もこの物語と一緒に歩み続けてくださっている皆さん、本当にありがとうございます。
皆さんが費やしてくださる時間と、応援してくださる気持ちは、僕にとって何より大切なものです!
寒い……。
今の俺の状態を表すなら、この二文字が一番しっくりくるかもしれない。
周囲が何も見えない。
どこを見渡しても、目に映るのは闇ばかりだ。
果てしない闇……。
自分がどこにいるのかも、どうやってここにたどり着いたのかも分からない。
だが、不思議なことに、この感覚には覚えがあった。
よく考えてみれば、以前にも似たような経験をした気がする。
そう……俺は以前、死について考えたことがあったよな?
森の中で目を覚ましたとき、俺は本当に死んだのではないかと考えていた。
あのとき、頭の中を駆け巡っていた疑問の数々。
そして今、俺はまた同じことを考えている。
はぁ……。
どうやら、またいつもの哲学モードに戻ってしまったらしい!
だが、まあ、こればかりは仕方ないだろう?
何しろ、これまでにいろいろなことがあった挙げ句、また死んだのではないかと思わされるような状況に放り込まれているのだから。
あはは……。
本当に奇妙な人生だ!
自分がたった一人、慣れ親しんだものから遠く離れた場所に取り残されたときに感じる、あの冷たく、寂しい感覚。
温もりはない。
聞き慣れた声もない。
隣にいてくれる人もいない。
あるのは、どこまでも広がる巨大な空虚だけ。
そして、もっと不思議なのは、普段ならそれほど気にも留めなかったことについて、考え始めている自分がいることだった。
大切な人たちが、すぐそばにいてくれること。
たとえ、何も話していなかったとしても。
あまりにも当たり前すぎて、その大切さについて一度も考えたことがなかったような、小さなこと。
だが、それを永遠に失ってしまったと想像した途端、すべてが変わる。
何気ない日常の一つ一つが、まるで違ったものに見えてくる。
まるで、手の届かない場所へ行ってしまって初めて、その本当の価値に気づいたかのように。
突然、幸せを感じるために、何か特別に素晴らしいものを求める必要はなくなる。
聞き慣れた声が聞こえるだけでいい。
大切な人の顔を見られるだけでいい。
隣に誰かが座っていて、その人の温もりを感じられるだけでいい。
たとえ、一言も言葉を交わさなかったとしても。
ただ、隣に誰かがいてくれる。
それだけで、十分なのかもしれない。
では、もし、そのすべてが消えてしまったら?
周囲には空虚しか残らず、頼れる相手も誰一人いなくなってしまったら?
……。
はぁ……。
俺は今、何を考えているんだ?
こんなことを考えたところで、何の意味もないじゃないか。
死とは、わざわざ解釈する必要のある哲学的な問題なんかじゃない。
生きとし生けるものすべてに等しく訪れる、避けられない現実だ。
それを受け入れようが、必死に逃れようとしようが、関係ない。
ただ、それだけのことだ。
それでも……。
これは、以前から俺が考えていたことを裏付けている。
死は、生きている間、十分に目を向けてこなかった物事について、考えざるを得ない状況を作り出すのだ。
心の奥底に埋もれていた考えや感情、記憶。
それらが一気に溢れ出してくる。
まるで、失う直前になって、脳がすべてを取り戻そうとしているかのように。
それはきっと、命が自分の手からこぼれ落ちようとしているときでさえ、俺たちが生にしがみつこうとする、その方法なのかもしれない。
そして今、俺はまた、それに似たような経験をしている。
……。
待てよ。
俺、本当に死んだのか?
もしそうなら、二度目の人生は、思っていたよりもずっと早く終わってしまったことになる。
あはは……。
なんて皮肉な最期だ!
最初の人生は、決して長いものではなかった。
それでも、良いこともあれば、悪いこともあった。
そもそも、それが人生というものじゃないのか?
俺たちは生きて、いろいろな経験をする。
嬉しいこともあれば、悲しいこともある。
そして、それらを乗り越えながら前へ進み、いつか訪れる最期のときを迎える。
だが、問題は……。
俺が本当に二度目の人生を生きていたのかどうかすら、分からないことだ。
確かに、この身体は少なくとも十五年は生きてきたように見える。
だが、つい最近になって前世の記憶を取り戻した俺にとって、新しい人生が始まったのは、ついこの間のことだ。
そう言ってもいいだろう。
記憶をたどる限り、この奇妙な体験が始まってから、まだ三日しか経っていない。
たった三日だぞ!
皮肉と困惑と疲労。
自分自身との会話。
そして、いつまでたっても終わりそうにない哲学的な葛藤!
これが新しい人生ってやつなのか?
正直、もう少しマシなものを期待していたんだが。
せめて、命を狙われ始める前に、いくつか答えを手に入れておきたかった!
……。
だが、今さら文句を言っても仕方がない。
俺はすでに、こんな状況に陥ってしまったのだから。
今、俺の頭を占めているのは、ただ一つの疑問だった。
これから、俺はどうなるんだ?
このまま、ここで消えてしまうのか?
それとも、何か別のことが待っているのか?
答えは見つからなかった。
ゆっくりと、俺の思考が薄れていく。
まるで、周囲の闇が目に映るものを飲み込むだけでは飽き足らず、俺の意識の奥深くにまで侵食し始めたかのようだった。
ああ……。
どうやら、本当に終わりらしい。
奇妙な人生だったな……。
俺は、その感覚に身を委ねた。
もう、考える力も残っていない。
答えを探そうという気力さえ、湧いてこなかった。
ただ、少し休みたかった。
考えることをやめたかった。
ほんの一瞬だけでもいいから。
……。
そのときだった。
突然……。
光が現れた。
いや、もしかすると、いくつもの光だったのかもしれない。
俺には判断できなかった。
最初は、果てしない闇の中に浮かぶ、小さな遠い光にすぎなかった。
だが、少しずつ、その光は明るさを増していった。
大きくなり……。
さらに、大きくなっていく……。
やがて、その光は目の前に広がり始め、周囲の闇を塗り替えていった。
そして、俺は予想もしなかった光景を目にすることになった。
……何だ、これ?
目の前に広がる光景が、信じられなかった。
そこには、広大な野原が広がっていた。
暖かな太陽の光が降り注ぎ、遠くまで続くその景色を優しく照らしている。
まばらに生えた木々。
そよ風に揺れる緑の草。
そして、地面を埋め尽くす黄金色の花々。
まるで、小さな太陽の欠片が地上に降り注いだかのようだった。
その光景は、言葉では言い表せないほど穏やかだった。
美しい……。
そのあまりの美しさに、俺は一瞬、これまで自分に起きたすべての出来事を忘れてしまった。
自分がどこにいるのかも分からない。
この光がどこから来ているのかも分からない。
それでも、目の前の野原は、はっきりと見えていた。
そこにあるすべてが、疑いようもなく本物であるかのように。
すると、不思議なことが起こった。
前へ進みたいという気持ちが湧き上がってきたのだ。
それは、周囲を探索したいという欲求ではなかった。
木々の向こうに何があるのか知りたいわけでもない。
この世界が本物なのかどうか、確かめたいわけでもなかった。
もっと単純なことだった。
そして、もしかすると、もっと深いことだったのかもしれない。
俺は、あそこにいたい。
……。
あの野原に入りたい。
俺と野原の間には、ほんのわずかな距離しかない。
たった一歩踏み出せば、そこへたどり着ける。
そんな気さえした。
あと一歩……。
それだけで、俺はあそこに行ける。
なのに、動けなかった。
前へ進もうとしても、身体が言うことを聞いてくれない。
いや、そもそも、今の俺に身体があるのかどうかさえ分からなかった!
まるで、テレビの画面に映し出された番組を見ているようなものだった。
目の前には、自分が入りたいと思う世界が広がっている。
何もかもが見える。
細かな部分まで、はっきりと見分けられる。
それなのに、どれだけ望んでも、その画面の向こう側に閉じ込められたまま。
何一つ、触れることができない。
……。
不思議なことに、俺は恐怖を感じていなかった。
少なくとも、自分が想像していたほどではない。
代わりに、別の感覚が胸の奥へと染み込んでくるのを感じていた。
温もり。
身体で感じる温かさではない。
そもそも、俺には自分の身体の感覚すらなかったのだから。
それは、もっと曖昧で、不思議な感覚だった。
よく知っている場所へ帰ってきたとき。
あるいは、長い間会えなかった人の声を耳にしたとき。
そんなときに感じるものに似ていた。
理由は分からなくても、そこに留まっていたいと思わせる感覚。
これは希望なのか?
それとも、願いなのか?
分からない。
もしかすると、そのどちらでもないのかもしれない。
ただ一つ、確かなことがあった。
俺は、あの野原にたどり着きたかった。
あそこに何が待っているのか、知っているわけではない。
そこへ行けば、今、頭を悩ませている疑問の答えが見つかると思っているわけでもない。
ただ、心のどこかで、あそこへ行けば、自分が失ってしまった何かを見つけられるような気がしていた。
先ほど考えていた、あの温もりに似た何かを。
自分は一人ではないのだと、感じさせてくれる何かを。
この感覚を説明することはできなかった。
だが、それにしがみつくために、理由を説明できる必要などなかった。
ただ、あそこにいたい。
それだけだった。
この不可解な状況の中で、俺が確かに信じられるのは、その思いだけだった。
そのとき、野原の向こう側で、何かが動くのが見えた。
最初は、風に揺れた影かと思った。
だが……。
いや、違う。
人だ。
誰かが、こちらへ向かって歩いてきている。
一瞬、思考が止まった。
最初は遠くにいたはずなのに、奇妙なほどの速さで近づいてくる。
走っているわけでもない。
急いでいるようにも見えない。
ただ、一歩、また一歩と、こちらへ歩いてくるだけだ。
なのに、俺たちの間の距離は、勝手に縮まっているかのようだった。
……どういうことだ?
一体、何が起きている?
俺は本当に天国にいるのか?
それとも、ついに頭がおかしくなったのか?
どの疑問にも、答えは見つからなかった。
その人物は歩き続け、やがて俺からそれほど離れていない場所にある木の下で立ち止まった。
俺は、その人物に意識を集中させた。
野原へ一歩も踏み出せないというのに、不思議なことに、いくつかの特徴は見て取れた。
風にそっと揺れる白い服……。
そして、身体の周りに垂れ下がる長い髪が、その人物の顔をほとんど隠していた。
……女の子なのか?
おそらく、そうだろう。
だが、確信は持てなかった。
それとは別に、もう一つ、気になるものがあった。
頭にかぶっている帽子だ。
花で飾られた帽子だった。
少女は木の下に静かに立っていた。
まるで、何かを待っているかのように。
それとも、誰かを……。
声をかけてみるべきだろうか?
俺はためらった。
声をかけたところで、聞こえるのだろうか?
そもそも、俺は本当に声を出せるのか?
ここまで、身体を動かすことも、彼女に近づくこともできていない。
今の俺は、広大な空間に浮かぶ何かのような存在だった。
見ることも、考えることもできる。
だが、それ以外には何もできない。
それでも、彼女に尋ねたかった。
君は誰なんだ?
ここはどこなんだ?
俺がどうやってここに来たのか、知っているのか?
だが、どうするべきか決める前に、野原を強い風が吹き抜けた。
木々の枝が大きく揺れ、黄金色の花々が風に煽られる。
そして……。
少女の帽子が飛ばされた。
……は?
帽子は宙へと舞い上がり、くるくると回転しながら、木の下から遠ざかっていった。
俺は、その動きを目で追った。
帽子は少し上昇したかと思えば、今度は下降する。
そして、また上昇する。
風に翻弄されながら、徐々に俺と野原の境目へと近づいてきた。
やがて、帽子はゆっくりと落下し始めた。
さらに、ゆっくりと……。
そして最後には、俺のすぐ目の前に立つ人物の頭の上へと、すとんと収まった。
……。
はぁぁぁぁ!?
思考が凍りついた。
ちょっと待て!
さっきまで、あの少女は木の下に立っていたよな!?
どうして、こんな一瞬でここまで来たんだ!?
俺は彼女が動くところを見ていない。
走っているところも見ていない。
というか、彼女がいつ俺の目の前に現れたのか、その瞬間すら認識できなかった!
なのに、彼女は今、そこに立っている。
俺からほんの数歩しか離れていない場所に。
長い黒髪がそよ風に揺れ、白い服がその身体を包み込むように垂れ下がっている。
ただ、顔立ちははっきりと見えなかった。
帽子が顔の大部分を覆い隠し、目元まで隠してしまっていたからだ。
彼女は、ひどく落ち着いていた。
そして……。
微笑んだ。
君は……誰なんだ?
俺は彼女に尋ねようとした。
口を開いた……つもりだった。
だが、声は出なかった。
動けない。
話せない。
何もできない。
ただ、彼女を見つめることしかできなかった。
すると、少女は両手を背中に回し、少しだけ首を傾けた。
そして、唇を動かした。
「あなたが何を言いたいのか、私には分かっています」
声は小さく、かろうじて耳に届くほどだった。
それなのに、俺にははっきりと聞こえた。
……何だって?
どうして、俺が言いたいことを知っているんだ?
まさか、心が読めるのか?
それとも、以前から俺のことを知っているのか?
さらに質問を重ねようとしたが、その機会は訪れなかった。
突然、野原を吹き抜ける風が強くなったのだ。
花々が激しく揺れ、少女の周囲で花びらが舞い上がっていく。
黄金色の花びらが、少しずつ俺の視界を覆い始めた。
彼女を見失わないように目を凝らす。
だが、目の前の光景は次第に揺らぎ始めていた。
待ってくれ!
行かないでくれ!
どうして、そんなことを思ったのか、自分でも分からなかった。
彼女が何者なのかも知らない。
この場所に留まりたいと思う理由だって、分からない。
それでも、彼女に消えてほしくなかった。
また、あの闇に戻りたくなかった。
おそらく、どれだけ奇妙なことが起きていたとしても、俺はまだ、あの冷たく空虚な場所へ戻る覚悟ができていなかったのだろう。
そして、ほんのわずかな時間だったとはいえ、俺は何かに近づけたような気がしていた。
ずっと失っていた何かに。
自分が探していたことすら知らなかった、何かに……。
そのときだった。
突然、背後で何かが動く気配がした。
振り返る間もなかった。
二本の腕が背後から伸びてきて、俺の身体に回された。
まるで、誰かが俺を抱きしめるかのように。
俺は硬直した。
……は?
恐怖が込み上げてきた。
だが、何もできなかった。
背後にいるのが誰なのか、見ることができない。
首を動かすことさえできなかった。
そして、耳元に小さな声が近づいてきた。
その声が、そっと囁いた。
「私たちは――」
---
目を開けた。
全身に鋭い痛みが走り、背中には硬い何かが押しつけられていた。
息を吸おうとしたが、肺に空気が入ってくるのがひどく苦しい。
そのまま、痛みを伴う咳が込み上げてきた。
ゴホッ……ゴホッ……!
俺に何が起きた?
ここはどこだ?
目をゆっくりと動かしながら、目の前の光景を理解しようとする。
岩。
遠くに見える木々。
そして、左右にそびえ立つ、切り立った谷の壁。
……。
俺は、谷にいる。
突然、これまでの出来事が頭の中によみがえった。
あの怪物……。
火の玉……。
谷の縁……。
そして、落下。
ああ……そうだった。
どうやら、俺はまだ死んでいなかったらしい。
少なくとも、すべてが幻だったわけではないようだ。
いや……少なくとも、今この瞬間までは死んでいなかった。
だが……。
あの場所は何だったんだ?
あの少女は、一体何者なんだ?
答えは見つからなかった。
本当に奇妙な人生だ……。
起き上がろうとして、ようやく気づいた。
俺は川の水面に浮かんでいたのだ。
なるほど……これは幸運だったと考えてもいいのだろうか!?
いや、だって、あんな高さの崖から落ちたんだぞ?
今頃は身体がバラバラになって、魚たちの餌になっていてもおかしくなかったはずだ!
俺は深くため息をついた。
これは本当に、できるだけ早く精神科医に診てもらったほうがいい。
どう考えても、俺は正常じゃない。
一度死んで、何が起きているのかも分からないまま別の世界にやって来た。
その後、初めての本格的な試練に直面したと思ったら……。
また死にかけた!
しかも、どうしてこうなったのか、自分でもよく分からないが、何とか生き延びた。
つまり、ここは魔法のある世界ってことか……。
俺は立ち上がった。
川は立っていられる程度の深さしかなく、立ち上がること自体は難しくなかった。
身体中の痛みに耐えながら、岸へ向かって数歩進む。
ようやく川岸にたどり着くと、地面に腰を下ろし、荒い息を整えた。
よし。
ここは、前向きに考えてみよう。
まず一つ目。
俺はまだ生きている。
そして二つ目。
ここは魔法のある世界だ!
俺は少しだけ顔を上げ、それから自分の手のひらを見つめた。
なるほど……魔法のある世界か。
俺は片手を前に突き出した。
火の玉……。
しばらくの間、俺は自分の腕をじっと見つめていた。
そのとき、冷たい風が吹きつけ、思わず身体が震えた。
うん……。
どうやら、俺は本当に救いようのない人間らしい。
以前、読んだことがある。
高熱が出ると、意識が混乱して、実際には存在しないものを見たり、感じたりすることがあるらしい。
そうだ、そうだ……。
きっと、そういうことなんだ!
実際のところ、俺はただ、それが本当であってほしいと願っていた。
魔法と怪物が存在する世界で、何の能力も持たない無能な人間だったとしたら……。
それは、ちょっとどころではなく危険な状況だからだ。
俺は顔を上げ、周囲を見渡した。
こんな世界で、ただのモブキャラだったとしたら……。
あはははは!
何て恐ろしい冗談だ!
どうか、本当にそんなことになりませんように……。
うん。
俺の願いは、それだけだ。
そのとき、遠くから水の流れる音が聞こえてきた。
右を振り向くと、切り立った崖の上から滝が流れ落ち、その水が俺の座っている川へと注ぎ込んでいた。
なるほど……。
上にも川があって、そこから水が流れ落ちてきているのか?
俺は顔を上げ、崖の上から流れ落ちる水を目で追った。
やがて、視線が滝の下へとたどり着く。
そこで……。
妙なものが目に入った。
……何だ、あれ?
墓石のように見える。
滝から飛び散った水滴が、その表面に降り注いでいた。
何でこんな場所に墓石があるんだ!?
もう一度立ち上がろうとしたが、地面から身体を起こすだけでも一苦労だった。
痛みがひどい。
少しでも気を抜けば、その場に倒れてしまいそうだった。
それでも、どうにか立ち上がることができた。
俺は警戒しながら周囲を見回した。
どうやら、俺を追いかけていた怪物も、ようやく諦めてくれたらしい。
……そうであってほしい!
正直なところ、俺が弱い人間だった場合、いや、それどころか、この世界の単なる脇役だった場合、あんな怪物と遭遇するなんて、考えられる限り最悪の事態だ。
本当に、この異世界転生は何かがおかしい。
普通、物語の主人公が最初に遭遇するのはゴブリンとか、簡単に倒せる弱い魔物とか、そういうものじゃないのか?
まずは、そういう相手と戦いながら、自分のスキルや能力に気づいていく。
そういう流れのはずだろ?
なのに、どうして俺は最初から、火の玉を撃ち出してくる恐ろしい怪物と戦わなきゃならないんだ!?
これじゃ、俺がただのモブキャラである可能性が、ますます高くなってしまうじゃないか!
だって、異世界ものの脇役って、伝説級の怪物を引き寄せる役目を担っているものだろ!?
あはははは!
何て悲惨な人生だ……。
そのとき、崖の上からカラスの鳴き声が響いた。
俺は空を見上げた。
周囲には、少しずつ闇が広がり始めていた。
……って、俺は一体何を言っているんだ!?
俺は頭を振り、そんな考えを追い払うと、出口を探して慎重に歩き始めた。
暑さは人間にとって最大の敵だ……。
そう呟きながら、ゆっくりと足を進める。
せめて、案内人か道を教えてくれる誰かがいてくれたら、少なくとも……。
その瞬間だった。
まるで背後で巨大な爆発が起きたかのような衝撃を感じた!
ザアアアアアアアッ!!
水が激しく跳ね上がり、その轟音が周囲の音をすべてかき消した。
俺は苦労して振り返った。
目の前の光景を理解することさえ、やっとだった。
おい……おい、おい、おい!
冗談だろ!?
あの怪物が、川の中に現れたのだ。
崖の上から飛び降りてきたらしい!
俺は信じられない思いで、そいつを見つめた。
……こいつ、本当に正気なのか!?
俺はしばらく黙り込んだ。
うーん……待てよ。
そもそも、正気を失っているのは俺のほうじゃなかったか?
それに、怪物って、そもそも知性なんて持っているものなのか!?
ああ……もう、こんな人生、クソくらえだ!




