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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し編Death of Shadow Village編
50/61

7話 烈喰の魂その二


とうとう50話に到達しました!

3年くらいかかったかな?でも、ここまできました!

鬼殺し編が全部終わる頃には100行くかな?そうまだ長いんです。


 Scene1



 10月25日22時40分


 笹原文和の『僕の世界イッツ・ア・スモールワールド』本人の想定以上のポテンシャルを持つ。


 氷を拡大化すればそれは氷山に。石を拡大すればそれは山に。水蒸気を拡大すれば雲に、炎を広げれば火事になり、水たまりを湖にすることも出来る。


 莫大な妖気を消費することで、環境を大きく変化させることができる。


「今のは効いたか?お前のお仲間の能力だ」


 顔面にクリーンヒットした。鼻血がダラダラと出てきて、眩暈もする。ここまでの攻撃を受けたのは初めてかもしれない。


「妖気を纏った攻撃は内部に直接いく。破壊という面では強みになるが、同じ実力の妖気纏い攻撃と純粋攻撃は、後者が勝る。たとえば相手が妖気で守っていない場合とかな」


 今の説明はおっさんから一年前に教わった。


「んなぁなまちょっろい攻撃効くかよッ!二度はねぇ」


 あの速度は笹原さんの際に経験済み。直線的な動きにさえ注意すれば良い。笹原さんのできる範囲を出る事は決してない。


『チャッキー!アイツが魂になったら合図しろ!』


『それはアレが俺の兄貴と分かっての頼みか?』


『Of course アイツを生かすわけにゃあーいかねぇ。ここで確実に仕留める』


 まずは相手の間合いを見極める。

 下手に入れば魂を喰われる。足を狙われると逃げれなくなる。


「そう警戒するなよ。こっち来いよ」


『来るぞ。左に避けろ!そこから壁を蹴って、あの止まってる身体を殴れ』


 チャッキーに言われるがままに、俺は左に大きく避けた。そこから壁を蹴り、荼鬼の身体目掛けて拳を繰り出す。

 顔面を確実に捉えたと思ったが、その拳は受け止められた。


『「ッ!?」』


「ううゔぁゔうう」


 これは屍人。

 油断した、チャッキーもかつて客船で同じことをしていたのだ。同じ種の荼鬼が出来ないはずがない。

 

 そのほんのちょっとの油断が、戦況を大きく分ける。健の左腕の感覚が無くなった。


「お前見えてるだろ?魂の動きが」


 荼鬼はいつのまにか身体に戻っており、素早い速度で健の身体を蹴り飛ばし、距離をとった。


「グァアムッ!ちくしょうめ」


「どうにか知らんが、お前は俺の魂の動きを視認して、攻撃を回避している。そういう特異体質か、はたまた、別の魂と共存していて、それが見ているか」


 歴戦の鬼なだけある。すでにこちらの秘密に王手に気付き始めている。それは俺からしたら非常にマズイ。


「見えてるなら、その分の対処法はある」


 そう言って荼鬼は畳を片手で剥がし持ち上げた。


「『拡大(エキスパンション)』」


 畳が部屋の壁と天井にぶつかるまでの大きさに巨大化した。

 これは笹原さんの能力か?収縮だけだと思っていた。逆も可能なのか。

 しかし、これで相手の動きが視認できない。有機物である畳は荼鬼の魂ですり抜けられる。タイミングが測りづらい。


「ゔぁぅううあゔゔゔぁあぁ」


 屍人の声。嫌な予感がした。

 その方向に顔を向けると笹原さんが生気のないゾンビのように立ち上がっていた。唸り声をあげこちらに向かう姿にかつての面影はない。


「笹原さんッ!」


 呼びかけに応じる筈はない。魂は全て喰われたのだ。抜け殻を屍人に仕立て上げられた。


「選別だ。受け取れ!横のそいつに注意しながら俺の攻撃を避けるんだな」


「マジかよ!このクソッタレが!」


 こっちは腕が両方とも使えない。おまけに脚の関節そんなに柔軟じゃない。一八〇センチ以上ある笹原さんの頭部を狙うのは難しい。それに笹原さんの遺体を破壊したくない。


 ここで現実を否定しても笹原さんの屍人が止まることはない。かと言ってここを逃げ出せば、貴重な戦力の夜海が危うい。出来ることは、供養だけか。


『教えろ。屍人の活動停止条件を』


『お前の考えを読んだ。想像通りだ、脊椎か脳を破壊すれば止まる』

 

 そうか。俺に出来るのはこれだけだな。

 俺は(アギト)に、歯に妖気を纏った。



 Scene2



 烈喰。

 俺は魂の状態になり、畳を通り抜けた。

 狙いは奴の足。じわじわと奴を追い詰める計画だった。

 人間の魂の根幹は胸筋のあたりに位置しており、本来はそこに触れるだけで魂をまとめ剥がすことが出来る。これは魂の死を意味する。しかし、それ以外の部位、頭部と脊椎部の魂は捕食すると、いわゆる植物人間状態となり、肉体と精神の死を実現する。つまり、人間を簡単に殺せる箇所は三箇所が上から連なっている。


 条件。

 その三箇所のうちのどれかを喰らえば勝つ。

 シンプルな戦い。それゆえに俺は手足からじわじわと追い詰めることを選んだ。それが魂の状態で放置された弟の仇と思って。

 畳を抜けた先、俺は目撃した。二重の意味で奴は飛んでいた。一つは物理的に宙に飛ぶ。そして二つ目は、、。


 屍人。

 俺は笹原文和の死体に分割した魂を付与し、一時的に動かしていた。これは荼鬼種の固有能力の一つであり、弟は一度に百を超す屍人を生み出す才能があった。自分はせいぜい一五体。

 屍人はその動く屍という面からゾンビとも形容できる。だが、屍人は実際には血肉を求めない。引っ掻き攻撃や噛みつきなどの捕食ではない攻撃のための行動しかできない、ただの人の見た目をした兵器だ。


『何なんだコイツ』


 狂気。

 思わず言葉が漏れた。

 もう一度言う。屍人は血肉の為に人を襲わない。山門健は笹原文和の屍人に飛びかかり、首元に、正確には脊椎部に喰らい付いた。


 恐怖。

 明らかに異様な光景から来る倫理的な嫌悪が、俺の脳内に溢れた。奴は思考回路が、倫理観が飛んでいる。

 奴の歯は深く食い込み、その部位から血が溢れている。先程まで暴れていた屍人も今では停止している。そのまま、さらに歯が深く食い込む。山門健の口元は大量の血が付着する。

 ついに首の肉が剥がれた。山門健は噛みちぎったのだ。口にはまだ首の肉が、、、それを口の中に含み噛み砕き飲み込んだ。

 

 笹原文和の屍人は動きが止まった。

 ヒィッっっ。俺は小さく悲鳴をあげた。

 

 異様。

 もっとグチャグチャに破壊された肉体は見た事がある。それでも、コレだけはどの経験をも凌駕する恐怖。

 そこか。静かな声が聞こえた。血の滴る口元、狂気を孕んだ瞳がその全てがこちらを向いていた。


 確信。

 奴は魂を認識する術を持っている。もはやどんな手段かを思考するほどの心理的余裕は無かった。分かる事はあの男はどんな手段を用いても勝利をもぎ取りに来るという事。

 この場から尻尾を巻いて逃げたい。しかし、目の前の弟の仇ということが足がすくませる。


『駄目だ』


 覚悟。

 もはや元の作戦を守る理由はない。向こうが狂気に染まるなら、こちらはそれを上回る力で屈しなければ良い。魂だけの状態に肉体という縛りはない。動きを再現させるものはない。物理を超えた速度を理論上出すことが出来る。


 魂喰。

 奴の胸元を目掛けて口を大きく広げた。この口腔内には生まれつき魂を直接、地獄界に送る器官が備わっている。やって魂を喰らうという、荼鬼種でも異例の異能を持つ。だが、その為に、それが弱点となる。この口腔内の器官は自身にとって最大の弱点となる。

 

 左右。

 動きを見られるのなら、それを悟らせない速度で動けばいい。ただでさえ目視では見れないはずなのだ。この速度ならば捕まえることも出来ない。

 山門健の周りを高速で廻る。そして、喰らう為に動いた。刹那、魂は大きなダメージを受けて、吹き飛ばされていた。


 鞭打。

 山門健は遠心力だけで右手を鞭の様にしならせて、こちらに義手をぶつけてきたようだ。右手による何らかの攻撃は最大の警戒を払った。ゆえに初手に右肩を狙った。使えないという先入観が邪魔をした。

 奴の攻撃は、顔面にくらったみたいだ。急所にも少し入った。ともかく想定以上のダメージを受けてしまったことは変わりない。


 帰還。

 肉体に魂を戻した。あれを見てしまうとこの女すら人質の価値を疑わざるおえない。いっそこの女の魂を喰らって、奪うってのも選択肢にあるな。こいつの能力は、着ている被服の布を糸に解いて強度を追加して操るというものか。視覚が戻った。魂を肉体に入れる時に一部の感覚が数秒使えない。畳を背に窓に目を向ける。


 不覚。

 茜月夜海が逃げていた。



 Scene3



 今でも気色の悪い食感が口に残っている。胃に異物を含んだせいか、吐き気も凄まじい。嗚咽が何度もでる。これでいいんだ。勝つ為にはこれが道の一つだ。それにおかげでやつに一発ぶちかましてやった。

 この畳越しに奴がいる。足でそれを蹴り飛ばした。そして、それは即座に収縮させられた。目の前には荼鬼が立っている。


「アンタの策は破れたぜ。それに、逃げられたみたいだな」


 窓に吊るされていた夜海がいつもの間にか逃げ出している、これで人質も居なくなった。奴のアドバンテージも一つ減った。


「貴様はゾンビか何かかッ!」


 ひどく怯えた表情でこちらを睨む荼鬼。最初の余裕は何処へやら。今は獅子から子鹿へジョブチェンジしてる。今なら舌戦に持ち込める。


「いい表情見せるじゃあんッ!ついでだからヨォッ!いい情報教えてやるぜ。テメェの弟は生きてる居場所を知りたかったら、俺の腕の魂を返してもらおうか」


「ッ!?何の冗談だ。貴様らが殺したことは報告を受けている、、、。・・・貴様が俺の魂を感知できたのはそのせいか。貴様の汚れた肉体に宿っているということだな」


 チッ、頭は回るか。

 

「ならどうする?アンタの動きを俺に教えるって事は、兄を見捨てたって事だぜ。兄弟間の仲はアンタの一方通行のようだぜ」


「・・・・」


 こいつのチャッキーに対する溺愛ぷっりは異常だ。今はそこを攻撃した。精神攻撃は好かないが、手段は手段だ。


「そうか、生きているのか。弟は、、、、良かった」


 時が止まったようだ。いつの間にか、両足がいう事を聞かなくなって、床に倒れ伏した。


「お前の足の魂も貰った。器がすでにあるのなら、あとは邪魔なお前を排除するだけでお兄ちゃんの勝利だ。なんだぁ、たかだか弟に嫌われた程度で、心が折れるとでも?お兄ちゃんってのは血や絆ではない。弟を思う気持ちこそが、俺をお兄ちゃんたらしめる」


「アンタ、スゲェよ。今まで戦った誰よりも精神が強ぇ」


「『僕の世界イッツ・ア・スモールワールド』」


 荼鬼は両手を合わせた。そして笹原さんの能力を解放した。室内のあらゆる物質の縮尺が変化した奇妙な空間が出来上がった。


「チャッキーお前の魂を貸せ!」


 このままじゃあこの空間に飲み込まれる。先ほど聞いた荼鬼の魂を俺の手足に代用する策なら、ここを凌げる。


『・・・・・』


 普段うるさいチャッキーが、珍しく静かにしている。いや、沈黙しているんだ。ここで裏切られたらマズイ。


『お前は何の為にここに居るんだ!死んだマテウスに報いる為だろ?もうお前らの教官も倒した。臆するな!』


 その言葉はどう聞こえただろう?みっともないと自分でも思う。百%保身のための言葉だ。


『この戦い。俺はもう協力出来ない。自力で勝て。ここから離れる』


 チャッキーが完全に沈黙した。

 このままじゃあ床に飲み込まれる。身体が徐々に引きづり込まれる。


「ちくしょう!なんだよ!」


「弟に見限られたか!どっちみちお前はおしまいだ!」


 身体が圧迫される。押しつぶされる。飲み込まれる。


『ほれ、この王の魂を分けてやる』


 声が聞こえた。

 知らない声、とは言わない。かつて東京でも同じ声が脳に響いたのを覚えている。

 気付けば手足の感覚が戻っていた。ならば、拳に妖気を纏う。『赤破壊鬼(レッド・デーモン)』を発動して畳をぶっ壊した。


「なんだその腕はッ!」


 浴衣の袖から除く俺の腕はひどくゴツゴツしていた。まるで爬虫類の鱗が生えたような見た目、だがすぐに元の腕に戻った。手足が無事に使えるのなら、もう容赦はしない。目の前の弟バカを力一杯にぶん殴る。

 攻撃は腹に直撃し、大きく後ろに下がらせる。


「キィさまはァ!何者だァ!」

 

 想定外のダメージなのか。荼鬼は絶叫した。


「俺は山門健だァ!それ以上もそれ以外でもないッ!」


 そのまま二発目を顔面目掛けて叩き込む。顔面を潰すように叩き込んだ一撃は自分のこれまでよりも遥かに強力な一撃になったと確信した。荼鬼は大きく吹き飛ばされて、割れた窓の外へ。俺もそれに続いた。

 互いに地面に衝突する。ここは森の中、奥へと行けば、琵琶湖が見えてくる。


 目の前にはぐちゃぐちゃに潰れた荼鬼の遺体が転がっている。だが流石の俺でももう分かる。荼鬼種にとっての肉体の死は無意味。魂が死ぬその時までは肉体を代えて生き返る。


 眼を動かす。耳を向ける。妖気レーダーも展開し、ありとあらゆる感覚機関で、周囲を観察する。わずかな違和感すら見落とさないように。


 バキッ!と枝の折れる音が聞こえる。音の方向に眼をやる。そこには何も居ない。折れた枝と石ころが転がっていた。


 魂の状態でも、無機物には触れることが出来る。


「しまっッ!」


 魂の状態ではレーダーに感知されない。盲点だった。

 喰われるッ!



 Scene4



 10月25日22時50分


 俺は肉体を捨てると同時に、罠を仕掛けた。

 そしてそれに奴は掛かった。あとは魂の根幹を喰らうだけ勝負がつく。そう確信していた。


『二つあるッ!?』


 奴の魂は二つあった。

 そんなことは通常あり得ない。一人につき魂は一つ。それが世界の摂理、ルールなのだ。となると考えられるのは別の誰かの魂が入り込んでいると言うこと。それは弟か?否、それならばもっと早い段階で存在に気付けた。つまり、俺も知らない誰かの魂が奴の中に存在する。


『お前、誰に牙向けてるのか、理解してるのか?』


 目の前のそれは魂というには自我がありすぎた。魂というには強すぎた。俺は本物の強者を知っている。高鬼序列十位に入る奴らなんて、誰も彼も怪物かそれを超えた到達者だ。それすら霞む強者はそこに居た。


 奴が話すだけで自分の中の時は刻む速度を緩め、一秒すら永遠に感じる。一言一句に力が宿ってる。


『恐怖に屈するか、矮小なる者よ。次に、王の魂に触れるな、()くぞ』


 気が付けば、意識は元に戻っていた。

 今のがこの山門健という強さの片鱗。

 いや、片鱗というにはあまりにも大きすぎる、山門健こそがこの者の片鱗なのかもしれない。


 口が開いた状態で、目の前には山門健の右拳が迫っていた。

 強烈なダメージが口腔内に響く。


「チェストォオッ!」


『アルゼンチンッ!」


 後ろに飛ばされた。飛ばされ流されるままに、予備の肉体に入り込む。もう魂喰いはできない。フィジカルと奪った能力で戦うしかない。

 弟のための肉体を用意するには。


「殺して奪う」


「やってみろよ!お兄ィちゃん」


「やってやるよッ!『僕の世界イッツ・ア・スモールワールド』ッ!」


 合掌。死者の能力を使うには手を合わせる必要がある。祈りを込めて、感謝を込めて。食事の際に『いただきます』と言うように、能力の名前を唱える。


 木々は縮み雑草へ、雑草はその背を大きく伸ばし、人の背丈を越す。石たちは巨大化し山脈へと、地面にも大きな傾斜が生まれる。半径百メートルの縮尺を変幻自在に変化させる。自身もそれに合わせて体を縮める。


 通常の人間には不可能な所業。肉体ではなく魂に依存する荼鬼であるからできるこの技。もちろん、能力の終了時には肉体は使い物にならなくなるだろう。その為、冷凍した鬼の死体を多く用意した。


 小さな身体となった今、ここは小さな世界は瞳に大きく映る。気分はガリバー。冒険家のような気持ちでこの縮尺の狂った世界で弄ぶ。


「能力の真髄を理解したり。世界はこの手のひらの上なり」


 笹原文和が至らなかった能力の真髄。彼が聖人でいようと思うから出来なかったこと。それは荼鬼にはない。だからこそサポート能力を戦闘の為に昇華させた。


「どこへ行きゃがった?」


「せいぜい妖気を追うんだな。この一帯は妖気の塊みたいなものだがな」


 雑草の枝を幾つか折る。そしてそれを山門健に目掛けて投擲する。そして合掌。縮んだ物は戻る反動で音速を超える速度に到達する。それが山門健の腹を貫通した。


「ッ!?タッ!」


 二の矢、三の矢と次々に枝を射出する。妖気で身体を覆うがそれは能力によって底上げされた枝の前では無意味。妖気で掴もうが、速度と小ささを掴む器用さは奴にない。絶叫がこだまする。少々うるさいが、その程度だ。


「威勢は消えたな。俺はここだぞ!捉えてみろ」


 合掌。山門健の踏んだ木が元の大きさに戻る。足を貫通し遥か彼方上空へ。合掌。木は再び縮む。地面に叩きつけられればひとたまりもないはず。

 

「見つけたぞ。『赤破壊鬼(レッド・デーモン)改』ッ!」


 改と称されたその一撃は今までよりもさらに強烈に空気を殴り飛ばした。圧縮された空気が身体を押しつぶす。それを避ける。雑草は幹ごとへし折られる。あれに当たれば圧死する。


「バカなッ!?何故見える」


 現在の身長三センチ。肉眼で追うには小さいはずだ。だが、大きな奴の瞳と目が合った。拳が向かってくることに気付いた。即座に合掌をするが間に合わない。


「そこだ!」

「ヘチマッ!」


 この身体では受けるダメージが比にならない。全身の骨が破壊される。即座に魂を離脱させる。予備の肉体に飛び移る。


「貴様ァ。どうやって俺を見た?」


「視力だけは良いんだよな。それと物音に敏感。感覚が九割。残りは勘」


 合掌。一歩ずつ山門健に近づく。一歩進むたびに木と石を元のサイズに戻していく。そして、山門健が射程距離内に入れたタイミングで森を完全に戻す。


「その合掌が能力の発動条件か」


 これだけ見せていれば嫌でも気付かれるか。仕方あるまい。

 次からは妨害してくるな。


「貴様ら人間も死者には祈るだろ?それだけの事だ」


 再び合掌する。それを阻止しようと山門健も俊足で動く。

 だが、間に合うわけもなく。


「『僕の世界イッツ・ア・スモールワールド』」


 とてつもない集中力と共を消費して、周囲の木々の一部ずつをコントロールする。部分的縮尺の変化によって木の枝はしなる。そして自由自在に山門健に襲いかかる。即座に距離を取り逃げるも、遂に枝が奴の動きを捉えた。


「そのまま突き刺せッ!」


 観念したのか、山門健は枝をひたすらに攻撃し続ける。だが周囲の木々全てが奴を狙う。常人の手数では防ぐことは不可能。もらった。


「しゃんなろぉッ!」


「せいぜい耐えろ」


「クッそが!あッ!?」


 遂に枝の一つが背後から心の臓を貫いた。そのまま身動きできない状態になり、残りの枝の攻撃を無抵抗に受ける。突き刺される枝は奴の動きと命を止めた。


「死んだか、、。後生(こうせい)よ。お兄ちゃんは遂にやったぞッ!お前の肉体は確保した!帰って来い!」


 弟の訃報を聞いてから約二ヶ月。

 その日から終わりのない復讐に心を囚われていた。しかし、生きてると確信した今、それは無い。心の拘束が外れて、本来の自分を取り戻した。


 久しぶりの兄弟の再会だ。これほど感動的なドキュメンタリーは今の世では見ることは出来ないだろう。

 全身に風穴の空いた山門健の死体も荼鬼種の能力なら修復可能。したも、その才能も弟の方が優れている。


 ここで疑問が残った。

 何故、弟は山門健の身体に入れたのだろう?荼鬼種は『鬼の死体』にしか魂を入れることは出来ないはず。だが、山門健は人間だ。


 ミキミキッっという音が背後から聞こえた。その音に身体を振り向かせると、腹に今までに無い強烈な一撃が叩き込まれた。


「チェストォッ!」

「パッカナッ」


 そのまま後方に吹き飛ばされた。



 Scene5



 10月25日22時55分


 自分の体に違和感を感じたのはいつからだろう?少なくとも青鬼と闘いの時には感じていた。今思えば、唐暮勿牙(からくれないが)時もそうだった。


 致命傷と呼べる欠損もいつの間にか完全に治っていた。


 意識が戻る同時に自信を貫いてる全ての枝をへし折る。そして、渾身の一撃を目の前の荼鬼に叩き込む。


「チェストォッ!」

「パッカナッ!」


 後方に飛んだ荼鬼はそのまま木に衝突。血反吐を吐いて立ち上がった。しかし相当なダメージが加算されたようでふらふらとまともに立つことが出来なくなっている。


「何故だ。何故生きているッ!本当にゾンビか貴様!」


「俺はただの人間だよ。世の中生きてりゃあこんなこといくらでも起きるだろ」


「ふざけるな!心臓を貫き全身に枝を突き刺した。生きてるはずがねぇんだよ。貴様のもう一つの魂といい、インチキ野郎が!」


 もう一つの魂、何のことだ?分からないが、今気にしている余裕はない。このまま追撃を仕掛ける。


「『紫電雷狼(パープル・ウルフ)』ッ!『赤破壊鬼(レッド・デーモン)改』ッ!」


 脚に速度を、腕に破壊力を。

 そのまま顔面をぶち殴る。荼鬼は立ちくらみしているのか、攻撃に反応できていない。


「ぐっぅつ」


 威力の貫通で木をへし折る。どんどん拳の威力が上がっている気がする。もはや、荼鬼は虫の息。


「さらにもう一発ッ!」

「ぐっ、きさま!」


 腹部にアッパーを。そのまま上空に打ち上げる。はるか上空に飛んでいった荼鬼は、もはやまともに受け身を取ることもままならない。


 降ってくる荼鬼を目掛けて、さらに強烈な一撃を叩き込んだ。顔面はぐちゃぐちゃに潰れて、拳は血まみれになったが、完全に肉体を破壊した。


「まだあんだろ!出てないや!」


 荼鬼は肉体のストックがある限り戦闘を継続できる。どっちかの限界が尽きるまで、戦闘が終わらない。笹原さんの能力があれば良かったのだが、もうキューブはない。つまり、奴のストックを全て破壊することがノルマだ。


「屈辱だ。ここまで追い詰められるのはな。魂が大分傷付いた。だが、俺はあと二回分ストックがある。今まではお前の死体を弟にと考えていた。そんな考えは捨ててやる。この身体で、お前を確実に肉体ごと破壊する。これからがファイナルラウンドだ」


 荼鬼は合掌する。


「なんべんやっても結果は変わらねえ。俺が勝つ」


 山門健は拳に全力の妖気を込める。


「『拡大・拳エキスパンション・フィスト』ッ!」「『赤破壊鬼(レッド・デーモン)改』ッ!」


 荼鬼の巨大化した拳とと山門健の真っ赤に染まった拳が衝突する。両者の妖気の激突が、激しく周囲の木々を揺らす。


 結果は明らかだった。山門健はこの戦いでさらに強くなった。肉体レベルにおいても、妖気レベルにおいても、それは瞭然だった。


 山門健は既に茜月夜海を超えている。


 荼鬼の拳が弾き返され、そのまま顔面を健の拳が貫く。口腔内の器官がクリティカルヒットをかました。


「俺の勝ちだ」「まだだだだだだだだだだッ!」


 荼鬼はぐちゃぐちゃになった顔面を手で覆う、隠す。そして立ち上がる。それはお兄ちゃんとしての矜持か、それとも、純血種の誇りか。


 合掌。空間を歪める。笹原文和の能力。もはやその歪な能力は、原型はとどめていない。


「『続く世界(トゥモロー・ランド)』」


 荼鬼はこの場で他者の能力を昇華した。『世界』の知識を持たずに世界を歪める。それはこの『世界』のルールを外れた偉業。だが、


 世界は元の姿を取り戻していた。

 この男が飛び降りてきたことで。この偉業は誰にも知られずに終わってしまった。


「待たせたね。健くん」


「影村のおっさん!」


 影村寿雄は世界の記憶を覗き見る。そして記憶の改竄を可能とする『世界』の知識を持つ妖気法使いだった。


「随分と頑張ったね。ここからは二人で終わらせるよ」

「はいっ!」


 影村のおっさんが心配だが、これで二対一。これで終わらせられる。決着を付けられる。

 

 しかし、まだ闘いは終わるわけではない。


「もう何んだろうが関係ない。俺は強くなった」


 荼鬼の肉体が変身した。


烈喰の魂戦まだ続きます。でも次回で終わりです。

今回は視点を行き来して少し読みづらかったかなぁって感じなんですが、次回はほぼ健視点で行きます。そして、こっからが本当のDeath of Shadow Village編の始まりです。ついでに次回後書きは天山緋麿の弟子の解説するよぉ〜


 次回 8話魂喰の我主ソウルイーター・ロード

  我主の読み方はワレシュです。












 10月25日22時43分


 逃げた。

 勝てなかった。勝てなかった。勝てなかった。自分は最強でなければならないのに。


『お前は英雄になれても怪物には成れない』


 かつて兄に言われた呪言が脳にこだまする。兄から、家族から逃げるためにアメリカに行った。逃げるために妖気法を習った。逃げるためにおじ様たちの庇護下に入った。


『誰も、お前自身もお前の本当の価値に気付いていない。俺だけが知ってる。お前の価値を』


 逃げて、逃げて、逃げて、逃げた先でまた逃げて自分は何なんだ。


『俺の可愛い妹』


 その声が聞こえた時、全身が震えた。寒気が走った。恐怖が全てをジャックした。


「違うッ!」


 服を解いて糸にして、八つ当たりするかのように壁を破壊する。

 高調したテンションはそれだけで静まった。冷静さを取り戻し、当初の計画のために動く。


「どうしたんだ?夜海ちゃん。そりゃあサンドバッグちゃうぜ。ガハハハハハハ」


 天山緋麿はそこに立っていた。

 それも笹原さんと桃木さんを除いた八人全員の弟子を引き連れて。全員が武器を構えて、臨戦態勢になっている。


「天山のおじ様こそ。そんなにゾロゾロと引き連れて、何をなさるつもりですか?鬼退治なら健様が行っています」


「ガハハハ!そうだな、ガハハハ!だから聞いてるんだよ。夜海ちゃんは何をしてんかなぁッ!って」


 天山緋麿の弟子が持つのは米軍のアサルトライフル。明らかな異質だ。その八つの銃口がこちらを向いてる。


「ワタクシ負けましたの。だからこうして次の闘いの準備に向かってる途中です」


 パンッっ!お腹が熱くなるのを感じた。じんわりと浴衣に血が滲み出し。強烈な痛みが遅れてやってくる。


 天山緋麿も拳銃を構えていた。


「うっうっ!」


 立つことも難しく。姿勢を崩し床に屈した。

 その姿を見て、天山緋麿は。


「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」


 悪辣に笑った。


「次にワシの求める答え出さんかったら、脳天ぶちまけるぞ。ガハハハ。何を企んでる?山門健の小僧と、ロビンの野郎と」


 今、考えてたことは一つだけ。

 この戦力差でも私は簡単に勝ってしまうのだなっと。


「天山のおじ様を引っ捕えることですね」


 天山が発砲すると同時に、背後の弟子たちも一斉に射撃を始めた。そして。


「お終いですわ」


 私は弾幕を弾き、高速に迅速に全員を糸で拘束した。


 天山緋麿たちでは天地がひっくり返ろうとも茜月夜海には敵わない。


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