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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し偏東京偏
38/61

18話 東京連続殺人事件簿その十六 吉田倉佐

お待たせしました。

おそらくこの回は後々になってビフォーアフターされます。どこのシーンかは、、後書きにて


 吉田倉佐(よしだくらさ)は激怒した。必ず、この邪智暴虐な事件を解決しなければならぬと決意した。倉佐には『  』がわからぬ。倉佐は、東京の刑事である。足を使い、市民の平和を守ってきた。だからこそ邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。


「クソッ!」


 これで2件目だ。

 一週間前に一人の少女が無惨な姿で、通っていた小学校の校門、その前に放置されていた。警察は事件の捜査を必死に行うも犯人につながる証拠の様なものは出てこなかった。そのまま時間は進み、二人目の被害者が出てしまった。


「同一犯か、はたまた模倣犯か」


 隣で被害者の資料を読む郷田はそう呟いた。彼の言う通り、この事件が同一犯か、それすら分からないのが現状だ。

 刑事になってもう何年経ったか、殺人事件は幾度となく体験してきた。それでもだ、ここまでコケにされたのは初めてだった。


「犯人はおそらく同一だ」


「どうしてそう思う?何も証拠が出ていないだろう?」


「確かにな。だが、私の勘がそう言っている。こんな残虐のことを模倣犯がそう易々とできるはずがない」


 前回の遺体は処理がしっかりとされていた。例えば、頭部の失血をしっかりと止められていたりと、犯人の几帳面さが出ている。それにここまで遺体を素早く運ぶ手腕。そんじょそこらの人間にできるはずが無い。


「それは、アンタの憶測でしょ。倉佐、推理は良いけど。それを活かして」


「うるさいな紗由枝(さゆえ)。でも、実際にお前らも同じことは頭ん中では考えてるんだろ?口には出していないだけで」


 郷田と紗由枝は警察学校時代からの同期。他にも同期はいるが彼らとはその当時から仲が良かった。互いに足りない部分を補えあえるいいトリオだ。


「はぁーー、分かったわ、私たちは証拠が出るまで、そっちの線で先行して捜査する。それでいい?」


「俺に意見は無視か?」


「拒否権が欲しければ、もっと早めにアピールすることよ」


「いっつもだ。まっ、そっちのが近道だ。俺が足を使って、お前らが頭を使う。そうやっていっつも事件解決したもんな」


「お前ら、始末書が出たら、全部郷田な」


「おいッ!」


 結局この事件は一切の証拠、犯人に近づくことすらできぬ間に5人の少女が被害に遭い。上から突然の捜査の中止と、今までの全ての捜査資料の破棄が命令された。


「納得がいきませんッ!なんでこんな残虐な犯人を、事件を追うの止めなければ行けないのですかッ」


 そのことに納得のいかなかった私は捜査一課長に直接、講義に向かった。


「私もだ!だが上には逆らえないッ!」


 犯人は警察組織の上とコネクションがあるのか?大物政治家の家族とかか?だとしたら、国家ぐるみの陰謀がそこにはあるのか。

 だったら、最悪は私だけでも事件を調べ上がるまでだ。


「あまり妙な考えを巡らせるな。私も聞いただけだが、ここより上の世界には一本の血で繋がるコミュニティが存在する。その結びつきは強固らしい。それが事実なら君も、私ですら簡単に消される」


「そんなバカなことを許して良いんですか!罪のない少女達が何人も、何人も殺されてるんですよッ」


 人が死んでいるってのに、血の繋がりを優先するだと?ふざけるな。そんなことを法治国家が許して良いのか?


「そんな事は私も分かってるッ!君には分からないと思うが、私にはかぞ、、」

 トゥルゥルルゥッっと、課長の電話が鳴った。

 

「ちっ、なんだこんな時に。もしもしィイッ?」


 課長は急な電話に悪態をつきながら着信に応答した。課長は電話に出る前に私に自分には家族が居ると告げたかったのだろう。自分一人の犠牲では済まないと言いたいのか?

 その相手といくつかの応答を繰り返し、電話を切った。


「急ですまないが知り合いが来るからここから出ていってもらえないか?」


 出る前まで感情的だった課長は電話が終わると、最初の様な落ち着きになっていた。


「一体誰が来るんですか?」


「君には関係ないッ!。大事な話をするんだ。とにかく早くここから出ていきなさい」


 課長は強い言葉、それで私を突き放すように再び荒げた。

 確かに感情的になりやすい人だが、ここまでになるのは久しぶりだ。何か焦りを感じる。


「別にワシは良いよ。居ても居なくても関係ないしね」


「「ッ!?」」


 その声に、私と課長二人同時に驚いた。振り向くと、そこには白いスーツを着だ怪しい男と、隣に5歳程度の男の子が立っていた。なんだこのいかにも怪しい二人組は?男と子供のコンビ。まるで子連れ狼だ。


「寿雄さんッ!来るならノックぐらいッ」


「良いよ良いよ。依頼されてた資料持って来ただけだから」


 寿雄と呼ばれた男は、課長の苦情を無視するかのように、流した。そして、首で隣の男の子に合図をし、その子が手に持っていたなんらかの資料を課長に渡した。

 その資料を一瞥した課長は「やはりか」と一言の後にため息をこぼした。


「後で指定の口座に振り込んでおきます」


「そうしてくれ。こればかりは、『君たち』ではどうしようもない事だからね」


 もしかするとあの資料は今回の事件に関するものではないのか?だとしたら、あの男は私たちよりも遥かに優れた捜査能力を持っていると言うのか?あの資料の中身さえ知れれば、犯人を捕まえられるかもしれない。もしくは、、、。


「言っとくけど君の求めるものは『金』を積んでくれた彼にしか教えられないな。それに知ったとしても、君は考えてる様な事は決して出来ない」


 心を読まれただと。この男エスパーか?

 いや、普通に考えればこの状況で私が何を考えているのかぐらいは推測が出来るか。なんせ、あれだけの推理力と洞察力を保有しているのだから。


「忘れろとは言わないが。この件にはもう関わるな。君は『無力』なんだから」


 鋭い視線で言い放たれたこの冷たい言葉に私の意志が消失した。

 この件以来、私は私自身の正義を見失った。



 ##############



 異変は突如として起こった。車内に待機していた時のこと、車の屋根に当たる雨音が急に変化した。まるで、液体ではなく固体が降ってきているかのように。


「何が起きてる?」


 それは山門健が外へ出てから数分後なことだった。彼と青鬼の戦闘が始まった合図なのか?そな戦闘を見ていない現状では、その様子を知ることが出来ない。

 一応、青木家の近くには警察官が見張りをしている。なにかあればすぐさまそちらからの連絡で動くことが出来る。



 嘘を脱ぎ捨てた青鬼いや愛染李美阿(アイゼン・リピア)は『深々・幻夢ノ母(MOTHER2)』を展開した。景色は一変し、スラムの様な街並みになった。


「ここで俺は産まれた。中国?それすらも分からないスラムの掃き溜めにだ」


 姿は見えないが自分のそばに青鬼は居る。逃げも隠れもしない、俺と本気の殺し合いをご所望らしい。

 俺はここまでの戦いでこの能力の一つの攻略法を見つけた。


「だからって今の地位を守る為には人を殺すのか?」


「戦争では死人が出るだろ?それは夏祭りにおける太鼓と花火と同じぐらい付き物だ」


「警察官を殺すのも戦争か?」


「俺にとって、今のアメリカ、いや日本妖気法使いとの戦争はただの言葉くくりに過ぎない。俺にとってはこの戦争は鬼と人間の異なる種族の殺し合いだッ」


 俺は目を瞑る。この能力の前では五感はもはや意味を成さない。自然とレーダーを足元から展開する。このレーダーすら奴の能力の前では意味がないだろう。ある一瞬を除いて。


「『紫電雷狼(パープル・ウルフ)』」


 奴の攻撃のタイミングを完全に捉えて、向かってくる奴の腹に妖気を纏った蹴りを喰らわせてやった。


「グハッ」

 

 奴が蹴りを喰らうと景色は元の街並みに戻った。

 奴は『深々・幻夢ノ母(MOTHER2)』は発動中にある制約がある。能力の使用中は他の能力を完璧に併用できない。『深・水母愛(MOTHER)』を使う為には、『深々・幻夢ノ母(MOTHER2)』の一部の精度を下げなければならない。それが妖気レーダーに対する精度だ。その一瞬のタイミングを狙って『紫電雷狼(パープル・ウルフ)』の超反射による攻撃を当てるのだ。

 目の前の愛染李美阿はその蹴りの痛みと能力を見抜かれたことで目を血走らせている。


「お前はもう俺には敵わない」「とか何とか吐かすんじゃあないぜッ」


 ッ!?俺は確かに攻撃を当てた、その手応えもしっかりと感じた。実際に景色は元の世界に戻ったはずッ!なのにどうしてだか、奴の声に焦りがない。それにこの世界にはどこか嫌な感じがする。どこか気持ちの悪い感じがする。


「俺はさっきお前には仮初の姿を見せないと言ったな。これこそが真の『深々・幻夢ノ母(MOTHER2)』なのだ。この能力は一度に膨大な妖気を消費するのだ。だから『深・水母愛(MOTHER)』と併用できない」


 水蒸気のように淡く奴の姿は目の前から消失した。声の方向を振り返ってもそこに奴の姿はない。続いて右耳に息


「だから何だってんだッ。それならお前が俺に直接攻撃するしかないと暴露したみたいなもんだぞ。ッ!?」


 今何かに腹を殴られた。それもミゾに入った。俺の後ろに足音が聞こえる。だが、そこに奴がいるはずがない。  

 ッ!?次は首、それも脊椎の部分を拳で叩かれた。俺は反射的に後ろの方に拳を振る。だがそれは空気を空ぶった。


「しかし、俺がお前を直接攻撃する手段が他にないわけでもない。こうしてお前の『触覚』が勝手に痛覚を感じてくれるからな」


 真正面から声が聞こえる。まるで目の前に奴がいるかのようだ。


「『深々・幻夢ノ母(MOTHER2)』、それは対象の五感を支配する。あとは適当に痛覚に過剰なダメージを与え続けるだけで俺の勝ち。これが対人用の使い方だ。戦場ではまた違う運用をする」


 だとしたらこのエリアに居る限り俺は奴の攻撃から逃れる手段がないという事になる。

 だったここで本来の目的である愛染李美阿をここで素早く倒す事から引き離すことにシフトしよう。すでに作戦決行から体感時間で六分経っている。


「提案だ。場所を変えよう。アンタ、木伐を庇う理由なんぞないだろ?」


「無いな。奴が死のうが捕まろうが俺には無関係だ」


「じゃあ、ここから動こ「しかし拒否する」「ッ!?」


 俺からの素敵な提案をバッサリと断ち切った。言葉のチョイスは違うけど微妙に似たような意味の言葉をどこかで聞いたことがあるのは俺だけだろうか?


「俺がここから動くメリットがない。そして戦闘中に相手のオーダーに応える方が危険だ。お前がここから離脱しても俺がそれを追いかける理由もない。警察が『応答しろ、こちら吉田』乗り込んでくるのなら、皆殺しにするだけ」


「ふっ、そうかい。お前がどうしようがあの人の行動は変わりないようだがな」


 耳につけていたイヤフォンに通信が入った。ノイズキャンセル機能によって、雨音をブロックする。よって今聞こえる音声は本物。本人のものだ。

 俺が道を作るまでここに来ないようにって話し合ったのに。そして、あの人はさっきの青鬼の能力説明を聞いていたみたいで、このアイディアを思い付いたようだ。流石だ。


『奴は目の前にいる。ささっとぶっ飛ばして道を作れ』


 目の前に壁がある。が俺は目を瞑りながら真っ直ぐ走り続ける。きっと攻撃のタイミングも指示してくれるはずだ。俺はそれを信じる。


『そこで右によけた。やっちまえ』


 右腕に妖気を集中させて、俺は右方向に薙ぎ払った『防がれるッ攻撃を変えろ』無茶言うぜ。俺は上半身に体重を掛け、一気に姿勢を落とした。そのまま左手で、体を支え、右足を蹴り上げた。


「見切った」「グハァアッ」


 世界は一気に崩壊し、目の前に青鬼を捉えた。今の攻撃、妖気こそ纏えなかったが、この幻覚を解除させるほどにはダメージを与えられたみたいだ。

 その片足を上げて居る姿勢からバク転をして姿勢を正した。この間わずか二秒、追撃の『赤破壊鬼(レッド・デーモン)』による右ストレートを青鬼の腹にかましてやった。


「チェストォぉぉっぉ!」「この程度ッ」


 それに対して青鬼は腰のスティレットを素早く抜き俺の拳目掛けて突き刺してきた。それは俺の拳を貫通し肩まで貫いた。青鬼はもう片方のスティレットに手を伸ばすが、俺がこの程度のダメージに怯むはずがない。


「ウォォォオオオオオッ!『赤破壊鬼(レッド・デーモン)』ッ!」


 左拳に妖気に右の分の妖気を全て移し替える。そのまま青鬼の顔面を殴り抜いた。


「グハァァーッ!」『これから青木家に突入する。あとは後任に任せる』


 青鬼はそのまま吹き飛ばされて家の壁に激突する。そのままダウンした。

 その隙を見計らって吉田さんは青木宅への侵入に成功する。それを横目に俺は青鬼に意識に集中する

 

 俺は突き刺さってるスティレットを右腕から抜きとる。その際に全身に焼けるような激痛が走るが、それに臆することはない。そのまま抜いたスティレットを地面に投げ捨てた。


 直後、世界はまたしても崩壊した。見るとダウンしているはずの青鬼がニヤリと笑っている。

 次なる世界は木々の生い茂るジャングル。天候は嵐。落雷とそれによる火災の危険がある。


「あの女が、お前の第三の目になってってわけか。だが青木家に入ったことで、それはもうなれない。今度こそ、この『深々・幻夢ノ母(MOTHER2)』で葬ってやる」


 イヤフォンに通信が入った。コイツが吉田さんの言っていた後任か。


『あとは俺の指示に従え』


 その声には聞き覚えがあった。その声を聞いて俺はニヤリと微笑んだ。


「貴様はッ!?なんでここに」



 ##############


 

 玄関の前、彼らの戦闘で荒らされている。そんな先には木伐帆群が立っていた。どうしてここに居るのか。てっきり二階似て人質を取っていると予想していたが、こうなると人質の安否が心配だ。

 

「あんた、いつぞやの刑事さんじゃあねぇか」

 

 木伐は私の存在に気付いて、話しかけてきた。本当に殺人鬼かと疑いたくなるレベルのフランクさだった。


「ああ、でも今度は任意じゃあない。お前の逮捕権がある」


 木伐を逮捕できるのは、郷田哲彦殺害の件だけ。そこからは残りを引きずり出せばいい、こいつの口から。だから今お喋りをする気はない。


「酷いもんだ。ここの有様といい。アンタらといい、どんな権利がある?資格がある?強い力を持つ存在はいつもそうだ。勝手に荒らすだけ荒らしって、正義ヅラしやがる。終わりだよこの国」


 木伐は包丁を振るってくる。それを後ろに避けるが、刃の先端が胸をなぞり、ワイシャツ越しの薄皮一枚に傷を入れた。切れたワイシャツからは肌色と一本の赤い線が顔を出した。


「ヒューーーう。立派なもんだな。次はそれの先端、Bを切り裂いてやるよ。この日の為に、アンタら警察をぶっ殺す為に、刃は欠かさず研ぎ続けた」


 そう言って木伐は包丁を振り回す。動きは単調で避ける事は容易だが、近付く隙がない。


「警察に恨みでもあるのか?」


「いや、もうそんなものは無くした。今はただ正義ぶってる奴の死に様が見たいだけだ」


 木伐の事を改めて調査した時、異なる方向で彼のことが見えてきた。まずは木伐の父親は、この家本来の主人である青木渡志の父親が行った手術によって亡くなっている。その際には看護婦の過失が原因であったが、以降の木伐家は文字通りどん底だった。


「青木が関係しているのか?お前の恨みとやらには」


「ッ!?」


「警察は馬鹿じゃない。容疑が確定してから、お前のことを徹底的に調べさせてもらった。色々分かったよ」


 次に母親だが、彼女は木伐が高校に上がる頃には、過労によるストレスによって、この家で自殺したとなっているが、実際は何者かに殺害された可能性が高い。でも、私を含む当時の警察は、連続女児殺害事件を追っていて、彼女のこと眼中にはなかった。


「母親の件は、明らかに当時の我々が悪い。今からでも再調査出来る。それも、お前が大人しく捕まれば、もっと早くな」


 木伐の動きを完全に見切り、包丁を振り上げた腕をがっしりと掴んだ。


「ふざけるなッ!人様の家庭に今更ずかずかと入り込んできやがって」


 木伐は手に持って包丁を器用に逆手に持ち替え、力いっぱいに振り翳してきた。流石の私でもこの状況じゃ男の腕力には敵わない。強引に腕の位置をずらし、攻撃を受けることは避けれた。


「そのことならとっくに自己解決してる。青木渡志だ。勝ち逃げしたアイツが連続女児殺害の犯人で、俺の母を殺した。そして、俺に殺人をさせる為に、裏でコソコソと動いてやがった。俺たちはアイツの掌の上だったんだよ」


 メロスのように、友に誓った。だから、どんな事があっても諦めない。全てまとめて解決する。


「そうか。だとしたら、その件も後で調べさせてもらうよ。貴重な証言ありがとう」


「調べる必要はない。する事はできないッ。お前は今までの奴のように、ここで俺によって殺されるんだよッ!」


 木伐は包丁を握ってこちらに突進してくる。それに対して、身を屈め、刃が届く前に拳を腹に叩き込んだ。


「アッん、ぱっn、まっん」


 腹に練り込む拳は木伐を一撃で膝をつかせた。今のは誰の怒りだろう?私のではないのは確かだ。


「お前は人を幾人も殺めた。だが、殺人鬼であって、殺し屋でもない、戦闘訓練も積んでない、ただの素人だ。こっちは警察学校で訓練積ませてもらってるんだよ、正面戦闘で遅れをとるまいが」


 そこから素早く木伐の腕を掴み、背負い投げで壁に打ち付けた。今のは私の怒りだ。


「gッギブスっくん」


 完全に攻撃が決まった、確実に木伐は気絶している。あとは手錠を掛けるだけ、、、それだけでこの事件は終わる。しかし、木伐の言っていたことも気になる。青木渡志の掌の上?それが本当ならば、、ものすごい闇が出てきそうだ。それも警察上層部にも関わる程のな。


「猫ちゃん、死んじゃったの?」


 考え事をしていると、後ろから声が聞こえた。

 その声に振り返ると、そこには女の子が階段に居た。彼女はおそらく話に聞いていた青木渡志の一人娘、青木椿芽ちゃんだと思われる。ひとまず人質の一人が無事で良かった。


「良かった。猫ちゃん、まだ生きてた」


 彼女を保護するために近付こうとするが、その一言で動きを止めた。後ろで誰かが立ち上がった事に僅かな物音に気付いた。木伐はどうやら気絶していなかったようだ。


 もう私はあの時のようには止まらない。背後に意識を集中した。呼吸を止めて、、

 私は『  』を理解できない。だが、今までもこれからもそれでいい。


「このアバズレビッチがァッ!くたばりやがれッ」


後から迫る木伐の攻撃を無言で右にずれて避ける。攻撃を外した奇抜はそのまま勢い余って床に転び倒れた。その拍子に手に持っていた包丁を落とした。こうなればもはや、抵抗はできない。


「残念、私は『鬼の処女(デーモン・メイデン)』だ」


 木伐は起きあがろうと体勢を整えるが、私は素早くその行動を押し潰した。木伐の腕を取り、そこに手錠を掛けた。これで私たちと木伐の長い戦いは幕を閉じた。


「クソガァぁあああああッ!ちくしょーうううッ」

「木伐帆群ッ確保ーーーーーーーーーーーッ!!!!」


 雌叫び(めたけび)を上げ、そのことを宣言した。残すは山門健の戦いだけだ。それさえ、終われば本当の意味で全てが解決する。去って行ってしまった彼らに花束を届けられる。


 

 ##############



 そして時は遡る とある喫茶店にて

 

「お久しぶりです。渡志先輩」


 工板九坂は席につくと先に座っていた高校時代の先輩に挨拶をした。休日だったがいきなりメールでこの喫茶店に呼び出された。今進行してるプロジェクトが安定しているために、休みが取れた。せっかくなのでお誘いに乗ったのだ。


「急に呼び出してすまないね。珈琲で良いかな?ここは出すよ」


「お言葉に甘えさせてもらいます」


 先輩は目線だけで店主に合図を送り、珈琲を提供させた。

 目の前にやってきた珈琲は出来立てで深い香りが鼻まで登ってくる。


「この店の常連なんですか?」


「そうだね。ここのマスターの牧篠さんとは古い付き合いでね。それで休日にはよく来させてもらってるんだ」

 

「そうなんですね、、、ちなみに今日はどんなご用件で」


「いや、高校時代の後輩に久しぶりに会いたくなってね。なんとう言うか、、特に理由は無いんだ」


 あの渡志先輩でもそう思うことがあるのか。てっきり過去にはドライだと思っていた。

 先輩とは色々あった、そのおかげで高校時代は強烈な思い出となっている。


「最近、木伐君には会ったかい?」


「ッ?!」


 木伐帆群は高校時代の初期に仲良くしていた男だったが、謎の流れで学校の一丸となり彼を排除した。その際の実行役として自分は起用されたのだ。

 渡志先輩は木伐のことを目に掛けていたから、心配なのだろう。彼があの計画に加担したと言う話は聞いていない。だから辞めた理由も知らないのだろう。


「先輩は、、どこまであの話を知ってるです?」


「あの話って、木伐君が辞めた件かい?母親が自殺したって聞いたよ」


 それも一つの要因だろう。だが、真実はさらに残酷。

 今、あの件が露見すると、俺の順風満帆でジェンガの様な人生は瞬く間に崩壊する。先輩は何かを掴んで、脅しに来たのか?考えが読めない。


「俺もそこまでしか知らないでさぁ」


 ボロを出す訳にはいかない。ここは冷静に言葉を選ぶんだ。


「今、個人的な理由で彼の動向を追っているんだ。何か分かったら連絡してくれないかい?メールアドレスは君に連絡を取ったので構わない」


「はぁー」


 こちらとしてはもう木伐とは関わりたくは無い。いつ過去が俺を不幸のずんどこに叩き落とすのか分からないからな。俺は自分の人生を守る為にも、、近付かない。


「なるべく協力させて頂きます。まぁ会う事はないと思いますが」


「いや、君達はいずれ引き合うだろう。『優秀』と優秀だからね」


「ははっ、だといいですね」


 良かぁねぇえよックソがッ。あんなカスなんて、、クッソ垂れな目に遭ってくたばっちまえば良いんだよ。

 

 しかし、現実は非道である。これから一週間後、俺のジェンガは崩壊した。


「クソがァッ!なんでこの俺がこんな目にあわねぇといけねぇんだよッ!」


 プロジェクトの成功と俺の昇進決定を記念した飲み会に、、奴が、木伐が現れた。殴り合いになって、俺が謹慎、昇進は取り消し、将来を誓い合った相手には別れを切り出された。俺の人生ぶち壊しだ。


 今は謹慎中、どこにもぶつけられない怒りを、俺はパチンコ、競馬で発散しようと思ったが、負け続き。結婚資金も全て溶けた。そのせいか、ストレスを風俗で、無抵抗の女にぶつけたが、商売女なんかじゃあ満足できない。これもどれも全部、木伐のせいだ。

 その時、以前に青木渡志に言われたことを思い出した。あの人に相談するしかない、きっとあの先輩が木伐を求めている理由は、きっと何かアイツを破滅させる為に違いない。


「ぶち潰してやるッ」


 俺はそう考え、先輩に連絡を取った。返事は思いのほか、早くその日の晩に返ってきた。明日、俺の家に来てくれるらしい。そうなると俺は大慌てで丸まったティッシュなどのゴミを袋に纏めた。あの人はコーヒーが好きだったはずだし、コンビニでペットボトルのコーヒーを購入し、冷蔵庫に保管した。


 翌日


 約束の時間になると、事前に連絡していた俺の家に先輩はやって来た。呼び鈴を鳴らし、俺もそれに応じるようにマンションのオートロックを解除した。


「先輩、忙しい中ありがとうございます」


「問題ないよ、じゃあお邪魔させていただくね」


 靴が乱雑に転がっている玄関に、先輩は靴を脱ぐと丁寧に向きを揃えた。俺の方は手を使わずに素早く靴を脱ぎ捨て、玄関を進んでいった。


「すいませんね汚くて」


 部屋は軽く掃除して、ゴミこそ転がっていないが、まだ出せていないゴミ袋が積まれている。お世辞にも綺麗な部屋とは言えない。


「いや、大丈夫だ。君も大変だったね」


「ありがとうございます、、これもどれも木伐のせいで、、」


 俺は自分の身に降り掛かった不幸を全て話した。先輩は、その話を真剣に聞いてくれて、頷いてくれた。俺は冷蔵庫の中にしまって置いたコーヒーを、冷蔵庫で作られた氷を入れたコップ(水垢の付いた)に入れて、提供した。


「これ、アイスコーヒーです」


「どうも。好物だ、、真剣な話の時ほど、、、、珈琲がいい。・・・ストローは無いようだね」


 先輩はゆっくりとコップを口に運んでいった。


「君だが、裁判でも起こせばいいんじゃないか?そうすれば、元凶である木伐くんからお金を払ってもらえる。それか、裁判や警察を盾に、彼を脅すんだ。君が失った金以上のものを君は得られるだろう」


「本当ですかッ!」


 その言葉を聞いて俺は大きく驚いた。失った将来は帰ってこないが、金が手に入る。そして、あんなところでフリーターをしている木伐は返す金がないから、闇金に手を染めて、勝手に破滅する。こんな最高な事はない。


「彼の家は、ここだ。彼は今仕事がないから、明日にも行けるんじゃあないか?」


「そうさせて頂きます」


 俺も謹慎はもうしばらく続く。見とけよ、俺を馬鹿にした会社の奴ら。特に愛染ッ。


「最後に、、この珈琲は、どんな豆を使用してるんだい?」


「いや、分からないです。コンビニで適当に買ったので」


 コーヒーなんてどれも同じだ。カフェインが採れさえすれば、味は同じだろう。


「そうか、、、いくらだった?」


「さぁ、200円いかないぐらいじゃないですか?大した出費じゃあないんで、気にしなくてもいいですよ」


「君は珈琲を選ぶのに、何を基準にした?」


 先輩から奇妙な質問をしてきた。珈琲を選んだ基準?そんなものあるはずないだろうに。


「特にないですが、強いて言うなら量ですかね」


「だろうな。君みたいな奴は、質よりも量で選ぶ。これと同じ値段で質の良いものが買える。けれど、関心の低い大衆ってのは同じ値段ならば、量の多いものに注目する。君のようにね」


「どう言う意味ですか?」


「知る必要はないよ。それじゃあ、ここでお別れだ。失礼させてもらうよ」


 質問に答えをもらう事は出来なかった。きっとこれからの生涯で、俺がその真意を知る事はないだろうと、どこかで感じていた。



 ##############



 木伐帆群を捕獲した。今は青木家の廊下で、手錠を掛けうつ伏せの状態で倒してある。

 玄関から外を覗くと、すでに彼らの姿はここには無く、血の跡でここで争っていたことだけが分かる。


「まだ、終わってないんだな」


 先ほど、警察署に何者かが侵入した事が報告された。山門健の刀を含む彼の所持品が奪われたらしい。

 一体誰の仕業なんだか、まぁ想像はつくが一体何がどうなって。


 彼らはゾンビか何かかよ。

 

 だが、これで雨は止みそうだ。

 吉田と木伐の戦いは、吉田の心理描写を増やしたかったけど、文字数が増えそうになったので、ストップ。でも、気が向いたらおもっくそ書き足す予定です。だって、彼女の活躍の集大成的なシーンなのに成長があまり感じられないんだもん。自分の作品は戦闘シーンでの精神的成長描写が少ないかもと最近思い始めました。でも、戦闘前にあらかた成長描くからねしょうがないね。次の章も予定だと健の成長を描くメインも、、、おっとここから黙ります。


 ちなみに今回は解答編その2の役割入れようと思ったけど、渡志が女子小学生を殺したり、木伐の母親を殺していくシーンってつまらんよね、想像にぶん投げます。ちなみに木伐を学校から追放する事件の黒幕は渡志です。ここも描く気ないんで、、、でも詳しくは次の次に書くかも、、書かないかも。


 次は青鬼との決着なので、お楽しみに。個人的に戦闘は書くの楽しいから早いかも。


 ほんじゃ、次回 19話 東京連続殺人事件簿その十七 紫電雷狼『パープルウルフ』でお会いしましょう。

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