第58話『男装』
いつまで笑っているつもりですか。ルルさんは体を前に折り畳んだまま、笑い続けている。
わたしだって、誰かのツボに入るような面白いことを言ったつもりはない。だから、もうやめてほしい。
わたしよりもこの状況にイラ立っている人がいたようだ。右隣のサディアスだった。
「おい、笑うな。いい加減、話を進めろ」
ルルさんはサディアスではなく、わたしに視線をやった。「ごっ、ごめん」と笑い混じりに謝ってくる。わかってくれたらいいし、「いえ」と許した。
ルルさんは胸に手を当てて、空気を吸ったり吐いたりした。うまく呼吸ができなくなるくらいに笑うって、どれだけ面白かったのだろう。
ルルさんが落ち着いたころ、ようやく話は進む。
「ミャーコ。その姿は目立つからこれを着てね」
ルルさんは椅子から腰を上げて、服の一式をベッドに置いた。確かに、ネグリジェと底の薄い靴では太陽の下では目立つと思う。
着替えようと立ち上がったのだけど、一応、異性がいたことに気づいた。サディアスを見ると、眉間にしわを寄せて「何だ?」と聞いてくる。もしかして、気づかないの?
「何だ? じゃないし。女の子が着替えるって言ってるの。部屋から出ていきなさいよ」
強い口調で言ってみたけど、サディアスは鼻で笑う。椅子から立ち上がったものの、「お前が女の子か」なんて嫌味をぶつけてくる。本当に最低なやつ。
「ふうん、見てもいいけど、あんた変態確定だからね」
「誰が見るか」
サディアスは案外素直に部屋から去っていった。変態呼ばわりをしようと考えていたから賢明な判断だと思う。なぜか、ルルさんも「ちょっと用事〜」と言い残して出ていった。
でも、扉の外で何やら言い合う声が聞こえたから、大方、サディアスをからかって遊ぶ用事なのだろう。
着替えを終えたら、改めて自分の姿を見下ろしてみた。フリルもリボンもないシャツの上からベストにジャケットを羽織っている。少し短めのズボンはサスペンダーで上げた。靴は丈夫そうなブーツ。長い髪の毛をまとめて帽子のなかに入れると、男装しているかのようだ。
ルルさんは部屋に戻って来るなり、「結構、似合うね」と感想を言ってくれた。
確かに、ネグリジェやドレスよりもこちらのほうが動きやすい。足元のスースーした感じもなくて、椅子に座るときも気を配らなくてよさそうだ。
着替え終わったことを伝えようと、追い出したサディアスを呼んだ。
ちょっと今までと違う服装を見せることに緊張しつつ、「どう?」と聞いてみた。別に期待はしていない。だけど。
「完全に女を消したな」それはないでしょ。




