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鬼平軍曹の魔石ガトリング無双  作者: しょぼんスライム


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第50話 軍曹、人造竜兵器と撃ち合う

地下研究施設の奥で、巨大な人型兵器が立ち上がった。


 白い骨格。


 赤い装甲。


 竜の脈動を宿した黒い魔石。


 両腕には、二挺の魔石砲が取り付けられている。


 その形は、鬼平の魔石ガトリング砲によく似ていた。


 ただし、人造竜兵器の砲身は鬼平のものより太く、砲口の周囲には竜の牙のような刃が並んでいる。


 背中には、骨の翼と六本の魔力管。


 頭部には角が二本。


 人間と竜と兵器を、無理やり一つにした姿だった。


『兵器は、人間を超える』


 人造竜兵器が、地下研究施設の天井を見上げた。


 赤い眼が二つ、暗闇の中で光る。


『兵器は、命令を必要としない』


『兵器は、迷わない』


『兵器は、壊れない』


 鬼平は二挺の魔石ガトリング砲を構えた。


「撃てるか」


 ノアが鬼平の砲を確認する。


「右の砲はまだ使える。左は出力が不安定だ」


「撃てるなら問題ない」


「問題しかない」


 リーゼが人造竜兵器の周囲を観測した。


「内部に複数の魔力核があります。中央の黒い魔石が主核ですが、四つの補助核が身体中へ魔力を送っています」


「壊せば止まるか」


「おそらく。ただし、核を破壊すると竜脈の魔力が暴走します」


 高瀬が周囲を見回した。


「この施設全体が崩れるんじゃないですか?」


 ノアが答えた。


「このままでも崩れる。あの兵器が動いた時点で、地下の魔石炉が再起動している」


 グラウ将軍が斧を構えた。


「ならば、敵を倒し、崩れる前に出るだけだ」


 人造竜兵器が、ゆっくりと腕を上げた。


 両腕の魔石砲が回転を始める。


 砲身の回転音が、鬼平のガトリング砲と同じ響きを持っていた。


 鬼平の目が細くなる。


「真似している」


『学習した』


『お前の砲撃を記録した』


『お前の戦術を再現する』


 人造竜兵器が両腕を開いた。


 赤黒い魔石弾が、地下施設全体へ放たれる。


 鬼平は左のガトリング砲を撃った。


 白い弾幕が赤黒い弾丸を迎え撃つ。


 空中で魔石弾が次々にぶつかり、光の爆発が起きた。


 右の《雷鱗砲》で、飛び散った魔力を切断する。


 爆発が仲間へ届く前に、青い雷の線が残った魔力を消し去った。


 人造竜兵器が一歩前へ出る。


 床が沈んだ。


 両腕の砲が、鬼平へ向く。


 鬼平も二挺の砲を構える。


 白い魔石と赤い魔石が、同時に輝いた。


 四つの砲口が、同時に火を噴く。


 地下研究施設の中央で、二つの弾幕が激突した。


 白い光と赤黒い光が押し合う。


 鬼平の足元が後ろへ滑った。


 人造竜兵器の砲撃は、鬼平の弾幕を少しずつ押し返している。


「出力が高い!」


 ノアが叫んだ。


「魔石炉から直接魔力を引いている!」


 鬼平は右の砲の照準をわずかに下げた。


 人造竜兵器の砲撃ではない。


 床の下から伸びる魔力管へ向ける。


 右の《雷鱗砲》が青白く輝いた。


 弾丸が床を貫き、魔力管との接続を切断する。


 人造竜兵器の右腕が一瞬止まった。


 鬼平は左の砲で、左腕の砲口を撃つ。


 赤い砲弾の弾幕が崩れた。


 人造竜兵器が腕を振り上げる。


 砲身の周囲にある竜の牙が、刃のように伸びた。


 鬼平へ向かって腕を叩きつける。


 鬼平は右の砲架で受け止めた。


 金属と竜骨がぶつかり、地下施設の壁が震えた。


 人造竜兵器が、もう一方の腕を振り抜く。


 グラウ将軍が斧で受け止めた。


「重い!」


 グラウ将軍の足元が、床へ深く沈む。


 高瀬が銃撃し、人造竜兵器の関節へ弾丸を集中させる。


 ヴァルグリムが黒い炎を吐き、背中の骨翼を焼く。


 ザルディオンの雷が、六本の魔力管へ流れ込んだ。


 人造竜兵器の動きが乱れる。


 鬼平は砲架を押し返し、左のガトリング砲を密着させた。


 装甲の隙間へ白い弾丸を撃ち込む。


 赤い装甲が砕け、内部の補助核が一つ露出した。


 右の《雷鱗砲》で補助核を撃つ。


 青白い弾丸が核を貫き、魔力管を切断した。


 補助核が消える。


 人造竜兵器の左脚が止まった。


『損傷を確認』


『補助核を切り替える』


 残った三つの補助核が、一斉に赤く輝く。


 止まった左脚が無理やり動き始めた。


 装甲の隙間から黒い霧が流れ、壊れた部分を塞いでいく。


「再生した!」


 高瀬が叫ぶ。


 リーゼが人造竜兵器を観測する。


「違います。再生ではありません。補助核が壊れた核の機能を代わりに使っています」


「全部の核を同時に止めないといけないのか」


「主核を含めて、五つです」


 ノアが鬼平の砲を見た。


「二挺で五つは無理だ」


 鬼平は人造竜兵器を見た。


 人造竜兵器の砲身が、再び回転を始めている。


 砲口の周囲から、赤い光が漏れる。


「五つを撃つ」


「どうやって?」


「撃つ」


「だから方法を――」


 人造竜兵器が砲撃を再開した。


 鬼平は左のガトリング砲を撃ち、迫る弾丸を相殺する。


 右の《雷鱗砲》で、床の魔力管をさらに切断する。


 人造竜兵器の砲撃が弱まった。


 その隙に、グラウ将軍が突撃する。


「道を開けろ!」


 斧が人造竜兵器の右脚へ叩き込まれた。


 竜骨の装甲が割れる。


 高瀬と兵士たちが、露出した補助核を撃つ。


 ザルディオンが雷を落とし、補助核の魔力を乱す。


 ヴァルグリムの黒い炎が、人造竜兵器の背中を包む。


 鬼平はその瞬間を逃さなかった。


 左の砲で胸部装甲を撃つ。


 白い弾幕が装甲を削る。


 右の砲で、露出した主核へ照準を合わせた。


 青い弾丸が飛ぶ。


 人造竜兵器が腕を交差させ、主核を守った。


 弾丸が腕の装甲へ当たり、青い火花が散る。


 主核は無傷だった。


『防御を学習した』


『同じ攻撃は通じない』


 人造竜兵器が、鬼平と同じ構えを取った。


 左腕をわずかに下げ、右腕を斜めに構える。


 鬼平がこれまで何度も使ってきた、弾幕と接続切断の姿勢だった。


 ノアが息を呑む。


「完全に戦い方をコピーしている」


 鬼平は人造竜兵器の構えを見た。


「なら、変える」


 鬼平は左の砲を下ろした。


 右の《雷鱗砲》だけを構える。


 人造竜兵器も、左腕を下ろした。


 同じ動き。


 鬼平が右の砲を撃つ。


 人造竜兵器も右腕を撃つ。


 二つの青い弾丸が空中で衝突する。


 鬼平は次の瞬間、右の砲架を振り上げた。


 人造竜兵器も砲架を振り上げる。


 砲架同士が衝突した。


 鬼平は一歩踏み込んだ。


 人造竜兵器も一歩踏み込む。


 鬼平は肘で装甲の継ぎ目を打った。


 人造竜兵器も同じ場所を狙ってくる。


 互いの攻撃が、同時に相手の装甲へ入った。


 鬼平の肩に赤い弾丸がかすめる。


 人造竜兵器の胸部に、青い火花が散る。


 高瀬が叫んだ。


「軍曹、同じ動きをすると読まれます!」


「分かっている」


 鬼平は、人造竜兵器の砲を見た。


 砲身は、鬼平の動きを完全に再現している。


 しかし、再現できないものが一つある。


 鬼平は左の砲を持つ手を、ゆっくりと下げた。


 砲口を人造竜兵器ではなく、床へ向ける。


 人造竜兵器の赤い眼が動いた。


『照準を変更』


 鬼平は床の魔力管を撃った。


 白い弾丸が床を削り、地下研究施設の魔力炉へ届く。


 施設全体の魔力が、一瞬だけ乱れた。


 人造竜兵器の五つの核が、同時に明滅する。


 鬼平は右の《雷鱗砲》を撃った。


 青い弾丸が、五つの核を繋ぐ魔力線を貫いた。


 主核と補助核の流れが乱れる。


 人造竜兵器の動きが止まった。


「同じ動きを真似しても、地形までは真似できない」


 鬼平は左のガトリング砲を構え直した。


 人造竜兵器が、無理やり腕を動かす。


『戦術を再計算』


 背中の骨翼が開いた。


 翼の先端から、赤い魔石弾が一斉に放たれる。


 地下施設の壁、天井、床へ反射しながら、無数の弾丸が鬼平たちへ迫る。


 鬼平は左の砲を撃った。


 白い弾幕が正面の弾丸を破壊する。


 しかし、横と背後からも赤い弾丸が飛んでくる。


 グラウ将軍が斧を振り回し、仲間を守る。


 ヴァルグリムが黒い炎を吐き、弾丸を焼き払う。


 ザルディオンが雷の壁を作る。


 高瀬が負傷した兵士を引きずって安全な場所へ移動させる。


 鬼平は人造竜兵器の背中を見た。


 六本の魔力管が、翼と核を繋いでいる。


 右の砲で一本を切る。


 左の砲で、翼の骨を削る。


 もう一本を切る。


 翼の動きが乱れ、弾幕の軌道が崩れた。


 リーゼが叫ぶ。


「背中の魔力管は、核ではなく翼を動かしています! あれを全部切れば、飛行能力を失います!」


 鬼平は左の砲を連射した。


 白い弾丸が魔力管を削る。


 右の《雷鱗砲》が、残った管を一本ずつ切断する。


 六本目の管が切れた。


 人造竜兵器の翼が閉じた。


 骨の翼が重く落ちる。


 人造竜兵器は飛行能力を失った。


 しかし、その背中から巨大な竜の尾が伸びてくる。


 尾の先端が槍のように尖り、鬼平へ突き出された。


 鬼平は砲架で受け止めた。


 尾の力で、鬼平の身体が後ろへ押される。


 床にブーツの跡が刻まれた。


 人造竜兵器は尾を振り抜き、鬼平を壁へ叩きつけようとする。


 鬼平は左の砲を壁へ撃った。


 反動で身体を横へ飛ばす。


 尾が壁へ突き刺さる。


 鬼平は空中で身体を回転させ、右の砲架を尾へ叩き込んだ。


 竜骨の尾が折れる。


 人造竜兵器が初めて、大きな咆哮を上げた。


『損傷が許容値を超えた』


『兵器は壊れない』


 鬼平は折れた尾を見た。


「壊れる」


 人造竜兵器の胸部装甲が開いた。


 内部の五つの核が、すべて赤く輝く。


 地下研究施設の魔力炉が、限界まで魔力を供給し始めた。


 壁の古い記録装置が勝手に起動する。


『最終実験を開始する』


『人間の意識を竜脈へ接続』


『戦闘能力を最大化』


『失敗時は、施設ごと封印する』


 人造竜兵器の胸部から、無数の赤い糸が伸びる。


 糸は地下研究施設の壁、床、天井へ入り込んだ。


 人造竜兵器が、施設そのものと繋がった。


『兵器は、施設である』


『施設は、兵器である』


 地下研究施設の壁から、巨大な砲口が開く。


 床からは魔石の槍が伸びる。


 天井からは機械の腕が降りてくる。


 人造竜兵器と地下施設が、一つの巨大兵器へ変わっていく。


 ノアが叫んだ。


「こいつ、研究施設全体を身体にするつもりだ!」


 リーゼが顔を上げた。


「魔力炉と主核が一体化しています。主核を倒しても、施設の魔力があれば再生します」


「なら、炉を止める」


 鬼平は地下の奥を見た。


 研究施設の最深部に、赤い光が集まっている。


 魔力炉の中心だった。


「鬼平、そこまで行くには敵を倒さないと無理だ」


 ノアが言った。


「道を作る」


 鬼平は二挺の砲を構えた。


 左のガトリング砲が回転する。


 右の《雷鱗砲》が雷を集める。


 グラウ将軍が斧を握り直した。


「ならば、前は俺が開ける」


 ヴァルグリムが翼を広げた。


『我は上を焼く』


 ザルディオンが角へ雷を集める。


『我は炉への道を照らす』


 高瀬が兵士たちへ指示を出した。


「負傷者は後方へ! 動ける者はグラウ将軍を援護!」


 ノアが鬼平の砲へ工具を接続する。


「砲の出力を一時的に分岐させる。撃つたびに魔力炉の位置が見えるはずだ」


「壊れないか」


「壊れるかもしれない」


 鬼平はノアを見た。


「直せるか」


「直す!」


 鬼平は前へ出た。


 地下施設の壁から、巨大な砲撃が放たれる。


 鬼平は左の砲を撃ち、砲撃の中心を破壊する。


 右の砲で、壁の砲口と魔力炉の接続を切断する。


 グラウ将軍が魔石の槍を斧で薙ぎ払う。


 高瀬たちが機械の腕を撃ち落とす。


 ヴァルグリムの黒い炎が、天井の魔力管を焼く。


 ザルディオンの雷が、床の接続線を止める。


 鬼平たちは、少しずつ最深部へ進んでいった。


 人造竜兵器が追いかけてくる。


 背中の翼は壊れているが、壁と床を使って巨体を動かしている。


 腕の魔石砲から、赤黒い弾幕を撃ち続ける。


 鬼平は撃ち返す。


 地下通路の中で、二つのガトリング砲が激突する。


 弾幕が壁を削り、床を砕く。


 鬼平の左の砲身に、細いひびが入った。


 ノアが叫ぶ。


「左の砲、あと数秒しか持たない!」


 鬼平は砲身を見た。


 左の砲は何度も限界を超えてきた。


 片手二百キロを超える重量。


 異世界の魔石。


 竜脈の力。


 そして、これまでのすべての戦い。


 それでも砲は回転している。


「まだ撃てる」


「撃てるけど、壊れる!」


「撃つ」


 鬼平は左の砲を構えた。


 人造竜兵器が両腕を開く。


 赤い弾幕が通路を埋め尽くした。


 鬼平は左のガトリング砲を撃った。


 白い弾幕が赤い弾幕を押し返す。


 砲身のひびが広がる。


 魔石の周囲に火花が散る。


 しかし、鬼平は引き金を離さなかった。


 白い弾幕が敵の胸部を削る。


 主核の位置が見えた。


 右の《雷鱗砲》で、胸部の接続線を切断する。


 人造竜兵器が腕を上げ、砲架で反撃する。


 鬼平は左の砲架で受け止めた。


 ひびの入った砲身が軋む。


 人造竜兵器の砲架が、鬼平の左肩へ食い込む。


 鬼平は右の砲架を振り上げた。


 人造竜兵器の腕を下から打ち上げる。


 砲口が天井へ向いた。


 赤い弾丸が天井を撃ち抜き、崩れた瓦礫が人造竜兵器の腕を押さえ込む。


 鬼平はさらに奥へ走った。


 最深部の扉が見えた。


 その向こうに、魔力炉がある。


 扉には、古い文字が刻まれている。


『人類を超える兵器を起動する』


 鬼平は右の砲架を構えた。


 扉を殴る。


 一撃で扉が歪む。


 二撃目でロックが壊れる。


 三撃目で扉が開いた。


 ノアが後ろから叫ぶ。


「だから普通に開けろ!」


 魔力炉の部屋は、巨大な円形空間だった。


 中央に、赤い魔石炉が浮いている。


 魔力炉から伸びた管が、人造竜兵器と地下施設全体へ繋がっていた。


 鬼平は炉を見た。


 炉の内部に、人間の影が浮かんでいる。


 白衣の研究者。


 人造竜兵器の意識の核になった人物だった。


『兵器は、私の意志を継ぐ』


『人間は弱い』


『迷い、恐れ、裏切る』


『だから、迷わない兵器を作る』


 鬼平は魔力炉へ歩いた。


「迷わない兵器は、命令された方向へ行くだけだ」


『命令は、必要ない』


「帰る場所もない」


『兵器に帰る場所は必要ない』


「なら、お前は何だ」


 魔力炉の内部で、研究者の影が揺らいだ。


『兵器だ』


「違う」


 鬼平は二挺の砲を構えた。


「捨てられた人間だ」


 魔力炉が激しく明滅した。


 人造竜兵器の咆哮が、地下全体へ響く。


『否定する』


「否定しても、人間の声がする」


『黙れ』


「怖いんだろ」


『黙れ!』


 人造竜兵器が魔力炉の部屋へ突入した。


 壁、床、天井がすべて砲口へ変わる。


 赤黒い魔石弾が、鬼平へ集中した。


 鬼平は左の砲を撃った。


 白い弾幕が正面の砲口を破壊する。


 右の《雷鱗砲》で、魔力炉と人造竜兵器を繋ぐ管を切断する。


 一度に三本が切れた。


 人造竜兵器の動きが止まる。


 残りの管から、黒い魔力が逆流していく。


 魔力炉の赤い光が黒く変わった。


『兵器は、壊れない』


 人造竜兵器が、鬼平へ突進する。


 鬼平は右の砲架で受け止めた。


 左の砲は、砲身のひびが広がっている。


 人造竜兵器の頭部が、鬼平のすぐ前まで迫った。


『お前も兵器だ』


『撃つことしかできない』


『仲間を守るという命令に従っているだけだ』


 鬼平の砲架が軋む。


 人造竜兵器が力を増した。


「違う」


『何が違う』


「撃つかどうかは、オレが決める」


『同じだ』


「撃たないことも、オレが決める」


 鬼平は左の砲の引き金から指を離した。


 人造竜兵器の赤い眼が揺らぐ。


『なぜ撃たない』


「お前を壊すだけなら、撃つ必要がない」


 鬼平は右の《雷鱗砲》を魔力炉へ向けた。


『炉を撃てば、私も消える』


「知っている」


『私は、何百年もここにいた』


「知っている」


『誰にも命令されず、誰にも認められず、ただ動くために作られた』


 人造竜兵器の砲架から、力が抜けた。


『私は、何だ』


 鬼平は魔力炉を見た。


「兵器じゃない」


『では、何だ』


「終われない兵士だ」


 人造竜兵器の赤い眼が、鬼平を見た。


「だから、終わらせる」


 鬼平は右の砲を構えた。


 ノアが叫ぶ。


「鬼平、魔力炉を撃てば施設が崩れる!」


「分かっている」


「全員、逃げる時間がないぞ!」


 リーゼが魔力炉を観測した。


「主核と炉の接続を切れば、暴走は止められます! でも、そのためには炉の中心を撃ち抜く必要があります!」


 鬼平は右の砲を魔力炉へ向けた。


 左の砲は砲身が限界だった。


 右の砲だけで、炉の中心を貫く。


 人造竜兵器が鬼平の前に立った。


『撃て』


「邪魔をするな」


『撃てば、私が終わる』


「終わらせる」


『怖い』


 鬼平の指が、引き金へかかった。


 人造竜兵器の声が、人間の声に戻っていた。


『怖い。私は、消えたくない』


 鬼平は一瞬だけ目を閉じた。


 そして、砲口を少しだけ下げた。


「消えるんじゃない」


『何が違う』


「終わる」


『同じだ』


「違う」


 鬼平は魔力炉の中心ではなく、炉と人造竜兵器を繋ぐ最後の管へ狙いを変えた。


「お前は、兵器をやめる」


 右の《雷鱗砲》が青白く輝いた。


 雷と竜脈と魔石の光が、一本の弾丸へ集まる。


 鬼平が引き金を引いた。


 青白い弾丸が、最後の管を貫いた。


 人造竜兵器と魔力炉の接続が切れた。


 地下施設全体から、黒い魔力が抜けていく。


 人造竜兵器の赤い装甲が崩れた。


 骨の翼が消える。


 両腕の魔石砲が停止する。


 赤い眼の光が、少しずつ弱まっていく。


『私は、何になる』


「自分で決めろ」


『分からない』


「なら、考えろ」


『時間がない』


「作る」


 鬼平は右の砲を下ろした。


 しかし、魔力炉の中心が大きく膨らむ。


 接続を失った魔力が暴走し始めた。


 地下施設の壁が崩れる。


 天井から岩と鉄骨が落ちてくる。


 ノアが叫ぶ。


「鬼平、炉を止めないと全員生き埋めだ!」


 リーゼが魔力炉の中心を指した。


「今なら、炉そのものを破壊できます!」


 鬼平は右の《雷鱗砲》を構えた。


 人造竜兵器は、崩れる魔力炉の前に立っている。


「どけ」


『私が、撃つ』


 人造竜兵器は停止したはずの右腕を持ち上げた。


 砲口の魔石が、一度だけ光る。


『私が、終わらせる』


 鬼平は砲を下ろした。


 人造竜兵器が、魔力炉へ向かって歩く。


 一歩。


 二歩。


 赤い装甲が崩れ、白い骨格が露出する。


 それでも歩く。


 三歩目で、魔力炉の前へ到達した。


『兵器は、最後の命令を実行する』


「命令じゃない」


『選んだ』


 人造竜兵器の両腕から、最後の魔石弾が放たれた。


 二発の赤い弾丸が、魔力炉の中心へ突き刺さる。


 魔力炉が内側から崩壊した。


 赤い光が消える。


 地下施設の魔力管が次々と停止する。


 人造竜兵器の身体も、光の粒へ変わっていく。


 鬼平はその姿を見た。


『鬼平軍曹』


「何だ」


『撃つかどうかは、自分で決める』


「ああ」


『それは、強い』


「そうでもない」


『私は、少し分かった』


 人造竜兵器の赤い眼が、最後に一度だけ光った。


『兵器をやめる』


 その身体が、白い光へ変わった。


 魔力炉の中心へ吸い込まれ、完全に消える。


 鬼平は右の砲を下ろした。


 左の砲身が、乾いた音を立てて止まった。


 ノアが駆け寄る。


「左の砲は?」


 鬼平が確認する。


 左の魔石ガトリング砲は、砲身に大きなひびが入り、回転機構も停止していた。


「撃てない」


 ノアは一瞬、黙った。


 鬼平は左の砲を持ち上げた。


 砲架を肩へ担ぐ。


「なら、殴る」


 ノアが頭を抱えた。


「それは修理してからにしろ!」


 地下施設が大きく揺れた。


 天井が崩れ、出口までの通路が塞がる。


 グラウ将軍が斧を振り上げた。


「脱出路を作る!」


 鬼平は右の《雷鱗砲》を構えた。


 崩れた瓦礫の奥へ、青い弾丸を撃つ。


 岩と鉄骨を一つずつ切断する。


 ヴァルグリムが黒い炎で崩落を止め、ザルディオンが雷で暗闇を照らす。


 高瀬と兵士たちが負傷者を運ぶ。


 リーゼが残った魔力の流れを読み、崩れない通路を指示した。


 鬼平たちは、地下研究施設から地上へ脱出した。


 旧市街の地下駐車場から出た瞬間、朝の光が差し込んだ。


 長い夜が終わっていた。


 空に赤い亀裂はない。


 地下鉄跡地も、通信施設も、北東の格納庫も、門を示す光を失っている。


 第七の接続点は閉じた。


 黒い霧も消えた。


 鬼平は二挺の砲を地面へ置いた。


 右の《雷鱗砲》は、まだ使える。


 左の砲は、完全に沈黙している。


 ノアが左の砲を調べる。


「これまでの負荷が全部積み重なっている。砲身、回転軸、魔石室、全部交換が必要だ」


「直せるか」


「直す。だが、時間がかかる」


 鬼平は旧市街の空を見た。


 ヴァルグリムとザルディオンが、朝の雲の向こうを飛んでいる。


 リーゼが地図を閉じた。


「七つの門は、すべて閉じました」


 高瀬が鬼平へ敬礼した。


「軍曹、お疲れさまでした」


 鬼平は敬礼を返した。


「まだ終わっていない」


 高瀬が驚く。


「え?」


 鬼平は壊れた左のガトリング砲を見た。


「砲を直す」


 ノアがため息をついた。


「それは確かに、まだ終わっていないな」


 その時、地面に白い光が浮かんだ。


 人造竜兵器が消えた場所から、一本の光の線が伸びている。


 線の先には、小さな白い魔石が落ちていた。


 鬼平が拾い上げる。


 魔石の中から、かすかな声が聞こえた。


『兵器ではない道を、探す』


 鬼平は魔石をノアへ渡した。


「預ける」


 ノアが両手で受け取る。


「これは?」


「仲間だ」


 ノアは驚き、魔石を見つめた。


 リーゼが微笑む。


「人造竜兵器の残した核ですね」


 グラウ将軍が空を見上げた。


「新しい仲間か」


 鬼平は答えなかった。


 ただ、壊れた左の砲を肩へ担いだ。


 右手には、まだ撃てる《雷鱗砲》。


 左肩には、撃てなくなった魔石ガトリング砲。


 鬼平は街の外れにある臨時工房へ歩き始めた。


 背後で、朝の鐘が鳴る。


 世界を繋ぐ門は閉じた。


 黒い霧は消えた。


 だが、異世界から来た竜たちも、元の世界から来た兵士たちも、もう元の関係には戻れない。


 鬼平軍曹は、二つの世界を繋ぐ戦いを終えた。


 そして今度は、壊れた砲を直すための戦いが始まる。


「撃てなくても、殴る」


 鬼平がそう呟くと、ノアが振り返った。


「修理中は殴るな!」


 朝の街に、久しぶりの笑い声が響いた。

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