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鬼平軍曹の魔石ガトリング無双  作者: しょぼんスライム


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第22話 軍曹、元の世界で砲を直す

帰還門を抜けた瞬間、鬼平は焼けた土の匂いを感じた。


 油、火薬、焦げた金属。


 異世界の竜域とは違う、だが鬼平にとっては懐かしい戦場の匂いだった。


 足元には、ドラゴンブレスを受けた陣地の跡が広がっている。


 黒く焼けた車両。


 崩れた土嚢。


 地面に散らばる薬莢。


 そして、鬼平たちの帰還を待っていた部下たち。


「軍曹!」


 最初に駆け寄ってきたのは、通信兵の真田だった。


 鬼平が異世界へ吹き飛ばされてから、ずっと戦場の跡を守っていた兵士だ。


「生きていたんですね!」


「見れば分かる」


「本当に戻ってきた……」


 真田は鬼平の隣にある二挺のガトリング砲へ目を向けた。


 左の砲は傷だらけだが、発射機構は生きている。


 右の砲は砲身が潰れ、銃架も歪んでいる。


 さらに、竜の鱗と黒銀色の素材が固定具に包まれていた。


「異世界で、何をしてきたんですか?」


「修理の材料を取った」


「ドラゴンの鱗に見えますが」


「そうだ」


「竜と戦ったんですか?」


「戦った」


「勝ったんですか?」


「撃って、殴った」


 真田はそれ以上、聞かなかった。


 鬼平の部下たちは、鬼平が無事に戻ったことを喜びながらも、異世界から来た仲間たちと獣人連邦の兵士たちを見て戸惑っていた。


 元の世界に帰還したのは、鬼平の部隊だけではない。


 教会に召喚され、魔導兵器へ改造されていた兵士たち。


 獣人連邦から同行したグラウ将軍、セレナ、ノア、リーゼ。


 そして、異世界の武器と魔力に満ちた資材。


 焼けた戦場に、異世界の一行が現れたのだ。


「軍曹、ここは本当に元の世界なんですか?」


 日野が尋ねた。


「ああ」


「見たことのない装備があります」


「味方だ」


 鬼平は部下たちへ向き直った。


「全員、武器を下ろせ」


 兵士たちは警戒しながらも、銃口を下げた。


 グラウ将軍は周囲を見渡した。


「この世界は、竜域よりも魔力が薄い」


 リーゼが手のひらに小さな光を浮かべる。


 光はすぐに弱まり、消えた。


「大気中の魔力がほとんどありません。こちらの世界では、魔法を長時間維持できない」


「魔石ガトリング砲は」


 鬼平がノアを見る。


「弾薬に魔石を使うなら、持ち込んだ分だけだ」


 ノアは左のガトリング砲を調べた。


「だが、竜域で変質した魔力回路は残っている。鬼平の刻印と合わせれば、短時間なら稼働する」


「右は」


「部品を交換すれば直せる。ただし、この世界の金属加工設備が必要だ」


 真田が手を上げた。


「近くに陸軍の整備工場があります。ここから車両で二時間ほどです」


「使えるか」


「軍曹が戻ったと伝えれば、司令部が許可を出すでしょう」


「行く」


 鬼平は右の壊れたガトリング砲を担いだ。


 周囲の兵士が手伝おうとしたが、鬼平は首を振った。


「持てる」


「でも、砲身が完全に潰れています」


「重さは残っている」


 鬼平たちは、焼けた戦場を離れた。


 帰還門の残骸は、誰もいない山中に残された。


 黒い亀裂はすでに消えている。


 しかし、地面には竜脈の光が細く残っていた。


 リーゼが振り返る。


「門を完全に閉じたわけではありません」


「開くのか」


「今は不安定で、自然に開くことはありません。ただ、向こう側から強い力が加われば……」


 鬼平は焼けた山の向こうを見た。


「教会か」


「おそらく」


 ノアが黒竜の血を封じた魔石を確認した。


「向こうの連中は、竜脈を使って門を開く方法を知っている。こちら側に門の残骸があるなら、再接続を試みる可能性がある」


「なら、砲を直す」


「その前に、門を監視する必要があります」


「真田」


 鬼平が通信兵を見る。


「ここを監視拠点にする。交代で見張れ」


「了解です」


「異常があれば通信」


「この世界の通信機で、異世界の魔力反応を拾えるでしょうか」


「拾えるようにする」


 佐久間が一歩前へ出た。


「俺の魔導装具の通信機能を、こちらの無線機へ接続できます」


「やれ」


「はい」


 整備工場へ向かう途中、異変が起きた。


 空の一部が歪んだ。


 雲の向こうに、赤い光が走る。


 グラウ将軍が馬車を止めた。


「竜脈の反応です」


 リーゼが空を見上げた。


「帰還門の残骸が、何かに引かれています」


 鬼平は左のガトリング砲を構えた。


 魔石は赤い。


 ハイテンションスキルは発動していない。


 赤い亀裂が、空中に一瞬だけ開いた。


 その向こうから、黒い影が落ちてくる。


 人間だった。


 黒装束をまとった教会の魔導兵。


 転移に失敗したのか、身体の一部が黒い魔力に覆われている。


 兵士は地面へ落ちると、すぐに立ち上がった。


「門を……開けろ……竜域へ戻れ……」


 鬼平は銃口を向けた。


「所属」


「竜脈の守護者に……栄光を……」


 兵士の身体から黒い針が伸びた。


 魔力暴走だ。


 リーゼが叫ぶ。


「近づかないでください! 身体の中で竜脈魔力が爆発します!」


 兵士が鬼平へ突進した。


 鬼平は左のガトリング砲を撃った。


 弾丸が兵士の足元へ当たり、地面を砕く。


 兵士の身体がよろめいた。


 鬼平は次に、腕の魔力管を狙った。


 魔力管が破裂し、黒い魔力が噴き出す。


 兵士は倒れたが、胸部の魔石がまだ光っていた。


「軍曹、胸の魔石を破壊しないでください!」


 リーゼが叫ぶ。


「爆発します!」


 鬼平は銃口を下げた。


 兵士の胸の魔石を放置すれば、暴走する。


 撃てば、周囲が吹き飛ぶ。


 鬼平は右の壊れたガトリング砲を持ち上げた。


「殴る」


「それも危険です!」


 鬼平は右の砲架を魔石の周囲へ叩きつけた。


 魔石を直接壊すのではなく、周囲の装甲をへこませる。


 魔力の流れが遮断された。


 兵士の身体から、黒い針が消えていく。


 佐久間が駆け寄り、魔導装具の制御部品を接続した。


「魔力を抜きます!」


 黒い光が、佐久間の装具へ流れ込む。


 佐久間の腕が震えた。


「佐久間、無理をするな」


 鬼平が言った。


「まだ、できます」


 佐久間は歯を食いしばった。


「こいつは、俺たちと同じ改造兵です」


 魔力が抜け、兵士は意識を失った。


 リーゼが治癒魔法をかける。


「生きています」


 グラウ将軍が兵士を見下ろした。


「教会は、こちらの世界まで追ってきたのか」


「門が開けば、来られる」


 鬼平は空の亀裂を見た。


 すでに消えている。


 しかし、敵は一人だけではない。


「整備工場へ急ぐ」


 鬼平は言った。


「砲を直す」


 軍用の整備工場へ到着すると、司令部から派遣された技術将校が出迎えた。


「鬼平軍曹、お待ちしていました」


 技術将校は壊れたガトリング砲を見るなり、顔を引きつらせた。


「これは……銃ですか?」


「ガトリング砲だ」


「通常のガトリング砲は、これほど大きくありません」


「魔石で撃つ」


「魔石?」


 リーゼが説明しようとしたが、鬼平が止めた。


「修理できるか」


 技術将校は右の砲を調べた。


「砲身交換、銃架補修、冷却機構の新設が必要です。現代の金属で代用できる部分はありますが、この構造は……」


「できるか」


「設備を使えば、試作は可能です」


「いつ」


「最低でも二週間」


「長い」


「軍曹、これは兵器というより、工場を一つ使う規模の装備です!」


 ノアが横から口を挟んだ。


「二週間も要らない。古代金属と竜鱗を使えば、三日で砲身を作れる」


「竜鱗?」


 技術将校が固まった。


 鬼平は机の上へ、樹竜の鱗、牙喰らいの鱗、そして第一門で得た竜の鱗を置いた。


 金属製の机が、鱗の重さで軋む。


「これを加工する」


「加工機が耐えません」


「耐えるようにする」


 ノアは工場内を見回した。


 大型旋盤。


 高圧炉。


 油圧プレス。


 精密加工機。


 魔石を使わない、元の世界の機械設備。


「この世界の機械は、魔力を使わずに金属を加工できるのか」


「そうだ」


 鬼平が答えた。


「なら、使える」


 ノアは竜鱗を手に取った。


「問題は、竜鱗がこちらの世界の熱に耐えるかだ」


 技術将校が測定器を当てる。


 数値が激しく振れた。


「測定できません。材質が地球上の金属と一致しない」


「魔力反応だ」


 リーゼが言った。


「この世界では魔力が薄いので、鱗の性質が安定していない」


「なら、魔石を使って炉を作る」


 ノアが言った。


「この世界の熱と、異世界の魔力を組み合わせる」


 鬼平は技術将校を見た。


「工場を使えるか」


「司令部の許可があれば。しかし、異世界人と未知の兵器を軍施設へ持ち込む許可は……」


 外から警報が鳴った。


 真田の無線機から、緊張した声が響く。


『監視拠点から報告! 帰還門跡地に、複数の魔力反応!』


 リーゼが顔を上げた。


「門が再接続しようとしています!」


 鬼平は左のガトリング砲を持ち上げた。


 まだ修理していない。


 弾薬も限られている。


 しかし、撃てる。


「司令部へ連絡しろ」


 鬼平が真田へ命じる。


「ここから先は、オレたちが処理する」


『軍曹、相手は何ですか?』


「異世界の敵だ」


『そんな報告、司令部が信じると思いますか?』


「信じなくてもいい。弾は必要だ」


 真田が一瞬黙った。


『了解。弾薬と車両を要請します』


 技術将校が慌てる。


「軍曹、待ってください。施設の許可がまだ――」


 鬼平は右のガトリング砲を担いだ。


「砲を直す前に、敵が来る」


 ノアが頷いた。


「右はまだ使えない」


「殴れる」


「左は撃てる」


 リーゼが言った。


「ただし、ハイテンションスキルの反動が残っています」


「使うかどうかは、戦場で決める」


 鬼平たちは整備工場を出た。


 元の世界の兵士たちが、異世界の獣人兵と並んで武器を構える。


 セレナが周囲を見渡した。


「この世界の兵士たちは、竜域の兵士とは違いますね」


「銃を持っている」


「魔力がなくても戦えるのですか?」


「訓練している」


 グラウ将軍が、元の世界の兵士たちを見た。


「この世界にも、軍隊がある」


「ああ」


「それなら、王国や教会と同じように、武器を巡って争うのでは?」


「争うこともある」


 鬼平は焼けた山を見た。


「だが、今は敵が同じだ」


 帰還門跡地に到着すると、黒い亀裂が地面から空へ伸びていた。


 前回よりも大きい。


 亀裂の向こうから、黒い装甲をまとった魔導兵が次々と現れている。


 その数は、すでに三十を超えていた。


 背後には、教会の黒装束がいる。


 竜の紋章を掲げ、こちら側へ魔力を流している。


「門を固定しています」


 リーゼが言った。


「向こう側から竜脈を引き込んでいる」


 鬼平は左のガトリング砲を構えた。


 敵の隊列と、門の周囲の魔力管を確認する。


 魔力管は地面に三本。


 そこを破壊すれば、門が閉じる。


 だが、魔力管の周囲には魔導兵が密集している。


 敵を撃ちながら、管を避ける必要がある。


「真田」


 鬼平が無線機へ呼びかける。


「弾薬が来るまで何分だ」


『十分です』


「長い」


『軍曹、普通は十分で来るだけでも早いです!』


「なら、十分耐える」


 黒装束が杖を掲げた。


「異界の兵士よ! 竜域へ戻れ! この世界は、貴様らのものではない!」


 鬼平は引き金を引いた。


 魔力弾が魔導兵の脚を撃ち抜く。


 左のガトリング砲が、元の世界の空気を切り裂いた。


「この《ピー》がァッ!」


 第一の暴言。


 弾幕が魔導兵の隊列を崩す。


 敵は地面へ倒れ、魔力管は避けられる。


 佐久間が通信妨害を発動し、黒装束の指揮命令を乱す。


 元の世界の兵士たちが、魔導兵の腕や武器を狙って射撃する。


 獣人兵は左右から回り込み、魔力管へ近づく敵を押し返す。


 鬼平は一歩ずつ前へ進んだ。


 左のガトリング砲で撃つ。


 右の壊れたガトリング砲で殴る。


 撃てない砲が、魔導兵の盾を叩き割る。


 敵の剣を受け、砲架で押し返す。


 黒装束が黒い光弾を放った。


 鬼平は左のガトリング砲で光弾を撃ち落とす。


 だが、一発が脇腹をかすめた。


 傷口が開く。


 ハイテンションスキルの反動が、身体の奥から蘇る。


 魔石が赤から白へ変わりかけた。


 鬼平は引き金から指を離した。


「まだだ」


 リーゼが叫ぶ。


「今、発動させれば身体が持ちません!」


「分かっている」


「なら、無理に撃たないでください!」


 鬼平は右のガトリング砲を両手で握った。


「撃たなくても、殴れる」


 魔導兵が五体、同時に近づいてくる。


 鬼平は右の砲を横薙ぎに振った。


 一体目の盾を破壊。


 二体目の脚を払う。


 三体目の剣を砲身で受け、銃架を腹へ叩き込む。


 四体目が背後から迫る。


 鬼平は左のガトリング砲を片手で撃ち、敵の武器を破壊した。


 五体目へ、右の砲架を振り下ろす。


「オレの世界へ勝手に入ってくるんじゃねえ!」


 第二の暴言。


 鬼平は門の周囲にある三本の魔力管へ到達した。


 一本目は、魔導兵の盾に隠れている。


 二本目は、黒装束の背後。


 三本目は、地面へ深く埋め込まれていた。


 鬼平はまず一本目の周囲の敵を撃ち払った。


 次に、右の砲架で魔力管の固定具を叩き割る。


 一本目の管が外れ、亀裂が揺らいだ。


 黒装束が叫ぶ。


「管を壊すな! 門が崩れる!」


「知っている」


 鬼平は二本目へ向かった。


 黒装束が自ら前へ出る。


 黒い魔力で作った槍を構えている。


「貴様は、竜域を壊した!」


「壊していない」


「竜脈を奪い、竜の血を持ち帰った!」


「必要だった」


「竜殺しの兵器を作るつもりか!」


 鬼平は黒装束の槍を右のガトリング砲で受け止めた。


「竜脈を傷つける奴を撃つ」


 左の銃口を黒装束の足元へ向けた。


 短い連射。


 地面が砕け、黒装束が転倒する。


 鬼平は魔力管の固定具を蹴り飛ばした。


 二本目が外れる。


 門の亀裂がさらに細くなる。


 しかし、三本目の管から大量の魔力が流れ込み、門を維持していた。


 黒装束が最後の力で、三本目の管を起動する。


 地面から巨大な黒い腕が伸び、鬼平の脚を掴んだ。


「まだ終わっていない!」


 鬼平は右のガトリング砲で黒い腕を殴った。


 魔力の腕が揺らぐ。


 もう一度。


 腕の中心にある魔法陣が砕けた。


「魔法は、床に描いてある」


 鬼平は低く言った。


「なら、床を壊せば消える」


 右の砲架を地面へ叩きつける。


 三本目の魔力管を固定していた魔法陣が崩壊した。


 黒い亀裂が急速に閉じていく。


 門の向こうに、教会の増援部隊が見えた。


 しかし、こちら側へ出る前に境界が縮んでいく。


 黒装束が叫んだ。


「待て! 竜域へ戻れなくなる!」


「勝手に来たなら、勝手に帰れ」


 鬼平は最後の魔導兵を右の砲架で吹き飛ばした。


 黒い亀裂が消える。


 空には、焼けた山と灰色の雲だけが残った。


 戦場が静かになった。


 魔導兵は倒れ、黒装束は拘束されている。


 鬼平は左のガトリング砲を見た。


 魔石は赤いまま。


 ハイテンションスキルは発動していない。


 弾薬も、まだ残っている。


 だが、鬼平の右肩と脇腹から血が流れていた。


 リーゼが駆け寄る。


「今回は、スキルを使わずに戦えましたね」


「必要なかった」


「発動しそうでした」


「止めた」


「自分で止められたのは、進歩です」


 鬼平は右のガトリング砲を見た。


 砲身は完全に使えない。


 銃架も歪んでいる。


「修理する」


 ノアが頷いた。


「この世界の工場を使えば、竜の鱗と現代の金属を組み合わせられる」


 技術将校が、倒れた魔導兵と壊れた魔力管を見た。


「司令部へ報告します。異世界からの侵入者を確認。魔導兵器の存在も確認しました」


「信じるか」


「実物がありますから、信じるしかありません」


 遠くから、軍用車両の音が近づいてきた。


 弾薬と補給物資を積んだ車列だった。


 真田が無線機を片手に走ってくる。


「軍曹、司令部からです! この地域を特別戦区に指定し、鬼平軍曹の部隊へ臨時指揮権を与えるそうです!」


「臨時か」


「異世界勢力への対処が終わるまで」


「なら、砲を直す」


 鬼平は整備工場の方へ歩き出した。


 部下たちが続く。


 獣人兵たちは元の世界の兵士たちと情報を交換し、リーゼは魔力管を調べ、佐久間は無線機への接続を始めている。


 ノアは竜の鱗と現代の金属を並べ、修理計画を組み始めた。


 グラウ将軍は、元の世界の軍用車両を見ていた。


「この世界の軍隊は、竜なしで空を飛ぶのか」


 真田が空を指した。


「航空機なら、あちらにあります」


 遠くの基地から、戦闘機が飛び立っていく。


 グラウ将軍の目が見開かれた。


「竜より速い」


「ミサイルも撃てます」


「この世界の兵器は、魔力を使わずに竜を殺せるのか」


 鬼平が答えた。


「使い方を間違えれば、味方も殺す」


 グラウ将軍は空を見上げた。


「それは、魔力兵器も同じだ」


「だから、撃つ対象を選ぶ」


 整備工場へ戻ると、鬼平は右のガトリング砲を修理台へ置いた。


 ノア、技術将校、数名の整備兵が周囲に集まる。


 竜の鱗。


 牙喰らいの素材。


 古代金属。


 現代の砲身素材。


 黒竜の血を封じた魔石。


 異世界と元の世界、双方の技術を組み合わせる修理が始まった。


「まず、砲身を作る」


 ノアが言った。


「次に、魔石回路を現代の発射機構へ接続する」


「弾は」


 鬼平が尋ねた。


「対竜弾を作る。だが、黒竜の血は一滴しかない」


「一滴で何発だ」


「十発。うまくいけば十五発」


「少ない」


「貴様は弾数の話になると、いつも不満そうだな」


「弾が足りない」


「だから無限に撃つな」


 鬼平は左のガトリング砲を見た。


 ハイテンションスキルは、弾を無限にする。


 しかし、身体の負荷は大きい。


 さらに、元の世界で発動すれば、竜域よりも魔力が薄いため、どのような影響が出るか分からない。


「スキルは、こちらの世界でも使えるか」


 リーゼが調べた。


「刻印と魔石回路が残っているので、発動する可能性はあります。ただ、周囲の魔力が少ないため、異世界よりも鬼平さん自身の魔力を消費するかもしれません」


「身体が持たない?」


「最悪の場合、命に関わります」


 鬼平は短く頷いた。


「必要な時だけ使う」


「本当にお願いします」


 その夜、整備工場の外で警報が鳴った。


 帰還門跡地ではない。


 別の場所から、強い魔力反応が発生したのだ。


 地図上では、鬼平たちがかつて戦っていた山から約百キロ離れた場所。


 真田が通信機を持って走ってくる。


「軍曹、複数の転移反応です! 今度は市街地の近くです!」


 技術将校が顔を青くした。


「異世界の軍勢が、こちらの市街地へ出現する可能性があります」


「数は」


「推定、五百以上」


 工場内が静かになった。


 元の世界へ戻ったばかりの鬼平たち。


 右のガトリング砲は修理途中。


 左のガトリング砲は撃てるが、弾薬には限りがある。


 敵は五百以上。


 さらに、市街地には一般人がいる。


 鬼平は修理台の上の右のガトリング砲を見た。


 新しい砲身は、まだ取り付けられていない。


 撃てない。


 殴れる状態ですらない。


「修理を止めるな」


 鬼平が言った。


 ノアが顔を上げる。


「出るのか」


「左だけで行く」


「ハイテンションスキルを使うなよ」


「必要なら使う」


「必要にならないように戦え」


 鬼平は左のガトリング砲を手に取った。


 部下たちが装備を整える。


 グラウ将軍が獣人兵を集める。


 セレナが地図を確認し、リーゼが転移反応の位置を特定する。


 佐久間が無線機へ魔力通信機能を接続した。


「軍曹、今度の戦場は市街地です」


 高瀬が言った。


「敵を撃つと、建物へ当たります」


「撃つ場所を選ぶ」


「無限弾幕は使えませんね」


「使わない」


 鬼平は左のガトリング砲の魔石を確認した。


 赤い光。


 まだ、ハイテンションスキルは発動していない。


「右が撃てないなら、左で戦う」


 鬼平は整備工場の出口へ向かった。


「左も撃てなくなったら?」


 日野が尋ねた。


 鬼平は一瞬だけ立ち止まった。


 そして、右の壊れたガトリング砲を見た。


「殴る」


 ノアが叫んだ。


「右は修理台に固定している!」


「外せ」


「今からか!」


「必要だ」


 整備兵たちが慌てて固定具を外す。


 鬼平は壊れた右のガトリング砲を肩へ担いだ。


 まだ撃てない。


 まだ完全には直っていない。


 だが、持てる。


 整備工場の外で、異世界への転移光が市街地の空を赤く染めていた。


 元の世界へ戻った鬼平軍曹は、再び戦場へ向かう。


 今度の敵は、竜ではない。


 異世界から来た軍勢と、彼らを迎え撃つ元の世界の軍隊。


 魔石と火薬。


 魔導兵器と現代兵器。


 二つの世界の戦争が、始まろうとしていた。

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