10話 東京連続殺人事件簿その九 デットレース・イン・トーキョー
タイトルかいしゅーって難しいですね。
内容に合ったタイトルにしろって?それは一生かかっても無理かも。
深・水母愛。これは水を別の物質に変える能力。
完全に誤算だった。もっと俺が考えていれば、そもそも俺たちが敵を探しているのだから、敵もまた俺たちの事を探しているに決まっている。それを理解していたのなら、もっと準備をしておくべきだった。
「ここまで綺麗にはまっているのを見ると、逆に可哀想なまであるな。どうだ、蝶みたいな気分だろ?蜘蛛の巣に捕まった」
「いや、俺は昆虫と違ってここから逃げる策を考える脳がある。だから蝶の様に軽やかに飛び回ってみせるぜ」
「精々強がってろ。お前からは必要最低限の情報を入手して、この場で黒焦げになってもらう」
「その口調。そっちが素か?」
通常時の青鬼はわりかし丁寧な言葉遣いをするが、ときより尖った言葉遣いになる。まぁ、戦場で戦っているのだから、多少言葉が荒くてもしょうがないと思うが、どこか違和感がある。気持ち少し荒い方が言葉がスムーズに耳に入ってくる。
「ああ、そうだな。こっちが俺の本性だ。でも、お前とはこれでお別れだから、存分に使うことが出来る。純血種は貴族の様なものだからな、基本的には丁寧な言葉で話す必要があるんだ。これは庶民には分からない辛さだな」
「そんな貴族様はなんで戦争に出てるんだ。血族を増やす方が全体のためだと思うぞ」
純血種の鬼の特徴なんぞは知る由もないが、青鬼がそれを誇りにしている時点で通常の鬼共とは違う特徴がありそうだ。それでも、戦争だ。ほとんどの死はトランプのカードの様に平等に配られる。
俺からすれば、青鬼が軍に所属していること自体が不思議だ。
「そうかもな。でも、俺は軍にいる。その過程や理由なんぞは貴様にとってはどうでも良いことだろ」
「アンタは他人に勇者化愚者か問おうたな。そっちはどうなんだ?俺と同じのどちらにも属せないんじゃ無いのか」
「そうかもな。貴様の言い分は正しい。でも、誰もが勇者になれる訳ではないし全ての人間が愚者なはずもない。これが俺の思う真理。どちらにも成れない奴はそれを羨む。勇者は現実を知ってなお進む。愚者はただ希望に縋る。その間は俺たちの様な現実を傍観している者だけ。だから二者を完膚なきまでに殺す事で俺は愉悦に浸れる。お前もそうだろ?馬飼琉助」
確かに俺もかつては健に対して非道な仕打ちをした。もし青鬼の言葉を使うと、俺はそれで愉悦感に浸っていたことになる。実際そうだった。
「自分から言うのは何だが、傍観者の存在はとても厄介だ。だからここで貴様を殺せる事をラッキーな事だと考えている。でもそれまでにッ。フンッ」
「ウオッ、タミッ」
青鬼は俺の腹にパンチを入れた。その衝撃で俺は後ろに倒れそうになるが、青鬼が背中を押さえつけた事でそれは防がれた。しかし、今の攻撃のせいで接着剤で地面と固定されているジーンズの裾からビリッっと言う音が鳴った。どうやら布が破れ始めたらしい。
「これは拷問では無い。俺が間にいる奴にする処刑方法だ。最後にどっちに転ぶのかが見たい。だから、優しく肉叩きしてやるよ。フンッ」
またしてもパンチが腹に炸裂する。だが、今度は最初から青鬼が押さえている為、後ろに下がる事はなかった。
パンチは優しくと言っているが、やはり人間と鬼。拳の威力が全く違う。去年の夏に健と殴り合いの喧嘩をしたがその時の健のパンチ以上の威力はある。体感でそう感じる。
「・・妖気は使っているのか?」
「妖気を込めた攻撃は衝撃の性質を変えてしまう。内側に直接与えられるんだよ。物を殴れば、それは内側から砕け散る。人体なら骨を直接攻撃出来る。それぐらいしか違いがいのなら妖気をわざわざ使う必要はない」
だが、妖気を纏った攻撃は通常よりも威力が上がる。影村寿雄はそう言っていたが、鬼からすればそれは誤差の範疇なのかもしれない。
「おいおい。もうへばったのか。俺的にはまだ持久走五周目くらいの体力になるように調整したつもりだったが。最近の若い奴は。体力がなさすぎるんだ、よッ」
「ふっぐ、たぁ、くぅんッ」
これで三発目。もう胃が限界になってきた。それと意識も、荼鬼との戦いの時はもっと体力があったはずなんだが。あの時は火事場の馬鹿力もあったからかもしれない。
「良いのか、お友達の前でしなくて?そっちの方がお友達の心もスッキリするんじゃないのか?」
そもそもの目的。俺を狙ったのは荼鬼の弟の敵討ちのはず。
本人がいなければ意味がない。朦朧とする意識の中で、少しでも時間を稼ごうと言葉を紡いでみせる。
「おいおい。もう時間稼ぎか?まぁ良いか。ここまで痛め付けてるんだ、少しは答えないと心が痛む。今やっているのはこれは単純に俺の趣味、そして生き甲斐だ。だから、アイツには関係ない。来たら変わってやるがな」
『もう』と青鬼は言った。そうか、俺は自分から時間稼ぎをしようとしたのか。それはまるで青鬼の言う愚者の行いだ。希望に縋ろうとする。違うだろ。俺はその程度じゃないはず。確かに俺は妖気法使いじゃない。でも、妖気法使いだけがアイデンティティではない。
俺はあくまでも傍観者として、健の戦いに貢献しなくては来た意味がない。
青鬼は今完全に油断している。この状態で俺が何かできる訳がないと。こんな時間だ、奴が変装している人間が真っ当な社会人ならば、帰宅途中で俺のもとに来た可能性が高い。そして、俺を確実に殺す自信があるのなら、どこかに財布を持っていてもおかしくない。木伐の携帯をスって健に情報を教えた時と同じように、俺ならいける。
俺は慎重に手を伸ばした。しかし、
「おい。お前、何をしてるんだ?その手癖の悪い手で」
伸ばした手を青鬼に掴まれた。その手には青鬼の財布が握られていた。それが手からポロッと落ちた。
「上手いな。俺が取られるまで気付かないとは。少し誉めてやる。だが、それと同じくお仕置きも必要だな
「アア嗚呼ッ!」
青鬼は俺の腕をそのまま捻り関節を外してきた。
「だが、おかげで実験結果が分かった。傍観者は真のピンチになると勇者にも愚者にもなり得ると。もうお前は必要ない。このままお別れだ」
青鬼は俺の目玉に指で触れてきた。
どうやらこの目の水分を爆発に変えて俺の頭を吹き飛ばすつもりのようだな。
「さよならだ」
「待て青鬼。殺すなら俺にやらせろ。そう言う約束だろ」
青鬼が能力を使う直前。どこからともなく荼鬼が出現し、それを制止した。
「俺が仕留めれば遺体と証拠を残さずに跡形もなく出来る」
「それは俺が仕留めたとて変わらないだろ。ドロドロに溶かすならその後にしろ」
愚者が希望に縋る理由が少し理解できた。俺は奇跡を引き当てたようだ。何度かの攻撃でジーンズの耐久は完全に逝っている。少し後ろに体重をかければ破れるとこまできている。
「おたくら、俺を殺すなら早めが良いぜ」
「お前の仲間にはこっちの仲間が向かってる俺単体では敵わまい奴だ。だから、お前に助けは来ない。イコール急ぐ必要性が無い」
奴らは俺の顔に集中している。俺はその隙に今度こそバレない様にこっそりと靴の踵まで脚を外す。そして勿体無いがズボンの裾を力一杯に引き千切った。
「ッ!?貴様ァア」
流石にその音には気付いた様だがもう遅い。俺は青鬼の攻撃を躱す為に全体重を背中に掛け、後ろへと倒れる。そのまま後転して起き上がれば脱出成功だ。これが俺の完璧な作戦。体操スクールとかに通っていたのならもっとスマートに攻撃を回避する事が出来たと後悔するが、ここで格好付けて失敗するぐらいならしない方がマシだ。
「助けは別に求めてない。自力で逃げ出すからな」
「それが出来る程俺たちは甘くはないぞ」
確かにこの二人を相手に逃亡するのは難しいが、不可能な事ではない。
「いや、それを俺が手伝うから。可能だぜッ」
突如、青鬼の背中に何者かがバックドロップを喰らわせて吹っ飛ばした。
正直、このタイミングで来るとは予想だにしなかった。
「貴様はァッ山門健ッ」
「久しぶりだな。青鬼ッお前の事はしっかりと思い出させてもらったぜ」
奇跡ってのは意外と連続で起こるようだ。間に合って良かった。
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「おっ、まだ立つか」
「やっぱり、ラッキーってやつだ。ここでテメェと出会えた事は、俺には限界がないって事を悟れた」
妖気を両腕に纏う。あの攻撃を受ければ、今は防御よりも攻撃を優先すべきだと分かる。
出し惜しみしてはいけない。今までは単純に纏うだけだったが、それではもう俺は先には進めない。
妖気で筋肉とそれを覆う皮膚を強化。腕が真っ赤に染まる。その様はまるで鬼が如く。
「ほう。土壇場で妖気法能力に昇華させたか。どこまで通用するか試してみろ」
「言われなくてもッ」
俺はその真っ赤に染まった腕で奴に目掛けて本気のパンチを繰り出した。今はこのレヴェルの相手に勝てなくても良い。ただ今はコイツに『道を開けろ』をさせれば良い。
奴は俺の攻撃を片手で止めて見めるがそんな事は想定内。拳を握り潰される前に、その場で大きくジャンプをする。それを見た奴は目を大きく見開いて驚いていた。
俺はそのまま、もう片方の拳で奴の横顔をぶっ飛ばした。
今までの攻撃とはまるで感触の違う手応え。ここに来て初め、奴に背をつけさせた。
「アンタ、自分の能力に名前あるか?俺は今決めた。この腕を『赤破壊鬼』って呼ぶ事にした」
「良いセンスだぁア」
今の攻撃で奴にも多少なりダメージが入っているらしい。殴られた頬を撫でながら起き上がってきた。
「お前は聞いてきたなぁア。俺のこの能力に名前はあるかとぉ。もちろんあるぜぇゑ。『ーーーー』これが俺の能力名だぁア」
『星の盟友』?コイツが、ふざけている。
「意味はそのうち分かるさ。答え合わせはする」
「必要ないッそして知りたくも無いッ」
こんなクズの考えなんて反吐が出る、知っても一銭の得にはならない。
俺が次の攻撃の構えを取る間に奴は耳に手を当て何やら聞き出した。よく耳を澄ますと英語で相手は話している。
「OK.I'll contact you latter.そんな訳だぁア山門健ゥウ。今はァア見逃してやる。現在必要なデータは取れたからなァ。言っておくがお前の居場所は『いつでも分かる』。だからI'll be backだァ」
そう言って奴は空中に向かってジャンプして去って行ってしまった。
見逃されたのか、どういう事だ?だが油断する事は出来ない。またいつどこから襲ってくるか分からないのだ。
今は琉助の方が心配だ。
奴の言っている事が正しいというのならば、青鬼が琉助の元に向かっているという事になる。最悪、いや普通に考えて無事で済むはずがない。しかし、どこにいるのかも分からないし、人力では絶対に間に合わない。
終わった。このままじゃあ琉助は殺されてしまう。
「どうやら、見逃されたようだな」
次の一手が思い付かず立ち澱む俺の前に吉田さんが走ってきた。もうすぐ冬だと言うのに、汗を物凄くかいている。
「逃げろって言ったのに、なんで追って来たんですか?」
「子供を見殺しにしては、あの世の二人に合わせる顔がないからだ」
「そうですか」
本当は来て欲しくなかったのが事実だが、お陰で一手が思い付いた。
「吉田さんッ!フェラーリ停めた所ってここから大体どのくらいですか?」
人力では間に合わずとも文明に力たる自動車ならば可能性がある。しかも。フェラーリだ。早いに決まっている。
「走ればおおよそ十分の距離だ。それがどうした?」
十分。長い。だが今は他の選択肢がない。
「今から一緒に全力ダッシュでそこまで行って車出してもらう事は可能ですか?緊急事態なんです、仲間がさっきの奴の襲撃を受けるかも知れない」
「問題ない。だが場所は?そこが分からなければ」
「それは当てがあります。とにかく行きましょう」
「ああ、分かった。ところでお前は走れるのか?結構痛めつけられていたようだが」
それを聞いて俺はある事を思い出した。俺の脚は奴の攻撃で直角に折られたのだ。それが今は真っ直ぐに立っている。あれは幻覚だったのか?それとも奴はおっさんと同じように記憶に干渉できるタイプなのか。
いや、今はそんな事はどうでもいい。立っているのだから走れるに決まっている。
「問題なさそうです」
「ならば急ぐぞ」
「はいッ!」
そうして俺たちは元来た道を走り出した。その間、最速を目指すために互いに無言だった。これが夕方時ならば太陽の沈む速度よりも早く、犬を蹴り飛ばしながら走っていただろう。それにしても、俺は若くて妖気法使いだから体力ある方なんだが、それに追いつくなんて吉田さんも相当運動できるな。
「ゼェーゼェー。お前、あんだけ走ってよく息切れしないな」
予定よりも三分早くパーキングエリアに着いた。吉田さんは膝に両手をついて息切れしていたが、俺の方は全くそう言う事がない。鍛えた甲斐があったのかも知れない。
「大丈夫ですか?運転出来ます?」
「お前、モテないだろ。もう少し気を遣え、でも時間がないんだったよな。良いから乗り込め」
「本当に助かります」
返事と共に俺はフェラーリに乗り込んだ。隣には吉田さんも乗り込み、エンジンをかけるや否や、速攻で冷房を付けた。そりゃあ、スーツで全力疾走したら暑いな。俺が寒いと感じているのは後回しだ。
目的地は分からないが、連絡は取れるはず。琉助は難しいが、アイツの事だ単独行動はとっていないはず。とどのつまり斉藤さんが近くに居てもおかしくない。
俺は事前にもらっていた名刺に書かれていた電話番号に電話を掛けた。コールが三回程なったなった後に電話が繋がった。ひとまず、彼の方は無事のようだ。
『もしもし健くんッ!君かい?ちょうど良いタイミッ』
何やら慌てているようだが、そんな事は今はどうでも良い。申し訳ないが斉藤さんの話を遮らせてもらう。
「琉助はそこに居ますかッ!居ないならどこにッ」
『その事なんだけど、琉助くんと連絡が取れなくなったんだ。多分まだ近くに』
「斎藤さんは今どこに居るんですかッ!」
『ああ、そうだね。そこから始めた方が良い』
斎藤さんから現在位置の住所を教えてもらった。幸いにもそう遠くではない。ギリギリだが間に合う。俺は教えられた住所を吉田さんに知らせると吉田さんはカーナビにそれを打ち込み、案内が開始されると同時にアクセルを踏み出した。
「結局、アイツは何者なんだ?これ以上はしらばっくれるなよ」
アレだけの事があったんだ。流石にもう黙っている訳にはいかない。
「信じてもらえるかは分からないですけど『鬼』です。と言ってもただの角の生えた、力がとてつも無く強い人間ですけどね。そう言う人種だと思ってください」
「なら、人間の法が適用されるな。だから、次もし戦うなら殺さずその場で取り押さえろ。殺せば、お前に本当に手錠を掛ける」
「俺たちは戦争をやってるんです。鬼は既に多くの人命を奪って。俺はこの目で見ました、母さんが殺される場面も、顔をぐちゃぐちゃに吹き飛ばされた父さんの死体を。銃弾から逃げ惑う人々の悲鳴も。それをただの犯罪で一括りにして、法で裁くなんて」
「親を殺されたのか。人が殺されるのを目の前で見たのか。それはとても辛い経験だ。私には想像が及ばないだろう。でも、殺せば同類だ」
「分かってますとも、今回もちゃんとトゥルーエンドを目指します。鬼も捕まえて、犯人も逮捕する。その為ならなんだってしますよ。いつかのハッピーエンドに向けて」
「それで良いんだ。飛ばすぞ」
その後はお互いに無言の時間が続いた。
窓から覗く風景は月明かりと街灯を残し、暗闇に消えてる。
沈黙が続く中、俺の携帯電話が鳴り出した。このタイミングで掛けてくるのは斎藤さんぐらいだろう。
『健くん。大変だよ、鬼が、青鬼が現れた。琉助くんを狙っているみたいでこっちは何とか逃げ出したんだけど、彼だけその場に残って、とにかく大変なんだ。今場所を』
「分かりました。もうすぐそっちに到着します。斎藤さんは逃げ切る事だけに集中してください」
『そうさせてもらうよ。でも、一つ彼ら変なんだ。僕たちの移動先を的確に判断して先回りしてくる。まるで発信器をつけられている様に。だから逃げる際は気を付けて』
「分かりました。そっちも気を付けて下さい」
短いやりとりを終わらせて、通話を切った。
発信器がつけられている可能性が高い。それは俺も同感だ。でなきゃ、説明できない事が多すぎる。
「もうすぐ到着する。私はいつでも逃げれるよにエンジンをつけて待機するが、問題はないな」
気が付けば、カーナビは既に目的周辺にたどり着いている。
今の段階では戦っても正気は薄い、さっきと同じ様に切り抜けるが精一杯だろう。
「むしろ助かります。五分で戻ります。間に合わなかったら置いていって下さい」
「返事はしない」
「・・・・了解です」
案内が終了し、車が停車すると同時に俺は扉開けてぇ〜飛び出して行った。
居場所は斎藤さんから聞いた。そこまでトップスピードで突っ走る。そして、
『止まれ。兄貴が居る』
『前に言っていた奴だな。何か、能力はあるのか妖気法以外の』
『そんなことない俺が知るか。せいぜい名前ぐらいだ』
どうやら、琉助の方は自力で脱出したようだ。奴らはそれで釘付けだ。俺の事には気付いていない、ならば。
俺は飛び出てそのまま青鬼の背中にドロップキックを食らわした。
「いや、それは俺が手伝うから、可能だぜッ」
「貴様はァ山門健ッ!」
青鬼は吹っ飛ばされた先で大きく叫んだ。
「久しぶりだな。青鬼ッお前の事はしっかり思い出させてもらったぜ。」
周囲を警戒する。さっきまで側に居た荼鬼の兄が姿を消している。
琉助は俺の後ろまで下がってきた。これで逃げる準備はできた。
「助かった。逃げ道はあるんだろ?」
「その辺は問題ない。あと気付いていると思うが、一人消えた警戒を怠るな」
「分かってる。青鬼の能力の説明は?」
「後回しだ。逃げる事を最優先。それにお前から送られた考察と俺の記憶で何となく把握してる」
それ以上の情報を掴んでいる様だが、今は聞いていられる余裕がない。
俺が足を後ろに下げると同時に青鬼は口を開いた。
「唐暮はどうした?あり得ないとは思うが、殺したか?」
「さあな。その辺で倒れてるんじゃあ無いのか」
「それは無いな、あのクラスの鬼は日本にいる妖気法使いでは相手にならない。気まぐれで見逃されたか。やはり囚人は信用出来ない」
青鬼は攻撃の態勢になった。手に氷のつぶてを持って、手の上で投げたりしている。あれを使うのが奴の妖気法らしい。何かがレーダーに引っ掛かった。
それも合わせて俺は後ろに大きくバク宙して攻撃をかわした。攻撃の主は荼鬼の兄だ。姿を消したりする事ができるのかも知れない。多分、俺の中にいる荼鬼には出来ない能力だろう。
『一言余計だ』
俺が地面に着地したと同時に青鬼は氷のつぶてを投げてきた。それを身体を反らして避ける。直後、小規模の爆発が起こるがそれをそのままバク転で避ける。
次いで攻撃してきた荼鬼(兄)を避けながら膝蹴りを食らわす。
「仕留め損なったか。お前に恨みは無いが、邪魔をするなら始末するだけだ」
攻撃を受けた荼鬼(兄)は口から出血しているが、大丈夫そうだ。頑丈だな。でも、分かった事はさっきの奴よりも弱い。
「おい!そいつは俺の獲物だ」
「お前も俺の獲物殺そうとしただろ」
荼鬼(兄)の行動を青鬼が非難する。それに反発する荼鬼(兄)。
しかし、その様子からコイツらは相当コンビネーションが良い事が分かる。幼馴染的な喧嘩だ。
「いや、『お前ら』が俺の獲物だ。でも、メインは取っておくから逃げるぞ琉助ッ!」
それでも双方格上だし、二人セットだし、こっちはさっきのやつとの戦闘で疲弊しているしで、負け確だ。
「おうよ!」
俺たちも息の合ったコンビネーションでこの場から走り出す。
後ろから二人が追跡してくる事はレーダーで分かる。スペードは奴らのが早い。ならば、
「琉助、先行けッ十秒足止めする」
振り向き急ブレーキを掛けて、俺はまず青鬼の方にパンチを伸ばす。青鬼はそれを平気で止めてくるが、そのまま横顔を蹴り飛ばす。ここまで三秒。そのまま地面を滑るように荼鬼(兄)の攻撃をかわして、振り向くタイミングで顔面をぶっ飛ばす。ここまで七秒。最後に回転蹴りで起き上がった青鬼の横顔をふっ飛ばし、それに巻き込む形で荼鬼(兄)も吹っ飛ばす。これで十秒だ。
「ただいま」
そのまま何事もなかったように琉助に追いつく。
「お前、凄いな。今度バク宙のやり方教えてくれよ」
「時間があったらな。でも、YouTubeでやり方見れるぞ」
後ろを警戒しながらもしばらく走ると吉田さんのフェラーリのとこまで到着した。近場に泊めて貰っておいて助かった。
「琉助、後ろ」
俺は助手席の扉を開けながら、琉助に乗ることを指示。
「おっけいだ」
琉助が乗り込んだ事を確認してから、吉田さんはフェラーリを発進させた。
俺たちがシーとヴェルトを付けていないが、判断が早いのは助かる。
「このままどこに逃げる?」
「とりあえず撒きましょう。話はそれからです。流石に奴らもフェラーリより早いって事は無いはずなので」
それが前提条件だ。あとは付けられていると思われる発信機を捨てるだけ。それで逃げ切れる。
「健まずいぞ。後ろから追って来てる『ランボルギーニ』が。運転しているのは青鬼だ」
「何ィィィーーーーッ!」
とことん逃すつもりはないらしい。てか、アイツらも車持ってるとかズルすぎ。
両者ともとてつもない速度で走っている。どっちかが運転をミスればミスした方が全員死亡するかも。
まさにデッドレース。
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一方その頃
木伐帆群は住んでいたオンボロアパートを捨てて逃亡する準備を始めていた。そもそも、警察官を一人殺した時点で殺しを一時的に中断する予定で、県外まで逃亡し時期が来たら国外に逃げるつもりだった。
しかし、事情が変わった。警察の動きが妙におかしい。まるでいつでも自宅に突撃出来るかのように周辺にはパトカーが止まっており、何かを待っているようだった。
「令状が届くのを待っているって事か」
自分的にはボロを出したつもりがないが、それしかこの状況はあり得ない。この場合あり得るは殺した警官が別の録音機械をどこかに隠し持っており、それに俺の声で自白が残っていたってぐらいだ。我ながら間抜けだな。
下手に動けば、公務執行妨害の現行犯で捕まりかねない。つまり隙をついてこの場から、逃げる必要がある。令状が届いていない段階では追跡する事しかできないはず。ならば逃亡は簡単だ。
「行くか」
俺は机の上に警察共への置き手紙を残して、玄関を出た。
そのまま、アパートから離れる。何人かの人間が追跡している気配がある。それには気付かないフリをする。そして、ちょうどいいタイミングでタクシーが俺の前に止まった。自宅で予め予約していたものだ。
「ご予約のお客さまですね?」
「はい」
俺はタクシーの後部座席に乗り込み目的地までの運転を開始させた。
車の何台かが追跡してくるが、こうなればもう問題はない。
タクシーは隣町の適当な人気の無い場所に停車させた。
「運賃はこれで良いか?俺があの連続殺人の殺人鬼だ。殺されたくないならば、運転席から降りて車のキーを差し出せ」
俺は運転手にナイフを突き立て脅す。
「おっと、悲鳴はあげるなよ。そしたら問答無用で殺す。まぁそうすれば捕まるかもな俺が。命を捨ててまで俺を捕まえたいなら存分に叫べ」
運転手は大人しく、運転席から降りて俺にキーを差し出した。
この運転手が定年間際の老人で良かった。もう少し若ければ抵抗された可能性がある。
俺はそのまま運転席に乗り込み、タクシーを走らした。これならば、逃げ切れる。
ミラーに映るその顔は勝利を確信してニヤけていた。
次回もしかしたら二万文字回かも。
東京編が大きく動く話です。




