表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白馬と姫  作者: カーネーション


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/144

第87話『唯一の異性』

 診療所は住宅街のなかでひっそりと建っていた。どこにあるのか、話は聞いていたものの、サディアスがいなければ、迷いこんでたどり着けなかっただろう。そういうところは頼りになる存在だ。


 診療所のドアをノックすれば、すぐに髭面が現れた。サディアスを治してくれたお医者さんだ。お医者さんは目を見開いたあと、髭をたくわえた口元を上げた。笑っている。


「おー、薬が効いたようだな。どうだ、体の調子は?」


「何ともない。あんたのおかげだ、礼を言う」


「いいや、俺に礼を言うよりも、お嬢ちゃんの看病のおかげだろう。倒れたお前さんを見るお嬢ちゃんは何とも切なげでなあ、何度、こう、抱き締めたくなったことか」


「もう、やめてください!」


 この医者は、口を開けばセクハラまがいのことしか言わない。だからいつでもマージさんに怒られているのだ。ちなみに髭面をしているため、かなり歳上に見えるが、実際は40前半らしい。わたしにしてみれば、お父さん世代だ。


 そんなセクハラまがいの医者だけど、「まあ、がんばれや」とわたしの頭をぽんと叩いた手つきに、不覚にも泣きそうになった。髭面に似合わない絶妙なぽんだった。


 診療所を後にして路地裏を歩いていると、何を思ったのか、サディアスが吹き出した。口元は隠しているけど笑っているはずだ。どうせ、ろくでもないことだろうと予想はついた。


「異性に好かれて良かったな」


「こんなの好かれたうちに入らないから!」


「そうか、それは残念だな。お前を好む唯一の異性だったかもしれんのに」


「何で、あのおじさんが唯一の異性なのよ! それにわたしにはクラウスさんがいるし!」


 サディアスの足が突然、止まる。あまりに突然だったから、わたしが数歩前に出てしまうかたちになった。


「お前とクラウスが?」


「何よ、悪いの?」


「いや」


 めずらしくサディアスの口がもごもごしている。「お前とクラウスが釣り合うわけないだろう」とか、「自分の容姿をわきまえろ」とかひどい言葉を浴びせられると思ったんだけど、違った。こちらの調子が狂ってしまう。


「べ、別に、恋人だとかそんなんじゃなくて、わたしの一方的な片想いだから」


「そうか」


 だから、何で反論してくれないのだろう。「それはそうだ。あの副団長殿がお前を選ぶわけがないだろう」とか、「せいぜい片想いをこじらせてろ」とか、言ってくれないといつもの調子が出ない。わたしも「う、うん」とうなずいてしまって、気まずさの段階がまた上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ