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鬼平軍曹の魔石ガトリング無双  作者: しょぼんスライム


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第11話 軍曹、王城を制圧する

王城へ続く階段は、敵で埋まっていた。


 鬼平は壊れた魔石ガトリング砲を右手に持ち、左手には修理途中の一挺を構えている。


 どちらも撃てない。


 右の砲は砲身が曲がり、魔石が割れている。


 左の砲は内部の魔力が空で、発射機構が焼きついていた。


 それでも、鬼平の歩みは止まらない。


 階段の上から王国兵が駆け下りてくる。


「止まれ! ここから先は王族専用区画だ!」


 先頭の兵士が叫んだ。


 鬼平は答えず、右手のガトリング砲を持ち上げた。


 兵士たちの足が止まる。


「撃てない」


 鬼平が言った。


「だが、重い」


 砲架を階段の手すりへ叩きつける。


 石壁が砕け、階段全体が揺れた。


「そして、重いものは殴れる」


 兵士たちは一斉に後退した。


 高瀬が呆れたように呟く。


「軍曹、武器の説明がそれでいいんですか?」


「撃てる時は銃だ」


 鬼平は階段を上りながら答えた。


「撃てねえ時は鈍器だ」


 先頭の兵士が意を決して突撃してきた。


 槍を突き出す。


 鬼平は砲身で槍を受け、横へ払った。


 兵士の身体が階段の壁へ叩きつけられる。


 続く二人が左右から剣を振り下ろした。


 鬼平は左のガトリング砲を盾として立て、二本の剣を受け止める。


 剣が砲身へ食い込み、金属が裂けた。


 鬼平は二人の剣を押し返し、両手の銃架を交差させる。


 二人の兵士が、巨大な鉄塊に挟まれて転倒した。


「軍曹」


 日野が後方から声を掛ける。


「王国兵を殺さないのですか?」


「敵の指揮官が死ねと言っているわけじゃねえ」


「では?」


「動けなくする」


 鬼平は倒れた兵士たちの武器を蹴り飛ばした。


「無駄に殺すな。だが、邪魔するなら殴る」


 ラウルが後ろから兵士たちへ怒鳴った。


「聞いたな! 武器を捨てろ! この男は王国そのものを敵に回しているわけではない!」


 兵士たちは互いに顔を見合わせた。


 やがて、何人かが剣を捨てた。


 鬼平は彼らを通り過ぎた。


 階段の途中で、銀色の鎧を着た騎士が待っていた。


 王国近衛騎士団の紋章。


 その隣には、豪華な法衣を着た女がいる。


 女の首元には、聖光教会の大司祭補を示す宝石が輝いていた。


「異世界人、ここから先は通しません」


 女が言った。


「王城地下への侵入、大司祭への暴行、王国兵への抵抗。すべて国家反逆罪です」


「先に部下を兵器にしたのは、そっちだ」


「それは必要な犠牲です」


 鬼平の足が止まった。


 日野が拳を握る。


 高瀬が俯く。


 佐久間は、黒い魔導装具の残骸をまとったまま、壁にもたれていた。


 女は彼らを見て、淡々と言った。


「異世界人の魂は、この世界を救うために使われるべきです。貴方たちが犠牲になることで、多くの命が救われる」


「なら、お前が犠牲になれ」


 鬼平が言った。


 女の表情が固まる。


「何ですって?」


「必要な犠牲なんだろう」


 鬼平は壊れたガトリング砲を肩から下ろした。


「なら、お前が先に行け」


 近衛騎士が剣を抜いた。


「無礼な!」


「王国の命令だ」


「教会の命令です」


「どっちでもいい」


 鬼平は砲架を握った。


「オレの部下に手を出した時点で、敵だ」


 近衛騎士が突撃する。


 鬼平は一歩だけ前へ出た。


 騎士の剣が振り下ろされる。


 鬼平は右のガトリング砲で受け止め、左の砲架を騎士の腹へ叩き込んだ。


 鎧がへこみ、騎士が吹き飛ぶ。


 女が杖を掲げる。


 階段の壁から光の槍が何本も飛び出した。


 リーゼが結界を張る。


 しかし、光の槍の数が多すぎた。


 結界が一枚、また一枚と砕ける。


「鬼平さん、長くは持ちません!」


 鬼平は撃てないガトリング砲を床へ突き立てた。


 砲身を支点にして身体をひねる。


 飛んできた光の槍を、砲架で横へ弾き飛ばした。


 一本、二本、三本。


 重量兵器を盾と棍棒の両方として使い、光の槍を砕いていく。


 最後の一本が、鬼平の脇腹をかすめた。


 血が滲む。


 鬼平は女へ迫った。


「魔法は便利だな」


 砲架を振り上げる。


「だが、近づかれたら意味がねえ」


 女は後退し、さらなる結界を張ろうとした。


 しかし、鬼平は杖へ向かって左のガトリング砲を投げた。


 撃てない鉄塊が、回転しながら飛んでいく。


 杖が砕け、魔法陣が消えた。


 女の目が見開かれる。


「武器を投げるなど、正気ですか!」


「撃てねえからな」


 鬼平は右のガトリング砲を振り抜いた。


 女は結界を展開したが、砲架の重量に耐えきれず、階段の踊り場まで吹き飛んだ。


 ラウルが駆け寄り、彼女の両手へ手錠を掛ける。


「教会の人間は、全員こうなのか?」


 ラウルが尋ねる。


「全員ではありません」


 リーゼが答えた。


「ですが、王城の上層部は大司祭とつながっています」


「なら、上に行く」


 鬼平は再び階段を上り始めた。


 王城の上層へ近づくほど、魔力の圧力が強くなる。


 壁の中を流れる竜脈の魔力が、脈打つように振動していた。


 佐久間が足を止めた。


「軍曹」


「何だ」


「この先に、俺を改造した装置より大きな魔力反応があります」


「どれくらいだ」


「比較できません。城そのものが、魔力炉みたいになっている」


 鬼平は階段の先を見た。


「王都全体が兵器か」


「恐らく、王城を中心に竜脈へ接続しています」


 リーゼが壁の古代文字を読み取った。


「この王城は、古代魔導文明の施設の上に建てられています。王国はその事実を隠していた」


「何の施設だ」


「転移門の管理施設です」


 鬼平は足を止めた。


 転移門。


 この世界へ来た理由。


 部下たちが召喚された場所。


 そして、元の世界へ戻る可能性。


「帰れるのか」


「門を使えるなら、可能性はあります」


 リーゼは古代文字を追った。


「ただし、帰還には大量の魔力が必要です。竜脈を使えば……」


「王都全体の魔力炉が必要になる」


「はい」


 鬼平は大司祭補を見た。


「教会は、召喚と帰還を同じ装置で行っているのか」


「召喚した兵士を帰すつもりなど、最初からありません」


 女は拘束されたまま笑った。


「異世界人は、こちらの世界に来た時点で、こちらの所有物です」


 鬼平の周囲で、空気が冷えた。


 部下たちが息を呑む。


 鬼平は撃てないガトリング砲を持ち上げた。


「所有物だと?」


「召喚には莫大な費用が掛かります。貴方たちは、その費用に見合う役割を果たす義務がある」


 鬼平は女の前へ歩いた。


 砲架の先端を、彼女の足元へゆっくり置く。


 床が沈む。


「オレたちは誰の所有物でもねえ」


 鬼平は女を見下ろした。


「部下も、武器も、オレ自身もだ」


 その時、王城最上階から轟音が響いた。


 窓の外が赤く染まる。


 王都の上空に、巨大な魔法陣が展開された。


 空の中心に黒い亀裂が走り、その向こうに異様な景色が見える。


 炎に包まれた山岳地帯。


 鬼平がドラゴンブレスを受けた、元の世界の戦場だった。


 鬼平は窓へ駆け寄った。


 魔法陣の向こうに、破壊された陣地が見える。


 焼けた車両。


 散乱した装備。


 そして、山の麓に集まる人影。


 鬼平の部隊だった。


 生き残った兵士たちが、転移門の向こうを見上げている。


 誰かが、鬼平の名前を呼んでいた。


「軍曹!」


 声は届かない。


 だが、鬼平には見えた。


 部下たちは、鬼平が消えた場所から離れずにいる。


 帰還を待っている。


 鬼平は窓ガラスへ手を当てた。


「……待たせたな」


 日野が隣に立つ。


「帰れるんですか?」


「帰る」


「この門を使えば?」


「教会が開いた門なら、教会が閉じる前に奪う」


 最上階の扉が開いた。


 王国の国王が姿を現す。


 その隣には、黒い装束をまとった男がいた。


 鬼平は男を見て、手の甲の刻印が熱くなるのを感じた。


 黒装束の男の背後に、黒竜の紋章が浮かんでいる。


「竜の使者か」


 鬼平が言った。


 男は静かに微笑んだ。


「正確には、竜と王国と教会をつなぐ者です」


 国王が杖を掲げた。


「鬼平玄蔵。貴様には選択肢がある」


「聞くだけ聞く」


「部下を門の向こうへ返す。その代わり、貴様は王国の兵器として働け」


 鬼平は国王を睨んだ。


「断る」


「まだ条件を言い終えていない」


「兵器になる気はねえ」


「ならば、部下たちは帰せない」


 鬼平は、壊れた二挺のガトリング砲を見た。


 撃てない。


 弾もない。


 それでも、持っている。


「帰す方法は、他にもある」


 鬼平が言った。


 リーゼが気づく。


「転移門の管理施設……王城の地下にある本来の制御装置ですね」


「魔王喰らいを使うつもりか」


 黒装束の男が尋ねた。


「お前らがそう呼んでいる兵器を、帰還のために使う」


「魔王喰らいは、竜脈を断つ兵器です。使えば、この大陸の魔力循環が崩壊する」


「なら、使い方を変える」


「そんなことは不可能です」


「撃てるなら、使える」


「貴方の武器とは違う」


 鬼平は黒装束の男へ一歩近づいた。


「撃てなくても、殴れる」


 黒装束の男の表情から、初めて笑みが消えた。


 国王が手を上げる。


 王城の最上階に、王国騎士と教会の魔導兵が現れた。


 数は多い。


 鬼平の部下たちは負傷している。


 ラウルたちも戦闘の後で消耗していた。


 鬼平のガトリング砲は、まだ撃てない。


 だが、敵は窓際に集まっている。


 足元には、転移門を制御する魔法陣。


 壊すべき場所は、敵ではなく床だ。


 鬼平は右のガトリング砲を構えた。


「リーゼ」


「はい」


「門を制御する術式を探せ」


「制御術式を?」


「敵が多い。全員を殴るより、床を壊したほうが早い」


「また魔法陣を壊すのですか?」


「ああ」


 国王が叫ぶ。


「攻撃せよ!」


 兵士たちが一斉に迫る。


 鬼平は撃てないガトリング砲を横薙ぎに振った。


 一人、二人、三人。


 砲架が兵士たちを次々と吹き飛ばす。


 左のガトリング砲は、盾として使う。


 剣を受け、魔法を防ぎ、敵の足を払う。


 撃てなくても、戦える。


 鬼平は一人ずつではなく、隊列ごと崩していった。


「軍曹、右側の魔法陣です!」


 リーゼが叫ぶ。


「赤い線が三本交差しています!」


 鬼平は敵の攻撃を砲身で受けながら、魔法陣へ向かった。


 魔導兵が前に立つ。


 鬼平は右のガトリング砲を両手で握り、真上から振り下ろした。


 魔導兵の盾が割れ、兵士が床へ沈む。


 そのまま砲架を床へ叩きつけた。


 赤い魔法陣が砕ける。


 王城全体が大きく揺れた。


 上空の転移門が歪む。


 門の向こうにいた部下たちの姿が、ぼやけ始めた。


「門が閉じます!」


 リーゼが叫ぶ。


 鬼平は窓へ走った。


 転移門の向こうで、部下たちがこちらへ手を伸ばしている。


 距離は、まだ遠い。


 門の制御術式は崩れかけている。


 鬼平は撃てないガトリング砲を、転移門の中心へ投げた。


 片手二百キロ超の鉄塊が、歪んだ魔法陣へ突き刺さる。


 門の閉鎖が一瞬だけ止まった。


 鬼平は驚く暇もなく、窓枠を掴んで身を乗り出す。


「軍曹、危険です!」


 高瀬が叫ぶ。


「全員、ロープを持て!」


 鬼平は魔法陣へ突き刺さったガトリング砲の銃架を掴んだ。


 転移門の向こうに、元の世界の戦場がある。


 部下たちの声が、今度ははっきり聞こえた。


「軍曹! そこにいるんですか!」


 鬼平は叫び返した。


「全員、生きてるか!」


「はい!」


「負傷者は!」


「三名! 動けません!」


「衛生兵を呼べ!」


「もう呼んでいます!」


 鬼平の目に、初めて安堵が浮かんだ。


 だが、転移門の向こうから巨大な影が迫っていた。


 黒竜ヴァルグリムだ。


 元の世界の戦場へ、竜が近づいている。


 鬼平は振り返り、王城最上階の黒装束の男を睨んだ。


「お前ら、竜をこっちへ呼んだな」


「竜は門を通じて、こちらへ来るだけです」


「部下のいる場所へ?」


「竜脈を安定させるためには、異界の門を開いたままにする必要がある」


 鬼平は転移門の向こうを見た。


 黒竜の翼が、部下たちの頭上を覆う。


 ドラゴンブレスの赤い光が、竜の口に集まり始めた。


「軍曹!」


 日野が叫んだ。


「竜が来ます!」


 鬼平は壊れたガトリング砲を引き抜いた。


 魔法陣から外れた瞬間、転移門が再び縮み始める。


 鬼平は門の境界へ砲架を突き立てた。


 閉じようとする門を、超重量の鉄塊で押し広げる。


 足元の床が崩れる。


 鬼平の腕が震える。


 右手のガトリング砲は、もう武器として機能していない。


 それでも、今は門を支えるための楔だった。


「部下を通せ!」


 鬼平が叫ぶ。


「先に負傷者を!」


 転移門の向こうから、兵士たちが次々と走ってくる。


 負傷者を担いだ兵士。


 弾薬箱を抱えた兵士。


 そして、鬼平が見慣れた部隊章を付けた隊員たち。


 彼らは一人ずつ、門を越えて王城へ現れた。


 黒竜のブレスが、元の世界の山を焼き始める。


 炎が転移門の向こうへ迫る。


 鬼平は砲架をさらに押し込み、門を固定する。


 最後の兵士が飛び込んできた。


「全員、通過しました!」


 日野が叫ぶ。


 鬼平は砲架を引き抜いた。


 転移門が急速に縮む。


 炎の奔流が、門の境界まで迫った。


 鬼平は最後に、元の世界の山を見た。


 黒竜の赤い眼と視線が合う。


「待ってろ」


 鬼平は低く呟いた。


「次は、そっちへ行く」


 転移門が閉じた。


 鬼平は王城の床へ倒れ込む。


 両手のガトリング砲は、完全に沈黙していた。


 それでも、三人の部下と、異世界へ召喚された兵士たちは生きている。


 王国の兵士たちは、助かった異界の兵士たちを見て呆然としていた。


 国王は顔を青ざめさせる。


「門を……勝手に開閉しただと?」


「違う」


 鬼平はゆっくりと立ち上がった。


「奪った」


 黒装束の男が、初めて剣を抜いた。


「貴方は、世界の均衡を壊した」


「知るか」


 鬼平は壊れたガトリング砲を肩に担いだ。


「部下は返してもらった」


 鬼平の背後に、日野、高瀬、佐久間が並ぶ。


 佐久間の黒い魔導装具から、わずかに赤い光が漏れていた。


 その光は、鬼平の手の甲にある《竜殺しの刻印》と共鳴している。


 リーゼが空を見上げた。


 転移門が消えたはずの場所に、細い亀裂が残っている。


 その向こうから、黒竜の咆哮が響いた。


 鬼平は壊れたガトリング砲を握る。


「修理する」


「武器をですか?」


 高瀬が尋ねた。


「武器と、帰還門だ」


 鬼平は王都の上空を見た。


「そして、あの竜を撃つ」


 国王が叫ぶ。


「貴様に何ができる! 兵器は壊れ、教会も敵に回し、王国も貴様を許さない!」


 鬼平は国王を見た。


 撃てないガトリング砲を、ゆっくりと持ち上げる。


「撃てなくても、殴れる」


 王城最上階に、重い金属音が響いた。


「殴れなくても、持てる」


 鬼平は部下たちの前に立った。


「持てるなら、戦える」


 魔石ガトリング砲は壊れている。


 弾薬もない。


 教会も、王国も、竜も敵になった。


 それでも鬼平軍曹は退かなかった。


 部下を守るために、彼は次の戦場へ進む。


 その戦場は、異世界と元の世界をつなぐ、崩れかけた転移門の向こうだった。

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