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鬼平軍曹の魔石ガトリング無双  作者: しょぼんスライム


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第34話 軍曹、海底神殿へ潜る

竜域東方の海は、空から見ても異様だった。


 海面に波はない。


 風が吹いているのに、水だけが鏡のように静止している。


 その中央で、赤い竜脈の光が一定の間隔で明滅していた。


 第二の門が、海底で脈打っている。


 ヴァルグリムが海面の上を旋回し、鬼平たちへ声を届けた。


『この海には、竜域の古い都が沈んでいる』


『都の中心に、海底神殿がある』


「門を閉じる」


『海の底まで行く必要がある』


「潜る」


 ノアが鬼平を見た。


「二挺のガトリング砲を持ったままか?」


「ああ」


「水中では普通の弾丸は飛ばない」


「魔石弾は」


「水圧と魔力の抵抗で、砲身が壊れる可能性が高い」


「直せるか」


「海底で壊れたら、直す前に死ぬ」


 鬼平は右の砲を見た。


 竜脈断ちの赤い輪が、水面下の光へ反応している。


「撃ち方を変える」


 ノアはため息をついた。


「それで済むなら、整備兵はいらない」


 黒城塞から運んできた魔導車を、海岸の岩場へ移動させる。


 元の世界の技術将校と獣人の鍛冶師たちが、海底用の装備を組み立て始めた。


 水中で動ける魔導潜航艇。


 竜域の古代金属で作られた耐圧殻。


 内部には、二挺のガトリング砲を固定する射撃架が取り付けられている。


 しかし、鬼平は潜航艇を見て首を横に振った。


「狭い」


「二挺の砲を持ったまま乗るなら、これが限界だ」


「外へ出る」


「水中でか?」


「必要なら」


 リーゼが海面を見た。


「海底神殿の周囲には、古い竜脈流が流れています。適応術式を使えば、短時間なら水中で活動できます」


「どれくらいだ」


「三十分。術式を維持できる限界です」


「三十分で門を探す」


「敵がいた場合は?」


「撃つ」


「水中でも?」


「撃てるようにする」


 ノアは水中用の砲身カバーを右のガトリング砲へ取り付けた。


 砲身の周囲に、薄い魔力膜が展開される。


「通常弾は撃てない。代わりに、竜脈断ちを使った水圧弾を作る」


「威力は」


「敵を吹き飛ばすより、魔力の接続を切るための弾だ。水中では、その方が安全だ」


「殴れるか」


「砲架は使える」


 鬼平は右の砲架を握った。


「十分だ」


 海岸では、グラウ将軍が獣人兵の配置を終えていた。


「海底神殿へ向かうのは、鬼平、ノア、リーゼ、セレナ、日野、高瀬、そして私だ」


 元の世界の兵士たちは、海岸と潜航艇を守る。


 ヴァルグリムは海面上空で警戒する。


 水中では飛べないため、海上から竜脈の変化を追う役目だ。


「地上の敵は」


 日野が尋ねた。


「王国軍の残党が東岸へ逃げたという報告があります」


 元の世界の指揮官が答えた。


「海底神殿へ先回りしている可能性もある」


「門を奪うつもりか」


「あるいは、海底から別の魔導兵器を出すつもりかもしれません」


 鬼平は潜航艇のハッチを開いた。


「行く」


 リーゼが水中適応術式を展開した。


 青い光が鬼平たちの身体を包む。


 呼吸ができる。


 水圧が軽減される。


 ガトリング砲の魔石も、淡い膜に覆われた。


 鬼平は二挺の砲を背負い、海へ入った。


 冷たい水が身体を包む。


 音が遠のく。


 上空の光が、すぐに薄くなった。


 鬼平たちは潜航艇に乗り込み、海底へ向かって下降する。


 窓の外を、巨大な魚の群れが通り過ぎていく。


 魚の身体には、赤い竜脈の線が走っていた。


 海底へ近づくにつれて、海藻のような竜脈植物が増えていく。


 その一部は、何かに切断されていた。


 海底に、王国軍の魔導杭が打ち込まれている。


 赤い魔力が海水へ流れ、周囲の魚や植物を弱らせていた。


「竜脈吸収装置です」


 リーゼが窓を指した。


「海底神殿へ向けて、魔力を吸い上げています」


 鬼平は右のガトリング砲を射撃架へ固定した。


「潜航艇の砲で撃てるか」


「通常の砲弾では、海底の地形を壊す危険があります」


「右の砲を使う」


 ノアが水中用の魔力膜を確認する。


「一発ずつなら可能だ。ただし、連射すると膜が破れる」


 鬼平は右の砲を構えた。


 青黒い魔石が輝き、海中に細い照準線が浮かぶ。


 魔導杭と竜脈の接続が見えた。


 鬼平は引き金を引いた。


 水圧弾が海中を進み、魔導杭の接続部だけを断つ。


 魔力の流れが止まった。


 一本目。


 二本目。


 三本目。


 海底の赤い光が消えていく。


 弱っていた魚の群れが、再び動き始めた。


「効いています」


 リーゼが言った。


 その時、海底の砂が大きく盛り上がった。


 砂の下から、巨大な魔導兵器が姿を現す。


 四本の脚。


 背中に回転式の魔導砲。


 頭部は海竜の形をしている。


 水中を泳ぐのではなく、海底を歩くための兵器だった。


 装甲には王国軍の紋章が刻まれている。


「水中用魔導兵器です!」


 高瀬が叫んだ。


 魔導兵器の砲口が、潜航艇へ向く。


 赤い光弾が水中を走った。


 潜航艇が急旋回する。


 光弾が船体をかすめ、耐圧殻が震えた。


「次が来ます!」


 日野が叫んだ。


 鬼平は左のガトリング砲を射撃架から外した。


 潜航艇の側面ハッチを開ける。


 冷たい海水が流れ込む。


 リーゼが驚いた。


「外へ出るのですか!」


「撃つ」


 鬼平は海中へ飛び出した。


 水中適応術式が身体を包み、息をすることができる。


 左右の砲は魔力膜で覆われている。


 魔導兵器が鬼平へ向きを変えた。


 鬼平は左のガトリング砲を構えた。


 通常弾ではなく、魔力を圧縮した白い弾が水中へ放たれる。


 弾丸は水の抵抗を受けながらも、魔導兵器の脚部へ向かった。


 装甲に当たる前に威力が落ちる。


 それでも、脚の関節へ数発が命中した。


 魔導兵器の動きが鈍る。


 右のガトリング砲で、関節の魔力接続を狙う。


 水圧弾が青い軌跡を描き、接続部を切断した。


 魔導兵器の前脚が沈んだ。


 残り三本の脚が、海底の砂を巻き上げる。


 鬼平は右の砲架を持って、兵器の側面へ接近した。


 兵器の魔導砲が鬼平を追う。


 鬼平は砲身を横へ振り、水中で魔導砲の砲口を叩いた。


 砲口が歪み、光弾が海底へ逸れる。


 右の砲架をもう一度叩きつける。


 魔導砲が回転を止めた。


「撃てなくても、殴る!」


 鬼平は魔導兵器の腹部へ回り込んだ。


 そこには、海底神殿へ伸びる太い魔力管がある。


 魔力管の周囲には、王国軍の魔導師が設置した結界が展開されていた。


 鬼平は左のガトリング砲を結界へ向けた。


 白い弾幕が結界を削る。


 右の砲が結界の接続線を見つける。


 青黒い水圧弾が、四つの接続部を断った。


 結界が消え、魔力管が露出する。


 鬼平は右の砲架を魔力管へ叩き込んだ。


 管がへこむ。


 二撃目で裂け、赤い魔力が海中へ流れ出した。


 魔導兵器が大きく震える。


 しかし、背中の魔導砲がまだ一基残っていた。


 砲口から巨大な光の槍が放たれる。


 鬼平は水中で身体をひねり、右の砲を盾にした。


 光の槍が砲身をかすめる。


 魔力膜が破れ、右の砲の赤い輪が一つ消えた。


 ノアの声が通信魔石から響く。


「水中用の魔力膜が限界だ! あと数発で砲が使えなくなる!」


 鬼平は背中の左のガトリング砲を見た。


 右の砲は魔力管を切れる。


 左の砲は通常の弾幕を撃てる。


 役割を分ける。


 鬼平は魔導兵器の背中へ泳いだ。


 左の砲を魔導砲の旋回軸へ向ける。


 白い弾幕が水中を走り、旋回軸を削る。


 魔導砲が鬼平を追えなくなった。


 右の砲で、砲身と魔導炉を繋ぐ接続を切断する。


 魔導砲が沈黙した。


 魔導兵器の身体が海底へ崩れ落ちる。


 鬼平は潜航艇へ戻ろうとした。


 その時、海底神殿の方向から巨大な影が迫ってきた。


 魚ではない。


 海竜だった。


 全長は黒城塞の城壁より長い。


 身体には王国軍の魔導鎖が何重にも巻かれている。


 鎖の先は、海底神殿へ伸びていた。


 海竜が口を開き、青い炎を吐く。


 水中に炎の渦が生まれ、海底の砂が巻き上がる。


 鬼平は左のガトリング砲で炎の渦を撃った。


 弾丸が水流を乱し、炎の軌道が逸れる。


 海竜の首へ接続された魔導鎖が、赤い照準線で浮かび上がった。


 鬼平は右の砲を構えた。


 水圧弾が鎖へ向かう。


 しかし、鎖の表面で弾かれた。


 鎖は竜脈と直接繋がっている。


 海竜が身体をひねり、巨大な尾を振る。


 鬼平は右の砲架で受け止めた。


 海流が弾け、鬼平の身体が後方へ流される。


 海竜の尾が再び迫る。


 鬼平は左のガトリング砲を海底へ向け、反動で身体を横へ動かした。


 尾をかわし、海竜の背へ回り込む。


 魔導鎖が背中から海底神殿へ伸びている。


 鬼平は右の砲架を鎖へ叩きつけた。


 鎖はびくともしない。


 海竜が首を振り、鬼平を海底へ押しつけようとする。


 鬼平は砲架を海底へ突き立て、踏みとどまった。


 左のガトリング砲で、鎖の周囲にある魔力杭を撃つ。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 鎖へ流れる魔力が弱まった。


 右の砲の竜脈断ちが、再び照準線を浮かべる。


 今度は鎖そのものではなく、海底神殿へ伸びる接続線を示していた。


 鬼平は引き金を引いた。


 青黒い水圧弾が、接続線を断つ。


 海竜の身体から魔導鎖が外れた。


 海竜は苦しげに身を震わせ、海底神殿の方へ向かって泳ぐ。


 しかし、自由になった直後、海竜の目が赤く輝いた。


 竜脈の力が暴走している。


 海竜が鬼平へ向かって突進した。


「まだ敵意が残っています!」


 リーゼが通信で叫んだ。


「長期間、魔力を吸われていました。解放されても、自分の意思を失っている可能性があります!」


 鬼平は左の砲を構えた。


 海竜の口が開く。


 青い炎が再び集まる。


 右の砲に、海竜の頭部から伸びる赤い線が浮かんだ。


 海竜の魂と、海底神殿の門を繋ぐ最後の接続。


 鬼平は砲を下げた。


 接続を切れば、海竜は自由になる。


 しかし、暴走した竜脈の力が海竜の身体に残っている。


 撃つべき場所は、心臓ではない。


 首の付け根にある魔力逆流弁。


 鬼平は海竜の突進を泳いでかわした。


 左のガトリング砲で、逆流弁の周囲を撃つ。


 装甲のような鱗が削れる。


 右の砲を近づける。


 水圧弾が逆流弁の接続だけを切断した。


 赤い光が、海竜の身体から一気に抜けていく。


 海竜の目が、元の深い青へ戻った。


 鬼平の前で、海竜がゆっくりと止まる。


『人間』


 声が海水を通じて響いた。


『我を、殺さなかった』


「敵じゃない」


『我は、貴様を攻撃した』


「操られていた」


『それでも、牙を向いた』


「敵になったら撃つ」


 海竜はしばらく鬼平を見た。


『ならば、今は敵ではない』


 海竜は海底神殿の入口へ向かい、巨体で閉ざされた石門を押し開いた。


 内部から赤い光が漏れる。


 第二の門が、海底神殿の奥で脈打っていた。


 鬼平たちは潜航艇へ戻った。


 水中適応術式の残り時間は、あと十六分。


 右の砲の魔力膜は限界に近い。


「海竜が神殿への道を開いた」


 リーゼが言った。


「しかし、神殿内部に大量の魔力反応があります」


「敵か」


「分かりません」


「行く」


 潜航艇が海底神殿へ進む。


 石門の内側には、古代竜の像が並んでいた。


 像の口から、青い光が漏れている。


 海竜が先頭を泳ぎ、その後ろを潜航艇が続く。


 神殿の奥から、金属を叩く音が響いた。


 王国軍が、海底神殿の内部で作業をしている。


 巨大な魔導装置を、第二の門へ接続していた。


「門の前に、敵がいます」


 日野が窓の外を指した。


 海底神殿の大広間に、王国軍の海底部隊が展開している。


 水中用魔導兵。


 魔導銛を持つ兵士。


 そして、巨大な竜骨の潜水兵器。


 中央には、教会の魔導司祭が立っている。


「海底神殿は、王国のものだ!」


 司祭が水中通信で叫んだ。


「第二の門を開き、竜域の海を王国の艦隊で埋め尽くす!」


 鬼平は潜航艇のハッチを開いた。


 ノアが叫ぶ。


「水中適応時間が残り十六分しかない!」


「十分だ」


 鬼平は海中へ飛び出した。


 左のガトリング砲が白い弾幕を放つ。


 水中用魔導兵の魔導銛が折れる。


 右の砲が、敵兵の背中にある魔力管を切断する。


 水中魔導兵が停止し、海底へ沈んでいく。


 海竜が大広間へ突入し、竜骨潜水兵器へ突進する。


 潜水兵器の装甲が、海竜の角で裂けた。


 しかし、兵器の内部から無数の魔力鎖が伸び、海竜の身体へ絡みつく。


 鬼平は右のガトリング砲を鎖へ向けた。


 竜脈断ちの照準線が、鎖ではなく兵器内部の制御核を示す。


 鬼平は潜水兵器へ接近した。


 左の砲で兵器の砲口を撃つ。


 右の砲架で装甲を殴る。


 内部の制御核が露出した。


 水圧弾が制御核への接続を断つ。


 潜水兵器が停止し、海竜を縛っていた鎖も消えた。


 魔導司祭が、第二の門の前へ逃げる。


 門の縁には、海竜の血を利用した巨大な魔石が埋め込まれていた。


「門の核を壊すな!」


 リーゼが叫ぶ。


「海底神殿全体が崩れます!」


「制御装置は」


「門の上部、三つの竜骨柱です!」


 鬼平は左のガトリング砲を上へ向けた。


 白い水圧弾が、第一の竜骨柱を削る。


 魔導司祭が水中魔法を放つ。


 青い刃が鬼平を追う。


 右の砲で刃の魔力接続を切断する。


 二本目の竜骨柱へ射撃。


 海底神殿の壁が震える。


 三本目は、魔導司祭が身体で隠していた。


 鬼平は司祭へ近づいた。


 司祭が魔導杖を振る。


 鬼平は右の砲架で杖を叩き折る。


 左のガトリング砲で、司祭の魔力装具を撃ち抜く。


 司祭の身体が海底へ沈む。


 鬼平は三本目の竜骨柱へ右の砲を向けた。


 水圧弾が、柱と門の接続を断つ。


 第二の門の光が弱まった。


 しかし、門の奥から巨大な水流が発生した。


 門が閉じる前に、別の世界から何かが押し寄せている。


 海底神殿の大広間に、巨大な目が開いた。


 門の向こうにいるのは、海竜よりさらに大きな存在だった。


 無数の触手。


 竜の角。


 深海の闇をまとった身体。


『門を閉じるな』


『海は、すべてを呑む』


 リーゼが叫ぶ。


「門の向こうから、異世界の海魔が来ます!」


「海魔?」


『海の竜ではない』


 海竜が鬼平の前へ出た。


『あれは、海の底で眠っていた古い敵だ』


『門が開けば、竜域の海を喰らう』


 鬼平は右の砲を構えた。


 水中適応時間は、残り八分。


 右の砲の魔力膜は、あと数発で破れる。


 海底神殿の門は、完全には閉じていない。


 門の向こうの海魔が、こちら側へ触手を伸ばしてくる。


 鬼平は左のガトリング砲を構えた。


「まず、触手を撃つ」


 白い弾幕が水中を走る。


 触手の表面に、無数の弾痕が刻まれる。


 右の砲が、触手と門の主核を繋ぐ魔力線を探す。


 青黒い照準線が、暗闇の奥へ伸びた。


 鬼平は引き金を引いた。


 一発の水圧弾が、海魔の接続線を断つ。


 触手が門の外へ戻される。


 しかし、別の触手が三本、四本と伸びてくる。


 鬼平は二挺の砲を交互に撃った。


 左、右、左、右。


 白と青黒の弾幕が、海魔の触手を押し返す。


 魔力膜が限界を迎え、右の砲身から小さな火花が散った。


「軍曹、撤退してください!」


 ノアが叫ぶ。


「砲の膜が破れます!」


「門を閉じる」


 鬼平は門の縁にある最後の制御線を見た。


 海魔の身体に隠されている。


 その奥には巨大な主核。


 右の竜脈断ちでなければ届かない。


「海竜、門の向こうへ行けるか」


 鬼平が尋ねた。


『行く』


「主核の位置まで運べ」


『貴様を乗せる』


 海竜が鬼平の前へ身を寄せた。


 鬼平は二挺のガトリング砲を構えたまま、海竜の背へ乗る。


 海竜が門の向こうへ突進する。


 海魔の触手が迫る。


 鬼平は左の砲で触手を撃ち、右の砲で接続線を切る。


 弾丸の一発ごとに、門の光が弱まっていく。


 海魔の中心へ到達した。


 そこに、黒い主核がある。


 主核から三本の魔力線が門へ伸びている。


 鬼平は右の砲を構えた。


 青黒い魔石が激しく明滅する。


 砲身の赤い輪が一つ消えた。


 魔力膜が破れる。


「これが最後だ!」


 ノアの声が遠くから聞こえた。


 鬼平は主核へ照準を合わせた。


 撃つ場所は主核ではない。


 三本の接続線。


 左の砲で一本目を削る。


 右の砲で一本目を切断する。


 二本目。


 海魔が咆哮し、海竜の身体が揺れる。


 鬼平は海竜の角を掴んだ。


 左の砲で触手を撃ち、右の砲で二本目を切る。


 残り一本。


 海魔の触手が鬼平の足へ絡みつく。


 鬼平は右の砲架を振り、触手を殴り飛ばした。


「撃てなくても、殴る!」


 左のガトリング砲で最後の接続線を削る。


 右の砲の魔力膜が完全に消える。


 砲身が水にさらされる。


 それでも、右の魔石は輝いていた。


 鬼平は引き金を引いた。


 最後の水圧弾が、海魔と門を繋ぐ接続を断ち切る。


 海魔が門の向こうへ引き戻される。


 海底神殿の門が閉じていく。


『海は、我らのものだ』


『門を開ければ、また喰らう』


 海魔の声が遠ざかる。


 鬼平たちは海竜に乗ったまま、海底神殿へ戻った。


 水中適応術式の残り時間は、あと二分。


 右のガトリング砲の砲身は、魔力膜を失っている。


 それでも、壊れてはいなかった。


 海底神殿の門が完全に消える。


 第二の門は停止した。


 海竜が鬼平を見た。


『海を守った』


「門を閉じただけだ」


『それが、海を守ることだ』


 鬼平たちは潜航艇へ戻った。


 リーゼが術式を再構成し、全員を船内へ引き上げる。


 潜航艇が海面へ向かって浮上する。


 海底神殿の奥で、青い光が一つ消えた。


 第二の門が、完全に沈黙した。


 海面へ戻ると、ヴァルグリムが待っていた。


『海底の門は閉じたか』


「ああ」


『代償は』


 ノアが右の砲を持ち上げた。


「水中用の魔力膜が破損。砲身は無事だが、再調整が必要だ」


「直せるか」


「海岸へ戻れば」


「直す」


 鬼平は海面を見た。


 海竜が遠くで泳いでいる。


 その首には、もう魔導鎖がない。


 海底神殿の門も閉じた。


 しかし、王国軍の捕虜から新たな情報が入る。


 王国の海軍が、竜域東方の島々へ集結している。


 第二の門を失った王国軍は、第三の門である雷鳴の高原へ向かう前に、海上から竜域へ大規模侵攻を開始するつもりだった。


 しかも、海底神殿の門を守っていた魔導司祭は、最後にこう告げていた。


「雷鳴の高原には、門を守る雷竜がいる。だが、王国軍は雷竜をすでに捕らえた」


 鬼平は二挺のガトリング砲を見た。


 左の砲は撃てる。


 右の砲は、水中用の調整が必要だが、竜脈断ちは使える。


「次は、雷鳴の高原へ行く」


 ヴァルグリムが翼を広げた。


『第三の門へ向かう』


 海の向こうで、雷が鳴った。


 雲の中に巨大な竜の影が浮かぶ。


 王国軍に捕らえられた雷竜が、鎖に繋がれている。


 その足元には、無数の魔導艦が集結していた。


 鬼平は右のガトリング砲を担いだ。


「砲を直してから行く」


 ノアが叫ぶ。


「今すぐではないのか!」


「水中で壊れかけた」


「分かっている」


 鬼平は海面の向こうを見た。


「だから、直す」


 海底神殿の第二の門は閉じた。


 しかし、第三の門では、雷竜と王国軍の艦隊が待っている。


 鬼平軍曹の次の戦場は、雷鳴の高原だった。

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