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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し偏東京偏
29/61

9話 東京連続殺人事件簿その八 深・水母愛『MOTHER』


戦闘回?それとキリの良いとことで止めたかから短め。


 目の前に居るのは圧倒的暴力。

 さっきの一撃だけでも、マテウスの攻撃の数倍威力がある。それに今の攻撃。


「テメェ、使ってねぇだろ?」


 妖気を纏っていない。純粋な己の筋力のみでの攻撃だ。つまり、妖気を纏った場合は今のよりももっと強い攻撃になる。その場合、俺が妖気を纏ったとして防げるかどうかも微妙だ。


「にっひぃ~ん。その通りだ。これが赤鬼種の特徴。他種よりも筋力が強い。そして俺は純潔の赤鬼種。通常の赤鬼種よりも更につっよぉ~いィ」


 これは本格的にマズい。次の攻撃を耐えきれるほどの体力は残っていないし、現状の俺の実力じゃあ勝算が全くない。


『関心だな。アイツに勝てる様な奴はほとんど居ない。アレは殺戮大好きの変態野郎だよ。妖気法を用いても脱獄不可能な特殊監獄にぶち込まれていると聞いていたが、何でここに居んだ?』


 ずいぶん詳しいな。仮に荼鬼の言ったような性格なら、この場にいる刑事たちが危険だ。皆殺しにされても、おかしくない。


「吉田さんッ!早く全員を避難させて下さいッ」


 俺は隣に居る吉田さんに指示を出す。ここで追加で犠牲者が出れば、妖気法とか鬼とかの諸々が世間に認知されかねない。それにもしも、アイツに証拠のボイスレコーダーを壊されれば、木伐を逮捕する為の証拠が無くなってしまう。


「分かっている。でも、お前本当に大丈夫か?血吐いていたが、病院とか行った方が良いんじゃないか?」


「心配してくれる事はありがたいんですが、病院行くまでではないですよ、それよりこの場から逃げないと」


 既に何人かの刑事は走って逃げて行ってるし、現状ここに居るのは俺と吉田さん含めて8人だ。この数でアイツに挑んでも蹂躙されるのがオチだろう。


「分かった私の車まで走れそうか?」


「それは何とか、でも、奴の狙いは間違いなく俺です。だから、俺がアイツを引き付けてから逃げるんで、その間に別方向に逃げてくださいッ」


 多分だが、車で逃げても追いつかれる可能性が高い。一緒に逃げれば、吉田さんの命が危険にさらされる可能性が高い。

 

「止めろ危険すぎるッ」


「良いからささっと行けッ!郷田さんのバトンを捨てる気かッ!」


 俺は制止する吉田さんを怒鳴りつけ、そのまま敵の方にダッシュした。そして、拳に妖気を纏い顔面に飛び掛かる様にぶん殴った。

 しかし、


「なんだァ?この貧弱ゥなァ攻撃はァ」


 奴はそれを受けてもその場からピクリとも動かなかった。しかも、妖気を纏って防御すらしていない。


「攻撃ってェ言うゥのはァよォ、こうするもんだァ!」


 赤鬼は俺の頭を目掛けて、拳を振りかざした。俺はとっさの判断でバク宙をしてその攻撃を回避した。奴の拳は地面に当たり、そのままコンクリート地面にひびを入れた。


「アッぶねぇ~な」


 今の喰らえば頭潰されて即死だぜ。

 現状、俺の攻撃ではアイツに通用しない。序盤の負けイベみたいな鬼畜さだ。でも、これが現実だから辛い。


 妖気レーダーの反応を見る限り、一人を除いて既に逃げている。残っているのは多分吉田さんだ。


「さっさと逃げてくださいよッ!俺はだいzy、」


 俺が後ろに大声で逃げるように叫んだ隙をついて奴は一気に距離を詰めて俺の腹に下からパンチを入れられた。内臓を圧迫される感触に、俺は再び口から血を吐き出した。

 それでも、何とか空中で態勢を持ち直し、綺麗に着地した。


「油断したなァ、目の前の敵に集中しないと早死にするぜ。ここ戦場ではァ」


「ご教授頂きありがとうございますクソ野郎ッ!授業料としてテメェを痛めつけてやるっすよ」


 そのまま奴に向けて一気に距離を詰める。そして、寸前に横に大きく飛ぶ。そのまま、横の家の壁で脚のバネを利用して、奴の横顔をぶっ飛ばした。


「この角度なら吹っ飛ぶだろッ!」


 流石の奴でも態勢を崩し、地面に倒れそうになる。俺もその隙を狙って追撃を加えようとする、脚に体重をかけて、飛び蹴りの姿勢を取った。


 だが、奴は、『(くう)』を掴んだ。


「ッ!?」


 奴は態勢を持ち直して、隙だらけの俺の脚を掴んで見せた。

 その握力は妖気を纏っていても骨が破壊されるんじゃないかと思われるほどで、俺を宙づりにした。


「今の良い攻撃だぜェ。でも、その次が間違っている。『ヒット・アンド・アウェイ』それが大事だ。能力戦においてェあなァ」


 そう言って俺の身体を遠くへ放り投げた。地面に力強く叩きつけられ服がボロボロになってしまった。 


「クソッ!」


 だが、朗報もあった。奴越しに後ろ見ると吉田さんの姿は無い。これは流石に撤退してくれたのかなと思い、こちらも逃げる事が出来る。幸い、今の投げで奴との距離は取れた。

 今の状態では分が悪い。アレは間違いなく今現在戦うべき相手ではない。

 とりあえず、俺は奴に背を向けて走り出した。目的地は未定。今は奴を撒くことが先決だ。


『いいか、あの野郎は余裕で青鬼よりも格上だ。鬼の軍に所属こそしてねぇが、していれば上位に食い込む実力があるぜ』


 ここに来て荼鬼が久しぶりに口を開いた?これ日本語正しいのか?


『能力は知ってんのか?』


 アイツの能力さえ分かれば対策を考えられる。仮に勝てなくとも、逃げるのが容易になるはずだ。  


『ご生憎だが、軍に所属していねぇ奴の能力は管理されてないから分からん』


『だが、あの野郎は軍の管理する監獄に入れられていたんだろ?だったらそん時、調べるんじゃないのか?ほらだって、能力によっては脱獄だって容易だろ?そうならない為にも能力は事前に調べるはずだぜ』


『その理屈が上級国民たる純血種に通用すると思うなよ。純血種には全てにおいて秘匿する権利がある。それに関しては何人たりとも侵害出来ない。それが法であってもな』


 それは困った。現状アイツの能力の一端しか見れていない。これが琉助とかだったらお時の推理力で暴いてくれるんだろうが、俺にはそれは無理だ。情報が少なすぎて考察できん。

 

 てか、結構走ったな。もうそろそろ撒けたか。でも、安心は出来ないな。ここからは陸路ではなく空路を使おう。


『何する気だ?』


 それは簡単だ。壁から屋根に飛び乗って、そのまま屋根を飛びまわって逃げる。忍者風に。


『それ通報される奴だろ、住居侵入だ』


 細かい事は、気にするな。そもそも、完全に着地する前に飛び立つから、バレねぇよ。ちな、この技術は一年前に深夜の自宅の屋根で練習した。だから、出来る。


『厨二病の黒歴史を聞かされた気分だ』


 俺は言った通りにまず近場の壁に一飛びで乗り、更にそこから屋根に飛び乗った。足音を立てないように細心の注意を払いながら屋根の上をぴょんぴょん飛び跳ね、移動した。

 これならより移動の自由が増すから、逃げやすいし、相手も追跡しにくいはず。


『そう楽観的な考えはやめておけ。あの野郎がこんなあっさり見逃すとは思えない。常に妖気レーダーを張って集中しろ』


『分かったよ。でも、俺も残り妖気の量が少ないんだけど』


『どうせ後で回復するんだからちんたらしてないでさっさとしろ、本当に殺されるぞ』


『はいはい。分かりましたよ。しますよ』


 あんまりにも荼鬼の奴がうるさいもんだから、俺は半径5メートル分の妖気レーダーを発動した。

 発動した次の瞬間、レーダーに何かが引っ掛かった。それもこちらに向かって高速で向かってくるモノが。


「ッ!?」


 次の瞬間俺は何者かに首を掴まれてそのまま、地面に叩きつけられた。その者はそのまま俺の首を掴んだまま、俺を壁に押しつけた。この時ようやく相手の顔が見えた。こんな短時間でこの顔が忘れられるわけがない。


「テメェはッ!」


「ハッピぃイーかァア!俺に会えて」


 唐暮勿牙(からくれないが)は俺の首を壁に練りこむくらいの力で押しつけながらそう尋ねてくる。

 マズい。呼吸が出来ない。このままだと殺される。そもそも声が出ない。


「ハッピぃイーかって聞いてんだよォオさっさと答えろ」


「ハッ、ハッピーじゃ、じゃねぇよクソがッ!」


 俺は何とか空気の通り道を確保し、苦しみながらそう答えたが、どうやらその回答がお気に召さなかったようで、奴は更に強く俺の首を押さえつけた。その衝撃で俺はこの度3度目の血を吐き出した。


「ハッピぃイーって言えよォ!」


「ハッピーです〜ゥ」


 もはや抵抗が出来ないので、素直に言うことを聞いた。

 しかし、


「ハッピぃイーじゃあねぇえだろぉがァ!」


 奴はそう激怒し、俺の事を地面に叩き付けた。解せぬ。


「この俺に会ったんだからな」


 奴はそうドヤ顔で言った。


「クソが、、、、、、」


 俺はそのまま倒れ伏した。それでも尚、奴は攻撃の手を止めない。倒れた俺を蹴り上げて見せた。そのまま俺は壁に激突しその場に座り込んだ。


「グハッァ」


 今の一撃で、肋骨の何本かが折れた。そのことが直感で分かる、幸いにも肺などには刺さっていないのでダメージはそこまで無い。それでもとてつもない激痛だ。

 だが、これしきで俺が負けたと言うには訳が違う。


「今のがお前の通常の攻撃力ってんなら、妖気法で防げる」


「あまり人をぉ馬鹿にするなよォ。今のが妖気入りだァア?他人同士の妖気は衝突するとぉオ、特殊なァ発光が起きるぅ。それは威力に応じて異なるがァア、今のは一切として発光していなかったぁ。俺との戦いでェエ妖気を温存しようとしているなァ。立場を弁えろ」


「確かに今の攻撃は防いでいなかった。でもおかげでお前の妖気での攻撃でのダメージを知れた。今までは素しか見せて来なかったお前のなッ!これは一歩前進ってやつだ」


 次からは適切な妖気量でボディをガードしながら、攻撃を与える。

 今までは妖気を使ったガードはあまり考えてきていなかったが、これからはより総合的に妖気を扱う必要がある。


「面白いィゐ。ならば、もう一歩前進させてやる。俺の能力を特別に見せてやるぅ」


 能力戦において相手の能力を知る事は大きなアドヴァンテージになる。それをすると言うことは余程の余裕があるのだろう。


『俺も奴の能力については噂でも聞いた事がない。気を付けろ』


「俺の能力はコレだぁァアッ」


 奴は目の前の何かを『掴んだ』。それをまるで握り潰す様に徐々に手を閉じて行く。

 そのままその何かを俺の前に投げて来た。見え見えの攻撃だ。俺は妖気を全身に纏いガードの体勢に入ったが。俺のガードなど関係なく俺は大きく弾け飛ばされた。


「防御不能。回避困難。この二つが俺の空気砲の特徴だァ」


 空気砲だと、あの攻撃には確かな質量があった。その正体が気体だと?馬鹿な。気体の質量を変化させる能力なのか?


「他にも俺の能力はこんな事が簡単に出来るぅ」


 そう言うと奴は瞬時に姿を眩ました。だが次の瞬間、視界に広がる天地がひっくり返った。どうやら脚を掴まれて吊るされてしまったようだ。


「こんな風に本来なら頑丈な人体の骨もぉこんな簡単に」


 パキッっと枝が折れた様な音が耳に入った瞬間、俺の全身に今まで感じたことの無いような激痛が走った。

 咄嗟に目線を脚に送った。そこでは有り得ない光景が広がっていた。俺の掴まれている脚がピッタリ90度に折れている。


「嗚呼嗚呼ァーーーッ!」


「これが俺の能力。ついでにもう一つ良いことを教えてやる。もうすぐ、青鬼たちがお前のお友達の馬飼琉助のところに向かう。俺をどかして向かわなければ、多分死ぬでしょうゥ」


 奴の顔が眼に映る。とても凶悪な笑みを浮かべていた。そのことでより実感出来た。俺たちは追い詰められていると言う状況に。

 奴はそのまま握った手を離し、俺を地面に頭から落とした。



 ###############

 


 目の前に居るのはこの間、ぶちのめした荼鬼よりも遥か格上だと一目で分かる。という事は、準備不足の俺では相手にならない。即死技とか持っていても不思議ではない。

 

「アンタの目的は何だ?俺に復讐にでもしにきたのか?」


「もちろん。君を殺すさ。その為の準備もしてきた。わざわざ、君みたいなカスの為にな」


 荼鬼(兄)の実力は未知数。荼鬼種である為、妖気法は使用出来ないはずだが、影村のおっさんの話では荼鬼種には隠された能力があるとの事。しかし、肝心のそれが何かは教えてくれなかった。てか、あのおっさんは俺達にほぼ情報を持たせずに送りやがったから、より手間が掛かるんだよ。色々とな。

 あの野郎は、まだ仕掛けて来ない。憶測だがこちらが隠し球を持っていることに警戒しているのだろうが、手持ちにあるキューブ8個には何も入っていない。でも、警戒させ続ける事はできる。でも、長くは続かないだろう。コチラが手持ちが無いって事が確信に変われば俺は多分死ぬでしょう。


「良い事を教えてやる。俺はアンタに対する対抗策は一切ない。でもな、俺を殺せばアンタの可愛い可愛い弟との再会は二度と叶わない」


 ブラフをかます。嘘に事実を交えることで相手はより警戒する必要がある。

 少しでも可能性を意識させれば、行動を制限出来るはずだ。


「ほう。君はこう言いたいのか?俺の弟は死んでいないと、そう言いたいのか?」


「ああ、そうだ。アイツが気絶している間に、山奥に軟禁した。まぁ、アンタには場所を教える義理はないがな」


 実際はおっさんがキッチリと殺したらしい。その現場を見ていないから、実は生きていましたって事もあり得る。

 健の事を信じたいないっていう訳ではないのだが、アイツは俺の為にわざと嘘をついたっていう可能性もありゆる。

 まぁ、今回は生きている前提に話を進めるんですけどね。


「別にお前を生かしておかなくとも、山門健から聞き出せば問題はない」


「アイツには教えていない。ボロが出やすいがな。影村寿雄辺りなら俺の記憶勝手に覗いて知ってるかもだが、お前にあのおっさんを倒せるのか?出来たとしても、相当時間掛かるぜ。俺は荼鬼種の復活の仕組みはよく知らないが、仮に復活までの時間が掛かり過ぎれば、完全に死ぬ気がするんだよ」


「ッ!」


 これこれは分かり易い反応どうも。

 つまり、俺の仮説通り荼鬼種の復活には期限がありそうだ。それにコレは朗報だ。コレであとは復活の詳しいメカニズムを理解すれば荼鬼種を完全に殺す事が容易になる。


「図星か。なら、ここは交渉といかないか?」


 今の奴は俺の事を殺すかどうかを完全に迷っている。つまり、ここに追加の情報を加えれば奴は更に混乱し、俺を殺しにくくなるはずだ。


「交渉だと、君は立場を」


「立場を理解していないのはアンタだ。俺はお前の弟の命を握っているんだ。残された選択肢は俺を殺すか、交渉に乗るかの二択なんだよ」


 俺が今している事は時間稼ぎだ。ここから逃亡する為のな。

 そもそも敵対勢力の潜んでいる街を非力な俺が一人で行動する訳が無い。近くに斎藤さんが居るはず。集合場所に時間内に来なければ、スマートフォンの位置を確認して様子を見に来てもらう手筈だ。あの人は以外にも原付バイクの免許を持っているのでそれでこの場から離脱できるはずだ。集合予定はとうに過ぎているから、そろそろコチラに来てもおかしく無い。


「ささっと選びやがれこのデコ助野郎ッ!さもないと」


「さもも無いと?さもないと何だって言ってんだ」


「俺が逃げちまうぜッ」


 俺はそのまま振り向きダッシュした。俺の目線には原付バイクに跨った斎藤さんが居る。斎藤さんも俺の後ろを追って来ている者に気付いたようで俺が何も言わずとも二人乗りの形式でバイクを走らせてくれた。


「助かりました。ありがとうございます」


「いや、良いタイミングで良かったよ。アレが君が探していた男かい?」


「いや違いますね。でも、仲間でしょう。とりあえず、全速力で振り切って下さい」


「分かってるよ。しっかり掴まっててね」


 俺が掴む力を強くしたと分かったタイミングで斎藤さんはアクセルを全力で踏み出した。しかし、法定速度は守っている様子だし、原付バイクだからそんなに映えのある逃亡劇にはならない。


「さっき健くんから連絡があった。多分向かっているんじゃ無いかな」


「だと、良いですね」


 これは健の方も襲撃を受けたとした考えられない。今もなお逃げているのなら助けは求められない。自力でなんとかするしかない。

 ふと、後ろを見ると既に荼鬼(兄)は付いて来ていないので逃げ切れたのか?確かに鬼の身体能力は人間より優れている。だから、この程度の事で追うのを諦めるとは到底思えない。つまり、追わなくても大丈夫な理由があるって事か、だとしたらマズイ。


「危ないッ」


 斎藤さんはそう叫んでいきなり急ブレーキを掛けた。それのせいでお互いバランスを崩しそうになったがなんとか踏みとどまった。

 どうやら人が前に仁王立ちしていたらしい。このタイミングでそんな命知らずな行動を取ってくれるのは流石に鬼側だろう。


 俺はバイクを降りて、目の前の男と対峙した。

 さっきの野郎とは風貌が全然違う。そして、頭からは二対のシープのようなカーブの掛かった角を生やしている。青鬼の顔の特徴は健から事前に聞いているから、間違いなくターゲットである。まさか自分から出てくるとは想定外だった。だがむしろこれはチャンスかもしれない。ここで青鬼の変装先が完全に掴める気がする。


「てっきり変装したまま出向いてくれると思ったんだが、そこまでは馬鹿じゃないか」


「煽っているのは分かりますが、その程度の事じゃあ心は動かされませんよ」


 コイツ、さっきの野郎と違って舌戦に強いな。だが、俺を殺す事は出来ないはずだ。

 この状況こそ、大事。この状況ならば青鬼の変装先の名前を突き止める事ができるはずだ。でも、時間を掛けてはいけない。時間を掛ければ荼鬼(兄)がコチラに到着してしまう。そうなればここからの逃亡は至難になる。


「この場で俺を捕まえるなら、別に変装した姿を見せても良いんじゃねぇのか?それとも、ここで俺を捕らえる自信がないのか」


 最初からクライマックスを掛けては駄目だ。徐々にハードルを上げることで相手の心に動揺を与える。少しずつだ、慎重に、言わばこれはチキンレース。


「捕まえる?誰が、誰を」


「アンタが荼鬼の弟を助ける為の情報を得る為に、俺をだろ」


 何だか嫌な予感がする。何故、聞いて来た今の質問。俺からの青鬼のイメージは知力が高そうな感じ。そういう風格がある。だから、この状況を理解していない訳が無い。

 てことは、


 俺が考えている最中、俺の斜め後ろの地点が突如として、爆発した。だが、注目なのは爆発ではない。奴の動作だ、奴は何かの液体を腕に垂らしてからそれを水しぶきにして投げた。それからの爆発だ。

 て言うか、俺を殺すつもりらしい。


「あの馬鹿は敵討ちだとかどうだとか言って、お前を痛ぶって殺すって言っていたが。俺は正直、一撃で確実に殺した方が良いと思うんだ。それにアイツとは親友だが、それが理由であいつの弟をそれも生きているかの確証もない奴を助ける義理はない。それにお前を殺すのもアイツの為じゃあない。お前は今後、あの方の計画の邪魔になる可能性がある」


 あの方?それが一連の騒動の黒幕か。鬼と人間を戦争に引き込んだ。いや、待てよ。この辺の考察は今している場合じゃない。奴が俺を殺す事に躊躇いがないのなら、この場から逃げなくてはならない。現状手段としては斎藤さんの原付バイクだが、あの速度では逃げ切れる可能性が低いだろう。荼鬼種は妖気法が使えないが、それ以外は別、元々人間よりも高い身体能力を有する鬼が妖気で更に身体能力を引き上げたらもはや文明の力を使っても負ける気がする。

 ならば、俺がする事は一つのみ。


「斎藤さん。ボォーっとしてないでこの場から逃げて下さい。二手に別れればお互い逃げ切れる可能性がupです」


「えっ、でも琉助君はどうするつもりなの?」


「俺にはこの場を潜り抜ける策があります。だから、ご安心を」


 実際はないがこの手のいい人は無策な俺を見捨てる事は出来ない。それに逃げ切る策なら逃げながらでも考えられる。てか、この会話の最中すら相手がいつ攻撃して来てもおかしくない。


「分かった。絶対生きて戻ってきてね」


「約束です」


 そう力強く宣言して、ようやく斎藤さんはバイクで逃亡してくれた。


「では、死に行く君に一つ問おう。お前は勇敢にも立ち向かう勇者か、それとも、無様に逃げ惑う愚者か?」


「俺は傍観者だ。常に上から目線で何にも干渉しないッ」


 俺がこの場ですべき事は、一つでも多くの青鬼の能力を検証して、ついでにアイツの変装先を特定する。ついでにこの場を生きて切り抜ける事だ。


「それは初めての回答だな」


 青鬼は俺の事を注目しながらも腕に何らかの液体を垂らしている。それが能力条件だと思う。そして、水を爆発に変える。

 そのまま青鬼は手を振るい、水滴をコチラに投げてきた。俺は横に大きく飛び、それを回避する。次の瞬間に水は爆発に変換された。俺が爆発の範囲は一粒につき1メートル近く。避けれない範囲ではない。


「お前の能力はこの程度の威力か?」


 妖気法能力の攻撃の最大の弱点が『能力である事』。能力による攻撃は、妖気を纏った通常攻撃に比べて威力が低い傾向がある。


「チッ。下等血種が一発攻撃を避けた程度でイキがりやがって」


 俺の予想では、あの能力の強みは至近距離で大量の水分を爆発に変える事で発揮される。逆を言えば大量の水を相手に投げつける事が出来れば強みを活かせる。それをしてこない時点で距離さえ保てば、爆破攻撃は見切れるって事だ。

と言ってもこんな程度の能力な訳がない。欠点をカヴァーする追加能力も考えられる。


「これをするとごっそり妖気が持っていかれるんだよ」


 青鬼は手に液体を垂らすと同時にそれを掌の上で凍らせた。なるほど、変換できるの爆発だけではないのかもしれないだとすれば、帰られるのは形質と性質の二点。そして、その能力を使う為には一度肌で触れる必要がある。こんな感じか。でも、マズいなあの氷が通常の一滴分の水分の爆発だとは到底思えない。つまり、避ける事が厳しい。


「アンタ、それを爆発に変えたら俺以外の人間も巻き込む事になるぜ。死人(しびと)も沢山出る」


「爆発なんて、する訳がないでしょうに」


 そう言って青鬼は掴んだ氷をアンダースローで俺の足元目掛けて投げて来た。俺は咄嗟に上に飛んだが、氷が地面に当たり砕け散った。まさか、ブラフか。俺はそのまま地面に着地したが、直ぐに青鬼の目的が分かった。足が地面に接着して動かない。

 

 俺がトラップに掛かった事を確認すると青鬼は俺の方に真っ直ぐに歩いてきた。

 そして、俺の肩に手を掛けて、、、。


「これが私の能力。深・水母愛(MOTHER)だ。後はお前の体を直接爆破するだけだ」


 俺の耳元でそう囁いた。


 

 次回のお品書き

 デッドレース・イン・トーキョー


 絶テェ読んでくれよな。ps.木伐は逃亡する。

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