第24話 軍曹、三つの門を封鎖する
三つの転移門が、同時に赤く輝いた。
山中の旧門跡。
市街地地下の廃線区画。
そして、沖合の海上。
どの門も、異世界と元の世界を繋ぐための魔力反応を放っている。
このまま三つの門が安定すれば、異世界軍勢は大規模な侵攻を開始できる。
鬼平たちは整備工場の作戦室に集まっていた。
壁には、元の世界の地図と、異世界側から観測された魔力反応が並べられている。
赤い光点が三つ。
鬼平は新しく修理された右のガトリング砲を見た。
黒い砲身には、竜の鱗が薄く埋め込まれている。
砲身の根元には、黒竜ヴァルグリムの血を封じた魔石が接続されていた。
右の魔石が、低い音を立てて回転する。
「まだ連射試験をしていません」
ノアが言った。
「通常弾なら五十発。対竜弾なら十発。発射間隔を守らなければ、砲身が保ちません」
「発射間隔は」
「五秒に一回。対竜弾なら十秒に一回」
「遅い」
「壊れないための条件だ」
ノアは鬼平を睨んだ。
「ハイテンションスキルと同じ感覚で撃てば、右の砲は三十秒で壊れる」
「分かった」
「本当に分かったのか?」
「壊れたら殴る」
「それは分かっていない!」
リーゼが地図の中央を指した。
「三つの門は、異世界側の竜脈網を経由して繋がっています。三つのうち一つでも安定すれば、他の二つへ魔力を送り込める構造です」
「全部、同時に止める必要がある」
鬼平が言った。
「はい。時間差が大きいと、残った門が他の門を再起動させます」
グラウ将軍が地図を見下ろした。
「三つの戦場を、同時に制圧する必要があるということか」
「ああ」
元の世界の指揮官が、各部隊の配置を説明した。
「山中の旧門跡は、装甲車部隊とグラウ将軍の獣人兵。市街地地下は、鬼平軍曹と歩兵部隊。海上は、海上自衛隊とセレナ、リーゼが担当する」
「鬼平軍曹が市街地地下へ?」
高瀬が尋ねた。
「地下の門には、教会の主力部隊がいると考えられます」
リーゼが答えた。
「魔力反応が最も強い。門を直接制御している祭壇も、そこにあるはずです」
「なら、そこを潰す」
鬼平は二挺のガトリング砲を持ち上げた。
左は通常射撃。
右は新砲身による対竜弾射撃が可能。
「作戦開始時刻は」
「二十分後です」
真田が答えた。
「三方面が同時に突入し、門の制御装置を破壊。魔力の逆流が始まる前に離脱します」
「門が閉じるまで、どのくらいかかる」
「正常なら三分。ただし、異世界側から抵抗があれば延びます」
「三分か」
鬼平は右のガトリング砲を確認した。
「十分だ」
「短すぎませんか?」
「三分で終わらせる」
作戦開始時刻になった。
鬼平たちは装甲車へ乗り込んだ。
車内には、元の世界の歩兵、日野、高瀬、佐久間、リーゼ、ノアがいる。
鬼平は両手にガトリング砲を持っていた。
車両の中で持つには大きすぎる兵器だが、鬼平以外に扱える者はいない。
市街地地下へ続く入口は、閉鎖された地下鉄の駅だった。
駅の入口には、黒い魔力が絡みついている。
地上の道路には、避難用の柵と警戒線が張られていた。
鬼平たちが装甲車から降りると、地下から振動が伝わってきた。
魔導兵器が動いている。
「地下へ入る」
鬼平が言った。
「元の世界の通信は、地下へ入ると弱くなります」
佐久間が無線機を確認した。
「魔導通信なら繋がりますが、敵に傍受される可能性があります」
「短く話せ」
「了解」
鬼平は駅の階段を下りた。
地下鉄のホームは、すでに異世界の兵士で埋まっていた。
王国軍の盾兵。
教会の魔導師。
黒い装甲をまとった魔導兵。
ホームの奥には、巨大な魔導砲が設置されている。
元の世界の線路は引き剥がされ、その上に魔力管が並べられていた。
魔力管は地下深くへ伸び、異世界側の竜脈と接続している。
「敵、正面!」
歩兵が叫んだ。
王国軍が一斉に突撃してきた。
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
銃口を低くし、敵の脚元を狙う。
連射。
先頭の盾兵が倒れ、後続の兵士が足を止めた。
元の世界の歩兵が左右から前進する。
小銃弾が敵の武器を撃ち抜き、魔導師の杖を破壊する。
鬼平は右のガトリング砲を構え、近づいた魔導兵へ砲架を叩き込んだ。
魔導兵の胸部装甲がへこむ。
さらに一体、右の砲身で盾を押しつぶす。
「撃てなくても、使い道はある」
ノアが呟いた。
「撃てるようになったのに、殴っているがな」
「近い敵には、殴る」
鬼平は魔導砲へ向けて左のガトリング砲を撃った。
魔導砲の車輪と台座を狙い、砲身がホームの壁へ向くようにする。
敵が発射した黒い光弾は、壁を吹き飛ばした。
崩れた瓦礫が線路へ落ち、敵の進路を塞ぐ。
「地下の構造が崩れます!」
リーゼが叫んだ。
「魔導砲の威力が、地上の建物へ伝わる可能性があります!」
「魔導砲を止める」
鬼平は走った。
魔導砲を守る黒装束が、巨大な魔法障壁を展開する。
障壁の表面に、竜の紋章が浮かび上がった。
「竜脈を使った障壁です!」
リーゼが言った。
「通常弾では、貫けないかもしれません」
鬼平は右のガトリング砲へ視線を向けた。
新砲身。
黒竜の血を封じた魔石。
対竜弾が十発だけ装填されている。
右の魔石が黒く輝いた。
「右で撃つ」
「一発ごとに十秒空けてください!」
ノアが叫ぶ。
「守れるか」
「砲身は、守る!」
鬼平は右のガトリング砲を構えた。
魔石の周囲に黒い光が集まる。
照準は、障壁の中央ではない。
竜の紋章の中心にある魔力接続部。
鬼平は引き金を引いた。
一発目の対竜弾が、黒い光となって発射された。
障壁に亀裂が走る。
砲身は耐えた。
「十秒!」
ノアが叫ぶ。
敵の魔導師が反撃する。
黒い刃が鬼平へ飛んできた。
日野と高瀬が前へ出て、盾で受け止める。
元の世界の歩兵が魔導師へ射撃する。
佐久間が通信妨害を発動し、敵の術式連携を崩す。
「あと五秒!」
鬼平は右の砲を下げず、敵の動きを見た。
右のガトリング砲は、通常の弾幕兵器ではない。
一発の威力を高め、竜脈や竜装甲を貫くための砲だ。
乱射はできない。
だからこそ、撃つ場所を選ぶ。
「二発目」
鬼平は接続部の少し下へ照準をずらした。
二発目。
障壁が大きく割れる。
敵の黒装束が叫んだ。
「対竜弾だと! その血を、竜から奪ったのか!」
「もらった」
「竜が人間へ血を渡すはずがない!」
「渡した」
「嘘だ!」
鬼平は三発目を撃った。
障壁の一部が崩れ、奥にある魔導砲が見えた。
だが、魔導砲の周囲には魔力管が密集している。
撃てば管へ当たる。
鬼平は右の砲を下げた。
「右はここまでだ」
ノアが驚く。
「まだ七発残っている」
「管に当たる」
「なら、左で」
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
通常弾で魔導砲の台座だけを狙う。
短い連射。
台座が削れ、魔導砲が傾いた。
魔力管は避ける。
魔導砲の砲口が天井へ向いた。
敵が発射する。
黒い光が地下鉄の天井を貫き、地上へ飛んでいった。
地上で爆発音が響く。
「市街地への被害を確認!」
佐久間が通信機を聞いた。
「建物一棟が損傷。ただし、避難区域です!」
「魔導砲を壊す」
鬼平は右のガトリング砲を構えた。
砲身はまだ冷えている。
発射間隔を守れば、撃てる。
敵の黒装束が魔導砲の前へ立った。
「これ以上、竜脈へ触れるな!」
鬼平は黒装束の胸部を見た。
胸には竜の紋章を埋め込んだ魔石がある。
対竜弾なら、貫ける。
しかし、背後には主幹魔力管がある。
「退け」
「異界の兵士よ、竜域の力を侮るな!」
「退かなければ撃つ」
「撃てるものなら――」
鬼平は右のガトリング砲を構えた。
照準は胸部魔石ではない。
黒装束の足元にある魔力の固定杭。
対竜弾を一発撃つ。
固定杭が砕け、黒装束の身体が崩れた。
鬼平は左のガトリング砲で杖を撃ち抜く。
「これで、撃てるものならとは言わせない」
右の砲身が再び冷却を始める。
鬼平は魔導砲へ近づいた。
砲台の側面にある発射核へ、左の砲を向ける。
通常弾では貫けない。
右の対竜弾なら一発で壊せる。
だが、発射核の背後には魔力管がある。
撃てば、管も破壊される可能性がある。
鬼平は砲台の構造を見た。
発射核を覆う装甲。
装甲の下に、冷却用の金属管。
側面に小さな排熱口がある。
そこから対竜弾を入れれば、発射核だけを破壊できる。
「右で撃つ」
「軍曹、射線が狭すぎます!」
ノアが叫んだ。
「外せば魔力管が破裂します!」
「外さない」
鬼平は照準を合わせた。
呼吸を止める。
右の砲身が低く唸る。
対竜弾を発射。
弾丸は排熱口から内部へ入り、発射核だけを貫いた。
魔導砲が沈黙する。
魔力管は無傷だった。
ノアが目を見開いた。
「成功した……」
「次へ進む」
リーゼが魔力反応を探った。
「祭壇はこの先です。地下鉄の終点、そのさらに下」
鬼平たちは崩れたホームを越え、地下深くへ進んだ。
途中で敵の抵抗が激しくなる。
王国軍の騎士。
教会の魔導師。
竜の骨を鎧へ組み込んだ魔導兵。
鬼平は左で撃ち、右で殴った。
右の対竜弾は温存し、通常弾と砲架を使い分ける。
「この《ピー》が!」
左のガトリング砲で、敵の盾を撃ち抜く。
「撃てなくなったら、殴る!」
右の砲架で、魔導兵を階段の下へ叩き落とす。
日野と高瀬が鬼平の左右を守り、元の世界の歩兵が敵の魔導師を制圧する。
佐久間は通信妨害を続け、リーゼは魔力管の経路を確認する。
ノアは右の砲身の温度を測りながら、鬼平へ叫んだ。
「あと二発撃ったら、右は冷却が必要だ!」
「一発で終わらせる」
階段の最下層に、巨大な祭壇があった。
祭壇の中央には、異世界へ通じる転移門の核が浮かんでいる。
核の周囲には、竜の骨を加工した柱が六本。
柱の根元から、魔力管が地面へ伸びていた。
祭壇の前に、黒い法衣の男が立っている。
これまでの教会兵とは違う。
頭には金属の冠。
胸には、竜の心臓を思わせる赤い魔石。
「ここまで来るとは」
男が言った。
「異界の軍曹、鬼平。竜域で我々の計画を妨害した者よ」
「お前が門を開いているのか」
「私は大司祭直属、転移門管理官だ。この世界の資源と兵器を、王国へ送る役目を担っている」
「門を閉じる」
「閉じれば、こちら側へ来た兵士たちは帰れない」
鬼平は祭壇の周囲を見た。
教会兵の中には、元の世界から召喚された兵士たちもいる。
魔導装具に繋がれ、意識を失っている者たち。
鬼平の部下と同じように、教会に利用されていた兵士だ。
「捕虜を使っている」
「彼らはすでに異世界の兵士だ。元の世界へ帰る資格などない」
「資格を決めるのは、お前じゃない」
鬼平は銃口を下げなかった。
祭壇の柱と、捕虜の魔導装具が接続されている。
撃てば、捕虜の装具へ魔力が流れ込む可能性がある。
右の対竜弾なら、柱を壊せる。
しかし、柱が倒れれば祭壇全体が崩れる。
「人質か」
「そうだ。撃てば、彼らも死ぬ」
管理官が笑った。
「武器を置け。門を安定させれば、彼らを元の世界へ返してやろう」
鬼平の刻印が、わずかに光った。
ハイテンションスキルの発動条件に近づいている。
部下を人質に取られた時。
守るべき仲間が危険にさらされた時。
鬼平の戦意は、限界まで高まる。
左の魔石が白く変わりかける。
「軍曹」
リーゼが小声で言った。
「ここで発動すると、祭壇の魔力まで吸収してしまうかもしれません」
「分かっている」
「なら、どうしますか」
「撃つ場所を選ぶ」
鬼平は祭壇を見回した。
魔力管は四本。
竜骨柱は六本。
捕虜の魔導装具は十二基。
管理官の胸部魔石は、門の核と直接接続している。
管理官を撃てば門は暴走する。
柱を撃てば捕虜が危険になる。
管を撃てば、祭壇が崩れる。
だが、捕虜の装具と柱を繋いでいる小さな連結器がある。
それを一つずつ外せば、捕虜を祭壇から切り離せる。
「高瀬、捕虜を確保」
「了解」
「日野、右側の連結器を見つけろ」
「はい」
「佐久間、管理官の通信を妨害」
「やります」
「ノア、右の砲は何発撃てる」
「今なら一発。ただし、次は冷却が必要だ」
「一発で終わらせる」
管理官が杖を掲げた。
「動くな! 捕虜の生命維持を止めるぞ!」
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
通常弾で、管理官の周囲の護衛だけを撃つ。
杖を狙う。
護衛の武器を狙う。
祭壇の設備は撃たない。
管理官の命令が遅れた。
その瞬間、日野と高瀬が左右から走る。
捕虜へ繋がった連結器を外していく。
佐久間が通信妨害を発動し、管理官の術式命令が途切れた。
「今です!」
リーゼが叫んだ。
鬼平は右のガトリング砲を構えた。
照準は、管理官の胸部魔石ではない。
魔石へ伸びる細い導力線。
その線を断てば、管理官は門を制御できなくなる。
背後に捕虜はいない。
魔力管も避けられる。
「退け」
管理官が黒い結界を張った。
鬼平は右の砲を向けた。
「一発だけだ」
対竜弾が放たれた。
黒い弾丸は結界を貫き、管理官の胸部へ届く前に導力線だけを断ち切った。
門の核から管理官へ流れていた魔力が止まる。
管理官が膝をついた。
転移門が大きく揺れた。
「門が暴走します!」
リーゼが叫んだ。
「核を止めなければ、逆流します!」
鬼平は左のガトリング砲を構えた。
祭壇の中央で、門の核が赤く膨張している。
撃てば破壊できる。
しかし、核を破壊すれば、転移門が閉じるだけではない。
異世界側に残った兵士たちが、永遠に帰れなくなる。
捕虜たちを救出できても、門の向こうにいる者は助けられない。
「軍曹、門の核を撃つしかありません!」
リーゼが言った。
「このままでは、こちら側も危険です!」
鬼平は核を見た。
その奥に、異世界側の景色が見える。
遠くに、別の門。
その向こうには、教会に捕らえられた兵士たちがまだいる。
門を完全に壊せば、彼らは帰れない。
しかし、門を残せば、異世界軍勢が侵入を続ける。
鬼平は右のガトリング砲を見た。
対竜弾は、残り四発。
右の砲身は冷却中。
左のガトリング砲は撃てる。
ハイテンションスキルを使えば、核を破壊できる。
だが、門の向こうまで弾幕が届く可能性がある。
「核を壊さない」
鬼平が言った。
「止める」
リーゼが息を呑む。
「可能ですか?」
「作る」
鬼平は祭壇の柱へ視線を向けた。
六本の竜骨柱。
そのうち二本だけが、門の核へ直接魔力を送っている。
残り四本は、門を安定させるための支柱だ。
直接接続を切れば、核は暴走せずに停止する。
「右の対竜弾を使う」
「冷却が終わっていません!」
ノアが叫ぶ。
「砲身が壊れます!」
「一発だ」
鬼平は右のガトリング砲を構えた。
黒い砲身から熱が立ち上っている。
それでも、照準を合わせる。
門の核へ伸びる二本の導力線。
一本ずつ撃つ必要はない。
二本の間にある分岐点を撃てば、両方を切断できる。
鬼平は引き金を引いた。
対竜弾が発射される。
分岐点へ命中。
二本の導力線が同時に断ち切られた。
門の核の膨張が止まる。
赤い光がゆっくりと縮んでいく。
右の砲身から、金属が割れる音が響いた。
砲身表面の竜鱗が一部剥がれ落ちる。
「右の砲身、限界です!」
ノアが叫んだ。
「冷却しろ」
鬼平は右の砲を下げた。
祭壇の魔力が弱まっていく。
転移門は完全には閉じず、薄い光の輪だけを残した。
異世界側との通信が可能な状態だ。
高瀬が捕虜たちの魔導装具を外し終えた。
「全員、生命反応があります!」
日野が続ける。
「門の向こうにも、まだ人がいます!」
鬼平は薄い光の輪を見た。
この門を完全に破壊しなければ、再び敵が来る。
しかし、今ならこちらから異世界側へ進むこともできる。
管理官が、倒れたまま笑った。
「門を残したな……愚かな兵士め……」
「使う」
「こちら側の軍勢が、また来るぞ」
「来る前に、向こうへ行く」
鬼平は二挺のガトリング砲を構えた。
左は撃てる。
右は砲身が熱を持ち、対竜弾の使用が制限されている。
それでも両手に持つ。
「門を閉じる前に、異世界側の拠点を潰す」
リーゼが驚いた。
「今から向こうへ行くのですか?」
「ああ」
「救出した兵士たちは?」
「元の世界へ戻す」
「鬼平さんは?」
「戻る」
ノアが壊れかけた右の砲身を見た。
「その砲で?」
「撃てる」
「一発だけだ」
「一発あれば十分だ」
鬼平は薄い光の輪へ歩き出した。
背後では、元の世界の兵士たちが救出した捕虜を運び出している。
地上では、山中と海上の部隊も作戦を開始していた。
無線機から、グラウ将軍の声が響く。
『こちら山中部隊。旧門跡の制御装置を確認した。敵軍が多い』
続いて、セレナの声。
『海上部隊、門の外周へ到達。海面下に巨大な魔力反応があります』
「三つの門は、すべて同じ場所へ繋がっている」
リーゼが言った。
「異世界側の中心拠点です」
鬼平は薄い光の輪を見た。
その向こうには、巨大な黒い城塞があった。
城塞の上空には、竜脈の光が渦巻いている。
教会の旗。
王国軍の旗。
そして、中央に掲げられた黒い竜の紋章。
黒竜ヴァルグリムの紋章ではない。
竜を従える者たちの紋章だ。
「敵の本拠地か」
「はい」
鬼平は左のガトリング砲を持ち直した。
右の砲身から、熱い蒸気が漏れている。
それでも、撃てる。
殴れる。
「全員、準備しろ」
鬼平が言った。
「門を越える」
高瀬が尋ねる。
「敵の本拠地へ攻め込むんですか?」
「ああ」
「三つの門を閉じるために?」
「三つの門を作った奴を、先に潰す」
鬼平は薄い光の輪をくぐった。
異世界の冷たい風が、再び身体へ触れる。
遠くで、竜の咆哮が響いた。
黒い城塞の上空に、巨大な影が浮かんでいる。
黒竜ヴァルグリムではない。
翼を持つ異形の竜が三体。
その背中には、教会の騎士が乗っている。
城塞の門が開き、無数の魔導兵が現れた。
鬼平は二挺のガトリング砲を構えた。
右の砲身が、ゆっくり回転する。
左の魔石が赤く輝く。
右の魔石が黒く輝く。
「この《ピー》が……」
鬼平は異世界の城塞を見上げた。
「今度は、こっちから行くぞ」
鬼平軍曹の反撃が、異世界側で始まった。




