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鬼平軍曹の魔石ガトリング無双  作者: しょぼんスライム


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第10話 軍曹、大司祭を殴る

王都地下の封印区画に、重い足音が響いた。


 鬼平は壊れた魔石ガトリング砲を両手で構えている。


 右の砲身は大きく曲がり、六本の砲口のうち二本は潰れていた。


 左の砲も魔石が空になり、発射機構は沈黙している。


 だが、重量は残っている。


 片手二百キロを超える鉄塊が二挺。


 弾丸を吐けなくても、骨を砕くには十分な重さだった。


 向かいには、白い法衣をまとった大司祭が立っている。


 その周囲には、黒い魔導兵が六体。


 背後には王都地下の魔力炉。


 そして鬼平の背後には、救出した三人の部下とリーゼ、ラウルたち王国騎士がいる。


「鬼平軍曹」


 大司祭が穏やかな声で呼びかけた。


「その兵器を下ろしなさい。貴方の部下は、すでに救出した。これ以上の抵抗は無意味だ」


 鬼平は壊れたガトリング砲を握り直した。


「部下を兵器にした奴の話を、誰が聞く」


「彼らには大いなる役目があった」


「聞こえのいい言葉で人を壊すな」


「異世界人の肉体と魂は、竜脈と相性がいい。貴方の部下たちは、この世界を救うために選ばれたのだ」


 高瀬が苦しそうに笑った。


「軍曹……こいつらは、俺たちに同じ説明をしました」


 日野が続ける。


「元の世界へ帰れる。国を守れる。英雄になれる。全部、嘘でした」


 佐久間は黒い魔導装具をまとったまま、壁に寄りかかっている。


「俺は……兵器の部品にされた」


 鬼平は大司祭を見た。


「聞いたか」


「彼らは力を得た」


「望んでねえ力だ」


「力に望みなど必要ありません。与えられたものを使う。それが兵士でしょう」


 鬼平の表情から、感情が消えた。


 リーゼが息を呑む。


 鬼平が怒鳴っている時より、静かな時のほうが恐ろしい。


「全員、下がれ」


 鬼平が言った。


 ラウルが剣を構える。


「一人で戦うつもりか?」


「部下の前で、他人に殴らせるわけにいかねえ」


「しかし、敵は七人だ」


「七人なら足りる」


 大司祭が杖を掲げた。


「排除しなさい」


 六体の魔導兵が一斉に動いた。


 鬼平は先頭の一体へ踏み込んだ。


 壊れたガトリング砲を、右から左へ振り抜く。


 砲架が魔導兵の盾へ直撃し、盾ごと敵を吹き飛ばした。


 重量二百キロ超の鉄塊が、鎧と骨格をまとめて砕く。


 鬼平は止まらない。


 左のガトリング砲を肩へ担ぎ、二体目の魔導兵へ突進した。


 敵の剣が振り下ろされる。


 鬼平は砲身を斜めに構えて受け止めた。


 剣が砲身へ食い込み、金属が裂ける。


 鬼平は柄を両手で握り直し、敵の胴体へ砲架を叩き込んだ。


 魔導兵の身体が浮き上がり、背後の壁へ叩きつけられる。


「撃てない兵器で、どこまで戦える!」


 大司祭が叫んだ。


 鬼平は魔導兵を殴り飛ばしながら答えた。


「撃てなくなったら、殴るだけだ!」


 背後から三体目が迫る。


 鬼平は振り向かず、右のガトリング砲を後ろへ突き出した。


 砲身の先端が敵の胸部装甲へ突き刺さる。


 鬼平はそのまま身体ごと押し込み、魔導兵を床へ倒した。


 四体目が跳び上がる。


 鬼平は左のガトリング砲を頭上へ振り上げ、落下してきた敵を真上から叩き潰した。


 床が割れ、魔導兵が石の中へめり込む。


 ラウルは目を疑った。


「銃とは、ああやって使うものなのか?」


「違います!」


 リーゼが叫ぶ。


「普通は撃つものです!」


 残った二体が、鬼平を左右から挟み込んだ。


 同時に長剣を突き出す。


 鬼平は左のガトリング砲を横に構え、二本の剣をまとめて受け止めた。


 腕に衝撃が集中する。


 壊れた魔石接続部が、金属音を立てた。


 鬼平は敵の剣を押し返し、二挺の銃架を交差させた。


 魔導兵二体の腕が、鉄塊の間に挟まる。


 鬼平は力任せに武器を開いた。


 敵の腕が外側へ弾かれ、両脇ががら空きになる。


 右の砲架を一体へ。


 左の砲架をもう一体へ。


 二体同時に吹き飛んだ。


 魔導兵は全滅した。


 大司祭の表情から、初めて余裕が消えた。


「馬鹿な……古代兵器を、ただの棍棒のように……」


「ただの棍棒じゃねえ」


 鬼平は二挺のガトリング砲を地面へ叩きつけた。


 地下区画全体が揺れる。


「弾を吐く鉄塊だ」


 鬼平が走った。


 大司祭は杖を振り、巨大な光の壁を展開した。


 鬼平は止まらない。


 右のガトリング砲を正面から光壁へ叩きつける。


 光壁に亀裂が入る。


 大司祭が驚愕した。


「その程度の力で、聖光結界を破れるはずがない!」


 二撃目。


 光壁が大きく歪む。


 鬼平の肩から血が滲む。


 重量と反動を受け続けた身体が、限界へ近づいている。


 それでも、鬼平は砲架を離さない。


「力じゃねえ」


 三撃目。


「角度と重さだ」


 光壁が砕け散った。


 大司祭は後退し、杖の先から黒い光弾を放つ。


 鬼平は左のガトリング砲を盾にして受けた。


 光弾が砲身へ当たり、残っていた装甲を吹き飛ばす。


 右手の砲も、さらに大きくひしゃげた。


 大司祭が笑う。


「ようやく武器が壊れたな!」


「壊れた?」


 鬼平は右のガトリング砲を見下ろした。


 魔石は割れている。


 砲身は回らない。


 発射機構は沈黙している。


 だが、持ち手は残っている。


 鬼平は砲架を握り直した。


「まだ持てる」


 大司祭の顔が引きつった。


「馬鹿な……」


「撃てなくても、殴れる」


 鬼平は再び踏み込んだ。


 大司祭は杖で防御結界を張り、後方へ下がる。


 鬼平は結界を砲架で殴った。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


 結界に亀裂が走る。


 大司祭は魔力を集中させ、地下区画の床から黒い腕を生やした。


 竜脈の魔力を直接使った攻撃だ。


 黒い腕が鬼平の脚に絡みつく。


 鬼平の動きが止まった。


「貴方の力は、所詮ただの肉体。竜脈の魔力に勝てるはずがない!」


 大司祭が叫ぶ。


 鬼平は両手の武器を見た。


 撃てない。


 動けない。


 普通なら、ここで詰みだ。


 鬼平は足元の黒い腕を確認した。


 魔力で構成された拘束術式。


 中心は、床の魔法陣。


 大司祭の足元から伸びている。


 鬼平は右のガトリング砲を持ち上げた。


「撃てねえのは、分かってる」


 大司祭が眉をひそめる。


「ならば何を――」


 鬼平は自分の足を拘束している黒い腕へ、ガトリング砲を振り下ろした。


 魔力の腕が揺らぐ。


 もう一度。


 さらにもう一度。


 物理的な攻撃で魔法そのものを殴ることはできない。


 しかし、魔法陣を刻んだ床は物質だ。


 砲架が床へ叩きつけられるたび、術式の線が削れていく。


 拘束が弱まった。


 鬼平は最後の力で足を引き抜く。


 黒い腕が消えた。


「魔法陣を……物理的に壊しただと……」


「魔法は、床に描いてある」


 鬼平は大司祭へ向かった。


「なら、床を壊せば消える」


 大司祭が杖を振り上げた。


 鬼平は左のガトリング砲を投げた。


 片手二百キロを超える鉄塊が、回転しながら飛んでいく。


 大司祭の杖へ直撃する。


 杖が折れ、魔石が砕けた。


 大司祭が叫び声を上げる。


 鬼平はその懐へ入り込んだ。


 右のガトリング砲を、砲身ではなく銃架の根元で構える。


 狙いは胴体。


 振り抜く。


 大司祭の身体が床から浮いた。


 法衣が裂け、背中から石床へ叩きつけられる。


 鬼平は倒れた大司祭の胸元を踏みつけた。


 片手二百キロ超のガトリング砲を、その顔の横へ突き立てる。


「部下を返せ」


 大司祭は血を吐きながら笑った。


「もう返しただろう。三人とも、貴方のもとにいる」


「お前が壊した分を返せ」


「彼らは兵士だ。壊れるまで使われるのが役目だ」


 地下区画の空気が変わった。


 鬼平の顔から、完全に表情が消える。


 いつもなら、ここで暴言が飛ぶ。


 しかし、鬼平の口から出たのは、短い一言だった。


「……違う」


 大司祭が見上げる。


「何が違う」


「兵士は、壊れるまで使うもんじゃねえ」


 鬼平は砲架を持ち上げた。


「帰すまで守るもんだ」


 大司祭の顔の横へ、ガトリング砲が振り下ろされる。


 石床が砕け、衝撃で大司祭の意識が途切れた。


 鬼平は殺さなかった。


 情報が必要だからだ。


 リーゼが駆け寄り、大司祭の拘束を確認する。


「生きています」


「よし」


 ラウルは壊れた魔導兵と、床に転がった大司祭を見た。


「本当に殴り倒したな」


「撃てねえからな」


「いや、撃てても殴っただろう」


 鬼平は否定しなかった。


 高瀬と日野が、佐久間を支えながら近づいてきた。


「軍曹」


「何だ」


「武器、もう完全に壊れています」


 鬼平は両手のガトリング砲を確認した。


 右は砲身が曲がり、魔石が割れている。


 左は魔石が空で、発射機構が焼きついている。


 どちらも、すぐに撃てる状態ではない。


「ノアに直させる」


「鉱山へ戻るんですか?」


 リーゼが尋ねる。


「戻らねえ」


 鬼平は北棟の地下区画を見回した。


 壁面には、まだいくつもの古代文字が残っている。


 大司祭が使っていた魔力炉。


 召喚装置。


 そして、教会が隠していた異世界兵士の記録。


「ここで修理する」


「王城の地下で?」


「部品がある」


 鬼平は魔力炉の残骸を見た。


 魔石、古代金属、冷却管、制御装置。


 ガトリング砲を修理するには十分な材料がある。


「それに、まだ弾薬が足りねえ」


「王都の地下に、魔石の備蓄庫があります」


 リーゼが記録板を読み取った。


「教会が召喚儀式のために保管していたようです」


「場所は?」


「この区画のさらに奥です」


 鬼平は大司祭の襟を掴み上げた。


「案内しろ」


 大司祭は意識を取り戻し、鬼平を睨んだ。


「貴様に教えると思うか」


 鬼平は壊れたガトリング砲を持ち上げ、大司祭の横の床へ軽く叩きつけた。


 床が割れる。


「次は、軽くじゃねえ」


 大司祭は黙った。


「弾薬庫は、王都地下の最深部だ。だが、そこへ行けば古代兵器の中枢も起動する」


「どんな兵器だ」


「この世界を変える兵器だ」


「名前は」


 大司祭は、わずかに笑った。


「《魔王喰らい》」


 リーゼが青ざめた。


「魔王喰らい……魔族の王を殺すために作られた、古代最大級の兵器です」


「ドラゴンにも効くか」


「記録では、竜脈そのものを断ち切るための兵器とされています」


 鬼平は手の甲の《竜殺しの刻印》を見た。


 王都地下の魔力炉。


 教会の召喚計画。


 異世界から来た部下たち。


 そして、竜脈を断ち切る兵器。


 すべてがつながっている。


「魔王喰らいは、誰が使う」


 大司祭は答えなかった。


 代わりに、王城の上部から鐘の音が響いた。


 王都全体に、警報が鳴り渡る。


 ラウルが階段の上を見た。


「王国軍が動いた」


 リーゼが魔力の流れを読む。


「王城の最上階で、大規模な術式が展開されています」


「大司祭が止まったから、別の奴が始めたか」


「恐らく国王か、教会の別の幹部です」


 鬼平は壊れた二挺のガトリング砲を見下ろした。


 今のままでは撃てない。


 弾もない。


 身体も限界に近い。


 だが、戦場は待ってくれない。


 鬼平は右のガトリング砲を肩へ担いだ。


 左の砲は高瀬に持たせるには重すぎるため、ラウルと騎士二人がかりで運ぶことになった。


「軍曹、次はどこへ向かうんですか?」


 日野が尋ねる。


 鬼平は王城最上階を見上げた。


「大司祭を連れて、王城へ行く」


「正面からですか?」


「正面からだ」


「武器が撃てないのに?」


 鬼平は壊れたガトリング砲の砲架を握った。


「殴れる」


 高瀬が苦笑した。


「それ、しばらく続きそうですね」


「撃てるようになれば撃つ」


 鬼平は王城へ続く階段を上り始めた。


 地下に残された魔力炉が、低い音を立てている。


 遠くで、王都の鐘が鳴り続ける。


 大司祭は拘束され、教会の秘密は一部明らかになった。


 だが、王国の頂上には、まだ別の敵がいる。


 そして、王都地下の最深部には、魔王さえ喰らう古代兵器が眠っている。


 鬼平軍曹は、壊れたガトリング砲を両手に持ち、王城へ向かった。


「撃てないなら、殴る」


 低い声が、地下階段に響く。


「それでも足りなきゃ、砲身でぶん殴る」


 その先で、王都を支配する者たちが待っていた。


 そして鬼平の部下たちを利用した、本当の黒幕が姿を現そうとしていた。

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