第37話 軍曹、砂漠の竜骨兵器を撃つ
雷鳴の高原を越えると、景色が変わった。
雲が消え、空が広くなる。
地面は乾き、赤い砂がどこまでも続いていた。
竜域東南部に広がる、赤砂海。
その地下深くに、かつて竜王たちの墓所だった遺跡が眠っている。
第四の門は、その王墓の奥にある。
鬼平たちは魔導車で砂漠を進んでいた。
先頭を走るのは、砂漠に適応した獣人の案内車。
その後ろを元の世界の装甲車と魔導車が続く。
上空にはヴァルグリムと雷竜ザルディオンが飛んでいる。
鬼平は二挺のガトリング砲を持っていた。
左の砲は白い魔石。
右の砲は、雷鱗を組み込んだ《雷鱗砲》。
青い鱗の隙間から、細い雷が走っている。
ノアは右の砲の魔力計を確認した。
「雷鱗砲は順調だ。砂漠の魔力にも対応できる」
「撃てるか」
「撃てる。砂の中の魔力線も見えるはずだ」
「なら、敵が隠れていても撃てる」
「砂漠では、撃つ前に足場が崩れる可能性がある」
「崩れたら、殴る」
ノアは何も言わなかった。
砂丘の向こうに、黒い煙が上がっている。
王国軍の野営地だった。
砂漠の中央に、巨大な採掘装置が並んでいる。
王国軍は地中から竜骨を掘り出し、古代竜骨兵器を組み立てていた。
「敵の拠点を確認」
セレナが遠眼鏡を下ろした。
「魔導車が十台。採掘装置が六基。中央に巨大な竜骨の影があります」
「竜骨兵器か」
リーゼが魔力を探る。
「まだ完全には起動していません。しかし、あれが動けば砂漠全体の竜脈を吸い上げます」
鬼平は魔導車を止めた。
「拠点を壊す」
グラウ将軍が獣人兵へ指示を出す。
「砂丘の陰から接近する。敵の採掘装置を止めろ!」
元の世界の兵士たちは装甲車を盾にして進む。
王国軍の見張りがこちらを発見した。
「敵襲だ!」
魔導砲が回転する。
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
白い弾幕が魔導砲の砲身へ集中する。
砲身が曲がり、発射された光弾が砂丘へ落ちる。
右の雷鱗砲が、魔導砲の魔力管を読み取る。
青い弾丸が管の接続を切断し、砲台が停止した。
砂丘の向こうから、王国軍の魔導兵が押し寄せる。
盾は砂漠用の竜骨装甲。
足元には、砂へ沈むための魔導具が付いている。
鬼平は左の砲で盾を削り、右の砲で足元の魔導具を切断した。
魔導兵が砂へ沈み、動けなくなる。
獣人兵が敵の武器を奪い、元の世界の兵士が捕虜を拘束する。
第一の採掘装置へ到達した。
装置は砂の下へ巨大な管を伸ばし、竜脈から魔力を吸い上げている。
鬼平は右の雷鱗砲を構えた。
砂の中に埋まった接続部が、赤い照準線で浮かび上がる。
一発。
魔力管が切れ、採掘装置が停止する。
二基目。
三基目。
六基すべての装置が沈黙した。
砂漠の赤い光が弱まる。
その瞬間、地面が揺れた。
採掘装置の奥から、巨大な骨の腕が砂を突き破った。
砂丘が崩れ、古代竜骨兵器が姿を現す。
頭部は竜の頭蓋。
身体は複数の竜の骨を組み合わせた装甲。
背中には、砂を巻き上げる四枚の翼。
胸部には巨大な魔石炉が埋め込まれている。
王国軍の旗が、骨の背中へ突き刺さっていた。
「起動しただと?」
王国軍の指揮官が叫ぶ。
「採掘装置を止めたのに、竜骨兵器が動いている!」
兵器の三つの目が赤く輝いた。
『熱い』
『骨を返せ』
『砂を汚す者を、砕け』
複数の竜の声が重なっている。
竜骨兵器が腕を振り下ろした。
砂漠に巨大な亀裂が走る。
鬼平は左のガトリング砲で、腕の関節を撃った。
骨が砕ける。
右の雷鱗砲で、関節の魔力接続を切る。
腕が止まった。
しかし、兵器の胸部魔石炉から赤い光が噴き出した。
砂が空へ巻き上げられ、巨大な砂嵐になる。
鬼平たちの視界が消えた。
「軍曹、砂嵐です!」
高瀬が叫ぶ。
「敵の位置が分かりません!」
鬼平は右の雷鱗砲を構えた。
雷鱗砲の照準に、砂の中を通る魔力線が浮かぶ。
竜骨兵器の脚部から、砂漠の地下へ四本の魔力線が伸びている。
鬼平は左の砲で、砂嵐の中の魔導兵を撃つ。
右の砲で、地下の魔力線を切断する。
一つ目の脚が沈んだ。
二つ目の脚が止まる。
竜骨兵器がバランスを崩した。
しかし、翼から砂の刃が無数に飛んでくる。
鬼平は右の砲を盾にして受け止めた。
雷鱗が砂の魔力を受け流す。
ノアが叫んだ。
「砂の刃を吸収している!」
「撃てるか」
「逆に砂の魔力を弾へ回せる!」
鬼平は右の雷鱗砲を砂嵐へ向けた。
吸収した砂の魔力が、赤い弾丸へ変換される。
一発。
砂の刃を生み出していた翼の接続部が砕ける。
竜骨兵器の右側の翼が崩れた。
左の翼が砂を巻き上げる。
鬼平は左の砲で翼の骨を削り、右の砲で魔力接続を切断する。
砂嵐が弱まった。
ヴァルグリムとザルディオンが上空から降下する。
ヴァルグリムの黒い炎が、兵器の背中に立つ王国軍の魔導師を追い払う。
ザルディオンの雷が、竜骨兵器の翼へ落ちる。
雷が骨を伝わり、魔力炉の位置が浮かび上がった。
「胸部の魔石炉が本体です!」
リーゼが叫ぶ。
「ただし、破壊すると地下の竜脈へ魔力が逆流します!」
「接続を切る」
鬼平は竜骨兵器の正面へ進んだ。
兵器が巨大な頭部を下げ、口から砂の砲弾を吐き出す。
左のガトリング砲が砂の砲弾を撃ち落とす。
右の雷鱗砲が、砲弾を生み出す竜骨の接続を切る。
兵器の口が閉じた。
鬼平は胸部魔石炉へ近づいた。
魔石炉の周囲には、六本の竜骨固定具がある。
固定具を外せば、魔石炉を兵器から分離できる。
しかし、固定具の前に王国軍の重装魔導兵が立ちはだかった。
「この兵器は王国の遺産だ!」
重装兵が巨大な斧を振り下ろす。
鬼平は右の砲架で受け止めた。
斧が砲身へ食い込み、砂と火花が散る。
鬼平は左の砲を重装兵の肩へ向けた。
短い連射。
装甲が砕け、重装兵の腕が下がる。
右の砲架を振り上げ、重装兵の胸部へ叩き込む。
敵が後ろへ吹き飛ぶ。
「撃てなくても、殴る!」
鬼平は六本の固定具へ照準を合わせた。
左の砲で固定具の表面を削る。
右の雷鱗砲で接続を切る。
一つ。
二つ。
三つ。
魔石炉が少し浮き上がる。
竜骨兵器が咆哮し、両腕を振り回す。
グラウ将軍が斧で片腕を受け止める。
獣人兵が足元へ突入し、脚の魔力杭を破壊する。
セレナが頭部の赤い目を一つ射抜いた。
日野と高瀬が残りの固定具へ向かう。
「四つ目、切断!」
「五つ目、破壊しました!」
残るは一本。
固定具の背後に、竜骨兵器の頭部から伸びる魔力管がある。
鬼平は右の砲の照準をそこへ合わせた。
砂嵐の中から、王国軍の指揮官が現れる。
「止めろ!」
指揮官が魔力剣を構え、鬼平へ突進する。
鬼平は左のガトリング砲で剣を撃ち落とした。
指揮官が接近し、鬼平の腕を掴む。
「竜骨兵器は、王国が長年かけて作り上げたものだ!」
「竜を使った」
「力を持たぬ竜に、役割を与えた!」
「勝手に縛った」
「竜の骨は、死んだ者のものだ!」
鬼平は指揮官を右の砲架で殴り飛ばした。
指揮官が砂の上を転がる。
「死んでも、道具じゃねえ」
鬼平は残った固定具へ向き直った。
左の砲で魔力管を削る。
右の砲で接続を断つ。
最後の固定具が外れた。
魔石炉が竜骨兵器の胸部から浮かび上がる。
しかし、地下の竜脈から逆流が始まった。
砂漠の下に、巨大な赤い亀裂が走る。
「地中の門が起動します!」
リーゼが叫んだ。
「竜骨兵器が門の核と繋がっています!」
第四の門が、魔石炉の下で開き始める。
門の向こうから、砂漠の夜のような暗闇が広がった。
その中に、巨大な竜の頭蓋が浮かんでいる。
『王墓を、汚すな』
『骨を返せ』
『門を閉じろ』
古代竜の声が、砂漠全体へ響いた。
鬼平は魔石炉を見た。
魔石炉を完全に破壊すれば、門が暴走する。
門との接続を切り、竜骨兵器から分離する必要がある。
右の雷鱗砲が、魔石炉から門へ伸びる接続線を表示した。
しかし、その線は門の中へ続いている。
普通に撃てば、門の奥へ魔力が流れる可能性がある。
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
左の砲で接続線の外側を削り、右の砲で切断する。
順番を間違えれば、逆流する。
「リーゼ、魔力の流れを読め」
「はい!」
「ノア、砲身は持つか」
「雷鱗砲なら、砂漠の魔力を吸収できる。ただし、撃つ瞬間を合わせろ!」
鬼平は照準を定めた。
魔石炉から門へ向かう魔力が、脈打っている。
流れが弱まる瞬間を待つ。
「今です!」
リーゼが叫んだ。
鬼平は左のガトリング砲を撃った。
白い弾丸が接続線の外側を削る。
魔力の流れが細くなった。
右の雷鱗砲が、砂の魔力を吸収する。
青い弾丸が接続線へ飛ぶ。
接続が切れた。
魔石炉が完全に兵器から分離した。
竜骨兵器の身体が崩れる。
頭部の赤い目が、白い光へ変わった。
『骨を、返せ』
鬼平は魔石炉を両手で抱えた。
魔石炉の内部から、複数の竜の声が聞こえる。
『熱い』
『砂が痛い』
『眠りたい』
鬼平は門の前へ歩いた。
魔石炉を古代竜の頭蓋へ近づける。
門の向こうから、赤い光が伸び、魔石炉を包む。
王国軍が魔石炉を取り戻そうと突進してきた。
鬼平は左のガトリング砲を撃った。
敵兵の武器を破壊する。
右の雷鱗砲で、兵士たちを操る魔導具の接続を切る。
王国軍の攻撃が止まった。
グラウ将軍と獣人兵が敵の指揮官を拘束する。
鬼平は魔石炉を門の前へ置いた。
古代竜の頭蓋から、白い光の竜が現れた。
『帰れ』
光の竜が魔石炉を包み込む。
中に残っていた竜の魂が、次々と光の竜へ吸い込まれていく。
竜骨兵器の骨が、砂の上で静かに崩れた。
魔石炉は黒い石へ変わり、門の核から離れた。
第四の門が閉じ始める。
しかし、門の奥から巨大な腕が伸びてきた。
砂の王墓を守る古代竜ではない。
王国軍が別の世界から呼び込もうとしていた、砂漠の魔神だった。
魔神の腕が門の縁を掴む。
門の閉鎖が止まった。
鬼平は二挺のガトリング砲を構えた。
左の砲で魔神の腕を削る。
右の雷鱗砲で、門と魔神の接続を探す。
赤い照準線が三本の接続を示した。
一つ目を撃つ。
魔神の腕が震える。
二つ目を撃つ。
門の光が弱くなる。
魔神が咆哮し、砂の津波を起こした。
鬼平たちが砂に飲まれそうになる。
鬼平は右の砲架を地面へ突き立て、身体を支えた。
「軍曹、砂の魔力が右の砲へ流れています!」
リーゼが叫ぶ。
「吸収しすぎると暴走します!」
「逃がす」
鬼平は右の砲を上空へ向けた。
吸収した砂の魔力を、赤い弾丸へ変換する。
一発撃つ。
砂の津波が左右へ割れた。
鬼平は三本目の接続線へ照準を合わせる。
魔神の腕が鬼平へ振り下ろされた。
鬼平は左のガトリング砲で腕を撃ち、右の砲架で受け止める。
衝撃で足元の砂が沈む。
鬼平は砲架を押し返した。
「撃てなくても、殴る!」
魔神の腕が跳ね返る。
鬼平は最後の接続線を撃った。
魔神と門の繋がりが切れた。
巨大な腕が門の向こうへ引き戻される。
第四の門が完全に閉じた。
砂漠の赤い光が消え、王墓の周囲に静けさが戻る。
古代竜の魂を包んだ白い光は、砂の下へ沈んでいった。
鬼平は二挺のガトリング砲を下ろした。
右の雷鱗砲は、砂の魔力を吸収したため、砲身が赤く熱を持っている。
ノアが駆け寄った。
「冷却が必要だ。雷を吸収した時より、砂の魔力の方が重い」
「撃てるか」
「短時間なら」
「なら、進める」
「また砂漠で撃つのか?」
「敵が来る」
王国軍の残党が、砂丘の向こうへ逃げようとしていた。
鬼平は右の雷鱗砲を構えた。
しかし、撃たなかった。
「捕虜を取る」
グラウ将軍が兵士たちを拘束する。
王国軍の指揮官は、砂の上に膝をついていた。
「竜骨兵器を壊したな」
「ああ」
「王国の遺産を……」
「竜の骨だ」
「我々は、力を使っただけだ」
「敵だ」
鬼平は指揮官を見た。
「だが、もう武器を捨てた。捕虜だ」
指揮官は悔しそうに顔を伏せた。
リーゼが王墓の地図を調べていた。
「第四の門は閉じました。しかし、門の周囲に残った魔力線が、北へ伸びています」
「どこへ」
「凍土の竜骨城です」
ヴァルグリムが空から降りてくる。
『第五の門が、第四の門の停止を感じ取った』
『凍土の門が、強制的に起動しようとしている』
遠くの北の空に、白い光が走った。
砂漠の熱気とは正反対の、凍てつく風が吹いてくる。
「敵が急いでいる」
鬼平は二挺のガトリング砲を担いだ。
左の砲は白く輝く。
右の雷鱗砲はまだ熱を持っている。
「次は凍土」
ノアが右の砲を見た。
「冷やすには、ちょうどいいかもしれない」
「撃てるか」
「凍らせすぎると砲身が割れる」
「直せるか」
「割れなければな」
鬼平たちは赤砂海を後にした。
背後の砂の下で、第四の門は完全に沈黙している。
しかし北の彼方では、凍土の竜骨城が白い光を放っていた。
その城の中心で、第五の門が開き始めている。
鬼平軍曹は、熱を持った《雷鱗砲》を担い、凍土へ向かった。




