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鬼平軍曹の魔石ガトリング無双  作者: しょぼんスライム


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第19話 軍曹、牙喰らいを撃つ

牙の森の奥から、低い咆哮が響いた。


 黒い木々が左右へ押し開かれ、巨大な獣が姿を現す。


 それは、熊に似た体つきをしていた。


 しかし、頭部には三本の角があり、口元からは白い牙が何本も突き出している。


 背中には、牙の森の木々と同じ白い突起が並んでいた。


 体長は十五メートルを超えている。


 地面を踏みしめるたび、周囲の根が震えた。


「牙喰らいです」


 森の番人である樹竜の精霊が言った。


『森の牙を食らい、竜の子供を狙う捕食者。奴を倒さなければ、第二門は開かない』


 鬼平は左手の魔石ガトリング砲を構えた。


 右手のガトリング砲は、竜脈貫通砲の仮砲身が完全に壊れている。


 砲口は歪み、銀色の金属片が剥がれ落ちていた。


 撃つことはできない。


 しかし、殴ることはできる。


「子供たちを下げろ」


 鬼平が命じた。


 日野と高瀬が、竜の子供たちを雌竜の翼の下へ誘導する。


 セレナは弓を構え、牙喰らいの動きを見た。


「正面からでは、矢が通らないでしょう」


「通る場所を探す」


 鬼平は牙喰らいの身体を観察した。


 頭部の角。


 厚い胸部。


 前脚を覆う白い突起。


 背中から伸びた牙のような骨。


 腹部だけが、木の根に隠れて見えない。


 そこが弱点だ。


 牙喰らいが、竜の子供たちへ向かって走り出した。


 雌竜が炎を吐く。


 牙喰らいは頭部を下げ、炎を角で受け止めた。


 角が赤く輝き、炎を吸収していく。


「炎が効いていない!」


 リーゼが叫ぶ。


「角が魔力を吸収しています!」


「なら、撃つ」


 鬼平は左のガトリング砲を撃った。


 弾幕が牙喰らいの頭部へ集中する。


 角に当たった魔力弾が、次々と吸収されていく。


 牙喰らいが咆哮した。


 吸収した炎と弾丸の魔力が、全身へ流れ込んでいる。


「吸収して、強くなっています!」


 リーゼが叫んだ。


「撃つな!」


 セレナが言った。


 だが、牙喰らいはすでに鬼平へ向かっていた。


 巨体が迫る。


 鬼平は右のガトリング砲を横に構えた。


 牙喰らいの角と、壊れた砲身が衝突する。


 衝撃で鬼平の身体が後ろへ滑った。


 地面に深い溝が刻まれる。


 右の砲身が、さらに曲がった。


「軍曹!」


 高瀬が叫んだ。


 鬼平は右の砲を押し返した。


 牙喰らいは、鬼平を押し潰そうとさらに力を込める。


 片手二百キロを超えるガトリング砲でも、牙喰らいの重量には敵わない。


 鬼平の膝が沈む。


 腰と肩に痛みが走る。


 ハイテンションスキルの反動が残った身体では、正面から受け続けるのは危険だった。


「右へ回れ!」


 鬼平が叫んだ。


 日野たちが左右へ散る。


 牙喰らいが鬼平の砲を押し切った瞬間、鬼平は横へ転がった。


 獣の角が背後の木へ突き刺さる。


 牙喰らいの動きが止まった。


 鬼平は左のガトリング砲を、頭部ではなく前脚へ向けた。


 連射。


 弾丸が白い突起の隙間へ入り込む。


 硬い外皮ではなく、関節を狙う。


 牙喰らいの前脚が崩れた。


 巨体が地面へ倒れ、森全体が揺れる。


 竜の子供たちが悲鳴を上げた。


「今です!」


 セレナが矢を放った。


 矢は牙喰らいの腹部へ飛ぶ。


 しかし、途中で白い根が伸び、矢を弾き飛ばした。


「森が邪魔をしています!」


 リーゼが言った。


「牙喰らいを守っているのか」


 鬼平は樹竜の精霊を見た。


『牙喰らいも、森の一部だ。森は、容易に同族を傷つけない』


「なら、森に傷つけさせる」


『何をする』


 鬼平は牙喰らいの背中を見た。


 白い突起は、森の根と繋がっている。


 牙喰らいは森の牙を食らっているのではない。


 森の魔力を吸って、外皮を維持している。


 その接続を断てば、牙喰らいの防御は落ちる。


「背中の牙を撃つ」


 リーゼが魔力の流れを調べた。


「牙喰らいの背中から、森の根へ魔力が流れています。そこを破壊できれば、弱体化するかもしれません」


「撃つ」


 鬼平は左のガトリング砲を構えた。


 しかし、牙喰らいが起き上がる。


 前脚の傷は、すでに再生を始めていた。


 牙喰らいは鬼平ではなく、竜の子供たちへ向きを変えた。


 雌竜が炎を吐く。


 牙喰らいが炎を吸収する。


 そのまま、子供たちへ突進した。


「撃て!」


 セレナが叫んだ。


 鬼平は牙喰らいの背中へ弾幕を浴びせた。


 背中の白い牙が一本、また一本と砕ける。


 森の根との接続が切れ、牙喰らいの身体が揺らいだ。


 だが、すべてを壊す前に、牙喰らいが竜の子供たちへ到達する。


 雌竜が子供たちの前に立ちはだかった。


 牙喰らいが大口を開ける。


 白い牙が、雌竜の翼へ迫った。


 鬼平は左のガトリング砲を撃ち続けた。


 弾幕が牙喰らいの側面へ当たる。


 しかし、牙喰らいは止まらない。


 頭部の角へ魔力が集まっている。


 吸収した炎と弾丸が、巨大な光球になっていた。


 牙喰らいが光球を吐き出す。


 鬼平は右の壊れたガトリング砲を持ち上げた。


 光球を正面から受ける。


 衝撃で鬼平の身体が吹き飛んだ。


 背中が木の幹へ叩きつけられる。


 右のガトリング砲が地面へ落ち、砲架がさらに歪んだ。


「軍曹!」


 日野と高瀬が駆け寄る。


 鬼平はゆっくりと立ち上がった。


 脇腹に激痛が走る。


 口の中に血の味が広がる。


 左のガトリング砲は、まだ握っている。


 魔石は赤い。


 通常射撃が可能だ。


 だが、牙喰らいの角は弾丸を吸収する。


 背中の牙へ撃っても、すべてを破壊する前に子供たちが襲われる。


 右のガトリング砲は撃てない。


 だが、右の砲架は近距離なら使える。


 鬼平は牙喰らいの頭部を見た。


 角の根元に、魔力を吸収するための亀裂がある。


 そこへ右の砲架を叩き込めば、角を折れるかもしれない。


「高瀬」


「はい」


「子供たちを左へ誘導しろ」


「軍曹は?」


「右から入る」


「一人で近づくんですか?」


「左で撃って、右で殴る」


 鬼平は左のガトリング砲を構えた。


 牙喰らいが再び雌竜へ向かう。


 鬼平は頭部ではなく、地面へ向けて射撃した。


 魔力弾が地面を砕き、土煙が上がる。


 牙喰らいの視界が塞がれた。


 鬼平は土煙の中を走った。


 右手の壊れたガトリング砲を引きずり、牙喰らいの側面へ回る。


 牙喰らいが鬼平の気配に気づいた。


 頭部が振り向く。


 角の根元が見える。


 鬼平は右の砲架を両手で握った。


 片手二百キロを超える兵器を、身体ごと振り回す。


 砲架が角の根元へ直撃した。


 硬い音が響く。


 一本目の角に亀裂が走る。


 牙喰らいが吠え、前脚を振り下ろした。


 鬼平は砲身を盾にして受け止めた。


 足元の地面が沈む。


 牙が砲身へ食い込む。


「撃てねえなら……」


 鬼平は歯を食いしばった。


「殴るだけだ!」


 右の砲架を再び振り上げる。


 二撃目。


 角が折れた。


 牙喰らいの頭部から、吸収していた魔力が噴き出す。


 巨大な光球が崩れ、周囲へ暴発した。


 鬼平は左のガトリング砲を構え、飛び散る魔力を撃ち落とした。


 弾幕が光の塊を一つずつ破壊する。


 牙喰らいの防御が崩れた。


 背中の白い牙と、腹部の柔らかい皮膚が露出する。


「今です!」


 リーゼが叫ぶ。


「背中と腹部を狙ってください!」


 鬼平は左のガトリング砲を牙喰らいの背中へ向けた。


 連射する。


 白い牙が次々と砕け、森との接続が断たれていく。


 牙喰らいは逃げようとした。


 しかし、雌竜が翼を広げ、炎の壁で進路を塞いだ。


 鬼平は最後の接続部へ弾幕を集中させた。


 背中の白い牙がすべて砕ける。


 牙喰らいの身体から、黒い魔力が抜けていった。


 外皮が崩れ、巨大な獣の姿が小さくなる。


 それでも牙喰らいは立ち上がり、鬼平へ向かって牙を剥いた。


 魔力を失っても、戦う力は残っている。


 鬼平は左のガトリング砲を下ろした。


 弾幕ではなく、右の砲架を構える。


 牙喰らいが突進する。


 鬼平は一歩だけ前へ出た。


 牙喰らいの頭部へ、右のガトリング砲を振り下ろす。


 砲架が頭部へ直撃した。


 牙喰らいの巨体が、地面へ叩きつけられた。


 森全体が震えた。


 牙喰らいは、もう動かなかった。


 鬼平は右のガトリング砲を地面へ置いた。


 砲身は完全に潰れ、仮砲身の銀色の筋も消えている。


 左のガトリング砲の魔石が、赤から白へ変わり始めた。


 鬼平の指が引き金へ掛かる。


 牙喰らいは倒れている。


 竜の子供たちは無事だ。


 戦闘は終わった。


 それでも、ハイテンションスキルの余韻が残っている。


「軍曹!」


 日野が叫んだ。


「もう敵はいません!」


 鬼平は牙喰らいを見た。


 獣の身体は、ゆっくりと縮んでいる。


 死んでいない。


 呼吸をしている。


「止まれ」


 高瀬が言った。


「軍曹、撃つ必要はありません」


 鬼平の指が震えた。


 魔石が白く輝く。


 リーゼが駆け寄る。


「鬼平さん、銃を下ろしてください!」


「敵か確認する」


「もう倒れています!」


「確認する」


「私たちが確認しました!」


 鬼平は周囲を見回した。


 森の根は止まっている。


 竜の子供たちは雌竜の翼の下にいる。


 遠征隊は無事。


 牙喰らいは動かない。


 敵はいない。


 鬼平はゆっくりと引き金から指を離した。


 左のガトリング砲の回転が止まる。


 白い光が、赤へ戻っていく。


 鬼平は膝をついた。


 高瀬と日野が支える。


「また、止めてもらいましたね」


 リーゼが言った。


「止まった」


「今回は、自分で?」


「敵がいなかった」


 鬼平はそう答えたが、その声には疲労が滲んでいた。


 ハイテンションスキルの反動で、腕も脚も震えている。


 治癒魔法を受けても、すぐには立てそうにない。


 樹竜の精霊が、牙喰らいへ近づいた。


『森を食らう者は、森に戻る』


 牙喰らいの身体が、白い光に包まれる。


 巨大な獣の外皮がほどけ、白い牙と黒い骨が地面へ沈んでいく。


 その代わりに、牙喰らいの胸部から黒銀色の鱗が一枚浮かび上がった。


 鬼平の前へ落ちる。


 ノアが拾い上げた。


「これは竜鱗ではない。牙喰らいの魔力核を覆っていた素材だ」


「砲身に使えるか」


「竜の鱗より硬い。だが、加工には時間がかかる」


「使う」


 精霊が鬼平を見た。


『第二門を通る許可を与える』


 牙の森の奥で、巨大な根が左右へ開いていく。


 その向こうに、岩で作られた階段が現れた。


 階段は森を抜け、険しい山道へ続いている。


 第二門《牙の森》の出口だった。


『だが、竜の子供を守ったことで、竜たちに知られた』


「何を」


『竜殺しの刻印を持つ者が、竜を守ったことを』


「それで」


『竜域の奥では、貴様を殺す者と、貴様を助ける者が現れる』


「敵と味方か」


『竜は、人間ほど単純ではない』


 鬼平は壊れた右のガトリング砲を見た。


 発射機構は完全に沈黙している。


 砲身は使えない。


 しかし、牙喰らいの鱗と、樹竜から受け取った鱗がある。


 修理の材料は増えた。


 竜の鱗は残り十一枚。


「次は、第三門か」


 セレナが地図を開いた。


「牙の森を抜けた先に、天頂の裂け目があります。そこが竜域の中心へ続く最後の門です」


「歩けるか」


 リーゼが鬼平を見る。


「今すぐは無理です」


「何時間だ」


「最低でも半日休んでください」


「長い」


「あなたの身体は、ガトリング砲ではありません。無限には撃てないのです」


 鬼平は左のガトリング砲を見た。


 魔石は赤い。


 弾は残っている。


 しかし、ハイテンションスキルの反動は蓄積していた。


「弾は尽きない」


「身体は尽きます」


 鬼平は黙った。


 日野が苦笑する。


「今回は、半日休みましょう」


「敵が来たら」


「俺たちが守ります」


 高瀬が続ける。


「軍曹が止めろと言ったでしょう」


 鬼平は部下たちを見た。


 竜の子供たちを守ったことで、遠征隊は無事だった。


 牙喰らいも殺さず、森を壊さずに倒した。


 撃てない右のガトリング砲は完全に壊れたが、修理に使える素材は手に入った。


「半日だ」


 鬼平が言った。


 リーゼが驚いた。


「休むのですか?」


「修理もする」


「休みながら修理はできません」


「ノアがやる」


「貴様も手伝え」


 ノアが言った。


「砲を直すなら、壊した本人が構造を説明しろ」


「分かった」


 遠征隊は、牙の森の出口近くで野営することになった。


 竜の子供たちは、雌竜とともに森の奥へ戻っていく。


 別れ際、小さな黒い竜が鬼平の左手へ近づいた。


 鬼平は動かずに待った。


 竜の子供は、鬼平のガトリング砲を鼻先でつついた。


 魔石が小さく光る。


 子供は驚いて後退したが、再び近づいてきた。


「気に入ったのか」


 高瀬が笑った。


「武器をか?」


「軍曹をかもしれません」


 鬼平は黒い竜の子供へ手を伸ばした。


 子供は鬼平の指先に鼻を触れ、翼を震わせた。


 その瞬間、鬼平の刻印が淡く光る。


 竜の子供の額にも、小さな赤い紋様が浮かんだ。


 リーゼが目を見開く。


「刻印が共鳴しています」


「敵か」


「違います。これは……認識の印です」


「何だ」


「竜の子供が、鬼平さんを敵ではないと認めたのかもしれません」


 小さな竜は、雌竜のもとへ戻っていった。


 雌竜は鬼平を一度だけ見て、森の奥へ消えた。


 その夜、鬼平は修理台の横で右のガトリング砲を調べていた。


 新しい砲身は使えない。


 しかし、牙喰らいの鱗と樹竜の鱗を組み合わせれば、補修できる可能性がある。


 ノアが金属片を並べた。


「完全修理には、まだ竜の鱗が必要だ」


「残り十一枚」


「それと、竜の血」


「牙喰らいから取れないか」


「竜ではない。代用品にはなるが、対竜弾の性能が落ちる」


「竜の血を取る」


 ノアは鬼平を見た。


「ヴァルグリムからか」


「聞いてから決める」


「竜が血を渡すと思うか」


「必要だと説明する」


「断られたら?」


 鬼平は左のガトリング砲を見た。


「撃つ」


 ノアは深くため息をついた。


 工房の外で、遠くから竜の咆哮が聞こえた。


 牙の森を抜けた先。


 第三門《天頂の裂け目》の方向からだ。


 咆哮に呼応するように、鬼平の刻印が赤く輝く。


 左のガトリング砲の魔石も、わずかに明滅した。


 鬼平は二挺のガトリング砲を見た。


 一挺は撃てる。


 一挺は完全に壊れた。


 それでも、竜域の奥へ進む。


「明日、第三門へ向かう」


 鬼平は言った。


「竜の鱗を集める」


 ノアが頷く。


「竜の血を取る」


 リーゼが魔導書を閉じる。


「黒竜ヴァルグリムと話す」


 セレナが弓を確認する。


「帰還門を作る」


 部下たちが武器を整える。


「必要なら、撃つ」


 鬼平は最後に、右の壊れたガトリング砲を持ち上げた。


 発射機構は沈黙している。


 砲身は壊れている。


 だが、重量は残っている。


 鬼平はそれを肩へ担いだ。


 竜域の夜空に、無数の流星が走った。


 流星ではない。


 竜の飛翔によって散った魔力の欠片だ。


 その向こうに、黒竜ヴァルグリムがいる。


 そして第三門《天頂の裂け目》が、鬼平たちを待っている。


 牙の森の戦いは終わった。


 だが、竜域の試練は、ようやく本当の姿を現し始めた。

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