第25話 軍曹、黒城塞へ突入する
転移門を越えた先に、黒い城塞がそびえていた。
城壁は黒曜石のように光り、表面には竜の鱗を思わせる装甲板が並んでいる。
城塞の上空には、三体の異形竜が旋回していた。
その背中には、教会の騎士が乗っている。
異形竜の翼が風を巻き起こすたび、城壁の上に配置された魔導砲が赤く輝いた。
鬼平は転移門の出口で、二挺の魔石ガトリング砲を構えた。
左の砲は通常射撃が可能。
右の砲は、新しい竜鱗砲身を得て、対竜弾を撃てるようになっている。
ただし、対竜弾は残り四発。
発射間隔は十秒。
砲身はまだ完全に安定していない。
「城壁の上、魔導砲が十二基」
セレナが数えた。
「空には竜騎士が三体。門の正面に魔導兵が多数」
リーゼが魔力の流れを探る。
「城塞全体が竜脈へ接続されています。城壁を壊すだけでは、門の制御装置へ魔力が逆流する可能性があります」
「なら、上を撃つ」
鬼平は城壁の上を見た。
魔導砲の台座。
砲身。
魔力管。
竜脈へ繋がる主幹管。
狙う場所は限られている。
「敵の武器だけを潰す」
グラウ将軍が獣人兵へ命令した。
「盾を構えろ! 城壁の魔導砲が撃つ前に、門を確保する!」
元の世界から来た歩兵たちも、転移門を背にして陣形を組んだ。
異世界側の空気は濃い。
竜域ほどではないが、元の世界より遥かに強い魔力が満ちている。
左のガトリング砲が、わずかに震えた。
魔石が赤く輝く。
「撃つ」
鬼平が短く言った。
左のガトリング砲が火を噴いた。
城壁上の魔導砲を支える固定具へ、弾丸が集中する。
一基目。
二基目。
三基目。
砲台が傾き、砲口が空へ向いた。
発射された光弾が雲を貫き、遠くの山へ落ちる。
爆発の音が遅れて届いた。
城塞の門が開いた。
中から、黒い装甲の魔導兵が一斉に出てくる。
「来るぞ!」
高瀬が叫んだ。
魔導兵の先頭が、黒い槍を構えて突進してくる。
鬼平は右のガトリング砲を構え、砲架で槍を受け止めた。
魔導兵の勢いが強く、鬼平の靴が地面へ沈む。
左のガトリング砲で、敵の胸部装甲を撃った。
装甲が砕け、魔導兵がよろめく。
鬼平は右の砲架を振り、魔導兵を門の中へ叩き戻した。
「撃てるなら撃つ」
鬼平は次の敵へ向いた。
「近ければ殴る」
元の世界の兵士たちが、魔導兵の腕や脚を狙って射撃する。
獣人兵は盾で敵の突撃を受け止め、セレナは城壁上の魔導師を一人ずつ射抜いていく。
リーゼが魔力管の位置を見抜き、危険な射線を鬼平へ伝えた。
「右上の砲台の後ろに、太い魔力管があります!」
「了解」
鬼平は城壁上の砲台を見た。
魔導砲の隣に、太い黒い管が伸びている。
砲台の台座を撃てば、管へ弾丸が抜ける可能性がある。
鬼平は台座ではなく、砲身の旋回軸を狙った。
連射。
旋回軸が砕け、砲身が横へ倒れる。
魔導砲が城壁の外へ落ちた。
破壊ではない。
だが、もう撃てない。
「一基、無力化」
鬼平は次の砲台へ照準を移した。
上空から、竜騎士が急降下してきた。
異形竜の口が開き、赤黒い炎が吐き出される。
鬼平は右のガトリング砲を盾にした。
炎が竜鱗砲身へ当たり、黒い火花が散った。
砲身表面の鱗が赤く熱を持つ。
ノアが叫んだ。
「右の砲身へ炎を受けるな! 竜鱗が魔力を吸収している!」
鬼平は炎を押し返すように前へ出た。
異形竜がさらに炎を吐く。
鬼平は左のガトリング砲を竜の顔へ向けた。
通常弾を撃つ。
異形竜は翼を傾け、弾幕を避けた。
背中の竜騎士が魔力槍を投げる。
鬼平は右の砲架で槍を弾いた。
槍が地面へ突き刺さり、黒い魔法陣が広がる。
「軍曹、あれは拘束術式です!」
リーゼが叫んだ。
鬼平の足元から黒い鎖が伸びる。
鬼平は右のガトリング砲を地面へ叩きつけた。
魔法陣が割れ、鎖が消える。
異形竜が再び旋回してくる。
今度は、三体すべてが鬼平へ向かっていた。
「対竜弾を使う」
ノアが叫んだ。
「一発だけだ! 狙いを外すな!」
鬼平は右のガトリング砲を構えた。
黒い砲身の内部に、竜の血を混ぜた魔力が集まる。
狙いは先頭の異形竜。
翼の付け根。
竜騎士と竜を繋ぐ魔力の結節点。
そこを破壊すれば、竜を殺さずに騎士を落とせる。
鬼平は引き金を引いた。
一発の黒い弾丸が空を走る。
異形竜が身をひねった。
弾丸は翼の付け根をかすめ、竜騎士の魔力装具を貫いた。
騎士が背中から落下する。
異形竜は姿勢を崩しながらも、城壁の外へ飛んでいった。
「命中しました!」
リーゼが叫ぶ。
「竜は生きています!」
「次」
鬼平は右の砲身を下げた。
発射間隔を空ける必要がある。
残り三発。
上空から、二体の異形竜が同時に炎を吐いた。
鬼平たちの前方が炎に包まれる。
グラウ将軍が獣人兵へ命じた。
「盾を重ねろ!」
獣人兵が大型盾を並べる。
元の世界の兵士たちが装甲車を横向きに止め、炎を受ける壁にした。
鬼平は左のガトリング砲で、炎の向こうの竜騎士を狙った。
通常弾が竜の鞍を撃ち抜く。
竜騎士が体勢を崩した。
セレナの矢が、騎士の手から魔力槍を落とす。
鬼平は右のガトリング砲を構えた。
今度は、右側の異形竜。
翼の付け根へ照準を合わせる。
しかし、異形竜が急上昇した。
竜騎士が魔力鎖を放つ。
鎖が鬼平の左腕へ絡みついた。
左のガトリング砲の銃口が空へ向く。
右の砲身から、警告音が鳴った。
冷却が完了した。
鬼平は右のガトリング砲を片手で構えた。
鎖を引きちぎるように、砲架を振る。
竜騎士が放った魔力鎖が、砲架に巻きついた。
鬼平はそのまま鎖を引いた。
異形竜の飛行が崩れ、竜騎士の身体が前へ投げ出される。
鬼平は左のガトリング砲を自由にし、騎士の魔力装具を撃ち抜いた。
竜騎士が落下する。
異形竜は空中で立て直し、遠くへ逃げた。
「対竜弾を使わずに落とした」
ノアが呟いた。
「一発、温存した」
「貴様が弾を温存するとはな」
「必要な時に使う」
鬼平は城塞の門へ進んだ。
門の内側には、さらに多くの魔導兵が待ち構えている。
城壁の上の魔導砲は残り六基。
門の両側には、竜の骨を埋め込んだ巨大な守護像が立っていた。
守護像の目が赤く光る。
「門の守護兵器です」
リーゼが言った。
「竜骨と魔導核を組み合わせています」
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
守護像の胸部には大きな魔石。
通常弾では、外装を削るだけだろう。
右の対竜弾なら破壊できる。
だが、門の内側には魔力管が密集している。
胸部魔石を撃てば、管へ魔力が逆流するかもしれない。
鬼平は守護像の脚部を狙った。
通常弾で関節を撃ち抜く。
一体目の守護像が膝をついた。
二体目が腕を振り下ろす。
鬼平は右の砲架で受け止めた。
守護像の腕と、壊れかけた砲身が衝突する。
砲身の竜鱗が一枚剥がれた。
鬼平は足元へ右の砲を振り下ろし、守護像の膝関節を砕いた。
二体目も倒れる。
「魔導核へ、対竜弾を使う必要はない」
リーゼが言った。
「関節だけを壊せば、動きを止められます」
「分かっている」
鬼平は城門へ近づいた。
門の上から、魔導師たちが黒い雷を放つ。
元の世界の歩兵が盾を構え、獣人兵が門の両側へ展開する。
鬼平は左のガトリング砲を城壁へ向けた。
魔導師の杖を撃つ。
一人。
二人。
三人。
雷が止まる。
しかし、城壁の上に残った魔導砲が一斉に旋回した。
六基の砲口が、鬼平たちへ向く。
「全砲台、発射準備!」
城壁から声が響いた。
「門の中へ入らせるな!」
鬼平は砲台を見上げた。
撃てば、砲台を壊せる。
だが、弾丸が多すぎる。
ハイテンションスキルを使えば、すべてを撃ち落とせる。
しかし、今はまだ敵の本拠地へ入ったばかり。
ここで使えば、身体の負荷が大きい。
鬼平は右のガトリング砲を構えた。
対竜弾は残り三発。
城壁の魔導砲は竜脈へ直接接続されている。
対竜弾なら、魔力接続部だけを断てる可能性がある。
「右で三発」
ノアが叫ぶ。
「一発ずつ、狙うのか!」
「三つの接続部を切る」
鬼平は城壁を見た。
六基の砲台へ魔力を送る主幹接続部が、三か所に集約されている。
左、中央、右。
一発ずつ撃てば、六基すべてが止まる。
だが、発射準備は終わっている。
砲台が赤く輝いた。
鬼平は一発目を左の接続部へ撃った。
黒い弾丸が城壁の隙間へ入り、魔力管を断ち切る。
左側の二基が沈黙した。
二発目。
中央の接続部を撃つ。
中央の二基が止まる。
三発目。
右の接続部へ撃つ。
右側の二基が沈黙した。
六基の魔導砲が、一発も撃たずに止まった。
右の砲身に、深い亀裂が走る。
ノアが顔をしかめた。
「右の竜鱗砲身が限界だ」
「撃てるか」
「通常弾なら数発。ただし、対竜弾はもう無理だ」
「十分だ」
鬼平は城門へ向き直った。
城門が開き、黒い鎧の騎士が現れた。
その手には、巨大な魔力剣。
頭部には、竜の角を模した兜。
「ここから先は、教会騎士団の領域だ」
騎士が言った。
「異界の兵士よ。武器を捨て、門の向こうへ帰れ」
「門を作ったのは、お前らだ」
「異世界の資源は、我々が管理する」
「人もか」
「必要な者は使う」
鬼平の刻印が赤く輝いた。
ハイテンションスキルの発動条件が、再び満たされ始める。
部下を道具として扱う言葉。
教会に捕らえられた兵士たち。
竜域の魔力を奪う装置。
鬼平は左のガトリング砲を握り直した。
「使うんじゃねえ」
騎士が魔力剣を構える。
「何?」
「人も、竜も、部下も」
鬼平の左の魔石が白く変わった。
ハイテンションスキルが発動する。
「この《ピー》がァッ!」
弾幕が教会騎士の周囲へ集中した。
騎士は魔力剣で弾丸を弾く。
しかし、鬼平は剣を狙っていない。
足元の鎧。
肩の装甲。
魔力を供給する背中の管。
数十発の弾丸が、騎士の装備だけを破壊していく。
「魔力剣が、保たない!」
騎士が叫んだ。
鬼平は右の壊れかけたガトリング砲を振り上げた。
砲架が魔力剣へ直撃する。
剣が折れた。
「撃てなくても、殴る!」
第一の暴言。
右の砲架を騎士の胸部へ叩き込む。
騎士が城門の内壁へ吹き飛ぶ。
鬼平は左のガトリング砲を城壁上へ向けた。
残った魔導師を撃ち抜く。
「城塞へ入る」
鬼平が叫んだ。
部下たちが一斉に動いた。
グラウ将軍率いる獣人兵が門の左右を確保する。
元の世界の歩兵が城門内部へ進入する。
セレナが城壁上の敵を狙撃する。
リーゼが魔力管を確認し、危険な場所を避けるよう指示する。
ノアは右のガトリング砲の砲身を冷却しながら走った。
「城塞内部に、巨大な魔力反応!」
リーゼが叫ぶ。
「この城塞の中心に、三つの転移門へ魔力を送る中枢があります!」
「そこを壊す」
鬼平は城塞内部の長い通路を進んだ。
壁には、竜の骨で作られた装飾が並んでいる。
床には、竜脈の光が流れている。
その光は、三つの転移門へ向けて伸びていた。
教会兵が通路の奥から現れる。
今度は魔導装甲をまとった重装兵だった。
盾は竜骨製。
槍には、黒い魔力が集まっている。
鬼平は左のガトリング砲を撃った。
弾丸が盾へ当たり、火花が散る。
盾は砕けない。
鬼平は右の砲架を構えた。
重装兵の槍を受け止め、横へ押し流す。
盾の側面へ右の砲身を叩き込む。
盾が歪んだ。
左のガトリング砲で、盾の隙間から装甲の継ぎ目を撃つ。
重装兵が倒れた。
後続の兵士が迫る。
鬼平は弾幕を広げず、一人ずつ武器を撃ち、右の砲で押し返す。
ハイテンションスキル中でも、必要な射撃だけを選んでいた。
「オレの弾幕から逃げられると思うなよ、この《ピー》が!」
第二の暴言。
鬼平の左のガトリング砲が、通路の奥にある魔導装置を狙う。
敵兵の背後にある制御盤。
弾丸が装置の魔石を破壊する。
通路の扉が開いた。
その先に、巨大な空間が広がっていた。
城塞の中枢。
中央には、竜の心臓を思わせる巨大な魔石核が浮かんでいる。
核から三本の主幹管が伸び、元の世界の三つの転移門へ魔力を送っている。
核の前に、異形の竜騎士が立っていた。
三体の異形竜を従えていた騎士とは別の人物だ。
白い法衣。
黒い冠。
その顔には、竜の鱗が浮かんでいる。
「よく来た、鬼平軍曹」
騎士が言った。
「私は教会最高司祭直属、竜脈統括官だ」
「お前が門を作った」
「門だけではない。竜域の力を集め、異世界を統合するための装置も、我々が作った」
「竜を使っている」
「竜は強大な力を持つ。使わない方が愚かだ」
鬼平は二挺のガトリング砲を構えた。
左の砲は白く輝いている。
右の砲は赤く熱を持っている。
「竜域へ戻る」
統括官が手を広げた。
「黒竜ヴァルグリムの首を持ち帰れば、貴様の世界への門を完全に固定できる」
「ヴァルグリムを殺すつもりか」
「必要な犠牲だ」
鬼平の魔石がさらに白く輝いた。
ハイテンションスキルの弾幕が、周囲の空気を震わせる。
「その言葉は、もう聞き飽きた」
統括官が竜脈の力を全身へ流し込んだ。
背中から巨大な黒い翼が生える。
両腕が竜の爪へ変わる。
顔が竜の頭部へ変化していく。
竜脈統括官は、教会の最終兵器へ姿を変えた。
「ならば、貴様の力を竜脈へ捧げろ!」
異形の竜騎士たちが、鬼平へ一斉に飛びかかる。
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
「撃つぞ」
弾幕が中枢空間を満たした。
しかし、今度の敵は、ただの魔導兵ではない。
竜脈統括官の背後で、巨大な魔石核が脈打っている。
鬼平は、竜脈を傷つけずに敵だけを撃ち抜かなければならない。
右のガトリング砲は、あと数発の通常弾しか撃てない。
左のハイテンションスキルは、発動中。
そして、敵の背後には三つの転移門へ繋がる主幹管がある。
「この《ピー》がァッ!」
鬼平は弾幕をさらに強めた。
教会の竜脈統括官が咆哮する。
黒い翼が開き、三つの門へ流れていた魔力が逆流を始めた。
転移門が、異世界側から元の世界へ向けて一斉に広がる。
鬼平たちの背後で、三つの門が再び開き始めた。
黒城塞の中枢で、竜脈と魔石ガトリング砲の力が正面から衝突する。
鬼平軍曹は、両手の砲を握り直した。
黒い城塞の本当の戦いは、ここから始まる。




