第48話 軍曹、空飛ぶ兵器を撃ち落とす
中央部の通信施設を離れた鬼平たちは、北東の山中へ向かった。
山道の先に、古い軍事施設がある。
地図から消された旧航空基地。
かつては大型輸送機や試作兵器を格納していた場所だが、長い間使われていなかった。
しかし、山の奥から巨大な機械音が響いている。
格納庫の扉が、内側からゆっくりと開いていた。
雲の向こうには、赤い亀裂が浮かんでいる。
第六の接続点が、空へ向かって起動していた。
鬼平は二挺のガトリング砲を両手に持った。
左の砲は白い魔石を輝かせている。
右の《雷鱗砲》は、雷と電波を吸収し、青い光をまとっていた。
ノアが格納庫を見上げる。
「空を飛ぶ兵器に、異世界の魔石を組み込んでいる」
「撃てるか」
「空に出られたら、普通の兵器では追いつけない」
「追いつく」
「どうやって?」
鬼平は左の砲を持ち上げた。
「撃つ」
高瀬が格納庫の入口を確認した。
「内部に複数の機体があります。戦闘機のようですが、黒い霧に覆われています」
リーゼが魔力の流れを読む。
「格納庫の床に、巨大な竜脈のような接続があります。あの兵器たちは、地下から魔力を吸い上げて飛ぶつもりです」
鬼平は格納庫の扉へ近づいた。
扉の表面に、黒い文字が浮かぶ。
『空を支配する』
『砲弾を雨にする』
『世界を上から焼く』
鬼平は右の砲架を握った。
扉を一撃で殴り開ける。
格納庫の内部に、十数機の黒い航空兵器が並んでいた。
旧式の戦闘機、輸送機、無人攻撃機。
すべての機体へ、異世界の魔石と竜骨が組み込まれている。
機体の翼には黒い霧。
エンジンの内部には赤い光。
最奥には、巨大な飛行要塞が格納されていた。
その機体だけは、元の世界の航空機とはまったく違う。
黒い装甲。
竜の翼。
機首に巨大な魔石砲。
背中には、赤い亀裂へ繋がる魔力管。
飛行要塞の内部から、無機質な声が響いた。
『空へ行く』
『地上を撃つ』
『門を開く』
格納庫の天井が開き始めた。
戦闘機が一斉に起動する。
エンジン音と魔石の回転音が重なった。
「発進させるな!」
基地の指揮官が叫ぶ。
元の世界の兵士たちが射撃を開始した。
銃弾が機体の装甲へ当たるが、黒い霧が傷を塞いでいく。
鬼平は左のガトリング砲を撃った。
白い弾幕が一機目の翼を削る。
右の《雷鱗砲》で、機体と格納庫の魔力管を切断する。
一機目が停止した。
二機目が滑走を始める。
鬼平は左の砲を連射し、車輪を撃ち抜いた。
機体が傾き、格納庫の壁へ突っ込む。
黒い霧が機体から噴き出し、別の機体へ移動した。
リーゼが叫ぶ。
「霧が機体を乗り換えています!」
「全部止める」
鬼平は格納庫の床を見た。
機体の下には、地下へ伸びる赤い接続線がある。
右の砲で、線を一本ずつ切断する。
機体のエンジンが止まった。
しかし、飛行要塞だけは動き始めた。
巨大な翼が開き、格納庫の壁を押し広げる。
飛行要塞の機首に、赤い光が集まっていく。
魔石砲が、格納庫全体へ向けられた。
「全員、退避!」
鬼平は二挺の砲を構えた。
飛行要塞が魔石砲を発射する。
赤黒い砲撃が、正面から押し寄せる。
鬼平は左のガトリング砲を撃った。
白い弾幕が砲撃の中心を削る。
右の《雷鱗砲》で、砲撃と機首の接続を切断する。
赤黒い光が空中で崩れた。
砲撃の余波で、格納庫の天井が吹き飛ぶ。
飛行要塞が空へ浮上した。
その背後に、赤い亀裂が開く。
第六の接続点は、格納庫ではなく、空中の飛行要塞そのものだった。
鬼平は空を見上げた。
飛行要塞が、山の上空で旋回する。
周囲には、黒い霧の戦闘機が十機以上飛んでいる。
元の世界の兵士たちは、地上から対空砲を撃ち始めた。
しかし、敵機は黒い翼を広げ、砲弾をかわしていく。
ヴァルグリムが上空へ飛び立った。
『空は我らの領域だ』
黒竜が黒い炎を吐き、戦闘機の編隊を崩した。
ザルディオンが雷を落とし、機体の電力を奪う。
鬼平は右の《雷鱗砲》を構えた。
照準線が飛行要塞の背中へ伸びていく。
黒い魔力管が、赤い亀裂へ繋がっていた。
鬼平は右の砲を撃った。
青白い弾丸が魔力管を切断する。
飛行要塞が大きく傾いた。
しかし、切断された管から黒い霧が噴き出し、再び接続が作られる。
ノアが無線で叫んだ。
「空中では、敵が動き続ける! 右の砲だけでは照準が追いつかない!」
「なら、止める」
鬼平は格納庫に残った大型輸送機へ向かった。
輸送機も黒い霧に覆われている。
しかし、翼とエンジンはまだ使える。
「軍曹、まさか乗るのか?」
高瀬が尋ねる。
「空へ行く」
「操縦できるんですか?」
「撃てる」
「答えになっていません!」
ノアが輸送機の操縦席へ入り、計器を確認する。
「自動操縦なら飛ばせる。だが、武器は動かない」
「砲を積む」
鬼平は二挺のガトリング砲を持ったまま、輸送機の後部へ乗り込んだ。
左の砲を機体の側面へ固定する。
右の《雷鱗砲》を開いた貨物扉から外へ向けた。
グラウ将軍と獣人兵が機体の内部で身体を固定する。
リーゼが魔力の流れを示した。
「飛行要塞の背中に、七つの接続点があります。空中で切断してください」
「撃つ」
ノアが輸送機を発進させた。
機体が滑走路を走り、谷間へ飛び出す。
高度が上がる。
風が強くなり、鬼平の軍用ジャケットが大きくはためいた。
輸送機の周囲を、黒い戦闘機が取り囲む。
左のガトリング砲が回転する。
白い弾幕が敵機の翼を削る。
右の雷鱗砲で、敵機と飛行要塞の接続を切断する。
戦闘機が黒い霧へ戻り、編隊が崩れた。
『空から撃つ』
『地上を焼く』
飛行要塞の機首から、複数の魔石砲弾が発射される。
鬼平は輸送機の貨物扉から身を乗り出し、左の砲を撃った。
砲弾が次々と空中で砕ける。
輸送機が大きく揺れる。
グラウ将軍が鬼平の背中を掴んだ。
「落ちるな、砲の男!」
「落ちない」
「その根拠は!」
「撃てる」
ヴァルグリムが飛行要塞の上空を横切った。
黒い炎が要塞の翼へまとわりつく。
ザルディオンの雷が、敵の電力系統へ流れ込む。
飛行要塞の速度が落ちた。
鬼平は右の雷鱗砲で、一つ目の接続点を切断する。
二つ目。
三つ目。
飛行要塞が反転し、輸送機へ機首を向ける。
魔石砲が赤く輝いた。
ノアが操縦桿を引く。
輸送機が急上昇し、砲撃をかわす。
鬼平は機体の外へ身を乗り出したまま、右の砲を構えた。
四つ目の接続を撃つ。
青白い弾丸が、飛行要塞の翼と赤い亀裂を切断した。
しかし、黒い霧が飛行要塞の外装へ集まり、人の形を作る。
人型は鬼平と同じ二挺の砲を持っていた。
通信塔で戦った機械兵の空中版だった。
『砲を持つ』
『撃つ』
『勝つ』
黒い人型が飛行要塞から飛び移り、輸送機の翼へ着地した。
翼が大きく揺れる。
鬼平は左の砲架を構えた。
黒い人型も同じように砲架を構える。
両者の砲架が空中でぶつかった。
黒い人型が鬼平を翼の外へ押し出そうとする。
鬼平は左の砲架を押し返した。
右の砲で黒い人型の胸部を撃つ。
しかし、黒い人型は弾丸を吸収した。
吸収した光を、自分の砲へ流し込む。
黒い砲が巨大化した。
ノアが叫ぶ。
「敵は鬼平軍曹の砲撃を学習している!」
鬼平は黒い人型を見た。
機械兵は、鬼平が使った言葉まで真似る。
『撃てなくても、殴る』
「真似するな」
鬼平は左の砲架で黒い人型の胸部を殴った。
黒い人型がよろめく。
二撃目。
翼の上にひびが走る。
三撃目。
黒い人型の胸部に埋め込まれた通信魔石が露出する。
右の雷鱗砲で魔石と飛行要塞の接続を切断する。
黒い人型が空中へ投げ出された。
ヴァルグリムが黒い炎で包み、霧を焼き尽くす。
「残り三つ!」
リーゼが叫んだ。
鬼平は飛行要塞の背中へ目を向けた。
五つ目の接続は、巨大な翼の付け根。
六つ目は、尾部の推進装置。
七つ目は、機首の魔石砲。
鬼平はまず翼の付け根を狙った。
左の砲で外装を削り、右の砲で接続を切る。
飛行要塞の片翼が消え、機体が傾いた。
黒い戦闘機が一斉に鬼平たちへ向かってくる。
高瀬と元の兵士たちが、輸送機の側面銃座から応戦する。
グラウ将軍が飛行船の扉から斧を振り、接近した魔導兵を叩き落とす。
ザルディオンの雷が空を走り、敵機の動きを止める。
鬼平は尾部へ照準を合わせた。
黒い霧が尾部の周囲に集まり、巨大な盾を作る。
左の弾幕が盾へ集中する。
白い魔石弾が盾を削り、右の砲が接続を切断する。
飛行要塞の推進装置が止まった。
要塞がゆっくりと高度を落とす。
最後の接続は、機首の魔石砲。
そこには、黒い霧の本体が集まっていた。
飛行要塞の機首が開き、巨大な黒い砲口が現れる。
『地上へ落とす』
『街を消す』
『門を開く』
赤い光が砲口へ集まる。
照準の先には、山の麓にある市街地があった。
鬼平は右の雷鱗砲を構えた。
しかし、砲口の周囲には飛行要塞の装甲と黒い霧が重なっている。
右の砲だけでは、接続を切れない。
ノアが叫ぶ。
「左の砲で装甲を削れ! 右で中心を切る!」
鬼平は両手の砲を構えた。
左のガトリング砲が回転する。
白い弾幕が、飛行要塞の機首へ集中する。
装甲が剥がれ、赤い魔石が露出した。
飛行要塞が砲撃を開始する。
赤黒い光が山の麓へ飛び出した。
鬼平は右の雷鱗砲を撃った。
青白い弾丸が赤黒い砲撃の接続を切断する。
砲撃が空中で崩れ、山肌へ落ちた。
土煙が上がる。
飛行要塞が再び砲撃を準備する。
鬼平は左の砲をさらに撃った。
装甲が砕ける。
右の砲で、機首の魔石砲と赤い亀裂の接続を切る。
六つ目の接続が切れた。
しかし、第六の門は閉じない。
門の向こうから巨大な黒い竜の翼が現れた。
翼が飛行要塞を包み、黒い霧をさらに送り込む。
飛行要塞の砲口が巨大化した。
「敵が門そのものから力を吸っています!」
リーゼが叫ぶ。
「最後の接続を切らないと、門が開き切ります!」
鬼平は右の砲を構えた。
しかし、黒い竜の翼が輸送機へ伸びてくる。
輸送機の翼が切断され、機体が傾いた。
鬼平の足元が滑る。
高瀬が鬼平のベルトを掴んだ。
「軍曹、落ちます!」
「砲を離せない」
「分かっています!」
鬼平は片手で砲を持ち、もう一方の手で輸送機の外壁を掴んだ。
黒い翼が再び襲ってくる。
ヴァルグリムがその前へ割り込んだ。
『我が翼を越えるな』
黒竜と黒い翼が空中で衝突する。
ザルディオンが雷を叩き込み、翼の動きを止めた。
鬼平は最後の接続へ照準を合わせた。
しかし、接続線の周囲には市街地の通信信号と、飛行要塞の火力制御が絡み合っている。
撃てば、砲撃が市街地へ向かう可能性がある。
鬼平は左の砲を構えた。
古竜の白い光が、接続線の外側を照らす。
白い弾幕で、火力制御だけを削る。
赤い砲口の光が弱まる。
右の《雷鱗砲》で、最後の接続を切る。
青白い弾丸が、機首の魔石と門を繋ぐ線を貫いた。
第六の接続点が崩れ始めた。
黒い竜の翼が飛行要塞から剥がれる。
飛行要塞が空中で停止した。
鬼平のハイテンションスキルが、静かに発動する。
魔石弾が尽きない。
砲身が壊れない。
鬼平は飛行要塞へ向かって、左右の砲を同時に撃った。
左の白い弾幕が機首を削る。
右の青い弾丸が、残った黒い接続を切断する。
「この(ピー)が!」
「空から勝手に(ピー)を落としてんじゃねえ!」
「まとめて(ピー)して、山へ帰りやがれ!」
加工音声:ピー、ピー、ピー
飛行要塞の機首が崩れた。
赤い門が縮んでいく。
黒い竜の眼が、門の向こうで鬼平を見た。
『空も閉じる』
『だが、最後の門は地下にある』
鬼平は右の《雷鱗砲》を構えた。
「次も潰す」
最後の接続が切れた。
第六の門が閉じる。
飛行要塞は黒い霧を失い、ゆっくりと山の上へ着地した。
黒い戦闘機も一機ずつ停止し、煙を吐きながら格納庫周辺へ落ちていく。
ヴァルグリムが黒い翼を広げ、落下する機体を風で受け止めた。
ザルディオンの雷が、残った魔石の暴走を抑える。
輸送機は大きく揺れながらも、格納庫の滑走路へ戻った。
鬼平が地面へ降りる。
ノアが二挺の砲を確認した。
「左も右も撃てる。今回は輸送機の翼が壊れた」
「直せるか」
「砲よりは簡単だ」
高瀬が空を見上げた。
赤い亀裂は、完全に消えている。
「第六の接続点、閉鎖です」
リーゼが地図を確認した。
「残るのは、未知の地下接続点だけです」
基地の指揮官が通信を受けた。
「最後の反応が出ました。場所は……旧市街の地下です」
「地下鉄跡地とは別か」
「さらに深い。地中の古い地下施設です」
鬼平は二挺のガトリング砲を担いだ。
左の砲は白く輝いている。
右の《雷鱗砲》は青い雷をまとっている。
ヴァルグリムが静かに言った。
『最後の門は、最初からこの世界にあったのかもしれぬ』
ザルディオンの雷が遠い地下を指した。
『黒きものは、竜域から来たのではない』
『この世界の奥で、目覚めたのだ』
鬼平は北東の格納庫を振り返った。
飛行要塞の残骸の奥で、黒い霧が一粒だけ浮かんでいる。
その霧は、地下へ向かって沈んでいった。
「最後の敵がいる」
鬼平は旧市街へ向かった。
残された最後の接続点。
これまでのすべての門を操っていた黒い霧の本体。
鬼平軍曹の次の戦場は、世界の地下深くに隠された最後の門だった。




