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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し編Death of Shadow Village編
49/61

6話 裂空の魂その一


 前回、次回予告なかったのはネタバレ防止のためです。


 Scene1



 一日前


 鬼の国本土 ある人物の館 書斎


「よく戻って来たな。我が孫よ」


 老骨は車椅子にもたれ掛かっている。水分が抜け、骨と皮しかないその肢体は、年季では済まされない人生を感じ取る。


「アンタの派遣した部下が来なかったら、とっくに死んでた。感謝する」


 孫と呼ばれた鬼はゆっくりと老骨に近づく。今帰って来たばかりで、さらに新調した身体は少し腐りかけている。


「弟の仇を討つと息巻いていたお主が、倉庫街の中に監禁されるとはな。あの、列喰の魂(れっくうのこん)ともあろうものがな」


 老骨は嘲笑うように話す。

 それもそのはず、この孫は普段より力を見せびらかしていた。しかし、此度の東京の戦いでは、早々に脱落。三日前にようやく救出されたのだ。あと数日遅ければ、魂の死を迎えていた。


「相手はあの唐暮勿牙だった。アンタもわかるだろ?長年純血種で覇権闘争していたんだ。唐暮家の強さを」


 鬼の中には純血五家と呼ばれる貴族が存在している。それぞれ、赤鬼の唐暮(からくれ)家、青鬼の愛染(あいぜん)家、黄鬼の如月(きさらぎ)家、同じく黄鬼の玲門(れいもん)家、荼鬼の抱山(だきやま)家に分かれており、それぞれは長年に渡って内外での権力闘争に明け暮れている。


「弱音に言い訳か、珍しい。高鬼にも数えられる男がその程度の弱音とはな」


「アンタも高鬼だろ。しかも俺よりも序列の高い。序列第六位」


 そう、この老骨。またの名を紺鬼。抱山家現当主にして高鬼序列第六位に名を刻む鬼。


「今やればお主のが強いよ。わしはもう歳だ。百数年の年月はわしを老骨にした、ただ権力だけで名を連ねてるだけの老骨よ」


「なら、さっさと降りればいい。高鬼は常に上の席を狙い合う環境。戦えもしないのに権力に縋り付くのは老害だ。まだ、大鬼になった方が見栄えがいい」


 高鬼序列十位に入れれば、圧倒的な名声と権力を握ることが出来る。だから、軍に所属する全ての鬼がその座を狙う。得られる力と引き換えに要求されるのは怪物としての強さ。

 しかし、この老骨にはそれはない。ただ、権力で縋り付いてるだけだ。


「大鬼は既に如月家と玲門家が幅を利かせている。現当主どもはそこから莫大な金を得ている。今更わしを迎え入れようとは思いまい」


 鬼王の歴史を辿ると半数以上がその二家から輩出されている。他の三家からは唐暮家が三人、愛染家が二人、抱山家はゼロという事になっている。前鬼王の山吹鬼ですら玲門家の人物だ。

 そして、山吹鬼が辞任した事により現状のお家レースでは如月家がダントツになった。鬼全体に対する影響力は桁違いだ。

 さらに東京の一件で愛染家が滅亡。唐暮家も勿牙(ないが)の裏切りで窮地に追いやられている。


「わしが残っているのはお前にこの座を渡すときのためだ。だから、わしが死ぬ前にここまで来い。次期当主よ」


「ああ、分かってる。だから、その前に俺のケジメを付けてくる。山門健、馬飼琉助をこの手で殺す」


 弟を殺した奴らは絶対に許さない。それにこれは青鬼の仇でもある。彼にとっての聖戦なのだ。


「愛染を倒した山門健はもはやお前の手に余る存在に成った。それに黒鬼が奴らを壊滅させる為に動いている。今は大人しく力を蓄えておくのが得策」


「だから、俺は個人で動く。それに勝てる勝てないで挑まない。俺はお兄ちゃんだからな。仇を取る必要があるんだよ」


 そういって荼鬼(兄)は部屋を出ていく。

 一人残された紺鬼はぽつりと呟いた。


「忠告はした、死ぬなよ。わしはまた家族を失うのはとても悲しいからな」


 

 Scene2



 雑草の中にあった種をきれいな花に育てた。だけど、立派に咲いた花は、簡単に枯れてしまった。枯れた花を自分で踏み潰した。自分の保身の為に、花を大事にすると言いながら、花じゃなく自分が大事なだけだった。もう花は育てない。


 馬飼琉助は影村寿雄のところに居る。

 この館全体は特殊な素材で出来ている。妖気を流すことで館内にいる人物それぞれの居場所が特定できる。


「君が悪いんだよ」

 

 笹原文和は自身の能力『僕の世界イッツ・ア・スモールワールド』は物質を量子レベルで縮尺を変えられる。コレを応用して開発したキューブは重さの制限こそあれど大抵なものを収納する。キューブはあくまでも持ち運びの能力であり、この能力の真価はそれではない。


 環境を一瞬で変えることができるのが彼の能力の最大の強みである。しかし、それは彼の知るものではない。天山緋麿はそれを気付きなお、教えなかった。


 笹原文和は亡霊のような足取りで影村寿雄の部屋にたどり着く。そして、扉を蹴破った。

 どうやら二人は真剣に話をしていたようだ。突然の乱入者に驚いている。

 

「ずいぶん物騒な登場ですね、笹原さん。手持ちのそれは手品の道具かなんかですか?」


「君を殺す」


 言うや否や、ナイフを彼に振り下ろす。琉助は、その笹原の大ぶりの攻撃を軽く流した。


「ここまで言葉通りのタネも仕掛けもございませんが来ると。びっくりだぜ」


「笹原くん。それはどう言うつもりかな?」


 影村寿雄は咄嗟に両者の間に割り込む。


「アーターは黙といてください!コレは個人の話です!」


「明らかにそうは見えないね。落ち着きたまえ」


 影村寿雄から見れば笹原は異常だ。どこかボロボロになっていて先ほども誰かと交戦したみたいに見える。いや、この状況では一人しか思いつかない。


「どう言う理由か知らないが、健くんに負けたからと言って、琉助くんに手を出すのは情けないと思うぞ」


「ッ!?アータはどこまで!」


 敵意をさらに剥き出しに、ナイフを握る手はより強く。影村寿雄の首目掛けて振る。それを影村は片手で止めて見せる。妖気も流すに。

 もちろん血は出る、ナイフの刃をつたって血は笹原の手に。


「もうここまでしたまえ。大人気ない。琉助くんにも負けたらみっともなくて目を向けられん」


「僕がぁ!負けるだと」


「おいおい。おっさん、それは言い過ぎ。俺でも流石に妖気法使いには勝てねぇって。そこの武器もまだ使い方分からねぇしよぉ」


 琉助の視線の先はアッシュケース。そこには影村寿雄が渡した弓が入っている。当然、練習していないから、まだ扱えない。


「小馬鹿にするのも大概に僕はッ」


 笹原文和は言い切る前に事切れたように床に倒れ伏した。

 その背後には一人の鬼が立っていた。


「俺はよりは弱い。ただそれだけの事」


「「ッ!?!?」」


 烈喰の魂。それは彼の二つ名であり、彼の特殊能力の象徴である。


「お前から先に殺すぜ。馬飼琉助ェ」



 Scene3



 10月25日22時30分


 目の前の出来事はあまりに衝撃だった。笹原さんが殺された。それも東京で会ったあの鬼に。確かあの時、人を簡単に殺す方法があるとか言ってた気がする。それを使ったことは容易に想像つく。


「こりゃあマズイ。ワシと同等クラスの荼鬼種だ。つまり肉体能力じゃ、ワシじゃ敵わん」


「だからッどけッ!俺の用事は弟の仇だけだ!」


 即座に距離を詰めたその鬼は影村のおっさんを蹴り飛ばし、ベランダから突き落とした。下から絶叫が聞こえるが、あのおっさんなら死にはしないだろう。


「生憎。今アンタに構ってる場合じゃなくなったんでな。アポとってから来てくれ」


 そう言いながらも俺は咄嗟に後ろに下がりアタッシュケースから弓を取り出し構える。矢もしっかり握りいつでも撃てるように。


「ほう、IWアイルランド・ウェポンズ社製の武器か。いい趣味だ。俺も持ってる」


 そう言って荼鬼はナイフを取り出した。それは橙色の熱を帯びる。それを構えた。


「IW社製高熱レーザーアンドナイフ・終の刃熱(スルト)。あらゆるものを切断するナイフ。取り扱いが極めて危険な武器なんで、扱うには社からの資格が必要なんだ」


 ご丁寧に説明の後「さてと」といいそれを煩雑にそして素早くに振り掛かる。突然の攻撃に体を後ろに下げてかわすが、灼熱が触れずとも服を焼き切った。コレには「熱っ」と思わず小さく悲鳴をあげる。服の焼かれた腹部は細い火傷の線が浮かび上がる。


「一瞬にして一千度を超す温度を出すんだ。完全に避けるってのは難しい話だと思うぞ」


 なるほど。あの武器は刃だけを注意させるようで実際は熱による見えない刀身の延長こそが最大の強み。その間合いは読みにくい。というより俺には読めない。


「館ごと燃やすつもりか?その高温だ、木製と畳のこの部屋に引火するなってのも無理な話に見えるぞ」


「故に資格がいるんだ。危険物の取り扱いを理解せずに扱う阿呆が、無茶をするから規制される。扱い方さえ理解していれば安全な公園遊具も阿呆が使えばたちまち危険物扱いで、撤去。なんと悲しいことか」


「話が見えねぇな。アレか?自分は他とは違うアピールか?そういうのってイタいと思うぜ。極寒(ゴッサム)だ」


「つまりだ。セーフティが掛かってるぞ阿呆めが」


 弓矢を射ようと放つも、びくとも動かない。ロックが掛かってる。とっさに振り掛かるナイフを弓を使って防ぐも、弓は中心で真っ二つに切断された。その先の俺の肉体も火傷の線が入る。


「じーざす!ちくしょう」


 切断された弓をぶん投げて、距離を取る。正面突破は不可能。かと言っても、窓から飛び降りても安全というわけにはいかない。絶体絶命。助けを待つしかない。


「このまま、ダルマにしてやる。このナイフで切られたものは血も出ない。気絶なく四肢を切ってやる。そこから顔面を百発殴る、意識の途切れない程度にな。腹掻っ捌いて内臓を引き摺り出す。そして、最後に魂を喰う。コレがお前の最後だ」


「思うがままにされると思うな。俺だって修羅場を幾つか潜り抜けているんだ」


 次の攻撃はもう避ける手段がない。そして、当たれば大ダメージは必至。覚悟を決めろ。


「お前の通った修羅場など、田舎道のトンネル程度のモノだ」


 俺は腕をクロスしてナイフを振りかざす荼鬼の手首を取った。超高温が手のひらを焼く。このままじゃBBQの肉だ。だが、コレでいい。


「大事なのは歩きてきた事だろ?俺はこの足でここまで来た」


「散歩道で調子に乗るなよ小僧が!」


 姿勢が崩れる。荼鬼のやつが振り下ろす腕に力を込め来てやがった。片膝がつく。このまま行けば俺は切り伏せられる。


「仇を前にしたお兄ちゃんの前では、非力なんだよなぁ!アアアア?!」


「ウルセェ。俺もお兄ちゃんだ!」


 俺の弟妹ももう居ない。こいつの気持ちは理解できるが。生き残った俺が易々と命をくれてやるほどではない。


「仇討ちとかくだらねぇ事で動くな。死んだ弟がそれを望んでるか?少なくとも前を向いて欲しいと思うはずだぜ」


「黙れ」


 荼鬼が静かにそう言った。瞬きののち、俺は壁まで吹き飛ばされていた。どうやら、あの体勢から蹴られたようだ。


「痛てて。何すんだ!力勝負じゃあなかったのか!」


「元々鬼の俺と人間のお前じゃ比べるまでもない。勝負事はおしまいだ。このままお前の魂を喰う」


 手をこちらに伸ばしてくる。おそらく笹原さんを殺したのと同じ技だ。触れられたら即死。


「これは貸しですよ。琉助さま」


 荼鬼が腕から宙に吊り上げれた。糸によって。

 何が起きたか理解できなかったが、部屋の入り口にはあの女が立っていた。茜月夜海、間違いなくこの館での最強戦力だ。


「アンタか。助かった」


「では、もう一つ貸しです」


「ん?ッ!?」


 夜海がそういうと俺は何かに押し出されて窓から突き落とされた。死んだわこれ。何が貸しだ。

 ボフン、地面に激突する前に何かの背に乗った。


「ロビンさんっ!?」


 それは空中を滑空するロビンさんの背中だった。どうやらこの翼は本当に飛べるようだ。ハリボテだと思っていたのに。


「礼ならアイツらに。このままここを離脱する。オチねぇようにしっかり掴まれ」


「分かりました」


 ロビンさんの肩をしっかり掴んだ。

 俺たちはこのまま夜空に消えた。



 Scene4



 10月25日22時30分


 最強の同盟が結成した。これで敵はもういねぇな。いねぇよな!俺たちの第一目標は天山緋麿の確保だ。それだけだったら、過剰戦力かもしれない。だが、俺たちはその先の鬼達との戦いも見据えてる。


「マズイですね。何者か館に侵入しました」


 廊下を爆速で走っている最中、夜海はそれに気付いた。


「なんで分かるんだ?さっきから手品みてぇに行き先を把握しやがる」


「この館の木は特殊な加工なのです。妖気を流すと誰が何処にいるかを大体で分かります、通常のレーダーよりも確実です。今し方、知らない存在を感知しました。影村のおじさまの部屋です」


「鬼か。もう攻めきやがった。先にそっちへ行こう」


「ええ。笹原さまがやられました。それに影村のおじさまも今館の外に追い出されました。残ってるのは琉助さまだけです」


「えっ!マジ!」


「マジのマジです。ロビンさん。外へ向かってください。琉助さまを部屋から突き落としますので、回収を。そのままこの場から琉助さまを離脱さて、例の場所へ向かってください。そこからは判断をまかします」


「分かった」

 

 そう言ってロビンさんは窓から飛び降りた。翼を広げて空を飛ぶ。スゲェな妖気法。

 今いるのは二階。おっさんの部屋は四階。ここからじゃあまだ距離がある。


「夜海お前のほうが早いだろ!駆けろ」


「指図しないで下さい。私のが上司です」


 そう言いつつも、夜海も外へ飛び出し、糸を使って上にスパイダーマンの如く飛んで登った。スゲェな妖気法。


「俺は俺の速度で」


 紫電雷狼(パープル・ウルフ)を使用。トップギアで駆け上がる。


「止まってください。誰の館で、誰の許可を得て、暴走を?」


 そんな俺の前に立ち塞がったのは桃木(もものき)さん。天山緋麿の弟子の一人だ。確か隠密特化の能力だったはず。


「アンタも気付いてるだろ。鬼が来やがった、ささっと倒すんだ」


 桃木さんは眼鏡をクイッと上げ、こちらを見据える。何処となくやばい雰囲気だ。


「今し方、夜海様が到着したのを確認しました。彼女一人で問題ないでしょう。下がりなさい」


「笹原さんがやられたんだぞ!敵は強い」


「笹原は弱い。それだけだった。彼女は強い。それだけです。君は聡いでしょ?ならば、ここは大人しく大人の言う事を聞きなさい。それが先生からの命令です」


「どいつもこいつも言いなりだな。自己は無いのかよ」


「洗練された群は身体と同じ。手足において個の自己は不要。頭からの命令を聞くそれだけです。それだけが正しい手足。脳の言うことが聞け無いのなら、切断すべきですね。あなたの右腕のように」


 桃木さんは言うや否や、クナイをこちらに七本投げてきた。しかも尋常じゃ無い速度でだ。


「私は物質の動きを加速させる能力。自身の動きも含めて、あらゆる動きを倍速にします。そしてそこには重さがあります。単純な破壊力は先生の弟子の中でも最強なのですよ」


「遅せぇぞ」


 七本のクナイを俺は片手の指を使って全てキャッチした。確かに早いが、俺にとっては鈍い。目の前には桃木さんの姿はない。逃げた?いや、そんな性格じゃないだろ。


 突如、背後から殴られた。


「私はもう一つ能力があります。私の影と繋がっている影の間を通る際に、誰かに触れるまで私の存在感を抹消する。性格には相手の脳に作用して私を認識できなくするということですがね。今の一手であなたの身体能力は把握しました。この能力を破れない限りあなたに勝ち目はないです」


 丁寧な説明が崩れない。最後までヨユーってやつか。妖気レーダーにも反応しねぇ。


「アンタ天山の件どう思ってるんだ?俺的にゃ琉助の意見が正しいんだがな」


 影を伝いながら俺の認識を外れる。


「先ほども言いました。正しいも正しくないは論点ではないのです。言われた通りに動くだけ」


 脳では認識できない。なら、壁と床に妖気を流す。大雑把?いや、この距離なら輪郭まではっきり見える。


「そこだ!」


 渾身の腹パンを桃木さんにぶつけた。


「馬鹿な、なぜ認識出来るのですか」


「この館の主人に聞け」


 一撃でダウン。俺の勝ちだ。

 悶絶する桃木さんを横に俺は素早く四階へ向かった。そこには影村のおっさんがいた。


「ちょっと良いかい健くん。大事な話があるんだ」



 Scene5



 10月25日22時37分 


 部屋に着いた時、既に勝負はついていた。部屋の窓際に彼女は両手を縛られて吊られていた。


 そしてその鬼は無傷で俺を待っていた。


「遅かったな。山門健。そこの女なら気絶してるぞ。まだ殺してない」


『兄貴』


 夜海が負けた。

 この事実によって俺の脳に衝撃が走った。自分と同等、いやそれ以上の強者が手も足も出ずに負けるなんて。


「青鬼には勝ったらしいな。それは凄いことだ、アイツは中鬼だが、高鬼のなかでも中位にはいけるほどの実力を持ってた。俺と同等のな」


 この鬼とは東京で遭遇した。俺の中の荼鬼の兄。俺が分かりづらいからチャッキーと呼ぶが、チャッキーを殺したと勘違いして、復讐に駆られる復讐鬼だ。

 青鬼と同等と言っても、夜海を倒したのは事実。何か恐ろしい能力を持ってる。

 身を構え警戒する。


「そう強張るな。うっかりこの女な魂を喰ってしまうぞ」


 そう言って夜海に触れる。見れば浴衣が少し削れてるって事は一応交戦は出来たと見れる。

 

「そうそう。それで良いんだ。跪け、頭を踏んでやる」


「断る。そこの女から手を引け、俺がその気なら何かする前に殺すことができる。脅してんのはお前じゃない、俺だ」


「早撃ちするか?そこに転がってる男を殺すのも一秒掛からなかった」


 横目を見るとそこには精気の抜かれた笹原さんの死体が転がっていた。その隙を狙ってか、荼鬼は攻撃に移ったようだ。


『避けろッ!』


 何を?俺の脳内でチャッキーが叫んだ。しかし、理解ができなかった。だって攻撃に移ると言っても、身体は動いていないのだぞ。

 その事を脳が理解するのに時間は掛からなかった。右腕が肩から上がらない。いや、正確には右腕の上腕に力を入れることが叶わない。義手の部分で手のひらをグーパーする事はできる。どう言う事態だ?


魂喰い(こんくい)。俺たちは魂だけの状態になれる能力と、魂を地獄界へ送る能力がある。それを併用した能力。俺は地獄への入り口となる器官を口腔内に付けてる。それによって生者の魂を直接喰ってあの世へ送はことができ、相手を即死させる。俺はそれを改良し、魂の一部だけを食うことに成功した。そうされた部位は神経が死に、動かせなくなり、やがて壊死する」


「魂を視覚できるのは同じ魂だけ。魂の状態になれば、大半の物理攻撃が効かない。それが夜海の敗因か」


「理解が早くて助かるよ。魂の根幹を喰わないのは、嬲り殺すため」


『右足だ!避けろッ』


 チャッキーの合図に合わせて俺は大きく飛んだ。壁に張り付き、左手の握力のみで壁に捕まった。


「よく避けたな。見えてるのか?」


「勘だよい。俺を逃さないなら足狙うと思っただけだ」


 マズイな。俺があれにダメージ与えんには刀か右手の義手である必要があるんだが、刀は自室だし、右腕は肩から神経が死んでやがる。


「三秒以内にそこから降りろ。でないと、この女を殺す」


「壁の上までは来れないようだな。身長足りないとちゃいます?」


「二言は無い。そこから降りろ」


 荼鬼が夜海の胸の上に手を置いた。つまり魂の根幹ってのは胸にある。そこさえ気を付ければ。


 壁を蹴って一気に距離を詰めた。魂状態に逃げられても、この速度で右手をぶつければダメージにはなるはず。


 荼鬼は手を重ねた。


収縮(シュリンク)解放(リリース)


 高速で飛ぶ俺の顔面を荼鬼は正面から上回る速度でぶん殴った。そして、その際の言葉は。


「それは笹原さんの、、、なんで」


 荼鬼種は種族として妖気法を扱えない。笹原さんの能力が使えるのは何故だ。


「喰らった魂に刻まれた能力を俺は使える。ただそれだけのこと。妖気は生まれつき持ってないが、これも喰い貯めたものを代用できる。これが俺の、烈喰の魂(れっくうのこん)の最大の特殊能力だ」



 Scene6



 10月25日22時40分


 ロビン・アンダーソン・天月は馬飼琉助を乗せて空を飛んでいた。

 この翼は覚醒温泉によって祖父からもたらされたモノ。純白の翼は天使の様と形容される事があるが、それと同時に生まれながらの人外であることも意味する。

 人の世では生きる事は叶わない存在。生まれてすぐにアメリカ軍に管理され、そこで教育を受けた。幸いにもこの翼は妖気の塊だったこともあり、妖気法を習得すれば、鬼の角の様に見えなくする事は可能だった。それまでの半生は大変だったが。祖父からの遺伝と聞いて初めはどうしようもないと思っていた。しかし祖母から、祖父にされた事を聞いて半生を奪われたことも含めた全てが憎悪になった。


「俺は天山緋麿を確実に地獄に堕とす。山門健は協力すると言った。お前は?リュースケ・ウマガイ」


「それは良いですが、俺の名前を外国風に言うのやめてくれません?流行ってるですか?」


「影村寿雄がそう言ってたから、それがニックネームだと思ってた。すまない。それと下手くそな敬語は要らない。それなら英語にしてくれ」


「無理だ。思考能力でなんとかならない教科は不得意だ。暗記系なんて特にな」


「通りで学のなさそうな顔つきだと思った。賢い顔を作っては様で学のない顔つき。詐欺師になれるぞ」


「失礼だな。俺はあんたの秘密気付いてるんだぜ、洞察力は誰よりも優れている自信がある」


「なら言ってみろ。俺の秘密とやら」


 そう言われて琉助はロビンの耳元で秘密を囁いた。それを聞いてかロビンは大きく動揺した琉助もとっさにロビンの胸元を鷲掴みにして、持ち堪えた。


「何をする離せ!肩に掴まれ!」


「わぁーたから安定して飛べ振り落とされるだろ!そもそもお前が秘密言えって言ったんだろ。動揺するくらいなら聞くな」


 ようやく飛行が安定し琉助は肩に手を戻す。ロビンは相当テンパった様で、はぁはぁと息を切らしている。


「いつから気付いていた?」


「初めに会った時、こういう系は鋭いんだよ。他の奴はアンタのジジィ含めて気付いてないと思うぜ。アンタがそれを言うと思えないし」


 琉助はロビンに見えない角度からドヤ顔をしてそう答えた。


「分かった。誰にも言うなよ」


「でだ、俺たちはどこへ向かってるんだ?琵琶湖の方向かってるふうに見えるんだが」


「山門健が何処かしらから鬼達の本当の隠れ家を発見した。それを確認する。敵の規模によっては先制攻撃を仕掛ける」


 館が琵琶湖の東に位置している。それに対して、天山緋麿の言う敵の隠れ家は北東。しかし、山門健の言う隠れ家は南西の地下洞窟。


「俺を連れてきた理由は?正直足手纏いだろ」


「俺が居る限り逃亡は簡単だ。危険はない」


 ロビンの飛行能力は天山緋麿すら凌ぐ。万全であれば太平洋を休憩なく横断することも可能。


「あっそ」


「そろそろ山門健の言ってた座標が近っ」


 急にロビンのバランスが大きく崩れた。もはや飛行状態を維持できないほどに。


「どっ」


 何かとてつもない痛みが琉助にも襲った。琉助は震える手で自分の胸に触ると、血まみれになっていた。

 そのまま二人揃って琵琶湖へと撃ち落とされた。それも予想外の存在によって。


「何故ここがバレた?予め別のところを奴らには伝えていたはずだ」


 黒鬼はその報告を受け、目の前の人間に尋ねた。彼は今回の作戦において隊長を務めている。


「君たちが用意したスパイも把握していないネズミが居たんじゃないか?こちらの手落ちではない。むしろ、撃ち落とした事を感謝すべきだ」


「いや、我々との関係がバレたら困るのは『米軍』ではないか?」


 そう、黒鬼の目の前にいるこの男は、アメリカ軍妖気(アルカナ・ルーン)部隊の隊長。コードネームはマールボロである。


「それと、しっかりと始末したよな?撃ち落としたと言って生きていられたら、バレる可能性があるぞ」


 黒鬼は問う。

 妖気法使いの一部は生命力が高い。あの程度で死ぬとは思ってないのだ。


「琵琶湖に落ちたらしい。そちらで捜索を頼んでいいだろうか?黒鬼殿。我々はバレるわけにはいかないのでね。せっかく我々米軍と鬼の奇跡の同盟が結成されたのだ。ここでバレたらもったいないだろ」


「良かろう。適当な高鬼を派遣する」


 高鬼をこの様に雑兵のように扱えるのは、黒鬼が序列三位であるからであろう。それだけ力で全てを屈服させている。


 マールボロを連れ、会議室に向かう。

 そして、作戦の再度の確認を行う。

 黒鬼は懐中時計を見る。そして、集まった米兵も鬼たちを見回す。


「荼鬼の小僧が健闘虚しく敗北が決定したと同時に、俺たちは漁夫の利を狙わせてもらう。思う存分に狩りを楽しもう」



烈喰の魂との本格的な戦闘開始です。

しばらくバトル回の予感。てか、ここからほとんどノーストップでバトルです。

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