第84話『お母さんみたい』
一生言わないつもりだったとマージさんは語った。しかし、サディアスの部屋で自分に関連した新聞や本を見たときに、決心が揺らいだのだという。ここまでサディアスが真剣に調べているとは思わなかったらしいんだ。
「でも、一番はフォル……いや、神子様の影響が大きかったね」
「えっ?」
神子様ってことは、マージさんはもしかして、わたしの正体に気づいているの?
「その顔を見てすぐにわかったよ。フォルはレーコ様にそっくりだ」
「えっ、まさか」
自分の父親と母親にも似ていないこの顔が、同じ異世界からやってきたレーコさんに似ているだなんて驚きしかない。頬に手を当ててみるけど、自分ではわからないなあと思う。マージさんはわたしを真っ直ぐに見て、顔をほころばせた。
「似てるよ。まるでレーコ様を見ているようだった」
お母さんってこんな感じなのかもしれない。我が子の話をするとき、とても穏やかな表情になるんだ。わたしのお母さんもマージさんみたいだったのかな。そう思ったら鼻の奥がつーんと痛んできた。やだ、泣きそうだ。何とか気分をそらしてやり過ごす。
「良かったら、わたしに本当の名前を教えてくれないかい?」
「ミヤコです」
「ミヤコか……いい名だね」
フォルなんかよりもずっといい名前だとほめるので、何だか笑えてしまった。サディアスの考えたフォルよりも、ミヤコのほうがいいだなんて、ちょっぴり嬉しかったんだ。
「さてと、地図は持ってるかい?」
「はい、クラウスさんのものですけど」
大事な地図は2階の部屋に残されていた。肌身離さず持っていると言っていたけど、今回は置いていってしまったようだ。それからはわたしが無くさないようにローブのポケットに入れている。革の紐をほどいてテーブルの上に広げた。
森から北東の位置にマージさんの指が落とされる。
「ここがフィンボルンさ」
そこからずっと上の方に指をすべらせて止めた。
「レーコ様は遥か北にあるゲオルカに向かわれた」
「ゲオルカ……」山脈が連なっているけど、こんなところに街があるのだろうか。
「ゲオルカは鉱山の街だからね。少々、面倒な場所にあるのさ」
確かに見る限り、鉱山の街までの道は距離もあるし、山を遠回りしなければならないようだ。そんな険しそうな道のりをサディアスとわたしだけで行けるのか不安だ。わたしもあの男も体力がなさそうだし。
だけど、それでも行き先が決まったことは大事だ。
サディアスが元気になったらゲオルカに向かう。その街でレーコさんに会うのだ。




