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鬼平軍曹の魔石ガトリング無双  作者: しょぼんスライム


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第16話 軍曹、竜域への道を知る

獣人連邦の国境砦を守り抜いた翌朝。


 鬼平は、修理局の工房で目を覚ました。


 ベッドではなく、修理台の横に置かれた簡素な寝台だった。


 起き上がろうとした瞬間、全身に痛みが走る。


 ハイテンションスキルの反動は、前回よりも重かった。


 肩、腰、膝、指先。


 身体のあちこちが、まだ戦闘の続きを訴えている。


「目が覚めましたか」


 リーゼが工房の机から顔を上げた。


「何時間だ」


「十時間です」


「長い」


「前回は六時間で起きました。今回は本当に危険でした」


「敵は」


「いません」


「砲は」


「そこです」


 リーゼが指した先に、二挺の魔石ガトリング砲が並んでいる。


 左の砲は、外装を外され、魔石回路を調整されていた。


 右の砲は、砲身が取り外され、台座だけになっている。


 鬼平は寝台から降りようとした。


 リーゼが慌てて止める。


「まだ歩かないでください!」


「砲を見る」


「寝たままでも見えます」


「近くで見る」


「軍曹は、武器のためなら身体を壊すこともためらわないのですね」


「身体は直る」


「右の砲身は壊れています」


「直す」


「そういう意味ではありません!」


 鬼平は壁を支えにして立ち上がった。


 脚は震えたが、歩くことはできた。


 工房の中央では、ノアが右のガトリング砲の修理を進めている。


 取り外された砲身の隣には、見覚えのない古代金属製の砲身が置かれていた。


 長さは元の砲身よりも短い。


 しかし、表面には竜の鱗に似た銀色の筋が走っている。


「それが新しい砲身か」


 鬼平が尋ねた。


「試作品だ」


 ノアは工具を止めずに答えた。


「古代兵器庫の地下で見つかった。竜種の魔力に耐えるための砲身らしい」


「使えるか」


「加工すれば使える」


「いつだ」


「急かすな。貴様の身体と同じで、壊れた物はすぐには直らん」


 鬼平は砲身の表面を指でなぞった。


 冷たい金属の中に、微かな魔力の流れがある。


 左のガトリング砲とは違う。


 こちらは、竜の魔力を受けても壊れないように作られている。


「何の兵器だ」


「《竜脈貫通砲》」


 ノアが答えた。


「かつて古代人が、竜域の結界を破るために作った砲の一部だ」


「ガトリング砲に付けられるか」


「構造を変えれば可能だ」


「なら、付けろ」


「簡単に言うな。魔力流路が違いすぎる」


 リーゼが砲身の刻印を読み取った。


「これは竜域の結界を貫くための兵器です。通常の魔力ではなく、竜脈の逆流を利用する設計になっています」


「逆流?」


「竜域の魔力は、外へ流れ出しています。そこへ逆向きの魔力をぶつけることで、結界に穴を開ける」


「撃てるなら問題ない」


「問題は、撃った時に砲身だけでなく、周囲の竜脈まで傷つけることです」


 ノアが頷いた。


「この砲を使えば、竜域へ入れる。だが、撃ち方を間違えれば、竜域全体の魔力が暴走する」


「それは、黒竜にも影響するか」


「黒竜だけではない。竜域にいるすべての竜と、竜脈に繋がる土地が影響を受ける」


 鬼平は新しい砲身から手を離した。


「暴走させない」


「貴様にできるのか」


「できるようにする」


 ノアは少しだけ笑った。


「その言い方をする時のお前は、だいたい何かを壊す」


「壊すのは敵だ」


「砲身まで壊すなよ」


 工房の扉が開いた。


 グラウ将軍とセレナが入ってくる。


 グラウの手には、黒装束の男から押収した竜の紋章があった。


「目を覚ましたか」


「竜域への道を知りたい」


 グラウは一瞬、眉を上げた。


「挨拶より先にそれか」


「急いでいる」


「黒装束の男を尋問した。竜域へ入るには、三つの門を越える必要がある」


 グラウは工房の机に地図を広げた。


 獣人連邦の西側から、さらに北へ伸びる山脈が描かれている。


 山脈の中央には、黒い線で囲まれた地域があった。


「ここが竜域だ」


「遠いな」


「徒歩なら二十日。魔導車なら七日」


「魔導車はあるか」


「ある。しかし、国境戦で多くが損傷した」


「動くものを使う」


 セレナが地図上の三つの印を指した。


「竜域へ入るには、第一門《灰の峡谷》、第二門《牙の森》、第三門《天頂の裂け目》を通ります」


「敵は」


「竜域の番人です。人間も獣人も、竜域へ入ることを許されていません」


「戦うのか」


「交渉の余地はあります。ただし、竜殺しの刻印を持つ者が近づけば、攻撃される可能性が高い」


 鬼平は手の甲を見た。


 赤い刻印が、かすかに脈打っている。


 黒竜ヴァルグリムと対峙した時から、この刻印はたびたび熱を持つようになった。


「なぜ、この刻印が竜域の門を開く」


 リーゼが尋ねた。


 グラウは押収した竜の紋章を裏返した。


 裏側には、鬼平の刻印と似た形状の文様が刻まれている。


「これは、古代の竜殺し部隊が使っていた紋章だ」


「竜殺し部隊?」


「竜を倒すために、竜の魔力を身体へ刻み込んだ兵士たち。古代文明が作った対竜兵器の一部だ」


 鬼平の目が細くなる。


「兵器の一部?」


「刻印を持つ兵士は、竜脈の流れを感知できる。竜域の門を開ける鍵にもなる」


「なぜ、オレにある」


「それは分からない」


 リーゼが黙り込んだ。


 彼女は王城地下の記録を思い出しているようだった。


「召喚儀式の記録に、鬼平さんの名前はありませんでした」


「召喚された時に付いたものではないのか」


「分かりません。刻印は、この世界へ来る前からあった可能性があります」


 鬼平は自分の手の甲を見た。


 元の世界にいた時には、こんな刻印はなかった。


 ドラゴンブレスに吹き飛ばされた直後、異世界へ落ちた時から現れたものだ。


 黒竜ヴァルグリムとの戦闘で、刻印はさらに強く反応している。


「竜に聞く」


 鬼平は言った。


「黒竜に?」


「ああ」


「殺すのではなく?」


「聞いてから決める」


 グラウ将軍は、鬼平を見た。


「黒竜ヴァルグリムは、竜域の守護者だ。奴と戦えば、竜域全体を敵に回す」


「元の世界へ帰る道を知っている」


「それが罠でもか」


「罠なら、撃ち抜く」


 セレナが耳を動かした。


「鬼平殿、連邦は竜域への遠征を許可しません」


「許可を求めているのではない」


「では、何を求めるのですか」


「魔導車と食料、弾薬、修理部品」


 セレナは呆れた顔をした。


「遠征の許可を求めるより、図々しい要求です」


「必要だ」


 グラウ将軍は腕を組んだ。


「貴様が竜域へ行けば、竜を刺激する可能性がある」


「すでに敵だ」


「連邦が巻き込まれる」


「竜域へ行かなくても、教会が追ってくる」


 鬼平は王国軍から押収した攻城砲の部品を見た。


「教会は、竜の力を兵器に使っている。放っておけば、次は獣人連邦の街を狙う」


 グラウ将軍は黙った。


 防衛戦で使われた《城砕き》は、王国軍が古代兵器を改造したものだ。


 教会の黒装束は、竜の魔力を利用してさらに出力を上げていた。


 竜域へ向かうことは危険だ。


 しかし、教会に竜の力を渡し続けることも危険だった。


「連邦として、貴様の遠征を支援する」


 グラウが言った。


 セレナが振り返る。


「将軍!」


「条件がある」


 グラウは鬼平を見た。


「竜域で得た情報を、連邦と共有すること。竜の鱗や血を、独占しないこと。帰還門を開く時は、連邦の監視下で行うこと」


「最後の条件は、部下を帰す時に邪魔をしないなら受ける」


「貴様が世界を壊さない限り、邪魔はしない」


「なら、受ける」


 グラウはセレナへ視線を向けた。


「遠征隊を編成しろ」


「私が同行します」


 セレナが即座に答えた。


「竜域の地理を知っている者が必要です」


「危険だぞ」


「国境門で、私はこの方の武器を捨てさせようとしました」


 セレナは鬼平を見た。


「せめて、どれほど危険な武器なのか、自分の目で確認したい」


「撃てない時は殴る」


「それも含めてです」


 鬼平は頷いた。


「来い」


 工房の外から、部下たちの声が聞こえた。


「軍曹、魔導車の確認が終わりました!」


 高瀬の声だ。


「三台のうち、一台は走れます。もう一台は部品交換で動きそうです!」


 日野が続ける。


「弾薬と食料も、連邦から支給されるそうです!」


 鬼平はノアへ向いた。


「修理は」


「右の砲身を交換し、左の制御を調整する。出発まで二日」


「一日でやれ」


「二日だ」


「一日半」


「二日」


「一日半」


「貴様は値切っているのか」


「戦場では時間も資材だ」


 ノアは頭を掻いた。


「一日半で、右は仮修理。完全修理は竜の鱗を手に入れてからだ」


「それでいい」


 鬼平は右のガトリング砲の台座を見た。


 新しい砲身を取り付けるため、内部の魔力回路が開かれている。


 ノアは古代金属を加工し、リーゼは魔力管を調整している。


 佐久間は自分の魔導装具から、再利用できる制御部品を選別していた。


「佐久間」


「はい」


「お前の装具は、どこまで使える」


「右腕の出力補助と、魔力通信妨害が少し。戦闘用の機能はほとんど残っていません」


「竜域で使えるか」


「使います」


「壊れるぞ」


「壊れたら、また直してください」


 鬼平は佐久間を見た。


「自分で直せ」


「分かりました」


 工房の地下から、大きな振動が伝わってきた。


 床に並べられた工具が跳ねる。


 新しい砲身が、共鳴するように低い音を出した。


 ノアが顔を上げた。


「竜域の方向から、魔力の波が来ている」


「攻撃か」


「違う。門が開いた」


 リーゼが地図へ駆け寄った。


「竜域の第一門です。誰かが外から開けたのではなく、内側から開いています」


 グラウ将軍が窓の外を見た。


 北の山脈の上空に、黒い雲が集まり始めている。


 雷ではない。


 竜脈の魔力が空へ漏れ出している。


「誰が開けた」


 セレナが尋ねた。


 鬼平の手の甲の刻印が、強く赤く輝く。


 工房の中に、低い声が響いた。


 遠くから聞こえるのに、全員の耳元で囁かれたような声だった。


『刻印を持つ者よ。ようやく戻ってきたか』


 部下たちが一斉に武器を構える。


 鬼平は声の方向を探した。


「誰だ」


『貴様が撃ち抜いた門の向こうにいる者だ』


「黒竜か」


『我が名はヴァルグリム。竜域の守護者にして、貴様をこの世界へ呼んだ者』


 工房内の空気が凍った。


 リーゼが息を呑む。


「呼んだ……?」


 鬼平の手が、ガトリング砲の持ち手を握った。


「オレを、この世界へ呼んだのはお前か」


『正確には、貴様の中に眠るものを呼んだ』


「部下たちもか」


『異界の兵士たちは、教会が勝手に招いた。貴様だけは違う』


 鬼平は手の甲の刻印を見た。


「何のために」


『竜脈を守るためだ』


「なら、なぜ部下を巻き込んだ」


『貴様が戦場から離れなかったからだ』


 鬼平の目が細くなる。


『貴様は、竜の炎を受けても武器を捨てなかった。部下を見捨てず、異界の門を越えた。だから、こちらへ引き寄せた』


「勝手な話だ」


『勝手なのは人間の方だ。竜脈を掘り、魔石を奪い、竜の血を兵器へ詰め、世界の境界を壊している』


 鬼平は工房の外を見た。


 王国軍が使った《城砕き》。


 教会が利用した竜の魔力。


 王都地下で起動しようとしていた《魔王喰らい》。


 すべてが、竜脈を兵器として利用するためのものだった。


「お前は、教会と戦っているのか」


『教会だけではない。王国も、竜を狩る者も、竜の力を欲する者もだ』


「オレもか」


『貴様は、竜を殺すための刻印を持つ』


「だが、部下を帰す」


『そのために竜脈を撃つなら、敵となる』


 鬼平は左のガトリング砲を見た。


 ハイテンションスキルによって、弾が尽きず、壊れなくなった武器。


 しかし、無限の弾幕は世界そのものを傷つける可能性がある。


 ノアが言った。


「鬼平。竜域へ入る前に、目的を決めろ」


「部下を帰す」


「それだけか」


「教会を止める」


「その後は」


「黒竜を撃つ」


 通信魔法の向こうで、ヴァルグリムが低く笑った。


『ならば来い。竜域の門で待つ』


 声が消える。


 北の山脈に集まっていた黒雲が、ゆっくりと晴れていく。


 刻印の光も弱まった。


 工房内に静けさが戻る。


 セレナが鬼平へ尋ねた。


「本当に行くのですか」


「行く」


「竜域の守護者が、貴方を呼んでいます」


「なら、話が早い」


「戦いになるかもしれません」


「戦場では、話が終わった後に撃つ」


 リーゼがため息をつく。


「話し合いが成立する可能性は考えないのですか?」


「成立しなければ撃つ」


「成立しても撃つつもりでは?」


「敵ならな」


 ノアが修理台へ戻った。


「出発は明日の昼だ」


「一日半と言った」


「今の話を聞いて、二日では足りなくなった」


「短くしろ」


「竜域へ行くなら、砲身だけでなく、対竜弾も作る必要がある」


「何発だ」


「最低でも二十発」


「作れるか」


「素材があれば」


「竜域で取る」


「竜の目の前で鱗と血を集めるつもりか」


「必要だ」


 ノアは深くため息をついた。


「やはり、貴様は無茶をしている」


「無茶ではない」


 鬼平は修理台の上に置かれた対竜弾の試作品を手に取った。


「作戦だ」


 工房の外では、遠征隊の準備が始まっていた。


 魔導車の修理。


 食料と水の積み込み。


 弾薬箱の確認。


 獣人兵から選ばれた護衛隊の編成。


 そして、右のガトリング砲の修理。


 鬼平は左のガトリング砲を肩へ担いだ。


 まだ身体は痛い。


 ハイテンションスキルの反動は残っている。


 それでも、歩ける。


 撃てる。


 守れる。


 次の敵は、王国軍でも教会でもない。


 竜域の守護者、黒竜ヴァルグリム。


 さらに、竜脈を兵器として利用する者たち。


 鬼平は工房の出口で振り返った。


 二挺のガトリング砲が、修理台の上で並んでいる。


 一挺は、撃てる。


 一挺は、もうすぐ撃てるようになる。


 その二挺を両手に持つために、鬼平は歩き出した。


「竜域へ行く」


 部下たちが続く。


「竜の鱗を取る」


 セレナが弓を背負う。


「竜の血を取る」


 リーゼが魔導書を閉じる。


「帰還門を作る」


 ノアが工具を握る。


「黒竜に話を聞く」


 鬼平は、最後に右のガトリング砲を見た。


「話が通じなければ、撃つ」


 獣人連邦の北の空で、竜の咆哮が響いた。


 遠征の出発まで、残り一日半。


 竜域の門は、すでに開いている。


 そしてその向こうで、黒竜ヴァルグリムが鬼平を待っていた。

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