19話 東京連続殺人事件簿その十七 嘘つき
お待たせしました。最新話です。戦いは佳境にへ、楽しんで読んでください。
タイトルは変わりました。
雨の激しさは衰える事を知らず、増す一方であった。吹き荒れる風は、雨に濡れた肌をさらに冷やす。
水分を多く含んだこの配達衣装は重く、気持ち悪い。
「貴様はッ!なんでここに」
俺と青鬼は同時に一つの方向へ目線を送った。そこには傘を差して顔を隠すロングコートを着た男が立っている。俺はこの男が誰かを知っている。
「リュースケッ」「ウマガイッ!?」
「待たせたな。それと、人の名前を海外風に言うんじゃあねぇぜ」
琉助は確かに、唐暮勿牙に襲われて、意識不明の重体のはずだった。何にどうしてここにいるのか?俺にはこの状況がさっぱりと理解できない。
そんなことは今はどうでもいいッ!それよりもかけるべき言葉は、、
「テメェこの野郎ッ!生きてんならよぉ、ささっと目覚めやがれッ!」
「すまねぇ。どうもここ最近誰かさんにこき使われるだけの使いパシリで疲れが溜まってて、ぐっすりしてた。だが、お陰様で、今じゃあグレート。万全だッ」
よく見ると琉助は俺の刀を持ってきてる。アレは警察から返却される時間がなく、持ち込めなかった。何でアイツが持ってるかはナゾ。
琉助は傘を閉じると同時に、刀を俺の方に放り投げた。その刀を俺はしっかりとキャッチする。
「あん時は、どうもッ!」
琉助は傘を両手でしっかりと握り、そのまま青鬼の方まで駆け寄り、傘で青鬼の頬を殴りつけた。
「何ッ!?」
殴られた青鬼は大きく体制を崩し、折れた歯を吐き出した。
どうやら琉助はあの傘に何か仕込んでいたようだ。相変わらず用意周到である。
「一発でイカれたか。鉛仕込んどいた傘も、鬼の硬さには壊れる。仕方ねぇな」
琉助はそう言って、壊れた傘を地面に投げ捨てた。
「下等血種ごときが、、俺にダメージを与えるだと」
「慢心していたお前が悪いだろ」
俺は二人が話している間に地面に転がった、刀を拾った。よく見れば刀と一緒に風呂敷も落ちてる。その中にはあの例の、小っ恥ずかしい赤い和服が入っていた。これに着替えろってか?
「確かに慢心していた、だが、お前はわざわざ俺に殺されに来たんだよッ。慢心してるのはどっちだ」
青鬼は琉助に向かって、拳を突き出した。その攻撃が当たれば常人の琉助は、即死するだろう。
その攻撃が届くよりも前に、俺は脚に別の能力を掛けた。その力で人を超えた速さとなり、青鬼と琉助の間に入って刀を振り下ろした。
「俺を忘れるなよッ!」
その姿はかつてのマテウスと戦った時と同じ全身に赤い衣を纏っている。要はド派手モードってやつだ。
今の攻撃で青鬼の腕を切ることはなかったが、その代わりに奴の巻き角を片だけ切断した。これは奴にとって大きな屈辱だろう。
「貴様ァァァァァアッ!」
「こっちも忘れんなよッ」
青鬼はすぐにターゲットを俺にすり替えたが、その隙を琉助が逃すはずもなかった。その隙に琉助はいつの間にか嵌めていたメリケンサックで青鬼の横顔をぶっ飛ばした。その際に本日二本目の青鬼の歯が折れた。
青鬼はそのまま地面を転がった。その間に俺たち二人は一気に距離を詰めた。
青鬼は混乱しているはず、一撃で沈められる琉助に集中すると俺からの刀の攻撃を受けかねないし、逆でも琉助からの何らかの攻撃を受ける可能性がある。
「『深・水母愛』ッ!」
「しまったッ!健飛べ!」
青鬼は起き上がると同時に地面に手をつけ、能力を発動した。琉助の勧告虚しく、そこから濡れた道路を辿って、俺たちの足元が道ごと氷漬けにされた。これでは身動きができない。
「貴様ら二人ともそのまま足元から、爆殺してくれる」
地面に手をつけたままの青鬼はそう宣言する。確かに青鬼はそれができる。その爆発に巻き込まれれば二人ともひとたまりもない。
「なら、ささっとしろよ青鬼さんよぉ」
琉助は何を血迷ったのか、青鬼を煽る。どう言う魂胆か知らないが、ここは琉助を信じて身を委ねる。
「その能力は範囲までは指定できないだろ?遠距離でも水を伝せれば、影響を与えらるがその分範囲が広い。今爆発を使えばテメェもそのままドカンッってなる。違うか?」
「やはり、お前は生かしてはおけねぇな。その頭の回転は、山門健よりも厄介だ」
琉助は青鬼に自身の考察を言いながらこちらへの目線を送った。この間に俺は刀で氷を破壊して、脱出に成功した。しかし疑問が残る。爆発で俺たちを殺せないとしたら、何故わざわざ足止めなんかを?作戦でも考えてくれるだけなら、嬉しいが何か他の理由がありそうで怖い。
「だが戦いはここまで。大人が手加減するのは、良いだろう」
青鬼は今までよりも素早く間合いを詰めてきた。両手にはスティレットが握られている。
咄嗟に琉助の足の氷を破壊して、青鬼に刀を構え直す。
「サンキュ」
琉助は軽く礼を言って、急いで距離をとる。
「よそ見するなよッ」
「うお、あぶね」
そこから放たれる突きを刀でいなすのは、今の俺の技術では困難だ。背中をのけぞり回避、そのまま刀を軸に宙返りをして、姿勢を整える。刀を振りかざすが、青鬼はそれをスティレットで弾く。
「いい刀だ。使い手の力量が伴っていないのは残念だがな」
「これから訓練するよッ。アンタ倒し後になッ」
何度も互いの刃をぶつけ合う。その間にも幾度かその突きを身体に受けてしまいダメージが蓄積する。
おかしい。明らかに動きが戦いの前の、状態に戻っている。ここまでの段階でダメージを与えたはずなのに、それが丸切り感じられない。
「回復してるよな?」
「何のことだか。だが」
俺の大振りの振り翳し攻撃を、青鬼は二本のスティレットで止める。一気に妖気と力を込めるが、青鬼はいとも容易く弾き返した。その時出てきた隙で、青鬼はスティレットの片方をアックスに変え、俺の右手を切り飛ばそう、振るってくる。
「それはお前の専売特許では無いってことだよ」
刃が俺の手に当たる寸前、そらの軌道がズレた。青鬼がバランスを崩したのだ。
「二対一ってこと、お忘れなようで」
見ると琉助が青鬼の横腹を蹴り飛ばしていた。
「助かった」
「互い様だ」
青鬼はアックスをスティレットに戻して構え直す。姿勢を低くして、一気に間合いを詰める気だろう。
「いいか。奴は戦闘のプロで、こっちは素人だ。勝つには二人で隙を作りながらだ」
「おうけいだ」
二人で足並み揃えて、青鬼に向かい走る。
青鬼の初撃を頭身で受け止める。足で相手を蹴り飛ばして、刀の刃の角度を変え横に追撃を振るう。
それに対して、青鬼は両手のスティレットを逆手に持ち替え、攻撃を受け止めた。
「『深・水母愛』」
「ッ!?」
スティレットの刀身が急激に伸び、地面に突き刺さった。その直後に地面が爆発し、その勢いに任せて青鬼は俺の頭を飛び越すように前宙をした。
空中でスティレットをアックスに変化させ、俺の背中を回転切りする。
「ガバメントッ!?」
青鬼は切った後は、その場をバク宙を二回程しながら、俺との距離を取る。その直後に切られた箇所が爆発した。
その近距離爆発にはなす術もなく、俺は大ダメージを受け吹き飛ばされる事となった。
「焼き焦げた箇所の再生は遅い、、、なるほどな、、理解し、ッ!?」
何やら観察している青鬼、そこに雹がぶつけられた。
その方向を見ると琉助がいくつかの雹を手に持っているのが分かった。
「これは流石に効くよなぁ?俺の球速は甲子園予選レベルだッ考察の余地は与えないぜ」
「いや、もう考えはまとまった。後は実験だ」
青鬼は二本のスティレットを一つの手に握った。あのスティレットは妖気を流すことで姿が変貌する。まさか二本を統合するつもりか?
「させるかッ!」
琉助はそれを何かに動く青鬼を止めようと、雹を投げるが青鬼はノールックでそれをキャッチ投げ返した。その速度は琉助の比ではなく、彼の腹部を容易に貫いた。
「アグネスチャンッ!?」
「琉助ッ!」
「この程度、お遊びだ」
琉助はそのまま血を流して地面に倒れ伏す。二対一の有利な状況から振り出しに戻った。
「お、俺はだいじょう、ぶだ。集中しろッ」
琉助は腹を抑えながら立ち上がる。その手には血が滲んでいる。このまま放置はまずい。
「もはや虫の息、後回しせずとも勝手に死のう」
青鬼の手には一本の刀が握られている。スティレットを統合したものがアレであろう。
青鬼はその刀身を指で優しくなぞる。
「刀を握れッ!山門健ッ!武士らしく行こうではないかッ!」
おそらく刀に着いた雨を他のものに変化させたのだろう。青鬼はそのまま攻撃の体勢に入る。
「テメェッ来るなら、とことん来いッ!」
俺も刀を強く握り、目の前の青鬼に意識を集中する。間違いなく、奴は俺ですら理論の分からない再生を理解した。その上に突破法を編み出したのだ。警戒は捨てられない。
事は一瞬だった。青鬼の初撃を完全にパリィした。弾いたのだ。すると、なんとういう事か、こちらの刀身が一瞬で凍りついた。
「ッ!?」
俺の動きはチョピリ固まったが、青鬼の追撃の前に刀を振り下ろす。
「ダッフンダッ」
その速度を上回る鬼の身体能力は俺の腹部を蹴り飛ばした。そのまま刀による二撃目は俺の右手首から上を斬り落とした。
「アアアッ!俺の手がッ」
斬られた直後に手首の切断面は凍り付いており、その冷たさ熱さから来る激痛が俺を襲った。
「再生箇所が塞がればそこから先は、戻らない。細胞も完全に凍らせた。出血が少ないのが欠点だが、そんな事は大したことでは無い」
奴は一体何をした。妖気を使って凍らせた?いや無理だ。初撃の時は妖気法能力を無効化する俺の刀すら凍らせていた。つまりアレは能力では無く何かの性質のモノ。
「そのダチョウみてぇなちっぽこな脳みそで考えるこったなッ!」
思考を巡らす俺の横顔を青鬼は強烈に蹴り飛ばす。完全に形勢逆転された。
俺はすぐさまに立ち上がり、左手で刀を強く握り構える。青鬼も次の攻撃の体勢に入った。
「『深・水母愛』」
青鬼は地面に掌を置いた。そして、地面から三つ四つの水渦の柱が俺から青鬼の姿を隠すようにそびえたったのだ。
その水柱から無数の氷の塊が射出された。それは俺の体を貫くように何発も何発も、打ち出される。
「まずいッ」
攻撃の姿勢を取っていたせいか、防御に入るのが遅れた。もう既に二、三十発の氷の塊が背後まで貫通している。貫かれた傷跡は凍りつき、傷口がさらに染みる。
「しっこう停止、思考停止ッ!」
前方の攻撃に意識を送りすぎた。青鬼はいつの間にか背後に回り込み、俺の上から刀を振り下ろしてくる。
おそらく『深々・幻夢ノ母』の力で姿を隠していやがった。
即座に攻撃を弾こうと刀を振り上げるが、それは空を掠った。つまりこの攻撃はフェイク。それを理解したと同時に背後から刀が突き刺された。
「これにて決着だッ」
「ああっがぁああ」
青鬼は俺突き刺したまま刀を天に掲げ、俺を持ち上げた。そして、一気に振り下ろした。肉が絶たれる音が聞いたのを最後に、意識が暗転した。
##############
終わった。山門健を始末した。心臓から腰に掛けて、切り裂いた身体は、能力にって断面を凍り付かせた。これで再生する事は無い。
奴の刀が特殊なことは、報告を受けている。ならば、能力発動と攻撃の間にワンクッション入れることで、能力を無効化させない事ができる。
奴を殺すには完全に体を凍らさる事か、粉微塵に吹き飛ばすことのどちらが必要だと推察出来る。荼鬼とは性質が違う為、肉体が消えた後も他の鬼の死体に乗り移ることは不可能なはず。
「息はしているな。こおりで止血されてるから、死ぬとしても時間が掛かる。ここで確実に首を切り落とす」
首を落とした後、頭部を含む全てを凍らせる事で、奴の命は終わる。これが中鬼最強の力だ。
「これで、終わりだッ!」
刀を大きなアックスに変化させ倒れた山門健の首に振り翳した。しかし、刃が首に触れる直前に何者かが背後からタックルをかましてきた。
なるほど、馬飼琉助は確かに仕留めていなかったが、まさか、こんなにも早く復帰してくるとは思いもしなかった。
「馬飼ィッ!」
「このままくたばりなッ!」
馬飼琉助はそのまま俺の上に馬乗りになって、メリケンサックを付けた拳で顔面を何度も何度も殴りつけてきた。しかし所詮は下等血種ッ顔面に妖気を纏いさえすれば、ノーダメージだ。
「無駄だッ!『深・水母愛』ッ」
触れてる箇所から能力で馬飼琉助を吹き飛ばした。
「うおっカスがッ」
流石に高火力の爆発を使うとこちらもダメージは免れない。だが距離さえ取れれば、こちらのターンだ。
「喰らってッくたばれッ」
手に無数の氷の弾を生成。それ馬飼に直接飛ばす。もちろん貫通する威力で。
「こんな簡単にくたばれるかよッ」
馬飼は頭に被った帽子の中に仕込まれた小型ナイフで弾き飛ばした。だが、そんなことを俺が理解していないとおもっているのか?あらかじめ仕込んでいた、罠をな。
氷の弾丸を弾いたナイフと手は同時に凍りついた。これで右手は使い物にならない。
「勝ったッそのまま右手を弾き、吹き飛ばすッ」
『深・水母愛』は直接触れた液体を変化させる能力。氷や蒸気などの状態を変化させる速度が早い。逆に爆発やその他、水に無い性質を付与する物は発動までにラグがある。と言っても三秒程度しか変わらないため、常人からすれば早いことは変わらない。
「再び同じこと言わせるなッこんな簡単にくたばれるかよッ」
コイツは腕が爆発される前にこちらに詰め寄るつもりだろう。だが、妖気法使いですらない人間が自分との距離を縮められるはずがない。
「無駄だッこのままくたばれ」
能力を発動させる。意志を固めれば、発動する。無駄な動作など組み込むはずがない。これが完璧な能力というモノなのだ。と思っていた。なのに、奴は能力の発動よりも先に俺の横顔を凍りついたナイフでザクッと突き刺した。
「グフッア!」
「お前の『深・水母愛』には一つだけ欠点がある。お前自身が『無意識』に行なっているから気付くことは決してない欠点がな」
欠点だと?あり得ない。『深・水母愛』はこの世で最も完璧な能力だ。『深々・幻夢ノ母』よりも優れた能力なんだ。欠点なんざあるはずがない。だが、実際に奴はそこを突いてきた。右目を開くのができない。片目とこの雨のせいで視界がぼやける。能力の照準が定まらない。
「ッ!?これかッ!」
ここまでに俺が触れた水は雨を含めて無数にある。普段ならば冷静に対象を選択できるが、ダメージの加算も相まって、脳で対象を選ぶのに無意識下で発動前のほんの数秒動きが止まっている。それを奴は見抜いたのだ。
能力にこだわりすぎたな。能力に慢心していた。鬼としてそれだけで人間に優位に立てるのに。
「これは、この痛みは授業料でもらっておくよ」
潰れた右目を押さえながら距離を取った馬飼琉助を睨みつける。
妖気でもう右目を修復した。戦闘においてもう不備はない。油断もしない。
「認識を改めよう。お前も立派な俺の敵だ。おままごとの時間は終わり。リアルおままごとの始まりだ」
宣言と同時に、馬飼に目掛け直進。腕に妖気を纏う。威力を更に上げた一撃で奴を葬り去る。馬飼は二本目のナイフをそれも大型のサバイバルナイフをコートの裏から取り出した。
「妖気を纏った拳にナイフが刺さるかよッ!」
スピードも何もかもが上。そんな中で馬飼はタイミングを合わせて攻撃を弾いた。しかも、うっすらと俺の手に傷を入れた。ざっくり逝かれる前に特殊な液体を纏っていなかったら、、。弾かれた拳は氷で守られている。
「パリィだッ」
一方のナイフは凍っていない。どういうことだ?今までの知識が通用しない現状に驚きを隠せない。
「そのナイフ。なんだ?俺の妖気を無視した?いや、取り込まれたって感じがする」
「これは影村さんから預かった武器なんだよ。特殊な『素材』を使ってるらしい。あんたも知らない何かが使われてるんだよ。びっくりだろ」
妖気を無効化する物質など聞いたことがないが、対処できないわけもない。
能力と白兵戦は経験値的に俺の方が上。真正面からやりあって負けるはずがない。氷の小刀を生成し、転がる妖気鉱石の刀を山門健と同じ様に容器で取り寄せる。二刀流。スティレットの頃からそうだったが、それが本来の戦闘スタイルだ。
「来いよ。愛染李美阿」
「決着だッ」
馬飼の武器はナイフ。刃渡りは120mm程度。それに対して、小刀ですら500mm。刀に関しては700mmを超える。リーチの差、手数の差も圧倒的。捌けるはずがない。
小刀の初撃を弾いた馬飼だったが、次の太刀の攻撃はもう弾く余力はない。
「ッ!?」
馬飼を真っ二つに切り裂かんとするこの攻撃を、何者かが刀で受け止めた。いや、このタイミングでそれが出来るのは一人しか居ない。
「山門健ゥッ!?」
「お待たせ」
「すまねぇなもう少し、時間稼げればな。すまね」
山門健はそのまま俺の刀を弾き上げて、腹部を蹴り飛ばす。事態はまた一変して、二対一の状況に逆戻りした。
「もうここで決着をつける。時間は問題じゃあないさ」
「お互いに、これで終わらせるつもりらしいな。いいだろう。決着を。『深々・幻夢ノ母』ッ」
第二の能力を発動し世界を崩壊させた。そして最後の攻防を宣言した。
##############
意識が朦朧とする。全身が冷たい、このままでは本当に死ぬ。
山門健は上半身と下半身が完全に分離している。これはもう治らないだろう。このまま残酷な冷たさに包まれて死ぬ。それは最も孤独な最後であろう。
『おい、おいッ、おいッ!いい加減に目を覚せッ』
声が聞こえる。良かった、最後は誰かが看取ってくれる。寂しさなく逝ける。でも、この声は何処かで聞いた事がある気もするし、無いかもしれない。とりあえず、仲は良くないな。死に際の人に怒鳴る奴は総じて碌でも無い意識が朦朧としているせいか、記憶もこんがらがっている。
『健。お前にはまだ役目がある。立て』
今度ははっきりと聞き覚えのある声が聞こえた。この声はこの世にはもう存在しないはずの声だ。マテウス、俺が殺した赤鬼。首を切った時の感触は未だこの手に、心に残っている。
そうだ、俺はマテウスの夢をまだ叶えていない。実現していない。
『お前はまだ終わっていない。使え、俺の熱をッ。伸・炎鞭腕』
身体がだんだんと暖かくなってきた。凍った心をゆっくりと溶かしてくれる。
「まだだ。まだ終わらねぇよ」
意識が戻った。肉体は完全に繋がっている。氷はもう溶けた。体力も完全に元通り、目の前で琉助がピンチだ。刀を手に取って、一歩踏み出した。
そして時は少し先へ。
青鬼は、能力で世界を作り替えた。ここは熱帯雨林のジャングル。さっきまで大雨だったとは思えないほどに蒸し暑い。しかし所詮、これらはまやかし。事実は何も変わらないここはただの東京だ。
「青鬼ッ。俺の勝ちだ。もうお前の嘘は俺に通じないッ『炎縁・赤破壊鬼ッ』」
右腕に妖気を纏い、炎を纏わせる。熱いが、火傷を負ってもすぐに皮膚が再生するからダメージにはならない。これはかつてマテウスが使用した能力を自身の体質と能力に合わせて昇華させた新たな能力だ。
この炎はただの火ではない二つの特性を持つ。一つは自身以外の妖気を焼き払う妖気の炎。先の氷もこれで溶かした。もう一つは、燃やした妖気の持ち主の居場所を特定する。
「お前がいくら背景に隠れようともッ」
炎が青鬼の位置を発見した。その方向に大きく飛ぶ一直線に駆ける。脚には『紫電雷狼』、広大な大地を駆ける狼のような速度で行動できる。たとえ目の前に存在するのが血に飢えたタイガーだろうがジャガー関係ない。突破する。燃える拳が青鬼の腹を捉えた。拳が当たると同時に世界は元の街並みに戻った。
「もう、お前は俺から逃げられない。爆ぜろ」
炎の火力を一気に火上げた。自身の身体には『青鉄鋼亀』。広大な海に生きる最硬の生物である海亀、彼らの背負う甲羅の様な硬さで全身を守る。
「グワ、テマらぁ」
青鬼も自身の肉体に妖気を纏っていたが、そんなものはまとめて焼き払う。青鬼も以上に気付いてのか、大きく背後へ飛んだ。少しでも早くこの炎から離脱するためだろう。だが、そんな青鬼を背後に構えた琉助が逃すはずも無く。握ったナイフを横に一振り、青鬼の背中を切り裂いた。
「逃すかッ」
「ぐっ、貴様ァアッ!」
青鬼の血が地面に垂れる。ようやく大きなダメージを奴に与えられた。
「よくも俺の、俺たちの高貴な血を、出させたなァッ!この純血に対する不敬、、、万死に値する罪だッ!」
「汚れた血が、粋がるなよ。能力で生み出した仮初の純血の分際で」
激昂する青鬼、それに対して冷静にレスポンスを返す琉助。流れはこちらにある。
「お前の秘密はもう割れてる。『深・水母愛』は遺伝子情報すら書き換える。そんなモノで保った純血は、価値なんてねぇよ」
「ッ!?馬飼ィッどこでその事を知った?」
「モーニングコールしてくれた、鬼ぃさんにな」
琉助を起こしたお兄さん?一体誰だ?俺の中で思い至るのは、影村寿雄のおっさんの弟子、推定黒崎亜流か?それだと鬼側の事情に精通している理由が分からない。
「なるほど、、、ようやく理解した。あのクソッタレは鼻から裏切ってやがった訳か」
「理解したかッ全部割れた。お前に嘘はもう無い。お前はもう俺たちには敵わねぇ。降伏しろ」
ここは俺が前に出て、降伏を促す。情報を出したのは琉助だが、仮に青鬼がまだ抵抗してきたら危ない。
「降伏?笑わせるな、それは下等な生き物の奇行。高貴な生物にとっては愚かな行動だ」
「まずいッ!上に飛べッ」
青鬼は周囲を一斉に凍り付かせた。一瞬の判断が遅かったら、全身、中まで氷漬けにされるところだった。琉助も俺の様に回避できたようだ。
「俺は高貴な生き物としての矜持を果たす。さぁ、踊ろうぜ。『深・水母愛』」
避けれたと思って油断した。
青鬼の狂気は凍っている地面を丸ごと爆発させた。その規模は今までに無いほどだった。周辺の民家を含むすべての氷がまとめて爆発へと変化した。それに、上に逃げた俺たちが巻き込まれない訳もなく、、、、、。
一体には青鬼を含め何も残らなかった。
##############
愛染家は、世界に散らばる鬼の中で、五家しか存在しない貴族であった。純血五家と呼ばれる者たちは、その他の鬼と比べて圧倒的な権力を持っていた。あらゆることが罷り通る。軍に所属せずとも、自身の強さを磨けたり、法を犯した際の罰も一部免除される。それほどの権力がある。だが一つだけ、守らなければならないものがあった。それは、
『純血』。純血の赤鬼種であれば、遺伝子上の赤鬼種(この場合は角の形が赤鬼種)としか婚姻、子孫を残せない。どこの一族もそうやって血を約二千年間繋いできた。
それなのに、約百年前に愛染家はそのルールを破った。
当時の当主はただの黄鬼に恋をした。それは向こうも同じ感情に、、、二人は禁忌だと知りながらその感情を優先しその血を交わらせた。しかし、愛など、言っていたが生物の感情でしかない。生まれた子の角が、黄鬼だった時に、二人の目は覚めた。そして実感した、自分の行いのもたらす物を。
そこで当主はある妖気法能力を開発した。液体の情報を書き換える能力。まさしく青鬼の純血種にしか出来ない能力だった。それによって、妻と息子の遺伝子を書き換え、自身と同じ純血の青鬼種にしてしまった。そして、青鬼の純血種でありながら、黄鬼の性質を持つ超常の存在がこの世に誕生した。そこからこの能力を使い、純血種と他の種をハイブリッドさせ、発展させた。嘘によって一族は繋ぎ止められた。
その始まりの当主は、。
変化する水を羊水に、それを産む妖気を母の愛に喩えた。そして、その力を『水母愛』と名付けた。
次回、完全決着。
ちなみに前回言った、次の章のタイトルは、、もうちょっとお預けします。(本当はここで終わらせて、次回からエピローグだったからなんて言えない。)
青木渡志は戦いの行く末を見守っていた。
あの家の主人は男、青木渡志だった。ただ彼にはあの家を取り戻すための体はない、亡霊となった彼はただ見守るだけだった。
彼の人生メチャクチャだった。それでも『優秀』に生き、こうして死んだ。
「どうやら、私は本当に死んだようだ。こうして立っているのに誰も気付かない」
彼を現世に縛り付けるのは、何か?未練か、怨念か。否、彼はただ自分の死を認識していなかっただけだった。だが、それを認識した。
「フハハハハハハハハッ! 」
彼は他人から見えない、聞こえないことをいい事に、大きな声で高笑いした。これほど大きな声を出したのは生まれた時だけ。そしての二度目は死んでから。
「私は、渡志は遂に警察から逃げ切ったぞッ!」
彼は今までに幾人もの人を殺害した。それは『優秀』な完全犯罪と言っても過言ではなかった。だが、いつかはバレてしまい自分は捕まるのではないかと怯えていた。だが、彼はついに捕まる事なく、生き切ったのだ。
「ちょっと、お兄さんうるさいぜ」
「ッ!?」
不意に声をかけられた。あり得ない、彼は亡霊。声を掛けられたということは相手も亡霊ということになる。振り返ると、そこには角の生えた男が立っていた。あの青鬼とか呼ばれていた男にも角が生えていた。つまり、仲間、鬼である可能性が高い。
「何者だ?」
相手が鬼の亡霊だとしても、ここは『優秀』に冷静に声をかける。
「おたくに名乗る名前は無い。せいぜい、荼鬼とでも冥土の土産に覚えていけ」
「ココが冥土だろ?我々はすでに死者だ。ココから行く先なんてものは存在しない」
「アンタ、バカァ?ココまだ現世だよ。お前が行くのは下だ」
「ッ!?」
荼鬼が中指で彼の足元を指した。すると、下に禍々しい穴が現れ、彼を飲み込み始めた。
その事に驚き、慌てて足を抜きこの場から逃げようとする。
「なんだこれはッ!?」
「何って、お前を『地獄界』へ送るためのゲートだよ」
「なっ、なんだそれはッ!?」
「お前マヌケか?字の通り、地獄の世界だよ。仙人でも聖人でも皆等しく落ちる場所だ」
「ふざけるなッ!私は、渡志は『優秀』だッ!地獄に落ちる様な人間じゃあないんだよ!」
怒りに身を任せ、穴から完全に抜け出した。そのまま荼鬼に向かって殴りかかった。だが、彼の拳はすり抜けた。
「あっそ。ごめんだけど、優秀とか関係ないかあら。必要なのは赤子のような純粋な心だよ」
何度も攻撃するもその度にすり抜ける。攻撃が一向に通る気配がない。
「俺の魂と、アンタの魂は次元が違うんだよ。死んだ魂と生きた魂。優秀なら理解して、おとなしく地獄に堕ちろ」
「嫌だァ!やめろぉ。この私が、渡志が地獄に堕ちるなんてあっていいわけが無い。渡志は『優秀』なんだぞ」
何度も拳で荼鬼に抗おうとするもその攻撃は決して届かない。
「お前さっきから、私、渡志ウルセェぞ」
荼鬼の手が青木渡志の首を掴んだ。荼鬼の魂からは相手の魂に触れることができるのだ。このまま力を込め始める。荼鬼とはいえど、鬼の握力だ。人の首なんて一気にへし折れる。
「なんで、、、なんで触れられる」
「俺が『荼鬼』だから。答えはこれで完結する。魂の状態で死ぬと、来世はない」
「こんな惨めな最期なんて嫌ダァぁぁああああああああッ!」
「お前だって散々人を痛ぶり殺してきたんだろ?」
荼鬼は尚も首を握る手を緩めない。徐々に圧迫される感じは青木渡志に恐怖を味合わせる。じっくりと、じっくりと。
「俺は裁判官だ。心臓の重さから、罪が分かる。地獄へ堕ちな」
「ぃうぅぅっゃだぁぁ」
「もはや声も聞こえないな。最後にいいことを教えてやる。本当に優秀な奴は、自分のことを『優秀』なんて言わない」
その時が来た。青木渡志の首が大きな音を立ててへし折れた。手足は垂れ下がりもはや存在を感じない。抜け殻の魂となった。
「あばよ」
荼鬼がその体を投げ飛ばすと、その先に『地獄界』に通じる穴が出現した。そのまま、抜け殻の魂を飲み込み、消失した。あの先に存在する世界が、どんな世界か荼鬼は知らない。
聞いているのは、そこにも『ヒト』が暮らし、文明を築いていること。それも真偽は分からない。
「人は決して『天国界』には行けねぇものだな」
荼鬼は誰も居なくなったココで一人決着を待った。




