第44話 軍曹、廃発電所で電撃戦をする
北の旧砲兵演習場を出発した鬼平たちは、東の廃発電所へ向かった。
発電所は、かつてこの地域へ電力を供給していた施設だった。
十年以上前に閉鎖され、現在は巨大な煙突と錆びた変電設備だけが残っている。
しかし、発電所の周囲には新しい光があった。
赤い電流が送電線を走り、空へ向かって伸びている。
廃発電所の上空に、第二の接続点が起動していた。
黒い霧は、発電所に残る変圧器と送電設備を利用し、元の世界の電力を異世界の魔力へ変換している。
鬼平は二挺のガトリング砲を両手に持った。
左の砲は古竜の光で修理され、白い魔石が安定している。
右の《雷鱗砲》は、電力を吸収するたびに青い光を強めていた。
ノアが発電所の地図を見た。
「ここは電力が生きている。送電網へ黒い霧が入り込んでいる」
「切る」
「電力を止めるには、発電所の主遮断器を落とす必要がある」
「敵は」
「送電設備を守るために、電気をまとった魔導兵を作っているようです」
リーゼが空を見上げた。
「接続点は、発電所の冷却塔の上にあります。ですが、電力が強すぎて、普通の魔力探知では近づけません」
「右の砲で探す」
鬼平たちは発電所の正門へ入った。
錆びた鉄扉がひとりでに開く。
内部の照明が、一つずつ点灯していった。
誰もいないはずの建物の中で、機械が動き始めている。
変圧器が唸り、赤い電流が床の配線を走る。
作業員用の通路から、黒い霧をまとった魔導兵が現れた。
兵士の身体には、電線と魔石が巻きついている。
手には電撃銃。
胸には、発電所の電力網へ繋がる接続装置。
魔導兵が一斉に発砲した。
青白い電撃が通路を走る。
鬼平は左のガトリング砲を撃った。
白い弾幕が電撃銃を破壊する。
右の《雷鱗砲》で、兵士と電線の接続を切った。
魔導兵が停止する。
しかし、停止した兵士の電線から、別の兵士へ電力が流れた。
倒れた兵士が、再び立ち上がる。
「電力網が兵士を再起動しています!」
リーゼが叫んだ。
「発電所全体が、敵の身体になっている!」
鬼平は右の砲を床へ向けた。
電線の中から、黒い霧の流れを探す。
赤い照準線が、地下の主配電盤へ伸びていた。
鬼平は右の雷鱗砲で、主配電盤と魔導兵を繋ぐ接続を切った。
兵士たちの電線が消えた。
元の兵士たちが一斉に突入し、魔導兵を拘束する。
通路の奥から、巨大な機械音が響いた。
発電所の変圧器が動き、黒い霧を吸い上げ始める。
変圧器の周囲に電気の腕が伸び、鬼平へ襲いかかった。
鬼平は左の砲架で腕を受け止める。
電気が砲身を伝わり、左手が痺れた。
右の砲で腕の接続を切る。
しかし、変圧器は周囲の送電線から新しい腕を作り出す。
「電源が多すぎる!」
ノアが叫んだ。
「まず主遮断器を落とさないと、敵は何度でも再生する!」
鬼平は通路の奥へ進んだ。
変圧器の電撃が、左右から襲ってくる。
左のガトリング砲で電撃の先端を撃ち、右の《雷鱗砲》で電気の流れを切る。
雷鱗砲身が電力を吸収し、青い光を強めていく。
「右の砲の出力が上がっています!」
リーゼが叫ぶ。
「吸収しすぎると、電力網と一体化します!」
「逃がす」
鬼平は右の砲を天井へ向けて撃った。
吸収した電力が、青白い弾丸となって上空へ放出される。
天井の一部が吹き飛び、赤い電流が空へ逃げた。
右の砲身が安定する。
鬼平は配電室へ到達した。
中央に、巨大な主遮断器がある。
しかし、遮断器の前に電気の竜が立っていた。
発電所の電流と、異世界の竜脈を混ぜて作られた存在だった。
頭部は電線の束。
身体は変圧器と金属板。
口から雷を吐く。
『電気を止めるな』
『力を流せ』
『門を開けろ』
電気竜が雷を放つ。
鬼平は左のガトリング砲で雷の中心を撃った。
弾丸が雷を散らす。
右の砲で、電気竜と主遮断器を繋ぐ魔力線を切る。
電気竜の右半身が消えた。
しかし、竜は床の電線から新しい身体を作る。
鬼平は左の砲で、床の電線を撃った。
白い弾幕が電線を削る。
右の砲で電線の接続を切る。
電気竜の再生が止まった。
鬼平は電気竜へ接近した。
竜が口を開き、強烈な雷を吐き出す。
鬼平は右の《雷鱗砲》を盾にした。
雷が砲身へ流れ込み、青い鱗が激しく光る。
ノアが叫んだ。
「そのままでは右の砲が発電所を吸い尽くす!」
鬼平は砲架を電気竜の顎へ叩き込んだ。
雷の流れが逸れる。
左の砲で電気竜の頭部を撃つ。
頭部の電線が崩れ、内部の魔石が露出した。
右の雷鱗砲で魔石と発電所の接続を切る。
電気竜の身体が、青白い火花へ変わった。
「撃てなくても、殴る!」
鬼平は主遮断器の前へ進んだ。
しかし、遮断器のレバーには黒い霧が絡みついている。
黒い霧は、発電所全体の電力を制御していた。
レバーの周囲に、七つの小さな接続点が現れる。
第二の接続点は、発電所の電力網と異世界の門を繋いでいた。
鬼平は右の砲を構えた。
左の砲で接続点の外側を削り、右で切る。
一つ目を撃つ。
発電所の照明が半分消えた。
二つ目。
変圧器の音が弱まる。
三つ目。
地下から黒い霧が噴き出した。
霧は巨大な人型となり、鬼平の前へ立ちはだかった。
『電力は、兵器になる』
『兵器は、門になる』
『門は、世界を繋ぐ』
「繋がない」
鬼平は左のガトリング砲を撃った。
黒い人型の胸部が削れる。
右の砲で、霧と主遮断器の接続を切る。
人型の腕が消える。
しかし、背後の送電線から新たな腕が伸びた。
グラウ将軍率いる獣人兵が、送電線の支柱へ突入する。
斧が支柱を倒し、送電線が切れた。
元の兵士たちが変電設備へ爆薬を設置する。
「誘爆させるな!」
鬼平が叫ぶ。
「発電所を壊すな。電力だけを止める」
兵士たちは爆薬を外し、手動で遮断弁を閉じていく。
発電所の出力が下がる。
黒い人型が薄くなった。
鬼平は残りの接続点へ射撃を続ける。
四つ目。
五つ目。
六つ目。
黒い人型が鬼平へ突進する。
鬼平は右の砲架で受け止めた。
霧の腕が砲身へ巻きつく。
鬼平は左の砲で腕を撃ち、右の砲架で殴り飛ばす。
「撃てなくても、殴る!」
人型が崩れた。
最後の接続点が露出する。
しかし、主遮断器の背後にある電力管と繋がっている。
最後の接続を切ると、発電所全体の電力が一気に流れ込む可能性がある。
ノアが叫んだ。
「電力を逃がす場所が必要だ!」
リーゼが天井を見た。
「冷却塔の上へ、余剰電力を逃がせます!」
「塔へ流す」
鬼平は右の《雷鱗砲》を冷却塔への接続へ向けた。
右の砲が電力の流れを読み取り、送電線を一時的に切り替える。
発電所の余剰電力が、空へ向かって流れ始めた。
廃発電所の上空に、巨大な雷の柱が立つ。
黒い霧が最後の接続点へ集まった。
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
白い弾幕で、最後の障壁を削る。
右の雷鱗砲で、接続を切る。
赤い電流が一斉に空へ抜けた。
主遮断器のレバーが動き、発電所全体の電力が落ちる。
照明が消え、変圧器が停止する。
第二の接続点が沈黙した。
上空の赤い亀裂も、ゆっくりと閉じていく。
しかし、亀裂の奥から黒い竜の眼が現れた。
『一つ閉じた』
『次は海上基地』
鬼平は右の雷鱗砲を構えた。
亀裂の縁と黒い眼を繋ぐ線が浮かぶ。
鬼平は最後の一発を撃った。
青白い弾丸が接続を断ち、黒い眼が消える。
廃発電所は完全に停止した。
煙突の上に立っていた黒い霧も消え、夜空に星が戻る。
ノアが右の砲を確認した。
「電力を大量に吸収したが、砲身は無事だ」
「撃てるか」
「撃てる。発電所の電力を逃がした分、冷却も進んだ」
「なら、次へ行く」
基地の指揮官が地図を広げた。
「第三の接続点は、南の海上基地です。海上自衛隊の旧補給施設を利用している」
リーゼが地図へ赤い光を移した。
「接続点は海中にあります。海底神殿の時と似ています」
鬼平は右の砲を見た。
水中戦で壊れかけた砲を、今度は元の世界の電力で強化した。
「海へ行く」
グラウ将軍が尋ねた。
「海上基地の敵は、以前の海底神殿と同じだろうか」
「違う」
リーゼが答えた。
「この世界の海には、竜脈がありません。黒い霧は、軍艦と海底ケーブルを使って門を作ろうとしています」
鬼平は二挺のガトリング砲を担いだ。
左の砲は白い魔石。
右の《雷鱗砲》は青い電力をまとっている。
「第三の接続点を潰す」
廃発電所を後にし、鬼平たちは南の海上基地へ向かった。
夜の海の向こうで、赤い亀裂が三度明滅した。
次の戦場は、海の上だった。




