幸先の悪い始まり
……さて、どうやら俺は、少々役になりきりすぎてしまったらしい。
あれほど勇ましい叫び声を上げたのだから、このあとには監督たちの拍手と、俺の素晴らしい演技を称賛する言葉が待っているはずだった。
だが……。
どうしてだろう。
何かがおかしい気がする。
どうして、この火の玉の熱が、こんなにも本物らしいんだ!?
おい……ちょっと待て。
これって、ただの特殊効果のはずだろ!?
その次の瞬間、頭の中で奇妙な声が響いた。
「告:危険を検知しました。」
俺は二度、まばたきをした。
……はあ?
今、何か変な声が聞こえなかったか?
「あれれれれれっ!?」
額から流れる汗がますます増え、心臓が今にも胸から飛び出しそうになった。
おい、おい、おい……!
何だ、今の声は!?
どうして、危険がこんなにも現実のものに感じられるんだ!?
そして、次の瞬間……。
ドゴオオオオオン!!!
火の玉が、窓に激突した!
ドゴオオオオオン!!!
建物が激しく揺れた。
赤い閃光が部屋の中へと飛び込み、凄まじい爆発音とともに、木製の窓枠が一部吹き飛んだ。
破片が四方八方へと飛び散り、煙が部屋の中へ流れ込んでくる。
そして、熱風が俺の顔をかすめた。
「うわあああああっ!!!」
俺は後ずさりし、ベッドの陰に身を隠した。
くそおおおおおおおおおおおおお!!!
何をやってるんだ、このバカ野郎!!
……いや、何をやってるんだ、俺は!?
いや、そもそも、こんなことをしたのはお前らだろうが!!
下の方から、男たちの声が聞こえてきた。
さっきまでの口論は、いつの間にか責任のなすりつけ合いへと変わっていた。
「お前、何をしたんだ!?」
「何だと!? 俺のせいにするつもりか!?」
「お前の風のせいで、俺の火球がアサミの宿屋に飛んでいったんだぞ!」
「おい! そもそも、先に仕掛けたのはお前だろうが!」
……
アサミ?
その名前について考える暇はなかった。
窓から吹き飛んだ破片の一部が、建物の下の階へと落ち始めていたからだ。
男たちはその場で固まり、素早く顔を見合わせた。
「……そういえば、今日はギルドから依頼を受けてなかったか?」
「あっ……そうだった!」
片方の男が、何か重大なことを思い出したかのように、自分の拳を手のひらに打ちつけた。
「確か、野ウサギを何匹か狩る依頼だったはずだ!」
「ああ、ああ! 俺もちょうどそれを思い出そうとしていたところだ!」
「ははは! 思い出させてくれてありがとうな!」
「気にするな。俺たちは友達だろ? さっさと行って、ウサギを狩ろうぜ!」
「賛成だ!」
そして二人は、何事もなかったかのように背を向け、その場から足早に立ち去っていった。
……
沈黙が訪れた。
一方、俺はというと、相変わらず破壊された部屋の真ん中に立ち尽くしていた。
もはや窓と呼ぶのも怪しいほど大きな穴を、ただ呆然と見つめていた。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!」
周囲に立ち込める煙にむせながら、俺は必死に息を整えた。
「はあ……はあ……!」
おい、おい、おい!
いくら何でも、やりすぎじゃないか!?
これも演出の一部なのか!?
それに、俺の生命保険は、こんな事故にも対応してくれるのか!?
向かい側の木の壁には、まだ小さな炎が残っていた。
壊れた窓からは、煙が外へと立ち上っている。
これは、絶対に抗議するべきだ!
たとえ映画の撮影だったとしても、事前に何の説明もなく、俺の命を危険にさらすなんて許されることじゃない!
何の準備もできていない俺に、こんなシーンで一体どう演技しろっていうんだ!?
せめて、アクションシーンに参加することくらい、先に教えておくべきだろうが!
俺は、燃えた木材の残骸や小さな炎を避けながら、慎重に瓦礫の間を進んだ。
そして、窓際へと近づいた。
下の通りには、相変わらず人々が行き交っていた。
だが、あの二人の姿は、すでに人混みの中へと消えていた。
俺は深く息を吸い込み、ありったけの声で叫んだ。
「おおおおおい! この人でなしども! 俺が命懸けのシーンに参加するって、どうして事前に教えてくれなかったんだよ!?」
少し待ってみた。
返事はない。
「おい! 聞こえてるのは分かってるんだぞ!」
周囲を見回した。
カメラはない。
撮影用の照明もない。
それどころか、俺の叫び声に関心を示す人間すら、一人も見当たらなかった。
……はあ?
まさか、まだ撮影を続けているのか?
正直、俺は結構影響を受けやすい性格なんだ。
こういうのは苦手なんだよ!
みんなで仲良く協力して作り上げるのが、映画撮影ってものじゃないのか!?
それなのに、何の説明もなく、もう少しで焼き殺されるところだったんだぞ!
……
そのとき、背後から音が聞こえた。
コツ。
俺はドアの方へ振り向いた。
ドアがゆっくりと開き、そこに一人の男が姿を現した。
白いエプロンを身につけ、短い白髪をしている。
そして、その体は驚くほど筋骨隆々だった。
たくましい腕は、まるで岩さえ砕いてしまいそうなほどだ。
俺は、しばらくその男を見つめた。
……あの筋肉、本物なのか?
いや……。
まさか、この男も撮影スタッフの一人なのか?
男は黙ったまま、俺を見ていた。
それから、壊れた窓へと視線を移した。
床に散らばる瓦礫。
そして、壁に残された火災の痕跡。
沈黙が流れた。
……あっ。
うん。
もしかすると、俺は少し考えてから発言するべきだったのかもしれない。
だが、俺はそうしなかった。
男の方へ向き直ると、怒りを込めて指を突きつけた。
「おい、ジジイ! 俺の許可もなく、どうしてこんな場所に連れてきたんだ!?」
男の表情は変わらなかった。
俺は、さらに自信満々に言葉を続けた。
「それに、俺に相談もせず、勝手に俺の身に起きることを決める権利が、どこにあるんだ!? 訴えてやるからな! そうだ、絶対に訴えてやる! お前はこれから、刑務所の小さな窓越しにしか太陽を見られなくなるんだぞ!」
そうだ! よく言った、ハリール!
俺が簡単に好き勝手される人間じゃないってことを、思い知らせてやれ!
男は拳を握りしめた。
たくましい腕の筋肉が、はっきりと浮かび上がる。
そして、その表情は少しずつ険しくなっていった。
……はあ?
何だ、この妙な感じは?
どうして、あいつは必死に怒りを抑えようとしているように見えるんだ?
だが、俺は引き下がらなかった。
むしろ、さらに顎を上げた。
「さあ、俺にひれ伏して謝れ!」
俺は手で男を指し示した。
「そうだ! お前がするべきことは、それだ!」
さらに、わざとらしく真剣な口調で付け加えた。
「確かに、役者が即興で演技したり、自然に振る舞ったりすれば、シーンの臨場感は増すかもしれない! だが、だからといって、事前に何の説明もなく、本物の危険にさらしていいわけじゃないだろう! 俺だって、こんな体験をするなら、心の準備くらいさせてほしかったんだ!」
そうだ、そうだ……。
まったくもって正論だ!
男は俺の顔をじっと見つめた。
それから、もう一度、壊れた窓と、部屋中に広がる火災の痕跡へと目を向けた。
「お前……この騒ぎを起こしたのは、お前なのか?」
……はあ?
さっき、監督たちに文句を言っていたことについて聞いているのか?
どうやら、うっかり撮影の邪魔をしてしまったらしい。
「そうだ! 俺がやった!」
俺は自信満々にうなずき、さらに不満をぶつけた。
「だが、真面目な話、こんなことをされたら、俺だって怒るに決まってるだろう! そっちだって、さっき俺の命を危険にさらしたじゃないか!? あんなくだらないシーンのせいで、俺はもう少しで生きたまま焼かれるところだったんだぞ!」
男は一瞬、固まった。
「つまり……お前がやったと認めるんだな!?」
……はあ?
どうして、まるで俺がとんでもない罪でも犯したかのような口ぶりなんだ!?
俺は真剣な顔で男を見つめ、それから再び指を突きつけた。
「おい、ジジイ! 悪いのは俺じゃなくて、お前だろ! そもそも、こんな危険なシーンに参加させるなら、最初に説明しておくべきだったんだ! 何の前触れもなく俺の命を危険にさらすなんて、どう考えてもおかしいだろうが!?」
そこで一度言葉を切り、俺は自信満々に顎を上げた。
「さあ、俺に謝れ! ほら、早く!」
沈黙が流れた。
男は俺をじっと見つめていた。
その額には、浮き出た血管がますますはっきりと現れ始めていた。
……おお。
どうやら、本気で怒っているらしい。
だが、問題ない!
俺にだって怒る理由はあるんだ!
男が、ゆっくりと俺に近づいてきた。
一歩……。
そして、もう一歩……。
うーん……。
何だか、妙なことになってきたぞ。
もしかして、俺たちの間に何か誤解があるのか?
いや、そんなはずはない。
この男は撮影の責任者の一人なんだろう?
なら、撮影現場で何が起きているのか、すべて把握していて当然だ。
そうだ、それが合理的な説明だ!
俺は自信たっぷりに微笑み、手を上げて男を制止した。
「よし、よし! もうそれ以上近づかなくていい! その場から謝ってくれれば、許してやることも考えてやろう!」
だが、男は止まらなかった。
ドン!
男の足が床を踏みしめるたび、床板が揺れた。
おお! 足音まで、こんなにリアルなのか!
そして、次の瞬間……。
ミシッ!
俺の足元から、何かが軋む音が聞こえた。
俺の笑顔が消えた。
床を見下ろし、それから白髪の男を見上げる。
……はあ?
木製の床に亀裂が走り始めた。
その亀裂は急速に広がり、俺の足元で床板が大きくたわんでいく。
おい……ちょっと待て。
まさか、これもシーンの一部だって言うんじゃないだろうな!?
答えを考える暇などなかった。
次の瞬間……。
バキバキバキッ!!!
俺の足元の床が、崩れ落ちた!
「くそおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺の体は下へと落ちていった。
木片が周囲に飛び散る。
俺は何かにつかまろうと手を伸ばしたが、つかめたのは虚空だけだった。
本当にいい加減にしろよ!
こんな危険なシーンを撮影して、俺の命を危険にさらすつもりなら、最初に説明しておくべきだろうが!
このクソ映画、一体いつになったら終わるんだよ!?




