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鬼平軍曹の魔石ガトリング無双  作者: しょぼんスライム


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第7話 軍曹、王都行きの馬車を奪う

王都までは、徒歩で十日。


 リーゼがそう言った時、鬼平は街道の先を見た。


 道は長く、荷車はない。


 魔石ガトリング砲は二挺とも修理途中で、片方は砲身にひびが入り、もう片方は魔石接続部が不安定だった。


 それでも、鬼平は両手に持って歩いている。


 一門、二百キロ超。


 合計重量は五百キロ近い。


 街道に刻まれた鬼平の足跡は、浅い穴のように続いていた。


「……本当に徒歩で十日もかかるのか」


「馬車を使えば三日です」


「なら、馬車を使う」


「ですが、馬車賃がありません」


 鬼平は立ち止まった。


「いくらだ」


「二人分で銀貨三枚ほどです」


「魔石は」


「魔石で支払うつもりですか?」


「金がねえなら、他のものを出す」


「上級魔石は、一つで銀貨数十枚の価値があります」


 鬼平は腰の袋を見た。


 鉱山で回収した小さな魔石が数個入っている。


 どれも武器の補給に必要なものだ。


「弾薬に回す」


「では、歩くしかありませんね」


「馬車を探す」


「探して見つかるものではありません」


「見つからなければ、作る」


 リーゼは嫌な予感がした。


 その予感は、昼過ぎに的中した。


 街道の先から、土煙が近づいてくる。


 四頭立ての大型馬車だった。


 王都の紋章が描かれた旗を掲げ、前後を騎士たちが護衛している。


 鬼平は街道の中央に立った。


 リーゼが慌てて彼の腕を掴む。


「何をするつもりですか!」


「馬車を止める」


「どうやってですか!」


 鬼平は右手のガトリング砲を地面へ下ろした。


 ドンッ、と街道が揺れる。


 騎士たちがこちらに気づき、馬車の速度を落とした。


「武器を捨てろ!」


 先頭の騎士が槍を向ける。


 鬼平は、二挺のガトリング砲を見せた。


「王都へ行きたい」


「何だと?」


「乗せろ」


「その兵器を下ろし、身分を名乗れ!」


 鬼平はリーゼを見た。


「知り合いか」


「王国の紋章があります。恐らく軍の輸送隊です」


「なら話が早い」


 鬼平は騎士へ向き直った。


「オレは鬼平軍曹。鉱山の異端審問局を制圧した。王都へ報告に行く」


 騎士たちの間に動揺が走った。


「異端審問局を……?」


「白い仮面の男を一人、生け捕りにしてある」


 鬼平の後方には、リーゼが結界で拘束した白仮面の男がいる。


 騎士たちは互いに顔を見合わせた。


「その男を引き渡せ」


「王都まで一緒に行く」


「それは命令か?」


「条件だ」


 騎士隊長が馬車から降りた。


 銀色の鎧を身につけ、腰には細身の剣を佩いている。


「私は王国騎士団第三分隊長、ラウル・グランツだ。異端審問局は我々も追っていた」


「なら、乗せろ」


「その前に、武器を預けてもらう」


 鬼平は即答した。


「断る」


「王都へ入るには、魔導兵器の持ち込み許可が必要だ」


「許可を取るために王都へ行く」


「それでは規則に反する」


「規則と部下の命なら、部下を取る」


 ラウルは眉をひそめた。


「部下の命?」


「帰還する必要がある」


 鬼平はそれ以上を説明しなかった。


 ラウルは二挺のガトリング砲を見つめた。


 彼の部下たちが、あの兵器を恐れている。


 当然だろう。


 片手二百キロを超える鉄塊を、鬼平はまるで自分の腕の一部のように扱っている。


「もし拒否したら?」


 ラウルが尋ねる。


「歩く」


「それだけか?」


「それだけだ」


 鬼平は馬車の横を通り過ぎようとした。


 ラウルが剣の柄へ手を掛ける。


 その時、鬼平が足を止めた。


 街道の脇に広がる草むらから、金属音が聞こえた。


 多数の足音。


 馬車の護衛ではない。


「敵が来る」


 鬼平が言った。


「何?」


 ラウルが振り返る。


「左の森。三十以上」


「どうして分かる」


「鳥が逃げた」


 次の瞬間、森から矢が飛んできた。


 鬼平は左のガトリング砲を盾のように構えた。


 矢が砲身に弾かれる。


「全員、馬車の陰へ!」


 鬼平の怒声に、騎士たちが反射的に動いた。


 森の中から、黒い外套をまとった兵士たちが現れる。


 聖光教会の異端審問局だ。


 彼らは街道の両側から馬車を挟み込んでいる。


 先頭に立つのは、見覚えのない女だった。


 白い仮面ではなく、銀色の仮面を着けている。


「異界の兵士、鬼平玄蔵」


 女が呼びかけた。


「教会の管理下へ戻りなさい」


「断る」


「貴方の意志は問われていません」


 女が手を上げる。


 異端審問局の兵士たちが魔石銃を構えた。


 ラウルが剣を抜く。


「貴様ら、王国の輸送隊を襲う意味が分かっているのか!」


「王国はすでに教会の許可なく異界人を保護している」


「この男は犯罪者ではない!」


「兵器を持つ異界人は、存在そのものが危険です」


 鬼平は敵の配置を見た。


 正面に十二人。


 左の林に十人。


 右側、馬車の後方に八人。


 銀仮面の女は中央後方。


 魔力反応が強い。魔導師か、指揮官だ。


 馬車の乗員と騎士たちは、攻撃に巻き込まれれば全滅する。


 まず、敵の射線を分断する必要がある。


「ラウル」


「何だ」


「馬車を横向きにしろ」


「指図するな!」


「嫌なら全員撃たれる」


 ラウルは一瞬だけ迷った。


 森から二本目の矢が飛んできた。


 今度は騎士の盾に突き刺さる。


「……全員、馬車を動かせ! 横向きにして壁を作れ!」


 騎士たちが馬車を押し始めた。


 鬼平は左のガトリング砲を地面へ置いた。


 右手の一挺だけを構える。


「片方しか使わないのですか?」


 リーゼが尋ねた。


「片方で十分だ」


「でも敵は三十人以上です」


「数える必要がない」


 鬼平は森の木々を見た。


 左側の敵は、木の根元に身を隠している。


 右側の敵は、街道へ出ようとしている。


 中央は銀仮面の女が指揮を取っている。


 鬼平は銃口を地面へ向けた。


 魔石弾が街道を削り、土煙を巻き上げる。


 射撃は敵へ向けていない。


 街道の中央に、深い溝が走った。


 敵の中央部隊が足を止める。


 その瞬間、騎士たちが馬車の陰から飛び出した。


 ラウルが中央の兵士へ突撃する。


「今だ! 王国騎士団、押し返せ!」


 鬼平は左の森へ銃口を振った。


 短い連射。


 木の根元が次々に弾け、兵士たちが身を隠せなくなる。


 騎士たちの弓が飛び、敵を牽制した。


 右側から魔石銃が発射される。


 鬼平は銃身を傾け、光弾を撃ち落とした。


 全弾は無理だ。


 だが、危険なものだけを撃つ。


 魔石ガトリング砲の利点は、弾数ではない。


 撃てる弾が多いことだ。


 鬼平は敵の魔法使いへ狙いを変えた。


 魔法陣が展開する前に、連射。


 魔導師の杖が砕け、術式が消える。


 敵の射撃が乱れた。


 銀仮面の女が前へ出る。


「貴方は、武器だけに頼る兵士ではないようですね」


「武器が強いだけだ」


「では、その武器を奪えば終わりです」


 女が両手を広げた。


 鬼平の手にあるガトリング砲が、突然重くなった。


 腕が沈む。


 足元の石が割れる。


「重力魔法か」


「貴方の兵器は、ただでさえ重い。魔法で負荷を増やせば、構えることもできない」


 鬼平の膝が沈んだ。


 片手二百キロ超の兵器に、さらに何倍もの重圧が掛かる。


 砲身が地面へ落ちそうになる。


 銀仮面の女が近づく。


「武器を捨てなさい」


 鬼平は歯を食いしばった。


「断る」


 鬼平の左手が、地面に置いていたもう一挺へ伸びた。


「そちらも持てる状態ではないでしょう」


「持てるかどうかじゃねえ」


 鬼平は右のガトリング砲を地面へ突き立て、即席の支柱にした。


 重力魔法の圧力を、砲身と地面へ逃がす。


 空いた左手で、もう一挺を掴む。


 両手に超重量兵器。


 魔法でさらに重くされた二挺を、鬼平は全身で持ち上げた。


 肩の筋肉が盛り上がる。


 背中の古傷が開き、血が滲む。


 それでも砲身が上がった。


 銀仮面の女の動きが止まる。


「ありえない……」


「よく言われる」


 鬼平が一歩前へ出た。


 地面が陥没する。


「この《ピー》が! オレの武器を重くするだけで勝ったつもりか!」


 二挺の砲身が回転を始めた。


「重いなら、重いまま撃つ!」


 同時射撃。


 凄まじい弾幕が、銀仮面の女の周囲へ降り注いだ。


 女は重力魔法を解除し、転移術式を展開する。


 しかし、鬼平はすでに足元を狙っていた。


 魔力弾が地面を吹き飛ばし、転移魔法陣を破壊する。


「逃がすか!」


 鬼平は銃口を女へ向けた。


 銀仮面が割れる。


 下から現れたのは、若い女の顔だった。


 頬には、黒竜の紋章に似た刺青がある。


 リーゼが息を呑んだ。


「その紋章……教会だけではありません」


 銀仮面の女が、鬼平を見て笑う。


「ようやく気づきましたか」


「何がだ」


「竜と教会は、敵対しているわけではありません」


 鬼平の指が止まる。


「竜を操る者と、竜脈を奪う者は、同じ目的を持っています」


「目的は?」


「異世界の魂を使い、世界を作り変えること」


 女は懐から、小さな金属片を取り出した。


 そこには、鬼平が見たことのある軍用認識票が刻まれている。


 現代の文字。


 鬼平は目を見開いた。


「それをどこで手に入れた」


「貴方より先に来た者から」


「誰だ」


「貴方の部下です」


 鬼平の周囲から、音が消えた。


 銃声も、馬の嘶きも、騎士の怒号も聞こえなくなる。


 銀仮面の女は、認識票を握ったまま続けた。


「一人は、こちらの世界で勇者になりました」


 鬼平の手が、ガトリング砲の銃架を強く握る。


「一人は、魔王軍に捕らえられました」


「……他は」


「残りは、貴方を捜しています」


 鬼平の呼吸が低くなる。


 元の世界の部下たちが、異世界のどこかにいる。


 生きている。


 しかし、その一部は敵の側にいる可能性がある。


 銀仮面の女は、鬼平の動揺を見て笑みを深めた。


「王都地下の兵器を起動すれば、貴方の部下へ会えるでしょう」


「なぜ、お前がそれを知っている」


「私は、彼らをこちらへ呼んだ側の人間だからです」


 鬼平の口から、低い声が漏れた。


「この《ピー》が……」


 魔石が赤く輝く。


 砲身が回転する。


「部下を道具にしたのか」


「兵士とは、そういうものです」


「違う」


 鬼平は銀仮面の女へ歩み寄った。


「兵士は道具じゃねえ」


 女が魔法陣を展開する。


「ならば、貴方も同じ場所へ送ってあげましょう」


 転移魔法が鬼平の足元を包む。


 だが、鬼平は左のガトリング砲を地面へ叩きつけた。


 重量二百キロ超の鉄塊が魔法陣を破壊する。


 女の顔から笑みが消えた。


「魔法陣を武器で壊すなど……!」


「魔法は便利だな」


 鬼平は右の砲口を女の足元へ向けた。


「だが、壊せる」


 短い連射。


 女の足元が崩れ、彼女はバランスを失った。


 ラウルが素早く駆け寄り、剣を突きつける。


「動くな!」


 銀仮面の女は、初めて焦りを見せた。


 しかし、彼女の胸元の紋章が黒く光る。


 身体から大量の魔力が噴き出した。


「自爆します!」


 リーゼが叫んだ。


 鬼平は即座に判断した。


「全員、伏せろ!」


 右のガトリング砲を地面へ突き立て、左の砲身を女へ向ける。


 連射。


 魔力弾が女の胸元へ集中し、黒い紋章を破壊した。


 爆発寸前だった魔力が霧散する。


 銀仮面の女は、その場に崩れ落ちた。


 街道に、ようやく静寂が戻る。


 異端審問局の兵士たちは、ほとんどが倒れ、残りは騎士たちに拘束されている。


 ラウルは鬼平を見た。


「……王都まで乗せよう」


「最初からそうしろ」


「貴様を危険人物として拘束するつもりだった」


「今もか」


 ラウルは、二挺のガトリング砲を見た。


 それから、街道に倒れた教会兵たちと、無傷で残った輸送隊を見回す。


「危険人物ではある。だが、敵ではない」


「敵かどうかは、王都で決める」


 鬼平は倒れた銀仮面の女へ歩み寄った。


 彼女の手から、現代の認識票を取り上げる。


 表面に刻まれていた名前を、鬼平は何度も見た。


 自分の部隊にいた、若い兵士の名前だった。


「鬼平さん……」


 リーゼが心配そうに声を掛ける。


「生きている」


 鬼平は認識票を握り締めた。


「なら、迎えに行く」


 ラウルが馬車の扉を開けた。


「王都では、国王直属の魔導士と教会の大司祭が貴様を待つことになる」


「教会もか」


「ああ。貴様が持つ兵器と、手の甲の刻印を狙っている」


「なら、先に地下へ行く」


「王都の地下区画は封鎖されている。許可なく入れば、王国法により処罰される」


「許可を取る」


「簡単に言うな」


 鬼平は馬車へ乗り込んだ。


 武器を積み込むだけで、車体が大きく沈む。


 車輪が軋み、御者が悲鳴を上げた。


「この重さで王都まで走れるのか?」


 鬼平が尋ねる。


「走らせるしかない」


 ラウルが答えた。


「王都へ着く前に車輪が壊れないことを祈れ」


「祈りは要らねえ。補強しろ」


「今からか?」


「今からだ」


 鬼平は馬車の床板を確認し、荷台の支柱を見た。


 強度が足りない。


 近くの荷車から鉄板を外し、ガトリング砲の固定具として使う。


 リーゼが補助魔法で車体を強化し、ラウルの騎士たちが縄と板で補強した。


 作業が終わる頃には、馬車は本来の姿を失っていた。


 王国の輸送馬車は、鉄板と木材で補強された巨大な武器運搬車になっている。


 鬼平は満足そうに頷いた。


「これでいい」


 ラウルは頭を抱えた。


「王都の門番が見たら、絶対に止めるぞ」


「止められたら、説明する」


「説明で済む兵器ではない」


 馬車が動き始めた。


 鬼平は荷台の後部から、遠ざかる街道を見た。


 銀仮面の女が持っていた認識票を、胸の内ポケットへしまう。


 元の世界の部下たち。


 勇者になった者。


 魔王軍に捕らえられた者。


 鬼平を捜している者。


 状況は最悪だった。


 だが、死んだと決まったわけではない。


 ならば、救出する。


 それが軍曹の仕事だ。


 夕暮れ、王都へ続く街道の先に巨大な城壁が見えた。


 王都アルカディア。


 その地下には、鬼平の部下たちと、次なる古代兵器が眠っている。


 鬼平は二挺のガトリング砲を確認した。


 魔石残量は少ない。


 砲身の修理も必要だ。


 補給もない。


 それでも、王都へ入らなければならない。


「リーゼ」


「はい」


「王都に着いたら、魔石を調達する」


「まずは王城との交渉では?」


「弾薬が先だ」


「どうしてですか?」


 鬼平は、城壁の上に並ぶ王国兵を見た。


 そのさらに奥、塔の頂上に黒い煙が立ち上っている。


 敵は、すでに王都の中にいる。


「王都は戦場になる」


 鬼平は低い声で言った。


「戦場で弾が足りねえのは、命が足りねえのと同じだ」


 馬車が王都の門へ近づく。


 門番たちが、巨大な武器運搬車を見て槍を構えた。


「止まれ! 積荷を確認する!」


 鬼平は荷台から降りた。


 片手二百キロ超の魔石ガトリング砲を、左右の手に持つ。


 門番たちの顔から血の気が引いた。


「王都へ入る理由を述べよ!」


 鬼平は城壁の向こうを見た。


 その地下に、部下がいる。


 そして、教会が狙う古代兵器がある。


 鬼平は砲身をゆっくり回転させた。


「弾薬の補給と、部下の救出だ」


 魔石が赤く輝く。


「邪魔するなら、門ごと開ける」


 王都の門前に、重い回転音が響き渡った。


 鬼平軍曹の王都戦が、始まろうとしていた。

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