↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼平軍曹の魔石ガトリング無双  作者: しょぼんスライム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/52

第9話 軍曹、部下と再会する

王城北棟の地下階段は、どこまでも続いていた。


 上から差し込んでいた光はすぐに消え、周囲は魔石の青白い明かりだけになる。


 鬼平は右手に撃てないガトリング砲、左手にかろうじて射撃可能なガトリング砲を持ち、先頭を進んでいた。


 右の砲は、もはや銃ではない。


 砲身は熱で変色し、魔石接続部には亀裂が走っている。砲身を回転させることも、魔力弾を発射することもできない。


 それでも、片手二百キロを超える重量は失われていなかった。


 鬼平はその鉄塊を、盾であり、槌であり、最後の武器として扱っていた。


 左の砲は撃てる。


 だが、魔石残量は少ない。


 撃てる時間は、長く見積もっても数十秒。


 鬼平は階段を下りながら、壁と床を確認していた。


 古代文字。


 王国の紋章。


 そして、ところどころに刻まれた黒竜の紋章。


「王城の地下に、教会だけでなく竜の印まである」


 リーゼが呟いた。


「教会と竜が関係しているという話は、本当だったのかもしれません」


「かもしれねえじゃねえ」


 鬼平は足を止めた。


 階段の壁に、細い金属線が埋め込まれている。


 魔力の流れを確認するため、左手のガトリング砲をわずかに近づけた。


 魔石が微かに反応する。


「電線みたいなものです」


 リーゼが身を屈めた。


「魔力を地下へ送っています。かなり大規模な装置です」


「どこから」


「王城の上層部……いえ、城壁の外からも流れています。王都全体が動力源になっている」


「地下の兵器を、街全体で動かしているのか」


「そう考えられます」


 鬼平は地下階段の先を見た。


 遠くから、機械音が聞こえている。


 金属が噛み合う音。


 魔石が脈打つ音。


 そして、人間の怒鳴り声。


「……軍曹!」


 確かに聞こえた。


 鬼平の足が止まる。


 リーゼも聞き取ったらしく、鬼平を見上げた。


「今の声は……」


「部下だ」


 鬼平は階段を下りる速度を上げた。


 ラウルと数名の騎士が後ろから続く。


 しかし、鬼平は振り返らなかった。


 階段を下りきった先に、巨大な扉があった。


 扉には、古代文字と竜の紋章が刻まれている。


 その中央に、鬼平の手の甲にある《竜殺しの刻印》と同じ形の窪みがあった。


 鬼平が近づくと、刻印が熱を持つ。


 扉の内部で、何かが起動した。


「離れてください」


 リーゼが杖を構えた。


「魔力が集中しています」


「開くのか」


「あなたが触れれば、恐らく」


 鬼平は左手のガトリング砲を床へ置いた。


 右手の撃てない砲を肩から下ろし、扉の前に立つ。


「罠かもしれません」


 ラウルが言った。


「罠なら壊す」


「古代遺跡を、そんな簡単に……」


「敵がいるなら、簡単でいい」


 鬼平は手の甲を扉の窪みへ押し当てた。


 赤い光が走る。


 古代文字が次々と浮かび上がった。


 扉の向こうから、声が響く。


――認証確認。


――竜殺しの系統、使用者を確認。


――異界由来の魂、照合中。


 鬼平は眉をひそめた。


「機械がしゃべってる」


「古代魔導文明の自律管理術式です」


 リーゼが答える。


――該当する魂魄情報、三件。


――第一対象、生存。


――第二対象、生存。


――第三対象、生存。


 鬼平の目が鋭くなった。


「対象を表示しろ」


――権限不足。


「表示しろ」


――権限不足。


 鬼平は扉を殴った。


 撃てないガトリング砲の銃架が、鉄の扉へ叩きつけられる。


 轟音が地下通路に響き、扉に亀裂が入った。


 ラウルが驚いて後退する。


「何をしている!」


「開けている」


「それは扉だ! 会話をするものではない!」


 鬼平は再び砲架を振り上げた。


――警告。施設損傷を確認。


――使用者の行動は、規定手順から逸脱しています。


「規定手順が遅い」


 鬼平は扉を殴った。


 金属がひしゃげる。


 もう一度、砲架を叩きつけた。


 扉の中央に大きな凹みができた。


 リーゼが青ざめる。


「本当に壊すつもりです!」


「開かなきゃ壊す」


 三度目の打撃で、扉の固定具が弾けた。


 重い扉が内側へ倒れ込む。


 その向こうに、巨大な実験区画が広がっていた。


 壁と床一面に魔法陣が敷かれ、何本もの魔力管が天井から垂れ下がっている。


 区画の中央には、巨大な円筒形の装置があった。


 その中に、三つの人影が浮かんでいる。


 一人は軍服。


 一人は見知らぬ白い戦闘服。


 もう一人は、黒い鎧のような魔導装具をまとっていた。


 鬼平は軍服の男を見た。


 顔は痩せていたが、間違いない。


「……日野」


 円筒の中の男のまぶたが動いた。


 魔力管が外れ、彼の身体が床へ落ちる。


 鬼平は右のガトリング砲を捨て、日野の身体を受け止めた。


 片手二百キロ超の武器を扱える腕が、今度は一人の部下を支えるために使われる。


「軍曹……?」


 日野は薄く目を開けた。


「鬼平軍曹……本物ですか?」


「本物だ」


「俺たちは……どれくらい……」


「後で話す。立てるか」


「分かりません」


 鬼平は日野をリーゼへ預けた。


「こいつを治療しろ」


「はい!」


 残り二つの円筒からも、魔力管が外れる。


 白い戦闘服の男が床へ落ちた。


 鬼平はその顔を見て、記憶を探った。


「高瀬か」


 男は咳き込みながら目を開けた。


「……軍曹……遅いですよ」


「文句があるなら立て」


「相変わらずですね」


「お前も相変わらずだ」


 高瀬は弱々しく笑った。


 最後の一人が、ゆっくりと立ち上がった。


 黒い魔導装具が全身を覆っている。


 顔の半分には金属製の仮面。


 鬼平は一歩近づいた。


「お前は誰だ」


 黒い装具の男は、鬼平を見た。


 目の奥で赤い光が揺れている。


「……鬼平軍曹」


 声に聞き覚えがあった。


 鬼平は息を止めた。


「佐久間か」


 男は答えなかった。


 代わりに、身体の魔導装具から低い駆動音が響いた。


 高瀬が苦しそうに言った。


「佐久間は……教会に改造された」


「何だと」


「俺たち三人は、同じ時に召喚された。でも、佐久間だけは魔力適性が高かった。だから、兵器の核にされた」


 鬼平は佐久間を見た。


 黒い装具の背中から、魔力管が伸びている。


 その先は、区画の中央にある巨大な装置へ接続されていた。


「外せるか」


 リーゼが装具を確認する。


「分かりません。これは身体と魔導回路が融合しています」


「外せ」


「簡単には――」


「外せ」


 リーゼは鬼平の目を見た。


 逆らえる雰囲気ではなかった。


「やってみます」


 彼女が魔法陣を展開した。


 佐久間の身体が大きく震える。


 黒い装具が赤く発光した。


「近づくな」


 佐久間が初めて口を開いた。


「俺を外せば、この区画の動力が暴走する」


「なら、暴走する前に止める」


「無理だ」


「無理かどうかは、オレが決める」


 佐久間の装具から、魔力弾が放たれた。


 鬼平は右手の撃てないガトリング砲を盾として構えた。


 光弾が砲身に当たり、火花が散る。


 鬼平の足元が沈む。


 右の砲は撃てない。


 だが、盾としては十分に機能していた。


「佐久間! 撃つな!」


 高瀬が叫ぶ。


「止まらないんだ!」


 佐久間の声には、苦痛が混じっていた。


「身体が勝手に動く!」


 鬼平は佐久間の動きを観察した。


 魔導装具の両肩から砲口。


 背中に魔力管。


 腰の部分に、外部から接続された制御核。


 装具を壊せば佐久間の身体も危険だ。


 制御核を撃てば、動力が暴走する可能性がある。


 リーゼは装具を外そうとしているが、魔力が強すぎて近づけない。


 鬼平は左のガトリング砲を構えた。


 魔石残量は少ない。


 しかし、撃つべき場所は一つだった。


「リーゼ、制御核を指示しろ」


「右腰の奥です! でも、撃てば佐久間さんに魔力が逆流します!」


「死なせるな」


「無茶です!」


「死なせるな!」


 鬼平は左のガトリング砲を構えたまま、佐久間へ近づいた。


 佐久間の魔力弾が飛んでくる。


 鬼平は右の砲を盾にして受け、さらに一歩進む。


 光弾が装甲に弾かれ、砲身に亀裂が入る。


 鬼平の肩へ衝撃が伝わる。


 だが、止まらない。


「軍曹、来ないでください!」


 佐久間が叫んだ。


「俺を撃ってください!」


「命令するな」


「俺はもう、部下じゃない!」


「部下だ」


 鬼平は佐久間の目を見た。


「軍曹の部下は、勝手に敵にならねえ」


「ですが、俺は――」


「戻ってこい」


 鬼平は左のガトリング砲を構えた。


 砲身が回転する。


 残り魔力は、あとわずか。


 佐久間の装具が最大出力へ移行する。


 鬼平は右の砲をさらに前へ突き出した。


 魔導装具の砲口が火を噴く。


 鬼平の右のガトリング砲が、砲撃を正面から受けた。


 装甲がひしゃげる。


 砲身の一本が折れる。


 それでも、鬼平は盾を下げなかった。


「左、狙え!」


 リーゼが制御核の位置を叫ぶ。


「今です!」


 鬼平が引き金を引いた。


 魔力弾が一発だけ飛ぶ。


 制御核へ命中するには、佐久間の身体が邪魔だった。


 鬼平は弾道を途中で変えるため、二発目を撃った。


 魔力弾が一発目を弾き、軌道が曲がる。


 さらに三発目が、その弾丸を押し込んだ。


 複数の魔力弾が空中で衝突し、制御核へ向かって飛ぶ。


 制御核が砕けた。


 黒い魔導装具の光が一斉に消える。


 佐久間の身体が崩れた。


 鬼平は右の撃てないガトリング砲を捨て、両腕で佐久間を受け止めた。


 重い。


 魔導装具込みで、佐久間の身体は百キロを超えている。


 鬼平はそれを支えたまま、膝をついた。


「軍曹……」


 佐久間の声が震えている。


「俺は……また、戻れますか」


「戻れ」


「命令ですか」


「ああ」


「了解……しました」


 佐久間は目を閉じた。


 リーゼが駆け寄り、治癒魔法をかける。


「生きています。ですが、魔導回路がかなり損傷しています」


「直せるか」


「ノアさんなら可能性があります」


「なら、連れていく」


 その時、区画全体が大きく揺れた。


 中央の巨大装置が、赤く輝き始めている。


 佐久間から外れた魔力が、装置へ流れ込んでいる。


「動力が暴走しています!」


 リーゼが叫ぶ。


「止めろ」


「制御核が壊れたので、止める指令が届きません!」


 ラウルが周囲を見回した。


「地下区画が崩れるぞ!」


 天井から石が落ちてくる。


 王都全体が、低く揺れていた。


「鬼平、ここを出るぞ!」


「部下がいる」


「三人とも連れ出した! これ以上は無理だ!」


 鬼平は中央装置を見た。


 装置の中に、巨大な魔石が浮かんでいる。


 その周囲を、無数の魔力管が取り囲んでいた。


 魔力が一方向へ集まっている。


 地下だけではない。


 王都の城壁、王城、地下道、そして遠くの竜脈からも魔力が流れ込んでいる。


「この装置が、王都を動かしている」


 リーゼが言った。


「正確には、王都の地下にある魔力炉です。ですが、このままでは大陸中の竜脈へ接続されます」


「何が起きる」


「魔力が一つに集まり、王都を中心に巨大な魔法が発動します」


「何の魔法だ」


「恐らく……召喚魔法です」


 鬼平は中央装置を見上げた。


 新たな異世界人を呼び出すための装置。


 あるいは、呼び出した者の魂を使って何かを起動する装置。


 教会はこの地下で、召喚と古代兵器を同時に動かそうとしている。


「止める」


「どうやって?」


「砲を使う」


 リーゼは右の撃てないガトリング砲を見た。


「右は壊れています」


「左を使う」


「左も、残り魔力がほとんどありません」


「足りる」


「本当に?」


 鬼平は中央装置の魔力管を観察した。


 最も太い管が、装置の上部から伸びている。


 そこを破壊すれば、魔力の流れが逆流する。


 だが、装置そのものが爆発する可能性もある。


「リーゼ、あの管を撃つ」


「破壊すれば、地下区画が崩れます!」


「どれくらい持つ」


「数分です」


「三分あればいい」


「また三分ですか!」


「今度は本当に必要な時間だ」


 鬼平は左のガトリング砲を構えた。


 佐久間を抱えた高瀬と日野は、ラウルたちに預ける。


「全員、階段へ移動しろ」


「あなたは?」


「管を撃つ」


「一人で残るつもりか」


 高瀬が立ち上がろうとした。


「俺も残ります」


「立てねえ奴は命令違反だ」


「でも――」


「生きて帰って、次の戦場に備えろ」


 高瀬は歯を食いしばった。


「了解」


 鬼平は一人、中央装置の前に残った。


 撃てない右のガトリング砲は、装置の土台へ立てかけた。


 まるで巨大な鉄の柱だった。


 左の砲身が回転する。


 赤い魔石が明滅する。


 機械音が、いつもより苦しそうだった。


 鬼平は標的へ照準を合わせた。


 魔力管の周囲には防御結界が重なっている。


 一枚。


 二枚。


 三枚。


 それだけではない。


 結界の内部には、魔力を吸収する黒い膜がある。


 通常弾では届かない。


 属性弾へ切り替える必要がある。


 鬼平は砲身の術式を操作した。


 赤い魔石が紫色へ変わる。


「雷か」


 鬼平は小さく呟いた。


 敵の防御結界は、複数の術式で構成されている。


 雷属性なら、結界の接続を乱せる可能性がある。


 引き金を引く。


 雷光をまとった魔力弾が飛び、防御結界へ衝突した。


 地下区画全体が白く光る。


 一枚目が砕ける。


 二枚目が揺らぐ。


 しかし三枚目は残った。


 魔石の明滅が激しくなる。


 魔力残量が急速に減っている。


「あと何発だ」


 誰も答えない。


 鬼平は自分で計算した。


 残りは十発程度。


 防御結界を破るのに五発。


 魔力管を破壊するのに三発。


 暴走に備えて、最後の二発を残す。


 計算上は足りる。


 だが、戦場の計算は必ず狂う。


 装置の上部から、黒い魔導兵が落ちてきた。


 教会の新型兵だ。


 背中に翼のような魔力装置を備え、両手に長い刃を持っている。


「侵入者を排除する」


 鬼平は銃口を動かさなかった。


 標的から目を離さない。


 魔導兵が斬りかかってくる。


 鬼平は撃てない右のガトリング砲を掴み、横へ振った。


 砲架が魔導兵の刃を受け止める。


 刃が砲身に食い込んだ。


 鬼平は右腕だけで武器を押し返した。


 魔導兵の体勢が崩れる。


 左手のガトリング砲を一瞬だけ標的から外し、至近距離へ向ける。


 短い連射。


 魔導兵の胸部装甲が吹き飛ぶ。


 敵は倒れたが、天井からさらに二体が降りてきた。


 鬼平は右のガトリング砲を引き抜いた。


 撃てない。


 だが、二百キロを超える重量は、魔導兵の刃よりも重い。


 鬼平は片方を地面へ突き立て、もう片方を横薙ぎに振った。


 魔導兵の膝が砕ける。


 続けて、銃架を肩から叩き落とす。


 敵が床へ沈んだ。


 残る一体が背後から迫る。


 鬼平は振り向かず、右の砲を後方へ突き出した。


 砲身の先端が魔導兵の胸へ食い込み、そのまま壁へ押しつける。


「撃てねえなら、近づくな」


 鬼平は砲架を引き抜き、敵を床へ叩き落とした。


 防御結界が一枚、再生する。


 鬼平は標的へ戻った。


「余計な仕事を増やすな」


 雷弾を撃つ。


 二発目。


 三発目。


 最後の防御結界が砕けた。


 魔石残量が、残り四発を示す。


 魔力管が露出する。


 その表面には、竜の鱗に似た装甲があった。


 普通の魔力弾では貫通できない。


 鬼平は砲身を見た。


 雷属性では足りない。


 ならば、別の弾を使う。


 魔石の術式を切り替える。


 砲身の周囲に、白い光が集まった。


 竜殺しの砲と撃ち合った時に得た、対竜系統の術式。


 ガトリング砲の内部に、未知の弾種が生成される。


 リーゼが階段の途中から叫んだ。


「鬼平さん! その術式は危険です! 使えば、あなたの魔力まで吸われます!」


「分かってる」


「あと二発しか撃てません!」


「二発あればいい」


 鬼平は魔力管へ照準を合わせた。


 その時、中央装置の内部に映像が浮かび上がった。


 現代の戦場。


 鬼平が黒竜のブレスを受ける直前の光景。


 部下たちが撤退している。


 山を下りる車両。


 燃える陣地。


 そして、鬼平の姿が炎の中から消えた直後、別の光が戦場に落ちている。


 召喚の門だ。


 門の向こうから、複数の兵士が引きずり込まれていく。


 その中に、鬼平の部下たちがいた。


 日野、高瀬、佐久間。


 彼らは鬼平とは別の門に巻き込まれ、王都地下へ召喚されたのだ。


 映像の中で、白い衣の司祭が叫んでいる。


「軍曹個体を失った! 残った兵士を核に接続しろ!」


 鬼平の目が細くなった。


「やっぱり、最初から狙ってやがったな」


 司祭の姿が、映像の中で振り返る。


 その顔は、現在の王都で待ち構えている人物と同じだった。


 教会の大司祭。


 王都の地下で、鬼平の部下を兵器の核にした男。


「大司祭はどこだ」


 リーゼが装置の魔力記録を読む。


「王城の最上階です。王国の重臣たちと一緒に、召喚儀式を見ている」


「なら、そこへ行く」


「この装置を止めてからです!」


「分かってる」


 鬼平は引き金を引いた。


 対竜系統の魔力弾が、一発だけ飛ぶ。


 魔力管の装甲を貫通し、内部の中枢を破壊した。


 装置全体が大きく揺れる。


 魔力の流れが乱れ、地下区画の壁に亀裂が走った。


 あと一発。


 鬼平は最後の弾丸を装填した。


 だが、魔力管の奥から、黒い魔力の塊が現れた。


 竜の頭部に似た影が、装置から分離していく。


 それは魔力だけで構成された巨大な獣だった。


 眼が赤く輝く。


 リーゼが叫んだ。


「竜脈の守護獣です! 装置を守るための自動防衛機構!」


 鬼平は残った右のガトリング砲を構えた。


 撃てない武器を盾として使うには、敵が大きすぎる。


 左の砲は、最後の一発しか撃てない。


 魔力獣が咆哮し、黒い炎を吐き出した。


 鬼平は右のガトリング砲を前に出した。


 炎が砲身を包む。


 金属がさらに赤く熱せられる。


 右腕の皮膚が焼け、鬼平の足元が後ろへ滑った。


 しかし、鬼平は武器を離さない。


「軍曹!」


 日野が叫ぶ。


「その砲はもう使えません!」


「撃てなくても、盾にはなる」


「ですが、壊れます!」


「壊れるまで使う」


 鬼平は黒い炎を押し返した。


 その隙に、リーゼが魔法陣を展開する。


「守護獣の核が見えました! 胸の中央です!」


 鬼平は左のガトリング砲を構えた。


 最後の一発。


 照準は、魔力獣の胸部へ。


 しかし、黒い炎がさらに強くなる。


 右手の砲身に亀裂が広がった。


 鬼平の握力が落ちる。


 撃てないガトリング砲が、手から滑りそうになる。


 鬼平は一度だけ、左手の砲を下げた。


 そして、右の砲を両手で握り直した。


「何をしているのですか!」


 リーゼが叫ぶ。


 鬼平は、撃てないガトリング砲を振り上げた。


 片手二百キロ超の鉄塊を、両手の力で頭上まで持ち上げる。


 黒い炎の中へ踏み込む。


 右の砲身が、魔力獣の頭部へ叩きつけられた。


 ゴンッ!


 黒い炎が散る。


 魔力獣がよろめいた。


 鬼平はさらに一歩踏み込む。


「撃てねえなら」


 二撃目。


 魔力獣の頭部が砕ける。


「殴る!」


 三撃目。


 魔力獣の胸部が露出する。


 鬼平は左手のガトリング砲を構えた。


「リーゼ、今だ!」


「はい!」


 リーゼの風魔法が、鬼平の周囲に渦を巻いた。


 黒い炎が左右へ流れる。


 鬼平は最後の一発を撃った。


 対竜系統の魔力弾が、魔力獣の胸の核へ命中する。


 赤い光が砕けた。


 守護獣が、音もなく消滅する。


 中央装置の魔力管が次々と切れ、地下区画の揺れが止まった。


 鬼平は左のガトリング砲を下ろした。


 完全に沈黙している。


 右の砲も、砲身が曲がり、魔石は割れていた。


 両手の武器が、同時に撃てなくなった。


 だが、部下たちは生きている。


 鬼平は佐久間、高瀬、日野を見た。


「全員、立てるか」


 日野はリーゼに支えられながら、頷いた。


「歩けます」


 高瀬も壁に手をつき、立ち上がる。


「軍曹は?」


「問題ない」


「両方とも壊れているのに?」


「まだ武器だ」


 鬼平は右のガトリング砲を拾い上げた。


 砲身は曲がっている。


 魔石は割れている。


 それでも、重量は残っていた。


 佐久間が弱々しく笑う。


「撃てなくても、殴るんですね」


「当然だ」


「軍曹らしいです」


 その時、地下区画の奥で扉が開いた。


 白い法衣を着た男が、護衛の魔導兵を従えて現れる。


 大司祭だった。


 彼の手には、赤黒い魔石が埋め込まれた杖がある。


「感動の再会は済んだかね、鬼平軍曹」


 鬼平は大司祭を見た。


「お前が、こいつらをここへ呼んだのか」


「正確には、召喚したのは私の弟子たちだ。私は計画を承認したにすぎない」


「同じだ」


「彼らは、素晴らしい力を与えられた。特に佐久間君は、古代兵器の核に最適だった」


 鬼平の指が、撃てないガトリング砲の銃架を握る。


「部下を兵器にした」


「兵士とは、国のために使われるものだ」


「違う」


 鬼平は一歩前へ出た。


「兵士は、仲間を守るために戦う」


「理想論だ」


「なら、教えてやる」


 鬼平は曲がったガトリング砲を肩から下ろした。


 床へ置くのではなく、両手で構える。


 砲身は回らない。


 魔力弾も出ない。


 しかし、撃てない武器でも、目の前の敵を殴ることはできる。


「武器を持つ理由をな」


 大司祭の護衛が前へ出た。


 鬼平は、撃てないガトリング砲を握りしめた。


「部下を取り戻すためだ」


 地下区画に、重い金属音が響く。


 鬼平軍曹は、壊れたガトリング砲を鈍器として構えた。


 そして、大司祭へ向かって歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。