第39話 軍曹、王都地下の門を止める
凍土の竜骨城から王都地下へ戻った瞬間、空気が重くなった。
かつて鬼平たちが制圧した地下区画には、赤い魔力が満ちている。
壁に埋め込まれた魔石が、一定の間隔で明滅していた。
王都地下の最深部で、第六の門が起動している。
その魔力は、王城地下にある第七の門へ伸びていた。
二つの門を繋ぐための主制御線が、地下迷宮の天井を走っている。
「ここは、以前来た場所より深い」
リーゼが地図を広げた。
「第六の門は王都地下の竜脈跡に設置されています。第七の門と接続されれば、王城から古竜の心臓へ直接道が開く」
鬼平は二挺のガトリング砲を構えた。
左の砲は白い魔石。
右の《雷鱗砲》は、雷と砂と氷の魔力を循環させている。
青い鱗の間に、三色の光が走った。
「第七の門を先に壊すか」
「いえ」
リーゼが首を振る。
「二つの門が繋がる前に、第六の門の接続を止める必要があります。第七の門を先に破壊すると、魔力がこちらへ逆流します」
「第六を止める」
グラウ将軍が周囲を見回した。
地下区画には、教会の残党と王国兵が集まっている。
王都で捕虜になった者たちを解放した後、残った教会兵が地下へ逃げ込んでいた。
その数は多くない。
しかし、地下の壁には新しい魔力管が張り巡らされている。
捕虜や竜の魂を、門の燃料に使っている可能性があった。
「先へ進む」
鬼平が言った。
地下通路の奥から、魔導兵が現れた。
以前の王城戦で戦った兵士たちとは違い、今回は黒い装甲に赤い魔石を埋め込んでいる。
胸部には、門へ繋がる魔力管。
鬼平は左のガトリング砲を撃った。
白い弾丸が胸部装甲を削る。
右の《雷鱗砲》が、装甲の隙間にある接続部を読み取った。
青い弾丸が魔力管を切断する。
魔導兵が停止した。
後ろから別の兵士が迫る。
鬼平は右の砲架を振り、敵の槍を受け止めた。
左の砲で槍を撃ち落とし、右の砲架を胸部へ叩き込む。
「撃てなくても、殴る!」
地下通路の魔導兵が次々に倒れていく。
しかし、敵は兵士だけではない。
天井から黒い鎖が伸び、鬼平たちの足へ絡みついた。
鎖の先は、壁に埋め込まれた魔石へ繋がっている。
右の雷鱗砲の照準線が、鎖と魔石の接続を示した。
鬼平は一発撃った。
鎖が消え、足が自由になる。
リーゼが壁の魔石を確認した。
「これは、古い王城の拘束術式です。教会が改造して、門の防衛装置にしています」
「竜もいるか」
「反応があります」
通路の奥から、低い唸り声が響いた。
壁の奥に、巨大な氷竜の頭部が埋め込まれている。
凍土から運ばれた竜の骨を、王都地下の魔力管へ接続していた。
鬼平は右の砲を構えた。
頭部を壊さず、魔力管だけを切る。
三本の接続を撃ち抜くと、氷竜の目から赤い光が消えた。
白い光が一瞬灯る。
『また、縛られていた』
「門の場所は」
『地下の王墓。赤い門の前に、教会の王がいる』
「教会の王?」
『最高司祭ではない。王都の地下で、門を守る者』
氷竜の声が消えた。
鬼平たちはさらに奥へ進んだ。
地下通路を抜けると、巨大な王墓へ出た。
かつての王族が眠る場所。
棺の周囲には、王国の紋章と教会の紋章が並んでいる。
中央に、第六の門が浮かんでいた。
門の向こうに、第七の門の輪郭が見える。
二つの門は、すでに半分ほど接続されている。
門の前に、一人の男が立っていた。
王冠をかぶり、白い法衣をまとっている。
その胸には、黒い魔石が埋め込まれていた。
「来たか、異界の軍曹」
男が言った。
「私は王国の摂政、そして教会の門守だ」
「門を閉じる」
「王国を救うために必要な門だ」
「竜を使う」
「竜は力だ。力を使わずに何を守る?」
鬼平は二挺の砲を構えた。
「仲間を守る」
「仲間? 異世界の兵士、獣人、竜。それらを同列に扱うのか」
「ああ」
「愚かな軍曹だ」
摂政が手を上げた。
王墓の棺が一斉に開く。
中から、王国の古代騎士が立ち上がった。
鎧には、王族の魔石が埋め込まれている。
騎士たちは門の魔力管と繋がり、赤い光を放っていた。
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
古代騎士の盾へ弾丸を集中させる。
右の雷鱗砲が、盾と門の接続を読み取る。
接続を切断すると、騎士の動きが止まった。
グラウ将軍率いる獣人兵が、停止した騎士を押し倒していく。
セレナは摂政の周囲にある魔力管を狙撃した。
一本が切れる。
摂政の黒い魔石が光を増した。
「無駄だ。門は王国の血で守られている」
王墓の床から赤い魔力が噴き上がる。
古代騎士たちの鎧が再び動き始めた。
鬼平は左右の砲を交互に撃った。
左で装甲を削り、右で魔力接続を切る。
しかし、騎士たちは何度も立ち上がる。
門の向こうから、第七の門の魔力が流れ込んでいた。
「接続が進んでいます!」
リーゼが叫んだ。
「あと数分で、二つの門が完全に繋がります!」
鬼平は王墓の中央にある門を見た。
門の縁には、七つの制御環がある。
六つは王墓の柱へ繋がり、最後の一つは摂政の胸部魔石へ伸びている。
摂政を撃てば、魔力が第七の門へ逆流する。
先に六つの柱を切り、最後に摂政の魔石を外す必要がある。
「柱を壊す」
鬼平は王墓の東側へ走った。
古代騎士が立ちはだかる。
左のガトリング砲を撃ち、盾を砕く。
右の砲架で胸部を殴る。
騎士が倒れた。
第一の柱へ到着する。
右の雷鱗砲で接続を切る。
門の光が揺らいだ。
第二の柱へ向かう。
摂政が黒い魔力を放つ。
魔力の刃が鬼平へ飛ぶ。
鬼平は左の砲で刃を撃ち砕く。
第三の柱を切断する。
王墓全体が揺れた。
「門が不安定です!」
リーゼが叫ぶ。
「今、閉じることはできません!」
「続ける」
鬼平は第四の柱へ向かう。
古代騎士が大剣を振り下ろす。
鬼平は右の砲架で受け止め、左の砲で騎士の足を撃った。
騎士が膝をつく。
右の雷鱗砲で、門との接続を切る。
第四の柱が沈黙した。
残り二つ。
しかし、摂政の胸部魔石がさらに輝いた。
王墓の天井から、巨大な王冠のような魔導装置が降りてくる。
装置は第七の門から流れる魔力を受け、王墓全体を覆う障壁を作った。
「この王都は、王のためにある!」
摂政が叫ぶ。
「門は王国を救う。竜域も、異世界も、すべて王国の支配下に置く!」
「敵だ」
鬼平は障壁へ向かって撃った。
左の白い弾丸が弾かれる。
右の雷鱗砲は、障壁の内側にある六本の魔力線を読み取った。
鬼平は右の砲を撃つ。
一本目の魔力線が切れた。
二本目。
三本目。
障壁の光が弱まる。
セレナと日野が摂政の周囲へ回り込み、魔力管を狙撃する。
高瀬が古代騎士を足止めし、グラウ将軍が第四柱周辺を制圧する。
鬼平は第五の柱へ到達した。
王冠型装置から雷と炎が同時に放たれる。
右の砲が雷を吸収し、左の砲が炎を撃ち散らす。
右の雷鱗砲で第五の柱の接続を切る。
門の中心が暗くなった。
残り一つ。
最後の柱は、摂政の背後にある。
摂政自身が柱を守っている。
彼の身体から、巨大な黒い腕が伸びた。
腕は王族の魔力と教会の魔力を混ぜた怪物の腕だった。
鬼平へ振り下ろされる。
右の砲架で受け止める。
腕の力が強い。
鬼平の足が床へ沈む。
左のガトリング砲を腕の関節へ向ける。
連射。
黒い鱗が砕ける。
右の砲で接続を切る。
腕が消えた。
鬼平は最後の柱へ走った。
摂政が魔石剣を作り、正面から突進する。
鬼平は左の砲で剣を撃ち砕く。
摂政が鬼平の肩へ体当たりする。
二人が王墓の床へ倒れた。
「貴様は、門を閉じて何を得る!」
摂政が鬼平の首を掴む。
「帰る道を守る」
「王国には帰る道がない!」
「作る」
鬼平は右の砲を摂政の胸部へ押し当てた。
しかし、撃たない。
黒い魔石と最後の柱を繋ぐ接続線が見えている。
鬼平は砲架を摂政の腕へ叩き込む。
腕が離れた。
左の砲で摂政の魔力管を削る。
右の雷鱗砲で、最後の柱との接続を切断する。
第六の門が大きく揺れた。
摂政の胸部魔石から、第七の門へ向かって魔力が逆流する。
「今です!」
リーゼが叫ぶ。
「摂政の魔石を外してください!」
鬼平は右の砲の照準を、黒い魔石の固定具へ合わせた。
左のガトリング砲で固定具を削る。
摂政が魔力を暴走させる。
王墓の床から、赤い手が何本も伸びてきた。
グラウ将軍が斧で手を叩き潰し、セレナが摂政の肩を射抜く。
鬼平は一つ目の固定具を撃つ。
二つ目。
三つ目。
黒い魔石が胸部から浮いた。
しかし、魔石は第七の門とまだ繋がっている。
魔力が激しく逆流する。
鬼平は右の砲を魔石へ近づけた。
《竜脈断ち》の照準線が、魔石と第七の門を繋ぐ一本の線を示す。
鬼平は撃った。
接続が切れた。
黒い魔石が床へ落ちる。
摂政の魔力が消え、王墓の障壁が崩壊した。
第六の門が閉じ始める。
だが、第七の門が向こう側から門を押し広げていた。
王城地下の向こうに、巨大な赤い門が現れる。
その門の前に、教会最高司祭が立っていた。
「第六の門を閉じても、最後の門は残る!」
最高司祭が叫ぶ。
「王城の門を開けば、古竜の心臓へ到達できる!」
鬼平は王墓の第六の門を見た。
門は閉じている。
しかし、第七の門が完全に開けば、こちら側へ侵入される。
「最高司祭は生きていたのか」
ノアが驚く。
「黒竜の門で拘束したはずだ」
最高司祭の身体は、以前より大きく変わっていた。
白い法衣の背中から、七本の黒い翼が伸びている。
胸には、複数の門の魔石が埋め込まれていた。
「門を閉じるために、すべての魔力を集めた!」
最高司祭の周囲に、王国軍の残党が現れる。
「第七の門を、王城から開く!」
鬼平は二挺のガトリング砲を構えた。
左の砲は白い光。
右の《雷鱗砲》は三つの魔力を循環させている。
「撃つ」
鬼平は第七の門へ向けて、左の砲を撃った。
白い弾丸が門の縁を削る。
右の砲で、最高司祭の七本の翼と門の接続を切断する。
一つ。
二つ。
三つ。
最高司祭が黒い雷を放つ。
鬼平は右の砲で雷を吸収する。
雷が弾丸へ変換され、門の中心へ撃ち返される。
門がさらに揺れた。
「第六の門が閉じる前に、第七の門を破壊するのですか?」
リーゼが尋ねる。
「壊さない」
鬼平は最高司祭を見た。
「接続を切る」
最高司祭の胸に埋め込まれた門の魔石が、赤い照準線で浮かび上がる。
魔石そのものを撃てば、七つの門へ逆流する。
鬼平は最高司祭の周囲にある七本の接続線へ照準を移した。
左右のガトリング砲を交互に撃つ。
左で翼の魔力線を削り、右で接続を切る。
四本目。
五本目。
六本目。
最高司祭が咆哮し、黒い翼で鬼平へ迫る。
鬼平は右の砲架で翼を殴り、左の砲で翼の付け根を撃つ。
七本目の接続線が露出した。
鬼平は右の雷鱗砲を構えた。
雷と砂と氷の魔力が、砲身へ集まる。
最高司祭が両手を広げる。
「この世界は、門の向こうへ沈む!」
鬼平は引き金を引いた。
青白い弾丸が、最後の接続を切断する。
七本の翼が一斉に消えた。
最高司祭の胸の魔石が浮き上がる。
第七の門が、王城側へ引き戻されていく。
最高司祭は門の縁にしがみついた。
「まだだ! 王城の門は、すでに起動している!」
「なら、王城へ行く」
鬼平は最高司祭を見た。
「門を閉じる」
最高司祭が笑う。
「王城へ来るがいい。最後の門は、王国そのものだ!」
最高司祭の姿が第七の門の向こうへ消える。
第六の門が閉じた。
王都地下に、静けさが戻る。
鬼平は右の《雷鱗砲》を下ろした。
右の砲身は、凍土の魔力で安定している。
左の砲も撃てる。
しかし、王城の第七の門はまだ開いている。
ヴァルグリムの声が、遠くから響いた。
『残る門は一つ』
『だが、最後の門は王国の中心にある』
グラウ将軍が、王都地下の地図を見た。
「王城へ戻る必要があります」
鬼平は二挺のガトリング砲を担いだ。
「戻る」
ノアが右の砲を見た。
「王城では、もう砲を直す時間はないぞ」
「直っている」
鬼平は右の砲身を見た。
雷、砂、氷の三つの魔力が、静かに循環している。
「撃てる」
王都地下の閉じた第六の門の向こうで、王城の第七の門が赤く輝いた。
その中心に、古竜の心臓へ続く道が見えている。
鬼平軍曹と仲間たちは、最後の門へ向かって歩き始めた。




