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白馬と姫  作者: カーネーション


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113/144

第113話『命知らず』

 確か、熊のような男の人は騎士団の団長さんだったと思う。この人とは何度かお会いしたことがあった。


 一度は神子になったときに祝福してもらい、もう一度は森の中で逃亡を妨害されそうになった(団長さんの姿はくまさんだった)。あの時はクラウスさんが間に入ってくれたけど、副団長の彼も無傷では済まなかった。


 そんな相手を前に、ジュリアさんは短剣の先を向けている。少しでも短剣が男の人を傷つければ、周りの剣が切りかかってくるはずなのに。ジュリアさんはひるむことはなく、いつも通りの立ち姿でひたすら前だけを見つめていた。


 ベルホルンにいたときにもクラウスさんが罪人を切りつける姿を見た。罪人のおじさんには何の面識もなかったけど、あの剣からしたたり落ちる血は忘れられない。目の前のジュリアさんの白い肌が赤く染まっていくかもしれない。そう感じた瞬間、体が勝手に動いていた。


「ジュリアさん!」


 ジュリアさんに駆け寄ろうと飛び出したわたしを、サディアスが腕で抱き留めた。お腹に腕を回されて、それ以上は先に進めない。離してほしい。行かせてほしいのにサディアスの腕は全然びくともしない。


「離して!」


「バカか、お前は!」


 バカでもいい。ジュリアさんの命が助かるならそれで。だって、レーコさんやわたしのために命を投げ出すなんて、やめてほしい。ジュリアさんの命だって同じくらい重いんだ。


「ミヤコ様、来てはなりません」


 ジュリアさんは振り返ることもなく、そう静かに告げた。彼女はわたしが飛び出すことを望んでいない。自分の命よりもわたしの無事を優先してくれている。


 なだらかな彼女の言葉はマリアさんによく似ていて、鼻の奥がつんと痛んだ。ふたりが姉妹だからなのか、従わなきゃ叱られるとマリアさんから植えつけられたものなのか。自分でもわからない何かに全身の力が抜けた。


 ジュリアさんの望みを聞くしかないような気がして、「わかりました」とかろうじて声を出せた。抵抗しないわたしに、サディアスも納得したのか、ようやく腕を離してくれた。

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