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鬼平軍曹の魔石ガトリング無双  作者: しょぼんスライム


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第6話 軍曹、黒竜と再会する

鉱山の外で、空が燃えていた。


 黒竜ヴァルグリムが、山頂の上空を旋回している。


 巨大な翼が風を巻き起こし、雲が渦を巻く。山肌から小石が跳ね、崩れた坑道の入口へ流れ込んだ。


 鬼平は二挺の魔石ガトリング砲を構え、竜を見上げていた。


 右手の砲身は赤熱している。


 左手の砲身も、長時間の連射で冷却機構が限界に近い。


 魔石の残量は少ない。


 敵は空中にいる。


 条件だけを見れば、最悪だった。


 しかし、鬼平にとって最悪なのは、敵が強いことではない。


 敵を前にして、撃てる武器がないことだ。


「鬼平さん、今の状態では無理です!」


 リーゼが叫んだ。


「何が」


「魔石が空に近いんです! 砲身も冷却しきっていません! あれと戦えば、武器が先に壊れます!」


「壊れる前に撃ち落とす」


「撃ち落とせる相手ではありません!」


 黒竜が翼を畳んだ。


 急降下の姿勢に入る。


 鬼平は即座に判断した。


「全員、坑道の中へ戻れ」


「あなたは?」


「ここに残る」


「無茶です!」


「命令だ」


 鬼平の声に、戦場で何度も部下を動かしてきた響きが混じった。


 リーゼは反論しかけたが、鬼平の目を見て口を閉じた。


 その目は怒りに燃えている。


 だが、怒りだけで戦おうとしている目ではない。


 敵の速度、距離、風向き、地形、射線。


 すべてを計算している目だった。


「……死なないでください」


 リーゼはそれだけを言い、採掘員たちを坑道の奥へ誘導した。


 鬼平は一人、山頂に立った。


 黒竜が迫る。


 高度は低い。


 翼を使った突進攻撃だ。


 正面から受ければ、鬼平の身体など紙切れのように吹き飛ぶ。


 鬼平は銃口を上げた。


 魔石ガトリング砲の砲身が回転を始める。


 ギギギギギギ――。


「よう、トカゲ野郎」


 黒竜の赤い眼が、鬼平を捉えた。


「前は派手に吹き飛ばしてくれたな」


 竜の口腔に赤い光が集まる。


「今度は、こっちの番だ」


 鬼平が引き金を引いた。


 両手のガトリング砲から魔力弾が放たれる。


 しかし、距離が遠すぎた。


 黒竜は翼をひねり、弾幕をかわす。


 数十発が鱗へ当たったが、浅い傷しか残らない。


 その直後、黒竜の口から炎が吐き出された。


 ドラゴンブレス。


 山肌を焼き尽くした、あの炎だ。


 鬼平は撃ちながら走った。


 正面から逃げるのではない。


 右へ移動し、砲身を地面へ向ける。


 魔力弾が岩盤へ叩き込まれ、足元が爆発した。


 鬼平の身体が、爆風で横へ飛ぶ。


 その直後、ドラゴンブレスが山頂を薙ぎ払った。


 岩が溶け、地面が真っ赤に焼ける。


 鬼平は転がりながら立ち上がった。


 戦闘服の背中が焦げている。


 左腕に熱が走った。


 だが、動く。


「前より遅えな」


 鬼平は竜を睨んだ。


 黒竜は上空へ舞い上がり、翼を大きく広げた。


 低い声が、山全体を震わせる。


「人間よ。なぜ生きている」


 鬼平は銃口を下げなかった。


「死ぬ理由がなかったからだ」


「あの炎を受けて、生き延びた者はいない」


「なら、覚えとけ。オレが最初だ」


「異界の兵士。貴様は、この世界に呼ばれたのではない」


「興味ねえ」


「ならば、なぜ戻ろうとする」


「部下がいる」


 鬼平の返答は短かった。


「帰って、確認しなきゃならねえ」


「貴様の世界は、すでに貴様を失った」


 鬼平の指が、引き金を強く押さえた。


「勝手に決めるな」


「事実だ。世界渡りの門を通過した者は、元の世界へ戻れない」


「なら、門を探す」


「無駄だ」


「やってみなきゃ分からねえ」


 黒竜の眼に、わずかな苛立ちが浮かんだ。


「愚かな人間だ。貴様をここへ送ったのは、我ではない」


 鬼平は初めて、銃口をわずかに下げた。


「何だと」


「我の炎は、世界渡りの門を破壊しただけだ。貴様は門に巻き込まれた」


「つまり、偶然だと言うのか」


「偶然ではない。門を開いた者がいた」


 リーゼが坑道の入口から顔を出した。


「門を開いた者……聖光教会ですか?」


 黒竜が山を見下ろす。


「人間の教会は、異界の兵士を呼び出そうとしていた。貴様はその召喚に失敗し、別の門へ流された」


 鬼平は短く息を吐いた。


「勇者召喚か」


 以前、リーゼが話していた。


 この世界には、異世界から勇者を呼び出す儀式がある。


 鬼平は勇者ではない。


 召喚対象から外れた、失敗した異物だ。


 だが、なぜ古代兵器に選ばれたのか。


 なぜ黒竜は、鬼平の存在を知っているのか。


「教会は何のために兵士を呼ぶ」


「魔王と戦わせるためだ」


「ありふれた話だな」


「違う。呼び出された勇者の魂を、竜脈へ接続するためだ」


 リーゼの顔が青ざめる。


「そんな記録はありません」


「記録を消したのは、貴様ら人間だ」


 鬼平は空の黒竜を見た。


「竜脈に接続して、何をする」


「大陸全土の魔力を支配する」


 山頂に、重い沈黙が落ちた。


 聖光教会が勇者を召喚するのは、魔王軍と戦わせるためだけではない。


 異世界人の魂を使い、竜脈そのものを制御するためだった。


 その計画に鬼平は適合しなかった。


 だから召喚から外れた。


 そして、黒竜のブレスによって別の場所へ飛ばされた。


「オレを撃ったのは、教会の連中か」


「貴様の世界で、門を開いた者たちだ」


「知ってるのか」


「見ていた」


「なら、なぜ止めなかった」


「人間の争いに興味はない」


「その結果、オレは飛ばされた」


「我に責任はない」


 鬼平は銃口を上げた。


「責任があるかどうかは、オレが決める」


 リーゼが慌てて駆け寄る。


「鬼平さん、待ってください! 今は戦う理由が――」


「ある」


 鬼平は黒竜から視線を外さなかった。


「こいつは、オレの部下を巻き込んだ」


「貴様の部下は生きている」


 鬼平の指が止まった。


「何だと」


「貴様が消えた後、残った兵士たちは撤退した。死者もいるが、全員ではない」


「何人だ」


「我には数える理由がない」


「答えろ!」


 鬼平の怒鳴り声が山を揺らした。


 口から、ひどい罵声が続けて飛び出す。


「この《ピー》が! 知ってんなら最初から言いやがれ! オレの《ピー》を《ピー》してやるぞ!」


 リーゼが耳を塞いだ。


 黒竜は、初めて困惑したように首を傾けた。


「貴様は、戦う前にいつもそのような声を出すのか」


「うるせえ!」


 鬼平は銃口を向けたまま、さらに一歩前へ出た。


「部下が生きているなら、帰る理由はある」


「帰還の方法はない」


「なら、作る」


「貴様一人では不可能だ」


「一人じゃねえ」


 鬼平は背後のリーゼを見た。


「こいつがいる」


「私ですか?」


「魔法が使える」


「使えますが……」


「なら、役に立つ」


 リーゼは戸惑いながらも、杖を握り直した。


「分かりました。帰還方法を探します」


「勝手に決めるな」


「あなたが勝手に私を仲間扱いしたのです」


 鬼平はわずかに目を細めた。


 黒竜が翼を大きく広げる。


「異界の兵士よ。貴様が教会を敵に回すなら、世界全体が貴様を狙う」


「世界じゃねえ」


 鬼平は二挺のガトリング砲を構え直した。


「撃つべき敵だけ撃つ」


「我も敵か」


「今はな」


「ならば、試してみるがいい」


 黒竜が急降下した。


 先ほどより速い。


 鬼平は正面から迎え撃つ姿勢を取った。


 だが、黒竜の狙いは鬼平ではなかった。


 竜の爪が、鉱山の入口へ向かう。


 中には、リーゼと採掘員たちがいる。


「リーゼ、伏せろ!」


 鬼平は走った。


 ガトリング砲を両手に持ったまま、坑道の入口へ滑り込む。


 黒竜の爪が山肌を削る。


 鬼平は左の砲身を横に構え、爪の一撃を受け止めた。


 衝撃で地面が陥没する。


 肩の骨が軋み、足元の岩が砕けた。


 それでも、鬼平は押し返した。


「仲間に手を出すんじゃねえ!」


 至近距離から魔石弾を撃つ。


 弾丸が黒竜の前脚へ集中する。


 鱗が砕け、黒い血が飛び散った。


 黒竜が咆哮し、鬼平を爪ごと弾き飛ばす。


 鬼平の身体が山肌へ叩きつけられた。


 だが、竜の前脚にも深い傷が残っている。


 鬼平は血を吐きながら立ち上がった。


「効くじゃねえか」


「小さき者よ……」


 黒竜の声に、初めて明確な怒りが混じった。


「我の鱗を傷つけるとは」


「次はもっと深く撃つ」


 鬼平が砲身を回転させる。


 しかし、魔石が赤く明滅した直後、砲身が止まった。


 冷却限界。


 魔力不足。


 両方のガトリング砲が、一時的に沈黙した。


 黒竜が口を開く。


 赤い光が集まる。


 ドラゴンブレスが来る。


 鬼平は動かなかった。


 逃げても間に合わない。


 武器は撃てない。


 ならば、別の手を使う。


「リーゼ!」


「はい!」


「結界を張れ!」


「この規模のブレスを止める結界なんて、私一人では――」


「止めなくていい。向きを変えろ」


 鬼平は鉱山の奥を指差した。


 そこには、先ほど破壊した竜殺しの砲がある。


 まだ残骸の黒魔石が、かすかに光っていた。


「ブレスを砲へ流せ」


「そんなことをしたら、魔力が暴走します!」


「それでいい」


「よくありません!」


「やれ!」


 リーゼは歯を食いしばり、杖を掲げた。


「《反射結界・偏向展開》!」


 巨大な魔法陣が鉱山の前に広がった。


 黒竜がブレスを吐く。


 炎の奔流が結界へ激突した。


 リーゼの身体が押し戻される。


「無理です! あと数秒しか持ちません!」


「十分だ!」


 鬼平は魔石ガトリング砲を拾い上げた。


 武器はまだ撃てない。


 しかし、砲身の一部に残った冷却用の青魔石が、ブレスの熱を吸収している。


 魔石が青から白へ変わる。


 冷却が急速に進んでいた。


 鬼平は黒魔石の残骸へ走った。


 竜殺しの砲に刻まれた術式が、鬼平の手の甲の刻印と共鳴している。


 鬼平が刻印へ手を当てると、残骸から膨大な魔力が流れ込んできた。


 身体の内側が焼ける。


 視界が暗くなる。


 だが、ガトリング砲の魔石が再び輝いた。


 右の砲身が回転する。


 左の砲身も、遅れて回転を始めた。


「撃てる……」


 鬼平は黒竜を見た。


「なら、撃つ!」


 鬼平が引き金を引いた。


 魔力弾が、ドラゴンブレスの中を突き進む。


 炎を切り裂き、黒竜の胸元へ殺到する。


 竜の鱗が弾けた。


 黒竜は大きく身をひねり、上空へ退避する。


 その胸には、無数の傷が刻まれていた。


 鬼平も膝をついた。


 二挺の砲身から煙が立ち上っている。


 リーゼの結界が消える。


 山頂に、焼けた風だけが残った。


「……人間が」


 黒竜は傷口から血を流しながら、鬼平を見下ろした。


「次に会う時は、貴様を殺す」


「次じゃねえ」


 鬼平は立ち上がった。


「こっちから行く」


「竜域へ来るか」


「場所を言え」


「貴様には辿り着けぬ」


「なら、道を聞く」


「教会が貴様を追う」


「撃ち倒す」


「魔王軍も貴様を狙う」


「撃ち倒す」


「人間の王国も、貴様を兵器として利用する」


 鬼平は、少しだけ笑った。


「そいつらも、撃ち倒す」


 黒竜は沈黙した。


 やがて翼を広げ、空の彼方へ飛び去っていく。


 その姿が雲の向こうへ消えるまで、鬼平は銃口を下げなかった。


 リーゼが近づいてくる。


「逃げられましたね」


「ああ」


「追わないのですか?」


「今の武器じゃ無理だ」


 鬼平はガトリング砲を見た。


 砲身は熱で変色し、魔石にはひびが入っている。


「直す。弾を補給する。対竜弾を作る」


「その先は?」


 鬼平は、黒竜が消えた空を見上げた。


「竜域へ行く」


「本気ですか?」


「ああ」


「ドラゴンと戦うために?」


 鬼平は手の甲に刻まれた赤い紋章を見た。


「借りを返すためだ」


 坑道の奥で、破壊された竜殺しの砲が最後の光を放った。


 光は鬼平の刻印へ吸い込まれ、古代文字が一つだけ浮かび上がる。


次なる砲身は、王都の地下に眠る。


 リーゼが息を呑んだ。


「王都へ行かなければなりません」


「帰還方法を探すためか」


「それだけではありません。教会が、あなたを狙っています」


「分かってる」


「王都の地下にある兵器を、教会より先に見つける必要があります」


「なら、急ぐぞ」


 鬼平は二挺の魔石ガトリング砲を担ぎ上げた。


 片手二百キロを超える重量に、身体が軋む。


 それでも、彼は歩き出した。


 向かう先は王都。


 待ち受けるのは、勇者召喚の真相と、異端審問局の包囲網。


 そして、竜殺しの砲を超える新たな古代兵器。


 鬼平軍曹は、焼けた山を振り返った。


「黒竜よ」


 誰もいない空へ向けて、低く呟く。


「次は、弾を満タンにして行く」


 魔石ガトリング砲の砲身が、低い音を立てて回転した。


 鬼平軍曹の戦争は、王都へ向かって進み始めた。

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