第40話 軍曹、王城の最後の門へ突入する
王都地下の帰還門を抜けた先で、鬼平たちは王城の地下階層へ戻った。
かつて制圧した場所だった。
しかし、以前とは空気が違う。
石壁の隙間から赤い光が漏れ、床全体がゆっくりと脈打っている。
王城の地下深くで、第七の門が起動していた。
門の周囲には、教会の残党と王国軍の精鋭が集まっている。
さらに、王城の柱や床には、七つの門から吸い上げた魔力を流すための新しい魔力管が張り巡らされていた。
鬼平は二挺のガトリング砲を担いだ。
左の砲は白い魔石。
右の《雷鱗砲》は、雷、砂、氷の三つの魔力を内部で循環させている。
その砲身は以前より重く、しかし安定していた。
ノアが右の砲を確認する。
「第七の門では、これまでの門から吸い上げた魔力が一つに集まっている」
「撃てるか」
「撃てる。ただし、今までの門とは違う」
「何が違う」
「この門は、王城そのものと繋がっている。砲撃を間違えれば、城が崩れる」
鬼平は赤い光の向こうを見た。
「敵は」
「王城の全魔導兵が、門の防衛へ集まっています」
リーゼが魔力の流れを読んだ。
「第七の門の中心に、巨大な核があります。あれが古竜の心臓へ続く道を固定しているようです」
「核を撃つ」
「壊せば、王城全体が崩壊する可能性があります」
「接続を切る」
鬼平はそう言って、地下通路の先へ歩き出した。
通路の奥から、王国軍の声が響く。
「異界の軍曹を通すな!」
「門を守れ!」
「王城が落ちれば、王国も終わるぞ!」
通路の両側に、魔導兵が現れた。
これまで戦った兵士よりも装甲が厚い。
胸部には王国の紋章。
背中には第七の門へ繋がる魔力管。
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
白い弾幕が兵士の盾を削る。
敵が盾を重ね、赤い障壁を作った。
右の《雷鱗砲》が障壁の接続点を読み取る。
青白い弾丸が三つの接続を切断した。
障壁が消える。
グラウ将軍率いる獣人兵が突入し、敵を押し返した。
鬼平は通路の奥へ進む。
そこには王城の地下階層を封鎖する巨大な鉄扉があった。
鉄扉の中央に、王家の紋章が浮かんでいる。
その紋章から、無数の魔力線が伸びていた。
「王城の封印です」
リーゼが言った。
「王家の血を持つ者でなければ、開けられません」
鬼平は右の砲を構えた。
「開ける」
「壊すのですか?」
「殴る」
鬼平は右の砲架を鉄扉へ叩きつけた。
一撃で表面にひびが入る。
二撃目で王家の紋章が歪む。
三撃目で封印の魔力線が露出した。
左の砲で紋章の固定具を削る。
右の《雷鱗砲》で、封印と扉を繋ぐ接続を切断する。
鉄扉がゆっくり開いた。
「撃てなくても、殴る!」
高瀬が叫んだ。
「門の前でそれをやらないでくださいね!」
扉の向こうは、王城の最深部へ続く大階段だった。
階段の左右には、歴代の王の石像が並んでいる。
すべての像が、鬼平たちへ顔を向けていた。
石像の目から赤い光が灯る。
王国の守護像が動き始めた。
石の剣。
石の盾。
胸部には古代王族の魔石。
鬼平は左のガトリング砲を撃った。
石像の盾へ弾丸が跳ね返る。
右の砲が、胸部魔石と王城の床を繋ぐ魔力線を探した。
照準線が三本浮かぶ。
鬼平は右の砲を撃った。
石像の動きが止まる。
グラウ将軍が石像の盾を斧で叩き割った。
獣人兵が石像を階段の下へ押し落とす。
しかし、階段の上からさらに巨大な守護像が現れた。
王城の初代王を模した像だった。
高さは三階建ての建物ほどある。
右手には、竜の骨で作られた大剣。
背中には七本の魔力管。
その一本一本が、第七の門へ接続している。
初代王像が大剣を振り下ろした。
階段が崩れ、石片が鬼平たちへ降ってくる。
鬼平は右の砲架で大剣を受け止めた。
衝撃で足元の石が砕ける。
鬼平は左のガトリング砲を像の膝へ向けた。
連射。
膝の石が削れ、像が片膝をつく。
右の《雷鱗砲》で、背中の魔力管を一本切る。
初代王像の動きが鈍る。
さらに一本。
大剣の魔力が弱まる。
鬼平は右の砲架を押し込み、剣を横へ弾いた。
左の砲で像の胸部へ弾幕を浴びせる。
石の装甲が崩れ、内部の魔石が現れた。
右の砲で魔石と門の接続を切る。
初代王像が静かに崩れた。
崩れた石の中から、古い王冠が落ちる。
鬼平は王冠を見た。
赤い魔力がまとわりついている。
「王冠にも門の接続があります」
リーゼが言った。
「王城の王権そのものを、門の制御装置にしている」
鬼平は王冠を右手で掴んだ。
冷気、砂、雷の魔力が右の砲から流れ、王冠の赤い線を浮かび上がらせる。
鬼平は王冠を砲架へ叩きつけた。
王冠が砕け、王城の奥で巨大な音が響いた。
王城の守護術式が一つ、消えた。
その時、最深部から女の声が響いた。
「王を侮辱する者よ」
「王城の血を断つ者よ」
「最後の門を越えることは許さない」
階段の上に、白い法衣の女が立っていた。
教会の最高司祭ではない。
その隣に立っている王国兵でもない。
身体の半分が竜の骨で覆われている。
頭には王冠。
背中には、七枚の翼のような魔導板。
胸には王城の主核が埋め込まれている。
「王国の聖女、アウレリア」
リーゼが呟いた。
「教会の記録では、百年前に亡くなったはずです」
「死んでいない」
女が答えた。
「王城と門の中で、永遠に国を守っている」
鬼平は二挺の砲を構えた。
「敵か」
「王国へ侵入した異界の兵士を排除する」
「敵だ」
アウレリアが手を広げた。
王城の壁から、赤い魔力槍が無数に飛び出す。
鬼平は左のガトリング砲を撃った。
白い弾幕が魔力槍を砕く。
右の砲が、槍を生み出す魔力管の接続を切る。
しかし、アウレリアの背後にある七枚の魔導板が新たな槍を作り出す。
鬼平は右の砲を構えた。
七枚の魔導板と第七の門を繋ぐ接続線が見える。
一枚目を撃つ。
魔導板が停止した。
二枚目。
三枚目。
アウレリアが赤い光を放つ。
王城の石壁から巨大な腕が伸び、鬼平へ振り下ろされた。
鬼平は左の砲架で受け止める。
腕の重さで床が沈んだ。
高瀬と日野が援護射撃を行い、腕の関節を削る。
鬼平は右の砲で腕と王城の接続を切った。
石の腕が崩れ落ちる。
アウレリアの魔導板は残り四枚。
「王城は私の身体」
アウレリアが言った。
「王城を壊せば、あなたの仲間も生き埋めになる」
鬼平は城内を見回した。
壁も床も、門の魔力に繋がっている。
通常の弾幕では、王城全体へ被害が出る。
右の《雷鱗砲》なら、接続だけを切断できる。
「壊さない」
「何をする」
「切る」
鬼平は右の砲で、アウレリアの魔導板を一枚ずつ撃ち抜いた。
接続が切れるたび、王城の赤い光が弱くなる。
四枚目。
三枚目。
二枚目。
最後の一枚が残った。
アウレリアの胸部主核へ直接繋がっている。
アウレリアが王城の全魔力を集めた。
地下階層全体が赤く染まる。
「これが王国の力!」
王城の最深部から、巨大な魔力竜が現れた。
竜は王城の柱と骨を組み合わせた姿をしている。
口から赤い炎を吐き、鬼平たちへ向かって飛ぶ。
鬼平は左のガトリング砲を撃った。
白い弾丸が炎の中へ消える。
右の砲で、魔力竜の頭部と王城を繋ぐ線を切る。
魔力竜の動きが止まった。
鬼平は左の砲を連射し、竜の翼を削る。
魔力竜が階段へ落ちてくる。
グラウ将軍が兵士たちを退避させた。
鬼平は右の砲架で竜の顎を受け止める。
赤い炎が砲身を包む。
雷鱗が雷を吸い、砂の魔力が熱を逃がし、氷の魔力が砲身を冷やす。
鬼平は砲架を押し返した。
「撃てなくても、殴る!」
魔力竜の頭部が横へ逸れる。
鬼平は左の砲で竜の胸部を撃った。
赤い魔力核が露出する。
右の砲で、核と王城の接続を切断する。
魔力竜は赤い光の粒となって消えた。
アウレリアの最後の魔導板が砕ける。
彼女の身体を覆っていた竜骨が剥がれ落ちた。
しかし、胸部の主核だけは残っている。
「私は王国そのもの」
アウレリアが言った。
「私を切れば、王城が崩れる」
鬼平は主核を見た。
主核から第七の門へ、一本の太い接続線が伸びている。
さらに、王城の地下深くへも接続していた。
リーゼが魔力を読み取る。
「主核を破壊せず、門との接続だけを切れば、王城は崩れません」
「できるか」
「ただし、非常に細い接続です。外せば、門の向こうから逆流が起きます」
「逆流したら」
「古竜の心臓へ向かう魔力が、こちらへ噴き出します」
「撃つ」
鬼平は右の雷鱗砲を構えた。
アウレリアが手を伸ばす。
王城の床から、無数の黒い槍が鬼平の足を狙って伸びた。
左のガトリング砲が弾幕を放つ。
黒い槍が折れる。
右の砲が、アウレリアの主核と門の接続線を捉えた。
しかし、主核の奥から別の声が響いた。
『門を開け』
『心臓へ進め』
『竜域を終わらせろ』
アウレリアの身体が大きく震える。
彼女は門の守護者ではなく、門に操られていた。
王城の主核のさらに奥に、別の意志がある。
鬼平は照準を変えた。
主核と第七の門を繋ぐ接続線の中に、黒い異物が見える。
「教会の魔力ではありません」
リーゼが言った。
「門の向こう側から、何かが主核を操っています」
「撃つ」
鬼平はまず左の砲で主核の外装を削った。
内部の赤い線が露出する。
右の雷鱗砲で、黒い異物と接続線を狙う。
アウレリアが最後の力で鬼平へ突進した。
鬼平は右の砲架で受け止める。
アウレリアの腕が砲身へ絡みつく。
「なぜ、王国を守らない!」
「仲間を守る」
「王国の民は仲間ではないのか!」
「敵じゃない」
鬼平はアウレリアを押し返した。
「王国を使う奴が敵だ」
左のガトリング砲で、アウレリアの腕にある魔力管を撃つ。
腕が動かなくなる。
右の砲で、黒い異物との接続を切断する。
黒い光が主核から抜けた。
アウレリアの身体から赤い魔力が消えていく。
彼女はその場に膝をついた。
「王城が……崩れない?」
「まだだ」
鬼平は主核と第七の門の接続へ照準を合わせる。
リーゼが魔力の流れを読む。
「今なら、逆流を外へ逃がせます!」
「どこへ」
「城の地下水路へ。王都の外へ流す必要があります」
鬼平は左の砲で、地下水路へ続く古い排出管の封印を破壊した。
右の砲で、主核と門の接続を切断する。
青白い弾丸が、細い魔力線を正確に断った。
第七の門が揺れる。
大量の赤い魔力が噴き出し、地下水路へ流れていく。
王城全体が震えた。
壁の赤い光が消える。
門の輪郭が縮まり始めた。
「成功です!」
リーゼが叫んだ。
しかし、門の向こうから巨大な眼が開いた。
古竜の心臓へ続く道の先に、何かが待っている。
七つの門を利用し、竜域と王国を繋ごうとしていた存在。
赤黒い眼が、鬼平を見た。
『砲を持つ異界の兵士』
『門を閉じる者』
『心臓を守る者』
鬼平は二挺のガトリング砲を構えた。
「敵か」
『まだ、敵ではない』
「なら、門を閉じる」
『心臓へ来い』
『そこで、敵かどうかを決める』
鬼平は右の雷鱗砲を門へ向けた。
門の中心には、最後の制御線が残っている。
それを切れば、王国と竜域を繋ぐ第七の門は閉じる。
鬼平は引き金を引いた。
青白い弾丸が門の中心を通り、最後の接続線を切断する。
第七の門が閉じた。
赤黒い眼が消える。
『待っている』
最後の言葉だけが、王城の地下へ残った。
王城を覆っていた赤い光が消えた。
七つの門は、すべて停止した。
アウレリアの胸部主核から、王城へ流れていた魔力も止まる。
彼女は白い法衣だけを残し、静かに倒れた。
鬼平が近づく。
「生きているか」
アウレリアはかすかに目を開いた。
「王国は……守られたのか」
「門は閉じた」
「そう……」
彼女は王城の天井を見た。
「なら、私はもう眠れる」
アウレリアの身体が白い光に変わる。
王城の主核は、赤い魔石から透明な石へ変わった。
門の支配から解放されたのだ。
グラウ将軍が、王城の地下を見回した。
「門は閉じた。しかし、王国はまだ戦場だ」
王国軍の兵士たちは、武器を捨てている。
教会残党の一部は逃げたが、指揮系統を失っていた。
ノアが右の《雷鱗砲》を確認する。
「三つの魔力を使っても、砲身は無事だ」
「撃てるか」
「撃てる。ただし、今は撃つ必要はない」
鬼平は右の砲を担いだ。
「敵が来る」
王城の上空で、赤い亀裂が一つだけ残っていた。
第七の門が閉じた後も、空間の裂け目が完全には消えていない。
その向こうに、竜域のさらに奥にある黒い山脈が見える。
山脈の中心から、巨大な鼓動が響いていた。
古竜の心臓が、まだ動いている。
『待っている』
鬼平は赤い亀裂を見上げた。
「行く」
リーゼが驚く。
「門は閉じたのに?」
「敵がいる」
ヴァルグリムが王城の上空へ降りてきた。
『七つの門は閉じた』
『だが、古竜の心臓は目覚め始めている』
ザルディオンの雷が、赤い亀裂へ集まる。
『竜域の中心へ行く道は、今しか開かない』
グラウ将軍が尋ねた。
「王都をどうする」
「王国軍は戦う意思を失っています」
日野が答えた。
「こちらの兵士と獣人兵で、王都の安全を確保できます」
鬼平はノア、リーゼ、ヴァルグリム、雷竜たちを見た。
ここまで、王国、竜域、異世界を行き来してきた。
魔石ガトリング砲を撃ち、壊れれば殴り、門を一つずつ閉じてきた。
そして最後に残ったのは、門の向こうで待つ何かだった。
「心臓へ行く」
鬼平が言った。
ノアはため息をついた。
「砲の整備は、心臓の前でやるのか?」
「必要なら」
「必要になるだろうな」
鬼平たちは、王城に残る裂け目へ向かった。
鬼平は二挺のガトリング砲を両手に持つ。
左の砲は白い魔石。
右の砲は《雷鱗砲》。
王国の王城を背に、鬼平は竜域の中心へ進む。
赤い亀裂の向こうで、古竜の心臓が大きく鼓動した。
ドクン。
ドクン。
鬼平は一度だけ、砲身を確認した。
「撃てる」
そして、門の向こうへ踏み込んだ。




