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鬼平軍曹の魔石ガトリング無双  作者: しょぼんスライム


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第30話 軍曹、古竜の心臓を守る

赤い亀裂の奥へ進むと、竜域の音が消えた。


 風の音もない。


 竜の咆哮も聞こえない。


 鬼平たちの足音だけが、赤黒い岩の通路に響いている。


 両側の壁には、竜の骨が埋め込まれていた。


 巨大な肋骨。


 長い角。


 何千年も前に死んだ竜の頭蓋。


 そのすべてが、赤い光を帯びている。


 リーゼが小さな魔石灯を掲げた。


「ここは、竜域の中心へ続く古代通路です」


「古竜の心臓まで、どれくらいだ」


「距離は分かりません。空間そのものが折りたたまれています」


 ノアが右のガトリング砲を調べた。


 青黒い魔石は、これまでにないほど強く輝いている。


「砲の魔力が、竜域の中心へ引かれている」


「壊れるか」


「まだ分からない。ここでは、普通の魔力の流れと違う」


「撃てるか」


「たぶん」


「なら、進む」


 鬼平は左のガトリング砲を持ち直した。


 ハイテンションスキルの光は、すでに消えている。


 弾薬は通常弾と魔石弾。


 右の砲には、ヴァルグリムの血が流れている。


 ここまで来る途中、砲身の亀裂は広がっていない。


 しかし、砲の中から低い唸り声が聞こえる。


 まるで、砲そのものが何かを警戒しているようだった。


 通路の奥で、赤い光が一度だけ明滅した。


 鬼平たちは足を止めた。


 前方に、巨大な影が立っている。


 四本の脚。


 長い首。


 頭部には三本の角。


 全身を古い竜鱗で覆った、巨大な竜だった。


 しかし、翼はない。


 翼の代わりに、背中から無数の赤い竜脈管が伸び、洞窟の天井へ繋がっている。


 目は閉じている。


 それでも、鬼平たちを見ていることが分かった。


『止まれ』


 声は、空気ではなく、頭の中へ響いた。


 グラウ将軍が斧を構える。


 セレナが弓を引く。


 ヴァルグリムが一歩前へ出た。


『番人よ。彼らは古竜の心臓を奪いに来たのではない』


『人間が心臓へ近づく理由は一つ。力を奪うためだ』


 番人の目が開いた。


 赤い光が、鬼平たちを照らす。


『貴様が刻印の兵士か』


「ああ」


『二つの砲を持つ者』


「そうだ」


『その砲で竜を撃ち、竜の血を使い、さらに古竜の心臓へ近づく』


「敵を撃つ」


『敵とは誰だ』


 鬼平は答えなかった。


 番人の赤い視線が、二挺のガトリング砲へ向く。


『貴様が敵と決めた者を撃つのか』


「そうだ」


『ならば、貴様自身が敵と決められた時、撃たれる覚悟はあるか』


「ある」


 番人が首を上げた。


 洞窟全体が揺れる。


『ならば、試練を受けろ』


「何をする」


『古竜の心臓は、力を求める者には道を開かない。守る者には、力の一部を預ける』


「オレは砲を直すために来た」


『砲のために、心臓へ来たのか』


「違う」


 鬼平は背後を見た。


 日野、高瀬、グラウ将軍、セレナ、リーゼ、ノア、そしてヴァルグリム。


 元の世界の兵士たち。


 獣人兵たち。


 竜域の竜たち。


「守るために来た」


『ならば、守れ』


 番人が前脚を上げた。


 赤い竜脈管から、無数の光弾が放たれる。


 鬼平は左のガトリング砲を構えた。


 赤い弾丸が光弾を撃ち落とす。


 右の砲が続けて撃つ。


 青黒い弾丸が、残った光弾を砕いていく。


 しかし、番人の攻撃は止まらない。


 天井と壁の竜脈管から、次々と光弾が生み出される。


「多すぎる!」


 高瀬が叫んだ。


「撃っても撃っても増えています!」


 鬼平は弾幕を広げた。


 左、右、左、右。


 《ツイン・ガトリング・リレー》で光弾を撃ち落とす。


 赤と青黒の弾丸が洞窟を飛び交い、岩壁へ光が反射する。


 リーゼが魔力の流れを読む。


「番人が作っているのではありません! 洞窟の竜脈そのものが攻撃になっています!」


「止められるか」


「竜脈の中心を見つければ可能です!」


 鬼平は壁を見た。


 竜脈管は複雑に絡み合っている。


 中央へ伸びる赤い光。


 その奥に、光弾を生み出している核がある。


 しかし、核の周囲には番人の身体がある。


 番人を撃たずに、竜脈の核だけを破壊する必要があった。


「ノア」


「分かっている。砲で壁の核を狙うつもりだな」


「砲身が耐えるか」


「分からない」


「撃つ」


「分からないと言ったぞ!」


 鬼平は左のガトリング砲で光弾を防ぎながら、右の砲を壁へ向けた。


 青黒い魔力が、砲身の内部へ集まる。


 ヴァルグリムの血が反応し、砲の照準に赤い線が浮かんだ。


 竜脈核の位置を示している。


「右で狙う」


 鬼平は引き金を引いた。


 青黒い弾丸が、番人の肩越しに壁へ飛ぶ。


 竜脈核へ命中する直前、番人が首を振った。


 巨大な尾が振り回され、弾丸を弾いた。


 右の砲身に火花が散る。


『竜脈の核を撃つな』


 番人の声が響いた。


『それは竜域そのものだ』


「なら、どうする」


『貴様の砲で、私を撃て』


 番人が胸部を開いた。


 古い竜鱗の下に、赤い心臓が見える。


『私を倒せば、攻撃は止まる』


 セレナが息を呑んだ。


「番人を倒すのですか?」


『倒せなければ、ここから先へは進めない』


 鬼平は番人の胸部を見た。


 心臓は竜脈と繋がっている。


 撃てば、番人を殺すことになるかもしれない。


 だが、ここで止まれば古竜の心臓へ到達できない。


 教会や王国軍の残党が、別の道から侵入する可能性もある。


 番人が再び光弾を放った。


 鬼平は二挺のガトリング砲で迎撃する。


 弾幕が光弾を砕く。


 同時に、番人の巨大な爪が鬼平へ振り下ろされた。


 右の砲を盾にして受け止める。


 砲架が地面へ沈み、鬼平の腕が軋んだ。


 左のガトリング砲で番人の爪の付け根を撃つ。


 赤い鱗が砕け、番人の攻撃が止まる。


 番人は首を振り、赤い炎を吐いた。


 鬼平は左の砲を前へ出した。


 炎が砲身へ当たり、魔力が跳ね返る。


 右の砲で炎の流れを切るように射撃する。


 青黒い弾丸が炎を裂き、鬼平の前に細い道を作った。


「軍曹、右の砲の魔力が急上昇しています!」


 リーゼが叫んだ。


「ヴァルグリムの血が、番人の竜脈へ反応しています!」


「使えるか」


「心臓へ直接届く可能性があります!」


「なら、撃つ」


 鬼平は右の砲を構えた。


 番人の胸部にある赤い心臓へ照準を合わせる。


 だが、右の砲身が震えている。


 対竜弾ではない。


 ヴァルグリムの血を通した通常弾だ。


 それでも、今までにない威力が集まっている。


 番人が動きを止めた。


『撃て、刻印の兵士』


「本当にいいのか」


『守る者が力を持つには、力を試さなければならない』


 鬼平は引き金を引いた。


 一発の青黒い弾丸が、番人の胸部へ飛ぶ。


 番人は避けなかった。


 弾丸が古い竜鱗を貫き、赤い心臓へ触れた。


 洞窟のすべての光が消えた。


 次の瞬間、赤い光が一気に爆発する。


 鬼平の刻印が光り、右のガトリング砲が強い振動を始めた。


 番人の心臓から、赤い竜脈の力が砲身へ流れ込む。


 右の砲に、竜の咆哮のような音が響いた。


 番人は膝をついた。


 胸部の心臓は、砕けていない。


 しかし、赤い光が鬼平の砲へ移っている。


『力を預ける』


 番人が言った。


『殺すのではなく、分け与える。それが守る者の撃ち方だ』


 鬼平は右の砲を見た。


 砲身の亀裂が消えている。


 竜鱗が新しく生え、青黒い魔石の周囲に赤い輪が浮かんでいた。


 ノアが駆け寄ってくる。


「砲身が再構成された。ヴァルグリムの血だけではない。番人の竜脈も取り込んだ」


「撃てるか」


「撃てる。しかし、もうただの砲ではない」


「何が違う」


「竜域の力を、破壊ではなく接続に使える」


 リーゼが番人へ近づいた。


「番人は、力を奪われたのではありません。古竜の心臓へ続く道を、右の砲へ繋いだのです」


 鬼平は番人を見た。


「立てるか」


『しばらくは動けない』


「敵は来る」


『ならば、貴様が守れ』


 番人の身体がゆっくりと石のように固まっていく。


 巨大な竜は、通路の守護像へ姿を変えた。


 ただし、赤い目の光は消えていない。


『古竜の心臓へ進め』


 鬼平たちは通路の奥へ向かう。


 番人の背後に、巨大な扉が現れた。


 扉には、古代竜の紋章が刻まれている。


 鬼平が近づくと、右のガトリング砲の魔石が反応した。


 扉の紋章へ、青黒い光と赤い光が流れ込む。


 重い音を立てて、扉が開いた。


 その先には、洞窟ではなく、巨大な空間が広がっていた。


 空間の中央に、古竜の心臓が浮かんでいる。


 山よりも大きい。


 赤い血管のような竜脈が、上下左右へ伸びている。


 竜域全体へ力を送り続ける、最初の竜の核。


 その周囲には、無数の古代竜の骨が浮かんでいた。


 リーゼが震える声で言った。


「これが……古竜の心臓」


 ヴァルグリムが翼をたたんだ。


『ここが竜域の中心だ』


 鬼平は心臓を見上げた。


 その巨大な鼓動が、身体の奥まで伝わってくる。


 左のガトリング砲の魔石が赤く明滅する。


 右の砲には、番人から受け取った赤い輪が浮かんでいる。


「ここで、何をする」


『古竜の心臓は、貴様の意思を読む』


「どうやって」


『力を求めるなら、力を与える。守る意思があるなら、道を与える』


 鬼平は心臓へ歩き出した。


 その瞬間、空間全体に声が響いた。


『人間よ。何を望む』


 古竜の心臓が問いかける。


 鬼平は二挺のガトリング砲を見た。


「砲を直したい」


『武器を強くしたいのか』


「違う」


『ならば、何を望む』


 鬼平は、元の世界の兵士たちを思い出した。


 教会に召喚され、戦わせられていた兵士たち。


 竜脈を奪われた竜たち。


 獣人連邦の国境砦で、王国軍に襲われた人々。


 竜域で追われる竜の子供たち。


 そして、まだ敵の支配下にある者たち。


「仲間を守る力が欲しい」


『仲間とは』


「オレと一緒に戦う奴だ」


『敵ではない者を守るのか』


「敵にならなければ」


『敵になった者は』


「撃つ」


『殺すのか』


 鬼平は少し考えた。


「必要なら」


 古竜の心臓が、ゆっくりと脈打った。


『力を与える』


 赤い竜脈が鬼平へ伸びる。


 しかし、ヴァルグリムが前へ出た。


『待て』


 心臓の鼓動が止まる。


『刻印の兵士は、まだすべてを示していない』


「何をだ」


『貴様は仲間を守ると言う。しかし、二つの世界を繋ぐ門を閉じずに残している』


 鬼平は黒城塞の中枢を思い出した。


 元の世界へ戻るための門。


 竜域へ戻るための門。


 そのどちらも、完全には壊していない。


『門は力を呼ぶ。敵も、味方も、望まぬ者も来る』


「分かっている」


『それでも門を残すのか』


「ああ」


『なぜだ』


「帰る奴がいる」


 鬼平は後ろを見た。


 元の世界へ帰る兵士たち。


 竜域へ戻りたい竜たち。


 黒城塞で捕虜になっている者たち。


「道を閉じれば、帰れなくなる」


『門は危険だ』


「だから守る」


『守れなければ』


「閉じる」


『敵か味方か、どう判断する』


 鬼平は二挺のガトリング砲を見た。


「自分で見る」


 古竜の心臓が、再び鼓動した。


『それが、守る者の答えか』


「ああ」


『ならば、砲を持て』


 古竜の心臓から、巨大な赤い光が放たれた。


 光が鬼平の刻印と二挺のガトリング砲へ流れ込む。


 左の砲の魔石が赤から白へ変わる。


 右の砲の青黒い魔石に、赤い輪が三つ浮かぶ。


 砲身には、竜の翼を思わせる新たな紋様が刻まれた。


 ノアが息を呑んだ。


「二挺とも、古竜の心臓と接続された」


「どうなる」


「弾丸に、竜域の意思が乗る」


「撃つと」


「敵だけを選別できる可能性がある」


「可能性か」


「完全ではない。貴様が敵と判断した相手へ、弾丸が向かう」


 鬼平は眉をひそめた。


「それは危険だ」


「だから、心臓が貴様の意思を読んだ」


 ヴァルグリムが言った。


『力を持つ者の判断が、弾丸の行き先を決める』


「自動で撃たない」


『貴様が引き金を引いた時だけだ』


「なら、使える」


 古竜の心臓の奥で、別の光が灯った。


 空間に映像が浮かび上がる。


 黒城塞の監房。


 捕らえられた竜脈統括官。


 その背後に立つ、黒い法衣の人物。


 教会の最高司祭だった。


 最高司祭は統括官へ何かを告げ、魔力封じの枷を外している。


 統括官が立ち上がる。


 監房の床に、転移用の小さな魔法陣が展開された。


「逃げるつもりか」


 リーゼが叫ぶ。


 映像が切り替わる。


 黒城塞の地下深く。


 教会の最高司祭と竜脈統括官が、別の装置を起動している。


 装置の中心には、黒い竜の骨が埋め込まれていた。


『門は一つではない』


 古竜の心臓が言った。


『敵は、すでに別の道を作っている』


 鬼平は右のガトリング砲を握り直した。


「黒城塞へ戻る」


 ヴァルグリムが翼を広げた。


『竜域を離れるのか』


「敵を残しておけない」


『古竜の心臓の力を得た直後に、元の世界へ戻るのか』


「ああ」


 鬼平は仲間たちを見た。


 誰も反対しなかった。


 ノアは新しく変化した砲身を確認する。


「この力を使えば、黒城塞の地下門を止められるかもしれない」


 リーゼが頷く。


「古竜の心臓との接続があれば、転移門の位置を逆探知できます」


 セレナが弓を背負った。


「ならば、戻りましょう」


 グラウ将軍が獣人兵へ命じた。


「竜域の守備隊は、三門を維持する。少数を鬼平に同行させる」


 ヴァルグリムは鬼平の前へ降りた。


『我も行く』


「竜域は」


『古竜の心臓と番人が守る。今は、貴様の世界を守る時だ』


 古竜の心臓から、細い赤い光が伸びた。


 鬼平の右のガトリング砲へ繋がる。


 新たな帰還門が開く。


 その向こうに、黒城塞の地下が見える。


 教会の最高司祭が、黒い竜の骨を起動させていた。


 地下門の奥から、異世界の軍勢が流れ込もうとしている。


「行くぞ」


 鬼平は二挺のガトリング砲を構えた。


 左の砲が白く輝く。


 右の砲が青黒く輝く。


 新たな赤い輪が、両方の砲へ浮かんでいる。


 ヴァルグリムが門へ向かって飛び立つ。


 鬼平たちも続く。


 門をくぐる直前、古竜の心臓の声が響いた。


『刻印の兵士よ。力は、撃つためだけにあるのではない』


 鬼平は振り返らなかった。


「分かっている」


『ならば、何のためにある』


 鬼平は二挺の砲を見た。


「守るためだ」


 鬼平軍曹と仲間たちは、黒城塞の地下へ帰還した。


 そこでは、教会の最高司祭が新たな転移門を開こうとしている。


 その先から、巨大な黒い竜の影が現れた。


 古竜の心臓から力を受け取った鬼平のガトリング砲が、初めて新たな光を放つ。


 黒城塞地下で、最後の門を巡る戦いが始まった。

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