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鬼平軍曹の魔石ガトリング無双  作者: しょぼんスライム


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第35話 軍曹、雷竜を救出する

海底神殿から戻った鬼平たちは、東岸の臨時工房へ入った。


 海岸には、黒城塞から運んできた魔導車と整備設備が並んでいる。


 その中央で、右の魔石ガトリング砲が分解されていた。


 水中用魔力膜は破れている。


 砲身の表面には細かな亀裂。


 竜脈断ちの赤い輪も、一つ消えていた。


 ノアが砲身を調べ、何度も首を振る。


「海底で無茶をしすぎた」


「撃てるか」


「通常弾なら、短時間だけ。竜脈断ちは使えるが、連続使用は危険だ」


「直す」


「今、直している」


「いつ終わる」


「急かすな。砲は生き物ではないが、壊れれば撃てない」


 鬼平は左のガトリング砲を見た。


「左は撃てる」


「だからといって、右を雑に直すな」


 獣人の鍛冶師たちが、海底神殿から回収した古代金属を炉へ入れる。


 リーゼは海竜から分けられた青い鱗を、砲身の内側へ組み込んでいた。


 水中用魔力膜の代わりに、海竜の鱗を利用した新たな魔力伝導層を作るのだという。


「海竜の鱗は、水圧と竜脈の流れに強い」


 リーゼが説明した。


「右の砲身に組み込めば、水中でなくても魔力の乱れを抑えられます」


「雷鳴の高原でも使えるか」


「雷の魔力を受け流せる可能性があります」


 ノアが顔を上げた。


「可能性という言葉が多いな」


「実験が足りません」


「戦場で実験する」


 鬼平が言った。


「戦場は実験場ではない」


「敵が来る」


 東の空に、黒い雲が見えた。


 雲の中で、雷が赤く光っている。


 王国軍の魔導艦隊が、海岸へ向かって進んでいた。


 海上には、竜骨を使った大型艦が五隻。


 艦の側面には魔導砲。


 甲板には竜騎士。


 中央の旗艦には、雷竜を拘束するための巨大な金属枠が積まれている。


「王国軍の艦隊です!」


 見張りの兵士が叫んだ。


「雷鳴の高原へ向かう前に、東岸の拠点を潰すつもりです!」


 グラウ将軍が海岸防衛の指揮を取る。


「獣人兵は浜辺へ。元の世界の兵士は砲台を配置しろ!」


 セレナが遠眼鏡を下ろした。


「旗艦の後ろに、王国軍の飛行艇もあります。空と海から同時に来ます」


 鬼平は修理台の右の砲を見た。


「まだ直らないか」


「あと十分」


 ノアが答えた。


「十分もあれば十分だ」


 鬼平は左のガトリング砲を持ち、海岸へ向かった。


 王国軍の艦隊が魔導砲を発射する。


 赤い光弾が海岸へ飛んでくる。


 元の世界の砲台が迎撃し、獣人兵が盾を重ねる。


 しかし、光弾の数が多い。


 鬼平は左のガトリング砲を構えた。


 白い弾丸が空を走り、光弾を一つずつ撃ち落とす。


 すべては止められない。


 いくつかが海岸へ着弾し、砂と岩を吹き飛ばした。


 鬼平は着弾の隙間を走る。


 敵艦の側面に、赤い魔力管が見えた。


 艦の魔導砲へ魔力を送る主配管だ。


 左の砲で配管の固定具を狙う。


 連射。


 先頭の艦の魔導砲が沈黙した。


 続けて二番艦の配管を撃つ。


 艦の砲口が空へ向いた。


「軍曹、右の砲がなくても十分撃てています!」


 高瀬が叫んだ。


「右も撃つ」


「今、修理中です!」


「だから直す」


 海岸へ、王国軍の水陸両用魔導兵が上陸してきた。


 鬼平は左のガトリング砲を撃ち、兵士たちの魔力装具を破壊する。


 装備を失った兵士を、獣人兵が拘束していく。


 グラウ将軍が敵の旗艦を指した。


「中央の艦を止めろ! あれが雷竜を運んでいる!」


 旗艦は他の艦より大きく、三本の魔導塔が甲板から伸びている。


 艦の中央には、雷竜を拘束する金属枠。


 その周囲へ、雷を吸収する魔石が並んでいる。


 鬼平は左の砲で甲板の魔導師を撃った。


 旗艦から魔力槍が飛ぶ。


 鬼平は岩陰へ飛び込み、槍をかわす。


 背後の岩が粉々になった。


「旗艦へ乗り込む」


 鬼平が言った。


「海岸の防衛は」


「グラウ将軍に任せる」


「一人で?」


「左がある」


 鬼平は海岸の斜面を駆け上がり、旗艦へ向かって跳んだ。


 船と岸の間は広い。


 鬼平は左のガトリング砲を下へ向けて撃った。


 弾丸の反動で身体が前へ押し出され、旗艦の甲板へ着地する。


 王国兵が一斉に槍を向けた。


 鬼平は左の砲で槍の先端を撃ち、右手を空けたまま接近する。


 敵兵の盾を左肩で押し、ガトリング砲の銃架で鎧を殴った。


 次の兵士が魔導銃を撃つ。


 鬼平は砲身で弾を弾き、左の砲架を横に振った。


「撃てなくても、殴る!」


 甲板の敵が次々と倒れる。


 しかし、旗艦の中央から重装甲の魔導兵が現れた。


 両腕に雷撃槍。


 背中には、艦の魔導炉へ接続された太い魔力管。


 魔導兵が雷撃槍を突き出す。


 鬼平は左のガトリング砲を盾にした。


 雷撃が砲身を包み、腕まで痺れる。


 左の魔石が一瞬暗くなった。


 鬼平は砲架を振り、魔導兵の胸部へ叩き込む。


 装甲がへこむ。


 しかし、雷撃槍が再び光る。


 鬼平は足元へ左の弾丸を撃ち、反動で身体を横へ逃がした。


 雷撃槍が甲板を貫く。


 鬼平は魔導兵の背後へ回り込んだ。


 魔力管が見える。


 左のガトリング砲で接続部を撃つ。


 一本目が切れた。


 二本目。


 魔導兵の動きが鈍る。


 三本目を切ろうとした瞬間、魔導兵が振り返った。


 雷撃槍が鬼平の肩をかすめる。


 防具が焼け、皮膚が裂けた。


 鬼平は左の砲架で槍を押し返し、魔導兵の膝へ蹴りを入れた。


 魔導兵が片膝をつく。


 左のガトリング砲を胸部の装甲へ密着させる。


 短い連射。


 胸部の魔石が露出した。


 鬼平は魔石を撃たず、残った魔力管を撃ち抜いた。


 魔導兵が停止する。


 その向こうに、雷竜を拘束する金属枠があった。


 雷竜は巨大だった。


 青白い鱗。


 四本の角。


 翼の周囲に、雷が渦巻いている。


 しかし、首と四肢には太い魔導鎖が巻かれていた。


 雷竜が鬼平へ向かって咆哮する。


 雷が甲板を走る。


 鬼平は左の砲身を盾にした。


 雷が砲身の表面を焼き、魔石が明滅する。


 右のガトリング砲がなければ、拘束具を切れない。


 鬼平は修理工房の方向を見た。


 まだ、右の砲は戻っていない。


 雷竜が魔導鎖を引きちぎろうとする。


 鎖がさらに魔力を吸い上げ、雷竜の身体を苦しめた。


 鬼平は左のガトリング砲を鎖へ向けた。


 通常弾では、鎖を壊せない。


 しかし、鎖の固定具なら撃てる。


 鬼平は雷竜の脚部にある固定具へ射撃した。


 一つ。


 二つ。


 固定具が歪む。


 雷竜が足を動かし、鎖が一部外れた。


 首の拘束具は、甲板の下へ伸びている。


 鬼平は甲板へ左のガトリング砲を撃ち込んだ。


 床板が砕け、艦内部の魔力管が見える。


 拘束具へ繋がる主配管。


 鬼平はそこへ弾幕を集中させる。


 配管が破裂し、雷竜の首の鎖が緩んだ。


 しかし、旗艦の艦橋から魔導司令官が現れた。


 赤い外套。


 両手に雷撃杖。


 背後には、雷竜から吸い上げた魔力を蓄える大魔石。


「竜を解放するな!」


 司令官が叫んだ。


「その雷は王国のものだ!」


 鬼平は司令官へ左の砲口を向けた。


「竜は、お前のものじゃない」


「我々が捕らえ、我々が制御している!」


「敵だ」


 鬼平が引き金を引いた。


 司令官の前に雷の障壁が展開され、弾丸が弾かれる。


 司令官が二本の雷撃杖を振った。


 甲板全体へ雷が走る。


 鬼平は砲身を足元へ叩きつけ、雷の流れを横へ逃がした。


 それでも、左の魔石が大きく明滅する。


 鬼平は司令官の背後にある大魔石を見た。


 雷竜の魔力を吸い上げている。


 大魔石から司令官へ伸びる魔力管が三本。


 鬼平は司令官へ撃たず、背後の管を狙った。


 一つ目を切る。


 司令官の雷障壁が弱まる。


 二つ目を切る。


 雷撃杖の光が落ちる。


 三つ目を切ろうとした時、司令官が鬼平へ突進した。


 雷撃杖が鬼平の胸部へ向かう。


 鬼平は砲架で受け止めた。


 雷が砲架を流れ、腕が痺れる。


 司令官は笑った。


「その砲も雷には耐えられまい!」


「耐える」


 鬼平は右の砲があったはずの手を見た。


 今は空いている。


 鬼平は左のガトリング砲で司令官の杖を撃ち落とした。


 右手で司令官の外套を掴み、甲板へ叩きつける。


 司令官が立ち上がろうとする。


 鬼平は左の砲架を、司令官の胸部へ叩き込んだ。


 鎧がへこむ。


「竜の力を返せ」


「返すものか!」


「なら、殴る」


 鬼平はもう一度、砲架を振り下ろした。


 司令官が動かなくなる。


 しかし、大魔石はまだ雷竜の魔力を吸い上げている。


 鬼平は雷竜の拘束具へ向き直った。


 左の通常弾で、鎖の固定具を一つずつ破壊する。


 四肢の鎖が外れた。


 残るは首の拘束具。


 その接続は、旗艦の底部にある魔導炉へ繋がっている。


 鬼平は甲板の穴から艦内へ飛び込んだ。


 内部は雷で満ちていた。


 壁の魔力管が青白く発光し、床を流れている。


 鬼平の身体へ電撃が走る。


 左のガトリング砲が、かろうじて魔力を吸収していた。


 艦内の奥に、巨大な魔導炉がある。


 炉の中央には、雷竜の首の拘束具へ繋がる魔石が埋め込まれている。


 周囲に王国軍の技師と魔導兵が集まっていた。


 鬼平は左のガトリング砲を撃った。


 弾丸が技師たちの杖と装具だけを破壊する。


 魔導兵が襲いかかる。


 鬼平は砲架で殴り、雷の流れを利用して敵を壁へ叩きつける。


 炉の前へ到達した。


 しかし、魔導炉の周囲には厚い雷障壁がある。


 左の通常弾では、時間がかかる。


 右のガトリング砲なら、竜脈断ちで接続を切れる。


 だが、右の砲はまだ工房にある。


 その時、甲板上から大きな衝撃音が響いた。


 誰かが艦内へ降りてくる。


 ノアだった。


 両手で、修理途中の右のガトリング砲を抱えている。


 砲身には新しい青い鱗が組み込まれていた。


「持ってきた」


 ノアが叫ぶ。


「完全修理ではない。仮組みだ!」


 鬼平は右の砲を受け取った。


 魔石が青く輝き、雷の流れに反応する。


「撃てるか」


「三発まで!」


「十分だ」


 鬼平は右のガトリング砲を構えた。


 雷障壁の内部に、三つの接続点が浮かび上がる。


 一発目。


 水中用魔力膜の代わりに組み込まれた海竜の鱗が、雷を受け流す。


 接続点が一つ切れた。


 二発目。


 魔導炉の雷障壁が薄くなる。


 魔導兵が鬼平へ突進する。


 鬼平は左の砲架で魔導兵を殴り飛ばし、三発目を撃った。


 最後の接続点が切断される。


 魔導炉と雷竜の拘束具が分離した。


 首の鎖が外れる。


 甲板上で、雷竜が咆哮した。


 雷が旗艦全体を包む。


「艦が持たない!」


 ノアが叫ぶ。


「雷竜の魔力が逆流している!」


「脱出する」


 鬼平は右の砲を担いだ。


 ノアが仮組みの砲身を見る。


「三発使った。次に撃てば壊れる」


「殴れるか」


「仮組みでも、殴るだけなら!」


 鬼平はノアを掴み、艦内の通路を走った。


 左のガトリング砲で前方の扉を撃ち、右の砲架で残った扉を殴り破る。


 甲板へ出ると、雷竜が拘束具を完全に引きちぎっていた。


 旗艦の魔導砲が次々と爆発する。


 鬼平は雷竜の背へ飛び乗った。


 ノアもその後ろへしがみつく。


 雷竜が翼を広げる。


 旗艦から飛び立った瞬間、艦全体が雷の中で崩壊した。


 海面へ落ちた旗艦の周囲で、他の王国軍艦も混乱している。


 雷竜が空を旋回し、王国軍の魔導艦隊へ向き直った。


『我を縛った者たちよ』


『雷を返す』


 雷竜の翼から、巨大な雷が放たれた。


 魔導艦の帆柱が一斉に焼け、魔導砲が沈黙する。


 グラウ将軍率いる海岸部隊が、動けなくなった艦へ乗り込む。


 王国軍の艦隊は、次々と白旗を上げた。


 雷竜が海岸へ降下する。


 鬼平とノアが砂浜へ降りた。


 右のガトリング砲は、仮組みのままだが壊れていない。


 ノアが砲身を確認した。


「水中用魔力膜は破損したが、海竜の鱗層が残っている。雷への耐性も確認できた」


「完全修理は」


「雷鳴の高原へ向かう前に、仕上げる」


 鬼平は雷竜を見上げた。


「門は」


「第三の門は、雷鳴の高原にあります」


 リーゼが答えた。


「王国軍は雷竜を捕らえたまま、高原へ運ぶつもりでした」


 雷竜が海岸の向こうを見た。


『高原へ行く』


『我を縛った門を閉じる』


 ヴァルグリムが空から降りてきた。


『雷竜よ。竜域の門を守る覚悟はあるか』


『我はもう、誰にも縛られない』


『ならば、自ら選べ』


 雷竜は鬼平を見た。


『人間。貴様の砲は、我をまた撃つか』


「敵になったら撃つ」


『ならば、敵にならぬように戦う』


 雷竜の角に、青白い雷が集まる。


 海岸の東にある山脈へ、雷が落ちた。


 その向こうに、雷鳴の高原がある。


 しかし、空にはまだ王国軍の飛行艇が残っていた。


 艦隊の敗北を見た別働隊が、雷竜の捕獲を諦めていない。


 飛行艇の中から、黒い魔導網が発射される。


 雷竜へ向かって飛んでいく。


 鬼平は左のガトリング砲を構えた。


 白い弾幕が魔導網を撃ち落とす。


 右のガトリング砲は仮組みで、あと一発しか撃てない。


 飛行艇の下部には、魔導網を発射する主装置がある。


 鬼平は右の砲を構えた。


「壊れるぞ!」


 ノアが叫ぶ。


「一発だけだ!」


「撃つ」


 鬼平は右のガトリング砲を飛行艇へ向けた。


 青い鱗層が輝き、雷の力をまとった弾丸が放たれる。


 弾丸は飛行艇の外装を貫き、魔導網の主装置だけを破壊した。


 飛行艇が制御を失い、海岸から離れていく。


 右の砲身に亀裂が走った。


 しかし、砲は壊れなかった。


 鬼平は砲架を持ち上げた。


「撃てなくても、殴れる」


 ノアが額を押さえた。


「今は撃てた」


 飛行艇は海上へ逃げていく。


 セレナが弓を構えた。


「追撃しますか?」


「逃がす」


 鬼平は答えた。


「雷鳴の高原へ行く」


 王国軍の艦隊を制圧し、雷竜を救出した。


 だが、第三の門はまだ閉じていない。


 高原には王国軍の本隊と、雷竜を利用して門を守る魔導装置がある。


 さらに、逃げた飛行艇は王国へ向かっている。


「敵に情報を持ち帰られます」


 日野が言った。


「王国軍は、こちらが雷竜を解放したと知るでしょう」


「なら、急ぐ」


 鬼平は二挺のガトリング砲を担いだ。


 左は白い光。


 右は青い光。


 右の砲は仮組みで、完全には修理されていない。


 それでも、雷竜の力を受けた砲身は、わずかに輝いている。


 雷竜が翼を広げた。


『我が高原への道を開く』


 ヴァルグリムがその隣を飛ぶ。


 鬼平たちは魔導車へ乗り込み、雷鳴の高原へ向かった。


 東の山脈で、雷が連続して落ちている。


 その中心に、第三の門がある。


 そして門の前には、王国軍が雷竜を捕らえるために作った巨大な雷撃塔がそびえていた。


 鬼平は右のガトリング砲を見た。


「高原で完全修理する」


 ノアが答えた。


「今度こそ、完全に直す」


 雷鳴の高原へ続く道の先で、第三の門が青白く輝いていた。


 鬼平軍曹と雷竜の戦いは、これから始まる。

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