第45話 軍曹、海上基地を吹き飛ばす
東の廃発電所を離れた鬼平たちは、南の海上基地へ向かった。
海上基地は、沖合に浮かぶ巨大な軍事施設だった。
かつては補給艦や巡視船が停泊し、燃料と弾薬を積み込むために使われていた。
しかし現在、基地の上空には第三の接続点が開いている。
赤い亀裂から黒い霧が流れ込み、海面へ沈んでいた。
海の下には、海底ケーブルと旧式の軍艦が並んでいる。
黒い霧はそれらを魔力管として利用し、海上基地を巨大な門へ変えようとしていた。
鬼平は二挺のガトリング砲を両手に持った。
左の砲は完全修理済み。
右の《雷鱗砲》は、元の世界の電力と火薬の熱を吸収できるようになっている。
基地へ向かう輸送艇の上で、ノアが右の砲を確認していた。
「海上では電力が限られる。発電機を敵に使われたら、こちらの砲も止まるぞ」
「止められる前に撃つ」
「水中用の魔力膜は?」
「海底神殿で破れたままだ」
「海へ落ちたらどうする」
「泳ぐ」
「二挺持ったまま?」
「ああ」
ノアは額を押さえた。
「普通は砲を置いて泳ぐ」
「置けない」
輸送艇が海上基地へ接近した。
基地の甲板には、黒い霧をまとった兵士が並んでいる。
兵士たちは元の世界の海上部隊に似た制服を着ていた。
しかし、手にしている銃は異世界の魔石銃。
背中には、海底ケーブルへ繋がる黒い魔力管が伸びている。
「こちらを待っていたようです」
基地の指揮官が言った。
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
「敵だ」
海上基地の魔石銃が一斉に火を噴いた。
黒い弾丸が輸送艇へ飛んでくる。
鬼平は左の砲で弾丸を撃ち落とした。
白い弾幕が海上を走る。
右の《雷鱗砲》で、兵士と海底ケーブルの接続を切断する。
黒い霧の兵士が、次々と甲板へ倒れた。
輸送艇が基地の側面へ接舷する。
グラウ将軍率いる獣人兵が甲板へ飛び移り、海上部隊を押し返した。
元の世界の兵士たちも銃を構え、黒い霧の兵士を制圧する。
その時、基地の海面下から巨大な音が響いた。
海が盛り上がる。
海底から、古い軍艦が浮上してきた。
船体は錆びているが、黒い霧によって動かされている。
艦橋には巨大な魔石。
両側面には、異世界の魔導砲が取り付けられていた。
軍艦が主砲を基地へ向ける。
「味方の基地を撃つ気か!」
指揮官が叫ぶ。
鬼平は右の雷鱗砲を構えた。
軍艦の主砲と黒い亀裂を繋ぐ接続線が見える。
青白い弾丸が接続を切断した。
主砲の照準が外れ、砲弾は海面へ落ちた。
大きな水柱が上がる。
しかし、軍艦は二番砲、三番砲を次々に旋回させた。
左のガトリング砲で砲身を削る。
右の砲で魔力接続を切断する。
砲身が一つ止まる。
二つ目も止まる。
三つ目の砲が鬼平へ向いた。
鬼平は右の砲架で、飛んできた魔導砲弾を殴り飛ばした。
砲弾は海面へ落ち、輸送艇の近くで爆発する。
輸送艇が大きく揺れた。
鬼平は軍艦へ向かって跳んだ。
左のガトリング砲を下へ向けて撃ち、反動で船体へ着地する。
軍艦の甲板には、黒い霧の兵士と大型魔導兵が待ち構えていた。
大型魔導兵は、船の装甲と竜骨を組み合わせた姿をしている。
両腕には錨のような武器。
背中には、黒い霧を吸い込む巨大な煙突がある。
魔導兵が錨を振り下ろした。
鬼平は左の砲架で受け止めた。
金属と砲架がぶつかり、大きな火花が散る。
鬼平は右の砲で魔導兵の背中を狙った。
しかし、煙突が右の砲の弾丸を吸収した。
吸収された弾丸が、黒い炎となって鬼平へ返ってくる。
鬼平は左の砲で炎を撃ち落とした。
「右の砲を吸収している!」
ノアが通信で叫んだ。
「その煙突を先に壊せ!」
鬼平は魔導兵の錨を右の砲架で押し返した。
左のガトリング砲を背中へ向け、煙突の外装を削る。
黒い霧が噴き出し、吸収装置が露出した。
右の《雷鱗砲》で、吸収装置と煙突の接続を切断する。
煙突が停止した。
鬼平は左の砲を魔導兵の胸部へ密着させた。
短い連射。
装甲が砕け、内部の魔石が見える。
右の砲で魔石と軍艦の接続を切断する。
魔導兵が動きを止めた。
鬼平は砲架を持ち上げた。
「撃てなくても、殴る!」
砲架が魔導兵を甲板へ叩きつけた。
軍艦の甲板がへこむ。
その直後、船の内部から複数の爆発音が響いた。
黒い霧が機関室へ流れ込み、軍艦のエンジンを強制稼働させている。
軍艦が海上基地へ突進を始めた。
「このままでは基地に衝突します!」
高瀬が叫んだ。
鬼平は艦橋へ向かって走った。
黒い霧の兵士が左右から襲いかかる。
左の砲で銃を撃ち落とし、右の砲で背中の接続を切る。
艦橋の扉が閉じた。
鬼平は右の砲架で扉を殴り破った。
艦橋には、黒い霧でできた操舵手が立っていた。
操舵手の身体は、海底ケーブルと軍艦の制御盤に繋がっている。
『船は進む』
『基地へぶつかる』
『門は開く』
「止める」
鬼平は左のガトリング砲で制御盤を撃った。
弾丸が計器を破壊する。
しかし、操舵手は黒い霧を制御盤へ移し、壊れた機械を再生させた。
右の雷鱗砲で、操舵手と制御盤の接続を切る。
船の舵が一瞬止まった。
だが、軍艦は慣性で基地へ進み続ける。
鬼平は艦橋の窓から海上基地を見た。
あと数百メートル。
「逆進させる」
ノアが通信で答えた。
「機関室の主配管を切れば、船は止まる!」
鬼平は艦橋を飛び出し、船内階段を下りた。
機関室へ入ると、巨大な発動機が赤く輝いていた。
元の世界の燃料と異世界の魔石が一体化している。
黒い霧が燃料管から流れ込み、エンジンを暴走させていた。
鬼平は右の砲の照準を燃料管へ合わせた。
しかし、燃料管を切ればエンジンが爆発する可能性がある。
左の砲で、管の周囲にある固定具を削る。
右の雷鱗砲で、黒い霧の接続だけを切断する。
一本目。
二本目。
燃料の流れが弱まる。
エンジンの回転が落ちた。
軍艦の速度が少しずつ下がる。
しかし、機関室の奥から黒い霧の巨人が現れた。
巨人の身体は、エンジンの熱と海水を混ぜた蒸気でできている。
両腕から高圧の水と炎を放つ。
鬼平は左の砲で水炎の流れを撃ち散らした。
右の砲で巨人の胸部を狙う。
胸の奥にある魔力炉と、船体の接続が見えた。
鬼平が撃つ。
接続が切れる。
しかし、巨人はエンジンの熱を吸収して再生する。
鬼平は左の砲を構えた。
砲身が回転する。
「この(ピー)が、船ごと(ピー)する気か!」
巨人が腕を振り下ろす。
鬼平は右の砲架で受け止める。
「オレの仲間が乗ってんだ! 勝手に(ピー)するんじゃねえ!」
左のガトリング砲で、巨人の腕を削る。
右の雷鱗砲で、エンジンと巨人の接続を切る。
巨人の腕が消えた。
「撃てなくても、殴る!」
鬼平は右の砲架を巨人の胸部へ叩き込んだ。
蒸気の身体が大きく崩れる。
左の砲で胸部の魔石炉を撃ち抜く。
巨人が消滅した。
機関室のエンジンが停止する。
軍艦は海上基地の手前で、ゆっくりと進行方向を変えた。
基地の兵士たちが牽引索を投げ、軍艦を安全な場所へ引き寄せる。
鬼平は甲板へ戻った。
しかし、海面の下で別の反応が起きている。
海底ケーブルが一斉に赤く光った。
海上基地の周囲に、七つの赤い円が浮かぶ。
第三の接続点は、軍艦一隻ではなく、海底ケーブル網全体を使っていた。
ケーブルの中心から、巨大な黒い門が海面へせり上がる。
海水が割れ、門の向こうから巨大な黒い魚影が現れた。
『海を道にする』
『船を門にする』
『すべてを繋ぐ』
黒い魚影は、海底ケーブルを身体へ巻きつけている。
頭部には、赤い眼が三つ。
海上基地の発電機と軍艦から魔力を吸い上げていた。
ザルディオンの雷が空から落ちる。
黒い魚影は海へ潜り、雷をかわした。
ヴァルグリムが黒い炎を吐く。
海面が蒸発し、魚影の背中が露出する。
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
海面へ弾幕を撃ち込み、魚影の動きを抑える。
右の雷鱗砲で、魚影と七本の海底ケーブルの接続を探す。
照準線が海中へ伸びた。
「水中用魔力膜がない!」
ノアが叫ぶ。
「右の砲を海へ入れれば、砲身が冷却と水圧で割れる!」
鬼平は砲を見た。
魚影は海上基地へ向かっている。
接続を切らなければ、基地が門の一部になる。
「入る」
「砲を持ったまま?」
「ああ」
「またか!」
鬼平は海へ飛び込んだ。
左のガトリング砲は海中でも白い弾丸を放つ。
弾丸の反動で身体を動かし、魚影へ接近する。
右の《雷鱗砲》は、雷鱗が海水と電力を受け流していた。
青い照準線が、一本目の接続を示す。
鬼平は撃った。
海底ケーブルと魚影を繋ぐ接続が切れる。
魚影が身体をひねり、巨大な尾を振った。
鬼平は左の砲を海底へ向け、反動で尾をかわした。
二本目の接続を右の砲で切る。
三本目。
黒い魚影が口を開き、海水ごと鬼平を吸い込もうとする。
鬼平は左のガトリング砲を魚影の口へ向けた。
白い弾幕が口内へ飛び込み、吸い込みの流れが乱れる。
右の砲で三本目を切断する。
魚影の頭部が崩れた。
しかし、残り四本の接続が一斉に輝く。
海底ケーブルが鎖のように鬼平の身体へ絡みつく。
鬼平は右の砲架でケーブルを殴った。
一本が外れる。
左の砲で別のケーブルを撃つ。
弾丸が海中を進み、ケーブルの固定部を破壊する。
「撃てなくても、殴る!」
鬼平は右の雷鱗砲をケーブルへ押し当てた。
水中では通常の魔力弾が安定しない。
しかし、海上基地から送られている電力が、ケーブルを通って右の砲へ流れている。
鬼平は電力の流れを逆転させた。
海底ケーブルが青く光り、魚影の身体へ電流が走る。
魚影の赤い眼が一つ消えた。
残った二本の接続線が露出する。
鬼平は左の砲で魚影の背中を削り、右の砲で接続を切った。
最後の一本が残った。
それは魚影の胸部と、海上基地の中央電源を繋いでいる。
切れば基地の電力がすべて失われる。
しかし、切らなければ基地が門になる。
鬼平は海上基地を見上げた。
基地の甲板で、ノアが非常用照明を掲げている。
「軍曹! 基地の電力を切っても、人員は退避できます!」
「砲は」
「電力がなくても、左は撃てる! 右は魔石だけで一発なら!」
鬼平は最後の接続線へ照準を合わせた。
左の砲で接続線の外側を削る。
魚影が暴れ、海流が渦を巻く。
鬼平は右の砲架で海底へ身体を固定した。
「この(ピー)が、海まで(ピー)しやがって!」
左のガトリング砲がさらに回転する。
「オレの仲間と基地を、勝手に門にするんじゃねえ!」
鬼平は右の《雷鱗砲》を構えた。
魔力膜はない。
水圧が砲身へかかる。
しかし、雷鱗が海水を受け流した。
鬼平は引き金を引いた。
一発の青白い弾丸が、最後の接続を切断する。
海上基地の電力が落ちた。
同時に、黒い魚影の身体が崩れる。
第三の接続点が閉じ始めた。
魚影が最後の力で、鬼平へ突進する。
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
海中で白い弾幕が広がる。
魚影の赤い眼が、次々と砕ける。
最後の眼へ向けて、鬼平は右の砲架を振り下ろした。
「撃てなくても、殴る!」
魚影が海の底へ沈む。
赤い門が完全に消えた。
鬼平は海面へ向かって、左の砲を撃った。
弾丸の反動で身体が浮上する。
ノアと基地の兵士たちが、鬼平を海上へ引き上げた。
右の《雷鱗砲》は、海水に濡れていたが壊れていない。
左の砲も撃てる。
しかし、鬼平の肩からは海水と血が流れていた。
リーゼが駆け寄る。
「負傷しています!」
「撃てるか」
「砲は問題ありません。あなたの方です!」
「なら、問題ない」
基地の照明が復旧し、海上に光が戻る。
黒い亀裂は消えていた。
第三の接続点は閉じた。
しかし、海上基地のレーダーに新たな反応が表示される。
西の地下鉄跡地。
第四の接続点が起動していた。
「次は地下か」
鬼平は二挺の砲を担いだ。
ノアが右の砲を見て、苦笑した。
「水中で撃ったのに、まだ撃てる」
「撃てる」
「左は?」
「撃てる」
「暴言は?」
鬼平は西の空を見た。
赤い亀裂が一度、明滅する。
「敵が来る」
「それは暴言じゃない」
「地下で出る」
ノアは嫌な予感を覚えた。
鬼平たちは海上基地を後にし、西の地下鉄跡地へ向かう。
海の下では、停止した海底ケーブルが静かに沈んでいった。
空の向こうでは、第四の接続点が黒い霧を吐き始めていた。
鬼平軍曹の次の戦場は、地下鉄の闇だった。




