第43話 軍曹、旧砲兵演習場を制圧する
北の旧砲兵演習場は、十年前に閉鎖された場所だった。
山に囲まれた広い谷。
かつては戦車と野戦砲が並び、砲撃訓練が行われていた。
今は錆びた標的と壊れた格納庫が残るだけだった。
しかし、その地下で第一の接続点が起動している。
空には赤い亀裂が浮かび、演習場の中央へ黒い霧が流れ込んでいた。
鬼平たちは装甲車と魔導車を連ね、旧演習場へ入った。
先頭には、元の世界の偵察車。
その後ろに野戦砲、装甲車、そして鬼平が乗る魔導車が続いている。
鬼平は二挺のガトリング砲を両手に持っていた。
左の砲は、古竜の光で完全に修理されている。
右の《雷鱗砲》は、雷、砂、氷、電力、火薬の熱を循環させていた。
ノアが車内で右の砲を確認する。
「元の世界の電力を使うと、出力が安定する」
「撃てるか」
「撃てる。ただし、電力線が切れれば出力が落ちる」
「切らせない」
基地の指揮官が地図を広げた。
「演習場の中央に旧地下指揮所があります。接続点は、その地下深くです」
「敵は」
「黒い霧が、旧式の戦車や砲台へ入り込んでいます」
リーゼが窓の外を見た。
「さらに、赤い亀裂の向こうから魔力反応。異世界の兵士も来ています」
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
演習場の丘の上で、錆びた戦車が動き始める。
車体の隙間から黒い霧が噴き出し、砲塔がこちらを向いた。
旧式の砲弾が発射される。
鬼平は左のガトリング砲を撃った。
白い弾幕が砲弾を空中で砕く。
右の《雷鱗砲》で、戦車と赤い亀裂を繋ぐ接続を切断する。
戦車の砲塔が止まり、黒い霧が車体から抜けた。
「元の兵器を使っている」
指揮官が言った。
「訓練用の戦車や砲台まで、門の端末に変えています」
「全部止める」
演習場の左右から、旧式戦車が十台以上現れた。
さらに、地下格納庫の扉が開き、無人砲台がせり上がってくる。
砲台には黒い魔石が埋め込まれていた。
魔導砲と火薬砲が同時に発射される。
装甲車が急停止し、兵士たちが散開した。
グラウ将軍が獣人兵へ命令する。
「左側の砲台を抑えろ! 元の兵士は戦車の履帯を狙え!」
野戦砲が火を噴く。
砲弾が戦車の前面装甲へ命中し、黒い霧が広がる。
鬼平は二挺のガトリング砲を構えた。
左の砲で戦車の履帯を削る。
右の砲で黒い魔石と車体の接続を切る。
戦車が止まった。
二台目へ向き直る。
左で砲塔を撃ち、右で霧の接続を切断する。
鬼平の弾幕が、演習場を横切っていく。
無人砲台が鬼平へ照準を合わせた。
通常の砲弾ではない。
黒い魔力を圧縮した弾丸だ。
右の雷鱗砲が、砲弾の進路を読み取る。
鬼平は右の砲を撃った。
青白い弾丸が黒い砲弾の接続を断ち、空中で消滅させる。
「右の砲、調子がいい!」
ノアが叫んだ。
「この世界の弾薬と電力が、雷鱗砲身に合っている!」
鬼平は無人砲台へ近づいた。
砲台の周囲には黒い霧が集まり、人の形を作っている。
異世界の魔導兵だった。
兵士たちは黒い槍と魔導銃を持ち、戦車や砲台を守っている。
鬼平は左のガトリング砲を撃った。
魔導兵の盾を削る。
右の砲で盾と黒い霧の接続を切る。
盾が消え、元の世界の兵士が敵を拘束した。
しかし、敵の中に大型の魔導兵が一体いた。
身体は旧式戦車の装甲と竜骨を組み合わせている。
両腕には砲身。
背中には、赤い亀裂へ繋がる太い魔力管。
魔導兵が砲を連射した。
鬼平は左の砲で砲弾を撃ち落とし、右の砲で砲身の接続を切る。
片方の砲が沈黙した。
残った砲身が鬼平へ向く。
鬼平は右の砲架で砲身を殴り、照準を逸らした。
砲弾が丘の斜面へ落ちる。
左の砲で魔導兵の膝を削る。
魔導兵が倒れかける。
右の雷鱗砲で背中の魔力管を切断する。
黒い霧が抜け、装甲だけが地面へ落ちた。
「撃てなくても、殴る!」
鬼平は無人砲台へ向き直った。
砲台の下には、地下指揮所へ続く太い配管がある。
配管から黒い霧が流れ、演習場全体の兵器を動かしていた。
右の砲の照準線が、配管と地下の接続を示す。
鬼平は左の砲で配管の外装を削った。
右の砲で接続を切る。
演習場の戦車と砲台が一斉に停止した。
黒い霧が、地下へ逃げていく。
「地下へ向かった」
リーゼが言った。
「第一の接続点は、地下指揮所の奥です」
鬼平は魔導車を降り、地下格納庫の入口へ向かった。
入口には、厚い鉄扉がある。
鉄扉には旧軍の警告標識が残っていた。
その上から、異世界の赤い紋章が刻まれている。
鬼平は右の砲架で鉄扉を殴った。
一撃でへこむ。
二撃目で警告標識が剥がれる。
三撃目で扉が開いた。
「砲で扉を開けるな!」
基地の整備兵が叫んだ。
「設備が壊れる!」
「敵がいる」
地下格納庫の中は暗かった。
壁には古い砲弾と工具が並び、中央には使われなくなった戦車が置かれている。
戦車の内部から、黒い霧が流れ出していた。
奥の通路から、黒い霧の兵士が現れる。
数は多くない。
しかし、兵士の胸部には元の世界の銃器と異世界の魔石を組み合わせた装具があった。
敵が一斉射撃する。
鬼平は左の砲で銃弾を弾き、右の砲で銃器と魔石の接続を切った。
敵兵が武器を失う。
グラウ将軍の兵士たちが押し進む。
通路の奥に、地下指揮所の扉が見えた。
扉の前には、黒い霧でできた巨大な番兵が立っている。
頭部は砲弾。
胴体は装甲車の車体。
腕には野戦砲の砲身。
番兵が片腕を振り下ろした。
鬼平は左の砲架で受け止めた。
衝撃で床が割れる。
右の砲で砲身の接続を切ろうとする。
しかし、番兵の身体から次々と予備の接続線が伸びてくる。
切っても、すぐに別の線が繋がる。
「黒い霧が周囲の兵器を使って再生しています!」
リーゼが叫ぶ。
鬼平は番兵の背後を見た。
地下格納庫の壁と天井に、無数の古い砲弾が並んでいる。
番兵はそれらすべてと繋がっていた。
鬼平は左の砲を構えた。
砲弾の棚を一列だけ撃つ。
古い砲弾が落ち、番兵の接続線が一部切れた。
右の砲で、接続を切断する。
番兵の左腕が消える。
残った右腕が鬼平を狙う。
鬼平は右の砲架で野戦砲の砲身を殴り、上へ跳ね上げた。
砲弾が天井へ飛び、格納庫の照明を破壊する。
暗闇の中で、鬼平の砲だけが光った。
左のガトリング砲が白い弾幕を放つ。
番兵の装甲が崩れる。
右の雷鱗砲が、中心の黒い魔力核を捉えた。
鬼平は引き金を引いた。
青白い弾丸が核への接続を断つ。
番兵が崩れ、黒い霧が床へ広がった。
鬼平は右の砲架を扉へ叩き込んだ。
地下指揮所の扉が開く。
内部には、旧式の通信機と地図が残っていた。
その中央に、赤い亀裂の小型模型が浮かんでいる。
亀裂の周囲には、七本の細い接続線。
その一本が、旧砲兵演習場の地下深くへ伸びていた。
「接続点は、地中の弾薬庫跡です」
リーゼが地図を確認した。
「そこに黒い霧が集まっています」
鬼平は地下指揮所の床を見た。
床下から、一定の間隔で振動が伝わってくる。
ドクン。
ドクン。
古竜の心臓とは違う。
こちらの世界へ門を作るための、偽物の鼓動だった。
鬼平たちは地下弾薬庫へ向かう。
階段を下りるにつれて、空気が熱くなっていった。
古い砲弾の火薬と、異世界の魔力が混ざっている。
弾薬庫の最下層に、黒い霧が渦巻いていた。
中央には、巨大な魔石が設置されている。
魔石は旧式砲弾の薬莢と、竜の骨を組み合わせて作られていた。
周囲には七本の接続線。
そのうち一本が、赤い亀裂へ伸びている。
「第一の接続点です」
リーゼが言った。
黒い霧が魔石の上で人の形を取った。
顔はない。
胸部だけに、赤い眼がある。
『砲を門にする』
『火薬を竜脈にする』
『この世界の戦争を、永遠に続ける』
鬼平は二挺の砲を構えた。
「させない」
『兵士は撃つ』
『砲は壊れる』
『世界は門になる』
「敵だ」
黒い霧が弾幕を放った。
元の世界の銃弾と異世界の魔石弾が混ざっている。
鬼平は左のガトリング砲を撃ち、弾幕を押し返した。
右の雷鱗砲で、黒い霧と魔石の接続を切る。
しかし、七本の接続線が魔石を守る障壁を作った。
鬼平は左の砲で障壁を削る。
弾薬庫の古い砲弾が誘爆し、床が揺れた。
ノアが叫ぶ。
「火薬庫だ! 左の砲を撃ちすぎると、全員吹き飛ぶ!」
鬼平は射撃を止めた。
黒い霧がその隙に膨張する。
巨大な腕が鬼平へ伸びてきた。
鬼平は右の砲架で腕を殴り、接続線を探す。
黒い霧の腕は、弾薬庫の壁と繋がっている。
壁の内部にある古い電力線を通じて、霧が再生していた。
鬼平は右の雷鱗砲で、壁の電力線を切る。
霧の腕が崩れた。
基地の電源が一瞬落ちる。
弾薬庫が暗闇に包まれた。
鬼平は左の砲を構えた。
通常弾ではなく、白い魔石弾を一発だけ装填する。
古竜の光が、接続線の位置を照らした。
左の砲で、障壁の中心を一発撃つ。
障壁に穴が開いた。
右の雷鱗砲が、その穴から伸びる接続を切断する。
一本目。
黒い霧の障壁が弱まる。
二本目。
魔石の周囲に亀裂が走る。
三本目。
黒い霧の人影が揺らぐ。
しかし、霧は残った四本の接続を使って魔石を強制起動した。
弾薬庫の中に赤い亀裂が開く。
亀裂の向こうから、黒い竜の爪が伸びてきた。
鬼平は左のガトリング砲を撃った。
白い弾幕が爪を削る。
右の砲で爪と魔石の接続を切る。
爪が亀裂の向こうへ引き戻された。
しかし、弾薬庫の火薬に赤い魔力が流れ込み始める。
「あと数分で誘爆します!」
リーゼが叫んだ。
「魔石を破壊するしかありません!」
ノアが首を振る。
「破壊すれば、火薬へ魔力が逆流する!」
鬼平は魔石を見た。
魔石そのものを撃つのではなく、魔石と七本の接続をすべて切ればいい。
しかし、接続を切った瞬間に魔力が暴走する可能性がある。
鬼平は右の《雷鱗砲》へ、基地の電力を集めた。
左の砲へは古竜の白い光を流す。
「左右で分ける」
「何をする」
「左で障壁を抑える。右で切る」
鬼平は二挺の砲を構えた。
左のガトリング砲が、魔石の周囲へ白い弾幕を張る。
白い弾丸が黒い霧を押さえ、接続線を一時的に固定する。
右の雷鱗砲が、一気に接続を切断した。
四本目。
五本目。
六本目。
最後の一本へ照準を合わせる。
黒い霧の人影が鬼平へ突進した。
鬼平は左の砲架で受け止める。
人影の腕が砲身へ絡みつく。
鬼平は右の砲架を振り、黒い人影の胸を殴った。
「撃てなくても、殴る!」
黒い霧が後退する。
鬼平は右の砲で最後の接続を切った。
魔石が、音もなく止まった。
赤い亀裂が閉じていく。
弾薬庫へ流れていた魔力も消えた。
しかし、魔石は砕けずに残っている。
その表面には、次の接続点の位置が浮かび上がっていた。
東の廃発電所。
黒い霧の声が、最後に響く。
『一つ閉じた』
『だが、六つ残っている』
鬼平は停止した魔石を右の砲架で殴り、完全に砕いた。
「残りも潰す」
弾薬庫の火薬は誘爆しなかった。
旧砲兵演習場の第一接続点は、停止した。
地上へ戻ると、空の赤い亀裂も消えていた。
元の世界の兵士たちは、破壊された戦車や砲台を見回している。
基地の指揮官が鬼平へ近づいた。
「第一接続点を制圧しました」
「次は東」
「廃発電所へ向かいます」
ノアが左の砲を確認した。
「古竜の光で修理された後、実戦で撃った。問題ない」
「右は」
「電力を使った分、冷却が必要だ」
「東で冷やす」
「発電所は火と熱の場所だぞ」
「撃つ」
鬼平は二挺のガトリング砲を担いだ。
左の砲は白く輝いている。
右の《雷鱗砲》は、青い雷をまとっている。
東の空に、赤い亀裂が二つ明滅した。
第一の接続点を失った黒い霧が、第二の接続点を急速に起動させている。
その向こうに、廃発電所の煙突が見えた。
鬼平は魔導車へ乗り込んだ。
「東へ向かう」
元の世界での二挺のガトリング砲による戦いは、まだ始まったばかりだった。




