第46話 軍曹、地下鉄の闇を撃ち抜く
南の海上基地を離れた鬼平たちは、西の地下鉄跡地へ向かった。
地上には、使われなくなった駅舎が残っている。
駅名の看板は錆び、階段の入口には立入禁止の柵が倒れていた。
しかし、地下からは低い振動が伝わってくる。
ドクン。
ドクン。
古竜の心臓とは違う。
鉄道網と通信網を利用し、門を作ろうとする偽物の鼓動だった。
鬼平は二挺のガトリング砲を両手に持っていた。
左の砲は白い魔石を輝かせている。
右の《雷鱗砲》は、海水を浴びたにもかかわらず、青い光を安定させていた。
ノアが駅の地図を広げる。
「この地下鉄は、昔の軍用輸送線と繋がっている。地下深くに、使われなくなった指令所があるはずだ」
「接続点は」
「第四の接続点は、地下鉄の線路と通信ケーブルを使っている。たぶん、指令所のさらに奥だ」
リーゼが、地面へ手を当てた。
「黒い霧が、地下全体へ広がっています。線路だけではありません。駅の照明、信号機、古い通信機まで利用しています」
「敵は、地下鉄全部か」
「そう考えた方がいいです」
鬼平は立入禁止の柵を見た。
鉄製の扉には、黒い霧で文字が浮かんでいる。
『地下へ来い』
『鉄の道を進め』
『門を開けろ』
鬼平は右の砲架を扉へ叩きつけた。
一撃で扉が歪む。
二撃目で錠が壊れる。
三撃目で扉が地下階段へ倒れた。
「普通に切断工具を使え」
ノアが言った。
「敵がいる」
「毎回それだな」
鬼平たちは地下へ降りた。
階段の下に、古い駅の改札が残っている。
改札機の表示が一斉に赤く点灯した。
無人のはずの駅構内に、放送が流れる。
『まもなく、門が開きます』
『危険ですので、線路内へお入りください』
高瀬が顔をしかめた。
「案内が逆だ!」
改札機から黒い霧の腕が伸びた。
鬼平は左のガトリング砲で腕を撃ち、右の《雷鱗砲》で改札機との接続を切った。
霧が消える。
しかし、駅の奥から電車の走行音が響いた。
線路には電気が通っていないはずだった。
それでも、二本の線路が赤く光り、黒い列車がホームへ滑り込んでくる。
車体は古い地下鉄車両。
窓の中には、黒い霧で作られた兵士が並んでいる。
列車の先頭には、赤い眼が一つ浮かんでいた。
「列車が敵か」
鬼平は左の砲を構えた。
列車の扉が開き、黒い霧の兵士が一斉に飛び出した。
魔石銃が火を噴く。
鬼平は左のガトリング砲で弾幕を張った。
白い弾丸が魔石銃を破壊する。
右の砲で、兵士と線路を繋ぐ接続を切った。
黒い霧の兵士が倒れる。
しかし、列車の車体から新しい霧が流れ、倒れた兵士を起こしていく。
「再生しています!」
リーゼが叫んだ。
「列車の動力源を止めない限り、何度でも出てきます!」
鬼平は列車の先頭を見た。
赤い眼の下に、黒い魔石が埋め込まれている。
右の《雷鱗砲》で魔石との接続を切ろうとする。
しかし、車両の側面から鉄の扉が飛び出し、弾丸を防いだ。
列車そのものが防御している。
鬼平は左の砲で扉の蝶番を撃ち、右の砲架で扉を殴り飛ばした。
「撃てなくても、殴る!」
鬼平は列車の先頭へ近づいた。
黒い列車が突然動き出し、ホームを離れる。
線路の先には、暗いトンネルが続いている。
鬼平は列車の側面へ飛び乗った。
左のガトリング砲を車体へ固定し、右の砲で先頭の接続を探す。
黒い列車はトンネルを高速で進み始めた。
車内から黒い兵士が現れ、鬼平へ襲いかかる。
鬼平は左の砲を連射し、車内の通路を弾幕で制圧した。
右の砲で兵士の魔力管を切断する。
車両の連結部が大きく揺れた。
後方の車両から、巨大な鉄の腕が伸びてくる。
鬼平は砲架で腕を受け止めた。
鉄の腕には、地下鉄の線路と通信ケーブルが巻きついている。
腕が鬼平を車体から引き剥がそうとする。
鬼平は左の砲で腕の関節を撃ち、右の砲でケーブルとの接続を切断する。
腕が車両の側面へ落ちた。
鬼平は先頭車両へ進んだ。
運転席には誰もいない。
しかし、運転席の窓いっぱいに赤い眼が浮かんでいる。
『列車は止まらない』
『地下を走る』
『世界を繋ぐ』
「止める」
鬼平は左の砲で運転席の制御盤を撃った。
制御盤が破壊される。
黒い霧が運転席へ集まり、壊れた機械を再生させた。
右の雷鱗砲で、制御盤と線路の接続を切る。
列車が揺れた。
速度が少し落ちる。
しかし、線路の先に赤い光が現れた。
トンネルの壁面に、第四の門が開き始めている。
黒い列車は、その門へ向かって走っていた。
「門を抜けるつもりです!」
通信機からリーゼの声が響いた。
「通過されたら、地下鉄全体が異世界への通路になります!」
鬼平は二挺の砲を構えた。
列車を止める必要がある。
しかし、線路そのものが黒い霧に繋がっているため、線路を撃てばトンネルが崩れる可能性がある。
ノアが叫んだ。
「先頭車両の下に、非常用ブレーキの接続があります!」
「どこだ」
「車体の底、右側だ!」
鬼平は列車の外へ出た。
高速で進む車体にしがみつき、線路の上へ身を乗り出す。
黒い霧の触手が、車体の底から伸びてきた。
鬼平は左の砲で触手を撃ち落とし、右の砲架で別の触手を殴り折る。
車体が大きく揺れた。
鬼平は片手で砲を持ち、右側の非常用ブレーキを探した。
赤い魔力管が一本だけ浮かんでいる。
右の砲で狙う。
列車が門まで、あと数十メートルに迫る。
鬼平は引き金を引いた。
青白い弾丸が非常用ブレーキの接続を切断する。
黒い列車が急減速した。
車輪が火花を散らし、トンネル全体が揺れる。
列車は門の手前で止まった。
しかし、第四の門は閉じない。
列車の各車両から、黒い霧が門へ流れ込んでいる。
門を閉じるには、列車と門の接続を切る必要がある。
鬼平は先頭車両へ戻った。
赤い眼が、フロントガラスの向こうで大きく開く。
『列車を壊せ』
『線路を壊せ』
『地下を壊せ』
『世界を壊せ』
鬼平の左の砲が回転を始めた。
ノアの声が通信機から届く。
「軍曹、テンションを上げすぎるなよ!」
「敵が言った」
「何を?」
「地下を壊すと」
「それは敵の脅しだ!」
黒い霧が列車全体を覆い、赤い眼がさらに増えた。
列車の屋根から、鉄の槍が突き出してくる。
鬼平は左のガトリング砲を撃ち、槍を一本ずつ削った。
右の砲で、槍と列車の接続を切断する。
しかし、列車の後方から別の車両が分離し、門へ突進していく。
「車両を切り離して門へ送っています!」
リーゼが叫んだ。
鬼平は列車の連結部へ走った。
黒い霧の兵士が道を塞ぐ。
左の砲で兵士の武器を破壊し、右の砲で魔力管を切断する。
弾幕が車両内を通り抜け、連結部へ道を作った。
鬼平は右の砲架を連結装置へ叩きつけた。
装置が歪む。
後方車両が、門へ向かって加速する。
「時間がない!」
高瀬が叫んだ。
鬼平は左のガトリング砲を連結部へ向けた。
白い弾幕が連結装置を削る。
右の雷鱗砲で、黒い霧の接続を切断する。
車両が分離した。
しかし、分離した車両は惰性で門へ進んでいく。
鬼平は車両の先頭へ飛び乗った。
門の向こうには、竜域の黒い空間が見える。
赤い眼の群れが、車両を通してこちらを見ていた。
鬼平は左の砲を構えた。
車両の床には、地下鉄の制御線と門の接続線が絡み合っている。
右の砲では一度に切れない。
鬼平は左のガトリング砲を連射し、接続線の周囲を削った。
黒い霧が車両の壁から伸び、鬼平の腕へ絡みつく。
「この(ピー)が、列車で(ピー)してくるんじゃねえ!」
鬼平は砲架で霧の腕を殴り飛ばした。
「オレの仲間と、地下の兵士を勝手に道具にするな!」
左の砲がさらに回転する。
白い魔石弾が、車両内の黒い接続を次々に削っていく。
鬼平の戦意が急上昇した。
右の雷鱗砲が電力と魔力を同時に吸収する。
白い弾幕と青い雷が車両を覆った。
《ハイテンションスキル》発動
魔石弾が尽きない。
砲身が壊れない。
黒い霧が車両を包んでも、鬼平の砲撃は止まらない。
「この(ピー)が!」
左の砲で、門へ伸びる接続線を破壊する。
「地下鉄をてめえの(ピー)にするんじゃねえ!」
右の砲で、異世界側の接続を切る。
「まとめて(ピー)して、線路の外へ帰りやがれ!」
赤い眼が一斉に歪む。
加工音声:ピー、ピー、ピー
鬼平は最後の一本へ照準を合わせた。
門の向こうから、巨大な黒い爪が伸びてくる。
鬼平は左の砲架で爪を受け止めた。
砲架が軋む。
黒い爪が鬼平を門へ引きずり込もうとする。
鬼平は右の砲架を持ち上げた。
「撃てなくても、殴る!」
右の砲架を爪へ叩き込む。
黒い爪が砕け、門の向こうへ消えた。
最後の接続線が露出した。
鬼平は右の《雷鱗砲》を構えた。
ハイテンションスキルの力で、雷、砂、氷、電力、火薬の熱が一つに集まる。
鬼平は引き金を引いた。
青白い弾丸が最後の接続を貫く。
第四の門が閉じた。
門へ向かっていた車両が、静かに停止した。
黒い霧が消え、車内の照明が戻る。
鬼平のハイテンションスキルが終了した。
弾薬は減っていない。
砲身も壊れていない。
ただし、地下鉄車両の床には、鬼平の砲架による大きなへこみが残っていた。
ノアが車内へ駆け込んでくる。
「軍曹! 列車を壊すなと言っただろう!」
「門は閉じた」
「列車の床が壊れている!」
「走れるか」
「線路が残っているから、たぶん走れる」
「なら問題ない」
地上へ戻ると、地下鉄跡地の赤い亀裂は消えていた。
しかし、地図上の赤い印はまだ三つ残っている。
北東の山中。
中央部の高層通信施設。
そして、場所の分からない最後の接続点。
基地の指揮官が通信を受けた。
「第四の接続点を閉じた直後、中央部の通信施設で大規模な停電が発生しました」
リーゼが目を細める。
「黒い霧が、次の接続点へ移動したようです」
「次は通信施設か」
鬼平は左のガトリング砲を確認した。
白い魔石は、ハイテンションスキルの後でも安定している。
右の《雷鱗砲》も問題ない。
ノアがため息をついた。
「地下の次は高い場所か」
「撃つ」
「まだ暴言は出ていないな」
鬼平は遠くの通信塔を見た。
その頂上で、赤い光が明滅している。
「敵がいる」
「だから、それは暴言じゃない」
鬼平は二挺のガトリング砲を担いだ。
西の地下鉄跡地を後にし、中央部の高層通信施設へ向かう。
地下深くでは、切断された線路が静かに冷えていた。
閉じた第四の門の向こうで、黒い霧が次の場所へ移動している。
『鉄の道は閉じた』
『ならば、空へ行く』
鬼平軍曹の次の戦場は、雲より高い通信塔だった。




