第9話 軍曹、部下と再会する
王城北棟の地下階段は、どこまでも続いていた。
上から差し込んでいた光はすぐに消え、周囲は魔石の青白い明かりだけになる。
鬼平は右手に撃てないガトリング砲、左手にかろうじて射撃可能なガトリング砲を持ち、先頭を進んでいた。
右の砲は、もはや銃ではない。
砲身は熱で変色し、魔石接続部には亀裂が走っている。砲身を回転させることも、魔力弾を発射することもできない。
それでも、片手二百キロを超える重量は失われていなかった。
鬼平はその鉄塊を、盾であり、槌であり、最後の武器として扱っていた。
左の砲は撃てる。
だが、魔石残量は少ない。
撃てる時間は、長く見積もっても数十秒。
鬼平は階段を下りながら、壁と床を確認していた。
古代文字。
王国の紋章。
そして、ところどころに刻まれた黒竜の紋章。
「王城の地下に、教会だけでなく竜の印まである」
リーゼが呟いた。
「教会と竜が関係しているという話は、本当だったのかもしれません」
「かもしれねえじゃねえ」
鬼平は足を止めた。
階段の壁に、細い金属線が埋め込まれている。
魔力の流れを確認するため、左手のガトリング砲をわずかに近づけた。
魔石が微かに反応する。
「電線みたいなものです」
リーゼが身を屈めた。
「魔力を地下へ送っています。かなり大規模な装置です」
「どこから」
「王城の上層部……いえ、城壁の外からも流れています。王都全体が動力源になっている」
「地下の兵器を、街全体で動かしているのか」
「そう考えられます」
鬼平は地下階段の先を見た。
遠くから、機械音が聞こえている。
金属が噛み合う音。
魔石が脈打つ音。
そして、人間の怒鳴り声。
「……軍曹!」
確かに聞こえた。
鬼平の足が止まる。
リーゼも聞き取ったらしく、鬼平を見上げた。
「今の声は……」
「部下だ」
鬼平は階段を下りる速度を上げた。
ラウルと数名の騎士が後ろから続く。
しかし、鬼平は振り返らなかった。
階段を下りきった先に、巨大な扉があった。
扉には、古代文字と竜の紋章が刻まれている。
その中央に、鬼平の手の甲にある《竜殺しの刻印》と同じ形の窪みがあった。
鬼平が近づくと、刻印が熱を持つ。
扉の内部で、何かが起動した。
「離れてください」
リーゼが杖を構えた。
「魔力が集中しています」
「開くのか」
「あなたが触れれば、恐らく」
鬼平は左手のガトリング砲を床へ置いた。
右手の撃てない砲を肩から下ろし、扉の前に立つ。
「罠かもしれません」
ラウルが言った。
「罠なら壊す」
「古代遺跡を、そんな簡単に……」
「敵がいるなら、簡単でいい」
鬼平は手の甲を扉の窪みへ押し当てた。
赤い光が走る。
古代文字が次々と浮かび上がった。
扉の向こうから、声が響く。
――認証確認。
――竜殺しの系統、使用者を確認。
――異界由来の魂、照合中。
鬼平は眉をひそめた。
「機械がしゃべってる」
「古代魔導文明の自律管理術式です」
リーゼが答える。
――該当する魂魄情報、三件。
――第一対象、生存。
――第二対象、生存。
――第三対象、生存。
鬼平の目が鋭くなった。
「対象を表示しろ」
――権限不足。
「表示しろ」
――権限不足。
鬼平は扉を殴った。
撃てないガトリング砲の銃架が、鉄の扉へ叩きつけられる。
轟音が地下通路に響き、扉に亀裂が入った。
ラウルが驚いて後退する。
「何をしている!」
「開けている」
「それは扉だ! 会話をするものではない!」
鬼平は再び砲架を振り上げた。
――警告。施設損傷を確認。
――使用者の行動は、規定手順から逸脱しています。
「規定手順が遅い」
鬼平は扉を殴った。
金属がひしゃげる。
もう一度、砲架を叩きつけた。
扉の中央に大きな凹みができた。
リーゼが青ざめる。
「本当に壊すつもりです!」
「開かなきゃ壊す」
三度目の打撃で、扉の固定具が弾けた。
重い扉が内側へ倒れ込む。
その向こうに、巨大な実験区画が広がっていた。
壁と床一面に魔法陣が敷かれ、何本もの魔力管が天井から垂れ下がっている。
区画の中央には、巨大な円筒形の装置があった。
その中に、三つの人影が浮かんでいる。
一人は軍服。
一人は見知らぬ白い戦闘服。
もう一人は、黒い鎧のような魔導装具をまとっていた。
鬼平は軍服の男を見た。
顔は痩せていたが、間違いない。
「……日野」
円筒の中の男のまぶたが動いた。
魔力管が外れ、彼の身体が床へ落ちる。
鬼平は右のガトリング砲を捨て、日野の身体を受け止めた。
片手二百キロ超の武器を扱える腕が、今度は一人の部下を支えるために使われる。
「軍曹……?」
日野は薄く目を開けた。
「鬼平軍曹……本物ですか?」
「本物だ」
「俺たちは……どれくらい……」
「後で話す。立てるか」
「分かりません」
鬼平は日野をリーゼへ預けた。
「こいつを治療しろ」
「はい!」
残り二つの円筒からも、魔力管が外れる。
白い戦闘服の男が床へ落ちた。
鬼平はその顔を見て、記憶を探った。
「高瀬か」
男は咳き込みながら目を開けた。
「……軍曹……遅いですよ」
「文句があるなら立て」
「相変わらずですね」
「お前も相変わらずだ」
高瀬は弱々しく笑った。
最後の一人が、ゆっくりと立ち上がった。
黒い魔導装具が全身を覆っている。
顔の半分には金属製の仮面。
鬼平は一歩近づいた。
「お前は誰だ」
黒い装具の男は、鬼平を見た。
目の奥で赤い光が揺れている。
「……鬼平軍曹」
声に聞き覚えがあった。
鬼平は息を止めた。
「佐久間か」
男は答えなかった。
代わりに、身体の魔導装具から低い駆動音が響いた。
高瀬が苦しそうに言った。
「佐久間は……教会に改造された」
「何だと」
「俺たち三人は、同じ時に召喚された。でも、佐久間だけは魔力適性が高かった。だから、兵器の核にされた」
鬼平は佐久間を見た。
黒い装具の背中から、魔力管が伸びている。
その先は、区画の中央にある巨大な装置へ接続されていた。
「外せるか」
リーゼが装具を確認する。
「分かりません。これは身体と魔導回路が融合しています」
「外せ」
「簡単には――」
「外せ」
リーゼは鬼平の目を見た。
逆らえる雰囲気ではなかった。
「やってみます」
彼女が魔法陣を展開した。
佐久間の身体が大きく震える。
黒い装具が赤く発光した。
「近づくな」
佐久間が初めて口を開いた。
「俺を外せば、この区画の動力が暴走する」
「なら、暴走する前に止める」
「無理だ」
「無理かどうかは、オレが決める」
佐久間の装具から、魔力弾が放たれた。
鬼平は右手の撃てないガトリング砲を盾として構えた。
光弾が砲身に当たり、火花が散る。
鬼平の足元が沈む。
右の砲は撃てない。
だが、盾としては十分に機能していた。
「佐久間! 撃つな!」
高瀬が叫ぶ。
「止まらないんだ!」
佐久間の声には、苦痛が混じっていた。
「身体が勝手に動く!」
鬼平は佐久間の動きを観察した。
魔導装具の両肩から砲口。
背中に魔力管。
腰の部分に、外部から接続された制御核。
装具を壊せば佐久間の身体も危険だ。
制御核を撃てば、動力が暴走する可能性がある。
リーゼは装具を外そうとしているが、魔力が強すぎて近づけない。
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
魔石残量は少ない。
しかし、撃つべき場所は一つだった。
「リーゼ、制御核を指示しろ」
「右腰の奥です! でも、撃てば佐久間さんに魔力が逆流します!」
「死なせるな」
「無茶です!」
「死なせるな!」
鬼平は左のガトリング砲を構えたまま、佐久間へ近づいた。
佐久間の魔力弾が飛んでくる。
鬼平は右の砲を盾にして受け、さらに一歩進む。
光弾が装甲に弾かれ、砲身に亀裂が入る。
鬼平の肩へ衝撃が伝わる。
だが、止まらない。
「軍曹、来ないでください!」
佐久間が叫んだ。
「俺を撃ってください!」
「命令するな」
「俺はもう、部下じゃない!」
「部下だ」
鬼平は佐久間の目を見た。
「軍曹の部下は、勝手に敵にならねえ」
「ですが、俺は――」
「戻ってこい」
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
砲身が回転する。
残り魔力は、あとわずか。
佐久間の装具が最大出力へ移行する。
鬼平は右の砲をさらに前へ突き出した。
魔導装具の砲口が火を噴く。
鬼平の右のガトリング砲が、砲撃を正面から受けた。
装甲がひしゃげる。
砲身の一本が折れる。
それでも、鬼平は盾を下げなかった。
「左、狙え!」
リーゼが制御核の位置を叫ぶ。
「今です!」
鬼平が引き金を引いた。
魔力弾が一発だけ飛ぶ。
制御核へ命中するには、佐久間の身体が邪魔だった。
鬼平は弾道を途中で変えるため、二発目を撃った。
魔力弾が一発目を弾き、軌道が曲がる。
さらに三発目が、その弾丸を押し込んだ。
複数の魔力弾が空中で衝突し、制御核へ向かって飛ぶ。
制御核が砕けた。
黒い魔導装具の光が一斉に消える。
佐久間の身体が崩れた。
鬼平は右の撃てないガトリング砲を捨て、両腕で佐久間を受け止めた。
重い。
魔導装具込みで、佐久間の身体は百キロを超えている。
鬼平はそれを支えたまま、膝をついた。
「軍曹……」
佐久間の声が震えている。
「俺は……また、戻れますか」
「戻れ」
「命令ですか」
「ああ」
「了解……しました」
佐久間は目を閉じた。
リーゼが駆け寄り、治癒魔法をかける。
「生きています。ですが、魔導回路がかなり損傷しています」
「直せるか」
「ノアさんなら可能性があります」
「なら、連れていく」
その時、区画全体が大きく揺れた。
中央の巨大装置が、赤く輝き始めている。
佐久間から外れた魔力が、装置へ流れ込んでいる。
「動力が暴走しています!」
リーゼが叫ぶ。
「止めろ」
「制御核が壊れたので、止める指令が届きません!」
ラウルが周囲を見回した。
「地下区画が崩れるぞ!」
天井から石が落ちてくる。
王都全体が、低く揺れていた。
「鬼平、ここを出るぞ!」
「部下がいる」
「三人とも連れ出した! これ以上は無理だ!」
鬼平は中央装置を見た。
装置の中に、巨大な魔石が浮かんでいる。
その周囲を、無数の魔力管が取り囲んでいた。
魔力が一方向へ集まっている。
地下だけではない。
王都の城壁、王城、地下道、そして遠くの竜脈からも魔力が流れ込んでいる。
「この装置が、王都を動かしている」
リーゼが言った。
「正確には、王都の地下にある魔力炉です。ですが、このままでは大陸中の竜脈へ接続されます」
「何が起きる」
「魔力が一つに集まり、王都を中心に巨大な魔法が発動します」
「何の魔法だ」
「恐らく……召喚魔法です」
鬼平は中央装置を見上げた。
新たな異世界人を呼び出すための装置。
あるいは、呼び出した者の魂を使って何かを起動する装置。
教会はこの地下で、召喚と古代兵器を同時に動かそうとしている。
「止める」
「どうやって?」
「砲を使う」
リーゼは右の撃てないガトリング砲を見た。
「右は壊れています」
「左を使う」
「左も、残り魔力がほとんどありません」
「足りる」
「本当に?」
鬼平は中央装置の魔力管を観察した。
最も太い管が、装置の上部から伸びている。
そこを破壊すれば、魔力の流れが逆流する。
だが、装置そのものが爆発する可能性もある。
「リーゼ、あの管を撃つ」
「破壊すれば、地下区画が崩れます!」
「どれくらい持つ」
「数分です」
「三分あればいい」
「また三分ですか!」
「今度は本当に必要な時間だ」
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
佐久間を抱えた高瀬と日野は、ラウルたちに預ける。
「全員、階段へ移動しろ」
「あなたは?」
「管を撃つ」
「一人で残るつもりか」
高瀬が立ち上がろうとした。
「俺も残ります」
「立てねえ奴は命令違反だ」
「でも――」
「生きて帰って、次の戦場に備えろ」
高瀬は歯を食いしばった。
「了解」
鬼平は一人、中央装置の前に残った。
撃てない右のガトリング砲は、装置の土台へ立てかけた。
まるで巨大な鉄の柱だった。
左の砲身が回転する。
赤い魔石が明滅する。
機械音が、いつもより苦しそうだった。
鬼平は標的へ照準を合わせた。
魔力管の周囲には防御結界が重なっている。
一枚。
二枚。
三枚。
それだけではない。
結界の内部には、魔力を吸収する黒い膜がある。
通常弾では届かない。
属性弾へ切り替える必要がある。
鬼平は砲身の術式を操作した。
赤い魔石が紫色へ変わる。
「雷か」
鬼平は小さく呟いた。
敵の防御結界は、複数の術式で構成されている。
雷属性なら、結界の接続を乱せる可能性がある。
引き金を引く。
雷光をまとった魔力弾が飛び、防御結界へ衝突した。
地下区画全体が白く光る。
一枚目が砕ける。
二枚目が揺らぐ。
しかし三枚目は残った。
魔石の明滅が激しくなる。
魔力残量が急速に減っている。
「あと何発だ」
誰も答えない。
鬼平は自分で計算した。
残りは十発程度。
防御結界を破るのに五発。
魔力管を破壊するのに三発。
暴走に備えて、最後の二発を残す。
計算上は足りる。
だが、戦場の計算は必ず狂う。
装置の上部から、黒い魔導兵が落ちてきた。
教会の新型兵だ。
背中に翼のような魔力装置を備え、両手に長い刃を持っている。
「侵入者を排除する」
鬼平は銃口を動かさなかった。
標的から目を離さない。
魔導兵が斬りかかってくる。
鬼平は撃てない右のガトリング砲を掴み、横へ振った。
砲架が魔導兵の刃を受け止める。
刃が砲身に食い込んだ。
鬼平は右腕だけで武器を押し返した。
魔導兵の体勢が崩れる。
左手のガトリング砲を一瞬だけ標的から外し、至近距離へ向ける。
短い連射。
魔導兵の胸部装甲が吹き飛ぶ。
敵は倒れたが、天井からさらに二体が降りてきた。
鬼平は右のガトリング砲を引き抜いた。
撃てない。
だが、二百キロを超える重量は、魔導兵の刃よりも重い。
鬼平は片方を地面へ突き立て、もう片方を横薙ぎに振った。
魔導兵の膝が砕ける。
続けて、銃架を肩から叩き落とす。
敵が床へ沈んだ。
残る一体が背後から迫る。
鬼平は振り向かず、右の砲を後方へ突き出した。
砲身の先端が魔導兵の胸へ食い込み、そのまま壁へ押しつける。
「撃てねえなら、近づくな」
鬼平は砲架を引き抜き、敵を床へ叩き落とした。
防御結界が一枚、再生する。
鬼平は標的へ戻った。
「余計な仕事を増やすな」
雷弾を撃つ。
二発目。
三発目。
最後の防御結界が砕けた。
魔石残量が、残り四発を示す。
魔力管が露出する。
その表面には、竜の鱗に似た装甲があった。
普通の魔力弾では貫通できない。
鬼平は砲身を見た。
雷属性では足りない。
ならば、別の弾を使う。
魔石の術式を切り替える。
砲身の周囲に、白い光が集まった。
竜殺しの砲と撃ち合った時に得た、対竜系統の術式。
ガトリング砲の内部に、未知の弾種が生成される。
リーゼが階段の途中から叫んだ。
「鬼平さん! その術式は危険です! 使えば、あなたの魔力まで吸われます!」
「分かってる」
「あと二発しか撃てません!」
「二発あればいい」
鬼平は魔力管へ照準を合わせた。
その時、中央装置の内部に映像が浮かび上がった。
現代の戦場。
鬼平が黒竜のブレスを受ける直前の光景。
部下たちが撤退している。
山を下りる車両。
燃える陣地。
そして、鬼平の姿が炎の中から消えた直後、別の光が戦場に落ちている。
召喚の門だ。
門の向こうから、複数の兵士が引きずり込まれていく。
その中に、鬼平の部下たちがいた。
日野、高瀬、佐久間。
彼らは鬼平とは別の門に巻き込まれ、王都地下へ召喚されたのだ。
映像の中で、白い衣の司祭が叫んでいる。
「軍曹個体を失った! 残った兵士を核に接続しろ!」
鬼平の目が細くなった。
「やっぱり、最初から狙ってやがったな」
司祭の姿が、映像の中で振り返る。
その顔は、現在の王都で待ち構えている人物と同じだった。
教会の大司祭。
王都の地下で、鬼平の部下を兵器の核にした男。
「大司祭はどこだ」
リーゼが装置の魔力記録を読む。
「王城の最上階です。王国の重臣たちと一緒に、召喚儀式を見ている」
「なら、そこへ行く」
「この装置を止めてからです!」
「分かってる」
鬼平は引き金を引いた。
対竜系統の魔力弾が、一発だけ飛ぶ。
魔力管の装甲を貫通し、内部の中枢を破壊した。
装置全体が大きく揺れる。
魔力の流れが乱れ、地下区画の壁に亀裂が走った。
あと一発。
鬼平は最後の弾丸を装填した。
だが、魔力管の奥から、黒い魔力の塊が現れた。
竜の頭部に似た影が、装置から分離していく。
それは魔力だけで構成された巨大な獣だった。
眼が赤く輝く。
リーゼが叫んだ。
「竜脈の守護獣です! 装置を守るための自動防衛機構!」
鬼平は残った右のガトリング砲を構えた。
撃てない武器を盾として使うには、敵が大きすぎる。
左の砲は、最後の一発しか撃てない。
魔力獣が咆哮し、黒い炎を吐き出した。
鬼平は右のガトリング砲を前に出した。
炎が砲身を包む。
金属がさらに赤く熱せられる。
右腕の皮膚が焼け、鬼平の足元が後ろへ滑った。
しかし、鬼平は武器を離さない。
「軍曹!」
日野が叫ぶ。
「その砲はもう使えません!」
「撃てなくても、盾にはなる」
「ですが、壊れます!」
「壊れるまで使う」
鬼平は黒い炎を押し返した。
その隙に、リーゼが魔法陣を展開する。
「守護獣の核が見えました! 胸の中央です!」
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
最後の一発。
照準は、魔力獣の胸部へ。
しかし、黒い炎がさらに強くなる。
右手の砲身に亀裂が広がった。
鬼平の握力が落ちる。
撃てないガトリング砲が、手から滑りそうになる。
鬼平は一度だけ、左手の砲を下げた。
そして、右の砲を両手で握り直した。
「何をしているのですか!」
リーゼが叫ぶ。
鬼平は、撃てないガトリング砲を振り上げた。
片手二百キロ超の鉄塊を、両手の力で頭上まで持ち上げる。
黒い炎の中へ踏み込む。
右の砲身が、魔力獣の頭部へ叩きつけられた。
ゴンッ!
黒い炎が散る。
魔力獣がよろめいた。
鬼平はさらに一歩踏み込む。
「撃てねえなら」
二撃目。
魔力獣の頭部が砕ける。
「殴る!」
三撃目。
魔力獣の胸部が露出する。
鬼平は左手のガトリング砲を構えた。
「リーゼ、今だ!」
「はい!」
リーゼの風魔法が、鬼平の周囲に渦を巻いた。
黒い炎が左右へ流れる。
鬼平は最後の一発を撃った。
対竜系統の魔力弾が、魔力獣の胸の核へ命中する。
赤い光が砕けた。
守護獣が、音もなく消滅する。
中央装置の魔力管が次々と切れ、地下区画の揺れが止まった。
鬼平は左のガトリング砲を下ろした。
完全に沈黙している。
右の砲も、砲身が曲がり、魔石は割れていた。
両手の武器が、同時に撃てなくなった。
だが、部下たちは生きている。
鬼平は佐久間、高瀬、日野を見た。
「全員、立てるか」
日野はリーゼに支えられながら、頷いた。
「歩けます」
高瀬も壁に手をつき、立ち上がる。
「軍曹は?」
「問題ない」
「両方とも壊れているのに?」
「まだ武器だ」
鬼平は右のガトリング砲を拾い上げた。
砲身は曲がっている。
魔石は割れている。
それでも、重量は残っていた。
佐久間が弱々しく笑う。
「撃てなくても、殴るんですね」
「当然だ」
「軍曹らしいです」
その時、地下区画の奥で扉が開いた。
白い法衣を着た男が、護衛の魔導兵を従えて現れる。
大司祭だった。
彼の手には、赤黒い魔石が埋め込まれた杖がある。
「感動の再会は済んだかね、鬼平軍曹」
鬼平は大司祭を見た。
「お前が、こいつらをここへ呼んだのか」
「正確には、召喚したのは私の弟子たちだ。私は計画を承認したにすぎない」
「同じだ」
「彼らは、素晴らしい力を与えられた。特に佐久間君は、古代兵器の核に最適だった」
鬼平の指が、撃てないガトリング砲の銃架を握る。
「部下を兵器にした」
「兵士とは、国のために使われるものだ」
「違う」
鬼平は一歩前へ出た。
「兵士は、仲間を守るために戦う」
「理想論だ」
「なら、教えてやる」
鬼平は曲がったガトリング砲を肩から下ろした。
床へ置くのではなく、両手で構える。
砲身は回らない。
魔力弾も出ない。
しかし、撃てない武器でも、目の前の敵を殴ることはできる。
「武器を持つ理由をな」
大司祭の護衛が前へ出た。
鬼平は、撃てないガトリング砲を握りしめた。
「部下を取り戻すためだ」
地下区画に、重い金属音が響く。
鬼平軍曹は、壊れたガトリング砲を鈍器として構えた。
そして、大司祭へ向かって歩き出した。




