17話 東京連続殺人事件簿その十五 深々・幻夢の母『MOTHER2』
青鬼戦パート1です。
前回の赤鬼戦よりも少しグロいです。
降り注ぐ雨は冷たく、そのうえ吹く風はとても冷たい。まぁ要するにだ、嵐だ。俺の記憶が正しければ、彼らは活動休止してるはずなんだが、この天候はどう見たって嵐だ。彼らの数々の名曲が耳に響いてくる。一曲も知らないけど
「参ったな。これって俺不利だよな」
「そうだな、今のところ集まってる青鬼の資料的には圧倒的に不利だ」
「ですよねぇ。ただでさえ汎用性抜群なのに」
青鬼の能力『深・水母愛』は水に妖気を与えることで、形質や性質を変化させる能力だ。これがどれくらいまで効果範囲があるかは未検証。奴の口ぶりから、この雨すら能力の一端である可能性が高い。戦闘面では水を酸性に変化させたり瞬間接着剤にしたりと言った効果が確認されている。
「それに、他にも能力は隠していてもおかしくないな。事件を見るに爆発も取り扱っていそうだし、これだけは細心の注意を払う必要がありそうだ」
「流石にこれだけの嵐だ。その威力警戒して使わないんじゃないか?」
仮に水を爆発させるとして、その威力はどれくらいだ?人間の肉体を身元がわからなくなるまで破壊できるなら、相当なはず。確かに至近距離でそんな爆発を起こせば、青鬼にもダメージが入るかもしれない。
「いや、それはないですって。鬼の身体強度は人間のそれより高い。人間の皮膚に傷をつける爆発程度ならば、青鬼からしたら軽傷のはず、使わないメリットがないです」
対処法が思いつかない現状、最大限気をつけるしか俺はする事が出来ない。またあの服ボロボロになるよぉ、世界に一つだけの和服、プレミア物だぜ、アレ。
「そうか、まぁ序盤は作戦通りに動いてくれれば、こっちとしては問題ない」
「それは問題なく、俺が青鬼を外に引きずり出して、その間に警察が二階にいる木伐を確保、人質の解放だ」
幸いにも、警察官の何人かが青木宅に張り込み続けて、木伐が家から逃亡していないことを確認済みだった。
「ああ、おそらく木伐は二階に引き返して、母子を人質に取るだろうな。だから、極力刺激しないように、誘き出せよ。完了次第に、耳のそれでこっちに連絡を」
吉田さんはイヤフォンの方を目線を送った。これで戦闘中もハンズフリーで会話できる。
最後の確認をしているうちに、目的地に到着した。
これから青木宅周辺の道半径一キロに渡って車両による通行止めを行う。これによって、今度こそ逃げることも叶わないだろう。マンホールの位置も把握済み、その側に警察官を配置した。総勢一三〇名の大規模作戦だ。二人を決して逃さない。
「了解です、それじゃあ行ってきます」
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そして現在
青鬼は目の前で俺の脚を両腕で受け止めている。このまま拳でガラ空きの腹を狙ってやる。しかし、青鬼は至って冷静にことを見据えている。
「『深・水母愛』」
青鬼は、自身の能力名を宣言した。それはまずいと判断して、能力が発動する前に後ろの大きく飛び退いた。
「クッ」「逃すか」
そんな俺を青鬼が見逃すはずもなく、真っ直ぐに向かってきた。俺が地面に着地する前に俺のガラ空きの腹に平手を繰り出してきた。このままでは『深・水母愛』で攻撃される。
手のひらが俺の腹に当たる直前、俺のポケットからハンカチが飛び出して、青鬼の攻撃の身代わりになった。
「随分と妖気の扱い上手だな」
青鬼が驚くのも無理はない、俺は物に妖気を纏ってそれを浮かして見せたのだ。これには相当練習が必要だった。技名を付けるなら『なんちゃってフォース』だ。
そう言って、青鬼は様子見を兼ねて、後ろに飛び退き距離を取った。
「逃すかッ!」
この『なんちゃってフォース』はこんなことも出来る。地面に妖気レーダーを展開する。それの応用によって地面の小石にも妖気を纏う。それを一斉に浮かして、青鬼目掛けて投下する。所詮は小石、されど妖気をまとった小石、威力は侮ってはいけない。しかし、青鬼はその場から一切動かない。ポケットに手を突っ込んだままだ。ほ
「なるほどな、妖気を地面に伝わして手の届かない物を操るか。よく考えたな。しかし、」
青鬼目掛けて飛んでいた小石は不意に全て地面に落とされた。その理由は直感で分かった。青鬼はこの空間に更なる妖気レーダーを展開したのだ。
「直接触れてないのなら、より多くの妖気を上から纏う事で主導権を奪える」
「泣けるぜ」
この段階で妖気法という事において青鬼は確実に上だ。まだ能力もほとんど見せてきていない。
ならば、こちらも手の内をまだ明かさない方が懸命。
「良いことを教えようか。レーダーってのはこう使うんだよ。『深・水母愛』ッ」
青鬼は能力を叫び、そのまま後ろへ青木宅の中に入って行った。玄関ドアもガッチリ閉められ、意味がわからない。
「何のつもりだ?」
あの青鬼が敵前逃亡するとは考えられない。とどのつまり、これは何かの能力による被害から逃げたのか?
「どちらでも良いッ!ドアごとぶち抜いてやるッ」
あの程度の扉であれば『赤破壊鬼』で容易に破壊できる。
俺は腕に妖気を纏い、能力を展開した。その直後、俺の左の二の腕を何かが貫いた。
「ッ!?」
それに続くように、全身に何かが貫き始める。咄嗟に全身に妖気を纏うことで頭が貫かれることは防げた。それでも全体のダメージは少なくない。
地面を見ると、そこに落ちていたものは、
「こっ、コレはッ!雹ッ」
大量の直径10㎜の赤く染まった雹。この赤はすり込まれた俺の血だ。
空から大量に降り注ぐ鉛のような雹の弾丸ッ!けっこう呑気していた健もこの全身を貫く破壊力にはビビった。
アメリカでは新年の祝砲で、空に向かって弾丸を撃つ人間が居ると聞いた事があるぜ。撃たれた弾丸はそのまま威力を落として、地面に落下。それが当たる事での死者も多いと聞く。今の状況はまさにそれに近い。
「あのヤロォッ!レーダーを天空目掛けて伸ばし、雨雲に直接『深・水母愛』を使いやがったなッ」
単純に一個一個の破壊力が凄まじい。今は妖気で守れているが、それも永遠ではない。よって雹が止むのを待つという選択肢は無い。ならば、どうするか、屋根のあるあの家に突っ込むか?いや、おそらく罠を張っているだろう。無策に突っ込むのは危険ならば、まずやることはこの雹の対処だ。
「だったらヨォ、この雹がウザったいならよぉ、全部そのまま返品してやるぜ」
見様見真似に妖気レーダーを平面状ではなくドーム状に展開。この中に入った雹に妖気を纏う、そしてこれを全て上に投げ返す。
これにはすごい集中力と精神力、そして妖気を削ってしまう。だが、これをしないと前へは進められない気がする。
ここからさらに妖気を纏った雹の一部を青木宅の玄関ドアに飛ばす。妖気の出し惜しみはしない。ドアを破壊して家の中が見えてきた。廊下は薄ら白い湯気が漂っており、罠だらけなのがすぐに理解できた。
「トップスピードでかっ飛ばすぜ」
罠が丸見えならば、どんな罠か分かっているのならば、正面から突破するのが礼儀というものだ。
脚に妖気を纏い、筋力を増やし大きく前へ、より早く前へに走り出す。玄関を抜け廊下を突っ走る。
「『深・水母愛』」
リビングと思われる場所から手だけを出して、青鬼は廊下全体の湯気に能力をかけた。直後に全身が熱くなった、これは熱湯ではない、まるで硫酸を全身からぶっかけられた様な熱さだ。しかし、先ほどの弾丸雹の雨に比べれば、失明するリスク程度大したことはない。目に妖気の保護膜を張って一応防ぐ。そして走りながら、青鬼の手を掴んだ
「チェックメイトだこのまま引き摺り出してやる」
このまま引っ張れば、、、青鬼の本体に直接攻撃を叩き込める。俺が青鬼の手を引っ張った次の瞬間。
青鬼の腕が爆ぜた。それに巻き添えを食らう様に俺も大きく後ろに吹き飛ばされて、廊下の壁に叩きつけられる。
「クッ、なんだ、いき、、、、ッ!?」
俺の左手が黒焦げに、さらに手には中指と人差し指が足りない。
床を見るとそこには根本から落ちた俺の指が転がっており、それを認識した瞬間に激痛が脳を支配する。
「『深・水母愛』」
続け様に青鬼はどこかから能力を使用する。廊下中に広がる湯気が一斉に爆発し、それが俺の全身を飲み込んだ。完全に油断した俺は妖気で全身を守る事を怠ってしまい、そのダメージを全てモロで受ける。そのままに力尽きて廊下に倒れ伏した。
「くっそ、、がぁ」
「決着だな。あとは直接、貴様を爆殺するだけだ。安心しろ、遺体だけは残してやる。原型があるかは保証しないがな」
朦朧とする意識の中でも青鬼の声だけははっきり聞き取れる。いきなり、全身に何か冷たいものが掛けられた、おそらく『深・水母愛』を使用する為の水だ。ぶっかけられるというよりは、上からかけられる感じ。まだ近くに青鬼がいるというのだ。
「さらばだ、勇ましき者よ。『深・水母愛』、、ッ!?」
俺は必死に腕を伸ばして、指を欠損した左手で奴の脚を力強く掴んだ。そして、そのまま、、、、
##############
ありえない。
奴は『深々・幻夢ノ母』と『深・水母愛』のコンボで確実に意識を刈り取ったはずだ。なんで、こいつはまだ動けるんだ?
「やっっっと、つ、かん、、だぜ」
奴が最初に掴んだ手は『深々・幻夢ノ母』による偽物。ただの氷の塊。この能力は相手の五感全てに作用できる。そのまま氷塊ごと奴の手を吹き飛ばしてやった。次にそこからの空気中の水分を連続爆発で完全に全身に、骨にダメージを与えてやった。
「ありえない」
この距離で全身を吹き飛ばすような爆発をすれば、それ以外にも、こいつの命を丸ごと刈り取る様な攻撃をすれば、確実に自分もダメージを被ってしまう。つまり、能力が完全に封じられた。直接手にかけることは駄目だ。青鬼種の純血種ならば、己の能力で勝利する。それが、自分を『純血種』へと押し上げるピースなのだ。
「ッ!?」
気が付けば徐々に自分の右脚を掴んでいる奴の手に力が戻ってくる。指を2本も欠損しているのにも関わらず、恐ろしく強い握力で掴んでいる。
「なんだッ、このゴミを処理する為のプレス機に押し潰される様な圧力はッ!マズいッ」
このままでは脚の骨が折られてしまう。早く引き剥がさなくては、、、。本当にマズい。
「離せッ!この敗北者ッ!くだらねぇ悪あがきすんじゃねぇぞ」
俺が足でいくら頭を蹴ってもその手が離れる様子はない。どんどん、握力が強くなっている。その力にいよいよ立っているのもキツくなってきた。姿勢が徐々に下がっていく。こうなれば、もはや、足で引き剥がすことは不可能。
「離せッ!このポンコツがァッ!!離せつってんだろガァ!」
徐々に上がる声は大きく、家中に響き渡る様になった。俺は腕で必死に引き剥がそうとするが、微動だにしない。やがて、脚の感覚がなくなってきたのが分かる。
「クソガァァァァァァァ!」
ボキッ!という音と共に脚の骨が折れた。それと同時にようやく山門健はその手を離した。
「チクショウッ!本気で折りやがった。この脚をッ」
いくら鬼であっても脚が折られれば、動くのは容易ではない。脚に妖気を纏って堅い鎧を着るのように無理矢理に真っ直ぐにする事は簡単だ。しかし、それは常時妖気を消費する賢い行いではない。
そこで自分なら、こうする。山門健に備えて用意したボトルを一本空けた。それを脚に掛け『深・水母愛』を発動。痛みを我慢しながら強引に折られた脚を手で矯正しながら真っ直ぐに伸ばし、濡れた脚を凍らせた。これならば、一応行動が可能だが、運動性能が三割減される。
「まぁいいっ。今度こそ仕留めてやるッ」
俺は痛みに我慢しながら立ち上がった。そのまま勝利の宣言が如くに我が能力名を叫ぶ。
「『深・水母愛』ッ」
叫び切る前に、顎から上に殴り飛ばされた。完全に口の中を切ってしまい口から血が吐き出た。見下すと山門健がすでに起き上がっており、アッパーカットを繰り出していた。
「隙だらけだぜッ!青鬼」
コイツ、復活までがいくらなんでも早すぎる。ほんのちょっと前まで床に這いつくばっていた男がまるで無傷かのように立ち上がるなんて異常だ。
だが、自分は幾度となる戦場を生き抜いた男、即座にそれに反応して腰のスティレットを抜いた。それを山門健の脇腹に突き刺す。貫く。
「「ぐはっ」」
互いに吹き飛ぶように距離を取る。折れた右脚で地面に着地したが、やはり想像を絶する痛みが全身に染み渡る。歯を食いしばりそれに耐える。
「表でろよ青鬼。テメェの能力的にはここじゃあやりづらいだろ?」
山門健は何事もなかった様に、立ち上がりこちらを見据えてくる。確かに奴の言う通り、『深・水母愛』で最も相手にダメージを与える事ができるのは爆発能力。だが、それはこの狭い廊下、リビングでは自分にも被害が被る為になるべく使いたくはない。ましては屋内であれば壁の崩壊や天井の崩落などの地理的ダメージが発生する可能性もある。
「くだらんな。その配慮、命取りだぞ」
「赤鬼の時と一緒だ。テメェのその能力全部を真正面から攻略して勝利する。それが俺の戦いだ」
そんな美味しい話がある訳が無い。何か理由がある。自分を追い込んでまでの理由が。それは一体なんだ?確かに今外に出れば、互いに雹に打たれてダメージを被る。しかし、こちらからすれば、雹など止ませてしまえばいい。アレらをただの雨に戻すことなど造作もない。
待てよ?奴の狙いが分かった。それは雹を止めることだ、今外にはおそらく奴の仲間の警察官たちがいる。車に入れれば、負傷を防げるかもだが、それも何分持つことか。人体を容易に貫く威力、ただの車じゃあ天井を貫かれるのも時間の問題だな。それならば、ここで時間稼ぎをして警察官を皆殺しにした段階で切った方が得策だ。
「マゾかっお前は?それも『ド』の付くほどの」
「いや、単に俺よりも格下な相手が、さらに全力を出せない状況の時に叩き潰すのは可哀想だと思ってな」
安い挑発だ。その程度の挑発に乗るとでも思っているのか?マヌケめ。
右手に握るスティレットの先端を奴に向けた。
「何も、能力だけが武器じゃあないんだよ。貴様ごときこれらで十分だ」
言いながら二本めのスティレットを左手で抜き、二本のスティレットを構えた。
「そんな棒切れ、すぐに、、」
奴が言い切る前に直線上に突っ走る。この武器は多対多の戦場では意味がないが、1on1の戦闘では真の効力を発揮できる。それに勝負は先手必勝、本気の戦闘において合図などない、隙を見せた方が敗者となる。
右手のスティレットが喉元を刺す前に、山門健は大きく仰け反り、それを回避した。
「危なッ」
「・・・・・」
回避したその体勢目掛けて、左手に握ったアックスを振りかざす。この一撃は肉を裂き骨すら切断する高質量の破壊力を持つ。だが、奴はそんな一撃を容易に左に避ける、その流れで脚で顔面目掛けて蹴り上げてくる。
「ついでに喰らえッ」
「くだらん効くか」
その蹴りを右手の甲で止める。妖気が纏われた蹴り大力は凄まじいが、両足を『深・水母愛』で凍らせて、飛ばされないように耐える。衝撃が消えたら即座に氷を溶かして水に戻した。そのままスティレットを刺し下ろす。それを右手で掴んで止めた。
「させるかッ」
次の瞬間、山門健の右手が大きく血飛沫を上げ、全ての指が床に落ちた。何故なら奴が掴んだものは切れ味抜群のアックスだ、それを強く握り締めたら結果はこうなる。
「ッ!?」
「これで両手は使えんよなあ」
勝ったッ!やはり情報アドバンテージはコチラの方が圧倒的に上。それにあの様じゃあ『深々・幻夢ノ母』の存在も認識していない。
「なっ、何をしやがった?」
山門健は左手で右手を抑えるが、そっちの方の手もさっきの爆撃で中指と人差指を失っている。その為か、血をキチンと抑えることが出来ていない。床にポタポタと血を垂らしている。
「冥土の土産だ。特別に教えてやっても良い」
そう言って、両手に持つアックスに妖気を流す。するとアックスはみるみると流動し始めて、元のスティレットの形戻る。コレがこの武器の秘密だ。形を変えるのに二秒掛からない。
「コレが正体だ。世界にわずか数キログラムしか採掘されていない。超希少な純妖気の結晶鉱石。それをこの武器に使用している」
この鉱石は現在エジプトの一部の地域でしか採掘されていない。それも既に取り尽くされたと言われている。一グラムで十万ドルはくだらん額だ。それをこの武器には二本合わせて一キロも使用している。
アメリカはこれに近い性質の素材を開発したみたいだが、やはり正規品は質が違う。
「端から質が違う。貴様とは経験から来るモノも何もかも違うんだよ」
「くっっっ」
膝をついた山門健の首元にスティレットを置く。そのまま奴の喉を突き破り、カタルシスを与えてくれるだろう。これで再び純血に戻る事ができる。
「悔しいだろうが、これが結果だ。勝利とは常に上質なモノが得る権利なのだッ」
「お前の考えに従うならよぉ。俺の準備もだいぶ質が良いな」
「ほざけッ格好つけたって貴様の無様な敗北は決定事項なのだァッ」
その先端が今まさにスティレットがトドメを刺そうとした瞬間、下からの雹が握る腕を貫いた。現在の位置は壊され閉ざされる事のない玄関ドアスレスレ。気付かないうちに妖気レーダーを使い、外の雹を持ってきてやがった。
その突然の出来事に首元からスティレットが外れた。
「まだまだ確定申告には早いようだぜッ」
山門健は両手の中指を立てて、後ろへ大きく飛んだ。玄関を抜けると同時にバク宙をしてこの家から大きく距離を取った。それに呆気を取られていると、後ろから何かが激突し身体が玄関から押し出された。
「まっ、まさかァァッ!」
後ろを見るとリビングに設置されていた椅子だッ。コイツはあの椅子を気付かれないように運んでやがった。これが奴の準備というのか?あの状況でここまで仕込むなんて。
「お前も一緒に地獄に堕ちようぜ」
追い出されたので、すぐさまに雨雲目掛けて妖気レーダーを伸ばし、この雹の雨を止まさせたが、それに集中しすぎた。そのミスに気付けない程の愚かではないと自覚していた。だが、動揺してしまって身体を妖気で守るのが遅れた。
「出来た隙がッ!今だッ喰らえ!『赤破壊鬼』ッ!」
「しっ、しまったッ!?」
その圧倒的な隙を突いて、山門健が全力の拳で顔面を撃ち抜いた。
「ウゲェェェェェェェェェェッ!?」
こんな重い拳は初めてだった。大きく吹き飛ばされて隣の家の壁へ激突した。だが、気を失われる程のダメージはない。奴に与えた方が多いはずだ。
「これで雹も終わったし、顔面に二発目もぶち当てた。ここからがセカンドバウトだぜ」
「確かにな、ここからが本番だ。お前は絶望することになる、家から出たという事は能力をフルで扱えるという事だと貴様も認識しているはずだ」
両手を広げてこう宣言した。
「『深々・幻夢ノ母』ッ!世界よッ再構築されろッ」
##############
世界が崩壊した。そして再び組み直された。そこに広がるのは先ほどの景色とは全く異なる木製の家ばかりでさっきまで存在しなかった行き交う人々の姿が見える。しかも、その服装は今時ではなく、教科書で見た戦時中の服に見える。
「まさかッ」
誰にだって分かる。これが偽物であることは。だが、あまりにも完成度が高すぎる。
行き交う人々の声も香りもその全てが本物に感じる。これが青鬼のもう一つの能力か。この空間でどこから襲いかかる?全く気配が読めない。
レーダーを展開して辺りを警戒する。そんな時だ、空間全体にサイレンが鳴り響いた。
「ッ!?」
辺りを見回すと、人々が顔色を変えて走り出した。これは、、、まさか。
嫌な予感がして上を見ると、空中を何かが飛んでいる。アレはッ!?
「何ィィィィィッ!B29だとォォォォォォォォォォッ!?」
アレは第二次対戦中にアメリカの使用した爆撃機。このサイレンとあの爆撃機これらから導き出される答えは一つしかない。空襲だッ!上空から焼夷弾が投下され始めた。いくら妖気を纏ったとしても、銃弾と普通の火炎、爆撃には耐えられない。
「ヤバい。とにかくヤバいぜッ」
とにかく走って逃げるッ!アレが例え偽物だとしても本物だとしてもリスクをとった方がいいッ
走り出す俺に何がが衝突した。硬いコンクリートの様な何かが、いやこれ普通にコンクリだわ。手でペタペタ触りここに壁があることを認識する。
「目の前にあったのは、、壁だった?」
景色では道が続いているが、目の前にあるのは壁。つまり横にある家の方が道になっているということだ。しかも、レーダーを展開しても目の前の壁が感じられない。それすら乗っ取られている。
「訳がわからないよ」
遂に焼夷弾が建物に火を付けた。おかしなことにその火から熱を感じる。まるで本当に燃えている様に、音と熱を感じ取る。
「いくらなんでもデタラメすぎる」
この能力を短期、長期、永続の三つに分類するなら明らかに長期型である。つまり能力を解除する条件がある。こういう能力の場合は時間制限を設けるほうがデメリットになる。おそらくスイッチ的な要素がある。問題はそれがこっち側でも条件を達成できるかだ。
現状、あちら側からの攻撃の気配は感じない。この状態であれば『深・水母愛』で攻撃をした方が有利なはず。つまりできない理由がある。
「リアクションが薄いな」
「ッ!?」
不意に背後から青鬼の声が聞こえた。咄嗟に振り返るもそこには何もいない。
「どこだ!青鬼ッ」
「馬鹿じゃあないから能力のギミックに気付きそうだな。なら、これなら思考は止まる。『深々・幻夢ノ母』ッ!世界よ再構築されろオ!」
青鬼の声と共に世界が再び崩壊した。再構築されると同時に足から地面を踏んでいる感覚が消失し、まるでスカイダイビングの様に空から落下していた。あり得ないと思うが俺はさっきとは違い遥か下の地面と並行している。
「ッ!?嘘だろ!」
全身に風が当たるのを感じる。やった事はないがまるで本当に上空から落下しているような感覚に襲われる。
「パラシュートはッ!無いッ!」
それは非情な攻撃!これが映像であるとは理解していても、この精神的なダメージは計り知れない。何分経ったであろう?もうすぐ地面に落ちるその直前まで差し迫った。その恐怖にほんの一瞬目を瞑ると、、、
「風の感覚が消えただと?」
まさか目を瞑ることが能力解除の条件なのか?なんだか肌寒く感じるが、これは雨で服が濡れているからだろう。目を開けば元の町並みに戻っている。
目を開くと、そこにはただの闇が広がっていた。いや正確にはガラス越しに闇が広がっている。それを認識したと同時に落下した。どうやら、地面だと思っていたのガラスのドームの屋上であったようだ。
「何だこれ?・・・・雪」
落下先の地面には雪が敷かれている。寒く感じたのはこれがある為の演出か?向こうにはサンタと思われる自分と同じ身長の人形と大きなクリスマスツリーが設置されている。ここはスノードームの中の様だ。
上を見上げると雪が降ってきた。
「まだクリスマスには早いのに、、、、?」
ガラスの壁の方は急いで向かう、そこにはやはりガラスの壁があり硬さは本物のそれと同じだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
俺がガラスに触ったと同時に壁が動き始めこちら側に近づいてきた。
「このドーム縮んでやがるッ!?」
ガラスの天井も低くなりツリー頂上の星形の飾りを押し潰すとそのままツリーをへし折る様に破壊した。折れた先端が地面に落ち隣のサンタクロースの人形を潰して破壊した。
「ちくしょう!」
このままじゃあ押しつぶされる。いや、実際はされないのかもしれない。どちらが真実か分からなくなってきた。
「だったらヨォ突き進むしか無ぇよな!」
意を呈して前は走り出す。所詮はガラスの壁、身体に妖気を纏った状態なら突き破れる!
「『赤破壊鬼』ッ!」
腕に妖気を一旦集中で纏い前へダッシュ!顔と身体を妖気を纏った腕で庇いながらガラスを突き破り脱出することに成功した。と思った瞬間に、、、、
「『深・水母愛』ッ」
胸が急に熱くなり奥の方に吹き飛ばされた。そして、地面のアスファルトに転がり、住宅の壁にぶつかり止まった。薄目で見る景色的にここは元の町の中だ。熱くなった胸を触ると血がべっとり手に付着した。
「くそっ」
青鬼は壁にもたれ掛かる俺の方はゆっくりと近づいて来る。顎に手を置き何やら考え込んでいる。
「貴様おかしいぞ。胸板に風穴開けてやったのに何で生きてる?なぜ吹き飛ばしてやった両手の指が生えている?本当に人間か?死の概念はあるのか?」
青鬼が何を言っているか理解ができない。胸に風穴なんて空いてないし、指は、、、、確かに生えている。どういう事だ?
今まで意識していなかったら気付かなかった。
「知ったことか」
「自分で自分の異質さに気付いていなかったってことか。なら、もう一度試してやる」
青鬼はスティレットの先端を俺の右肩に刺した。
「『深・水母愛』」
その言葉と共に肩が爆ぜ、右肩から下が地面に落ちた。
「ウワァァァァァァァァァアアアアアアアア!」
そのあまりの光景に大きな叫び声を上げてしまう。その情けない姿を見てもなお、青鬼は肩と腕の方を見て何かを考えている。
「荼鬼種とは違う能力、、、再生?いや傷跡的にはそれの気配がない、、、なら」
スティレットで落ちた腕を貫き持ちあげる。そのまま肩に近付けくっつける。そして、その箇所を踏み潰す様に蹴った。
「コレでどうなる?」
「うガァッ!」
足を外して、スティレットを抜いても腕は地面に落ちる事はなく完全に繋がっていた。
「傷口はどうだ?」
配達員の制服の肩袖を強引に引き剥がしその中を確認すると、傷跡ない綺麗な肌をしていた。その光景を見て俺も頭がどうにかなりそうだった。理解が及ばない。
「不気味だな。初めは勇者かと思っていたが、これじゃケモノ。・・・・影村寿雄の奴はこんな気味の悪いバケモノを何匹飼っているんだ?新種だ、これは」
「テメェ、さっきから言わせとけばぁ、しつれッぶあ」
俺の言葉を遮るように青鬼は俺の顔面を凍っている右足で踏んできた、痛い。このまま踏み潰されればまずいかもしれない。必死に両手でその脚を止める。
「例えばよぉ、このまま頭蓋骨踏み潰せば、死ぬのか?・・・俺の意見では死なないだ。心臓を潰す、それも意味がない。じゃあ、どうするか」
顔にかかる力が緩んだ。その隙に脚をどかして、その場から転がるように距離を取る。
「勝負はまだ着いていないッこれからだ」
まだ体力は残っている。
ここで俺がこいつを倒せなければ、事件は完全に終わらない。
「山門健。この世には嘘が溢れている。人は嘘で自分を着飾り街に繰り出す、街中を裸で歩ける者は『勇者』と『愚者』だけ。二つの違いは死ぬか殺されるか。嘘をつけない勇者は自ら前に出て、嘘をつく事知らない愚者は後ろへと逃げる。嘘をつく者にのみのこの世界は優しいんだ」
青鬼は一歩、一歩ずつ前にこちらに近づいて来る。
「真実を言おう。私の名前は『愛染李美阿』、青鬼の純血種ではなく混血、家族とは血が繋がっていないただの養子だ。じゃあ、お前は何だ?」
そして、視界に広がる世界はまたしても崩壊した。
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「流石に、時間が掛かりすぎてるな」
山門健が出てから何分か経過した。彼の目的は青木家にいると思われる『青鬼』を引き剥がすこと。それにしては時間が掛かりすぎている。
先ほどの雹と言い、あそこで何が起きているのか?我々には想像もつかない。
腕時計に視線を落とした。そして、ハンドレス通信越しに他の警官にこう告げた。
「一度、様子を見に行く。何かあれば、、、あとは頼んだ」
青鬼は名前を見ると分かると思いますが中国系の孤児で、愛染家が東京で運営していた孤児院で見つけました。
リピアの花言葉には『誠実』というモノがあり、この様なキャラクターになりました。普段は冷静そのモノの彼ですが、自分が『純血種』でないことを強く認識すると乱れます。
青鬼の解説はパート2の時にでも、健については次の章で理由が分かると思います。
このまま次回も続きを書きたいですが、次回は回答編の続きと吉田と木伐の決着の予定なので、時間が掛かります。なるべく早く出せる様善処します。
次回 18話 東京連続殺人事件簿その十六 吉田倉佐 お待ちください。
青鬼と健の戦闘を眺める男が居た。
彼の名は青木渡志、ただの亡霊だ。




