第85話『素敵な子供』
5日かかってようやく地下室から出られたサディアスは、眩しそうに目を細めた。久しぶりに陽の下で見た赤い髪と不機嫌そうに寄せられた眉は、記憶と変わらない。ちょっと頬はやせたけど、顔色はまあまあいいみたいだ。それでも心配で、わたしは隣につき添っている。
「本当に大丈夫?」
「ああ、もう大丈夫だ」
足取りも声もしっかりしていて全然、弱々しくない。いつも通りのサディアスだ。彼はさっそくわたしを置き去りにして歩き出そうとする。早く旅に出たいのだろう。
ゲオルカの話をしてから、サディアスがそわそわしているのはわかっていた。どうもこの男は、ゲオルカに興味があるらしい。というのも、鉱物や宝石が名物なようでそういうのが好きみたい。へんなうんちくも食らったし。案外、可愛らしい面もあるんだ。
だからって、すぐ旅立つわけにはいかない。
「ちょっと、サディアス。マージさんとお医者さんにちゃんとお礼を言わなくちゃ。ルルさんに教わらなかったの?」
「くっ」何でそんなに不服そうなのか。
「お前、俺を子供扱いしているだろう?」
「全然してない。ただ、ちゃんとお世話になった人にお礼が言えないなんて子供でしょってだけ」
眉間にしわを寄せてにらみつけてきても、全然怖くないから。何の反論もできないサディアスは、わたしに黙って従うしかないんだよ。
宿屋の厨房に立っていたマージさんを見つけて、お礼を言った。もちろん、サディアスもたどたどしく「礼を言う」なんて、自分なりの感謝をしていた。
「行っちゃうのかい?」
「はい、サディアスもこの通り治ったし、いつまでもお世話になっているわけにはいきませんから」
「お世話しているなんて思ってないよ。旦那が死んでからこんなに深くつき合った人はいないんだ。やっぱり、森からやってきた負い目ってやつがあるんだろうね」
「あんたの旦那は罪人のあんたを受け入れたのか」
サディアスに対して、もっと言い方ってものがあるでしょと思ったけど、マージさんは気にしていないようだ。
「そうさ、そしてこんなに素敵な子供を残してくれた」
愛おしそうに宿屋の壁や天井を眺める優しい目に本当に良かったと思った。神子のために狂わされた人生が少しでも幸せなものになったら、レーコさんも安心しているかもしれない。
だけど、わたしの場合は? マリアさんとエリエはどうなったのだろう? もしあのふたりが不幸のなかにいたら、どうしよう?
「フォル?」
変な顔をしていたのかもしれない。心配させてしまったのか、マージさんが声をかけてくれる。わたしは心苦しいけど、ごまかすように笑顔を取りつくろった。




